約束の日のあと

2人|1

 ←ロイとアルフォンス 
 ノックもせずに入ってきた男は、不機嫌そうにずかずかとリザに近づくと、小さな丸いすにどっかり座った。
 リザはベッドにうつぶせになっていたが、何も言わない男を不審に思って、そっとその顔を窺った。
 ロイはリザの方を見ていなかった。
 眉間にしわを寄せたまま、窓の外をじっと見ていた。
「・・・若い男にプロポーズされたって?」
 ようやく発せられたロイの言葉に、リザは消えたくなるほど恥ずかしくなった。
 シーツの中に潜り込み、頭までかぶって隠れる。
 先ほどのアルフォンスとのやりとりを思い出し、頭を抱えて小さくなった。
 小さな子どものようにシーツに隠れてしまったリザを見て、ロイはふきだした。
 強引にシーツをはぎ取ると、リザは少し赤くなった目で、恨みがましくロイをにらんだ。
「何するんですか。」
「こっちの台詞だ。何してるんだ。」
「自己嫌悪に陥ってるんです。邪魔しないで。」
「プロポーズの話はどうなった?」
「私、明日からどんな顔してアルフォンス君と話したらいいんでしょう。」
 リザは枕の下に頭を隠した。
「普通にしてればいいだろ。ハボックのやつにはきっぱり言ってたじゃないか。好きな人がいるから邪魔するな、って。」
「ハボック少尉のくだらない冗談と一緒にしないで。」
 リザは消え入りそうな声でそう言うと、ため息をついた。
「そうだな。変な自己犠牲でごまかそうとした君が悪い。」
 その言葉に、リザはがばっと起き上がった。
「なんですか!変な自己犠牲・・・って。」
 怒鳴った瞬間、首に激痛がはしり、思わずリザは首を押さえてうめいた。
 慌ててロイは立ち上がり、リザの肩を支えた。
「バカ者!大きな声出すな。大丈夫か?」
「なんですか。変な自己犠牲って。」
 涙目でロイを見上げると、ロイは不満と心配が一緒くたになったような顔で、リザのベッドに座った。
「・・・アルフォンスにプロポースされてどう思った?」
 リザの質問には答えず、ロイはあえてそう訊いた。
「なんでそんなこと・・・」
「いいから答えたまえ。」
 リザはうつむいた。自分のひざの上で両手の指を絡ませ、ゆっくり自分の気持ちを探った。
「・・・苦しくなりました。あの子にそんなことを言わせてしまった自分が情けないです。」
「アルフォンスの提案は、君が私にさせようとしていることと同じだぞ。」
 リザがロイの顔を窺うと、彼は不機嫌そうな顔でそっぽを向いた。
「ひどいじゃないか。今さら好きでもない女と結婚しろっていうのか?」
「別にそんなこと言ってないでしょ?」
「身よりだの後ろ盾だの言ったんだろ?」
「私に身よりも後ろ盾もないのは事実です。」
「私がそんなもの必要とすると本気で思うのか?」
「ないよりはあった方がいいと思いますけど。」
「バカ言え。そんなものより君の方が100倍必要に決まってる。」
 ロイは吐き捨てるようにそう言うと、乱暴に自分の頭をかきむしった。
「そんなに信用がないとは思わなかった。まさか君、別れるつもりじゃないだろうな。絶対嫌だぞ。半年離れて、不安にさせたか?約束する。もう離れたりしない。不安にもさせない。朝から晩まで365日、毎日愛をささやいてもいい。」
「何言ってるんですか。」
 リザはふきだした。
「あなたのことを疑ったことなんて1度もありませんよ。」
「じゃあ結婚できないなんて言うなよ。」
 ロイは情けない顔で、懇願するように言った。
 その顔に、声に、リザは胸が苦しくなった。
「だって結婚したらあなたの部下でいられなくなるじゃないですか。」
 リザもまた、泣きそうな顔でそう言った。
「・・・どのみちずっと部下のまま、というわけにはいかない。」
 ロイはため息をついて、下を向いた。
「上がごっそり抜けて、軍は人手不足だ。ファルマンは北に行くし、フュリーも南だ。ブレダは中央に残ることになるし、ハボックはリハビリ次第だが・・・ま、あいつは東かな。」
 そう言ってロイはリザの手を握った。
「君は私の副官に戻るが、それもずっとじゃない。イシュバールの目処がつくまで、という限定付きだ。君は優秀だから、人の下で働くのではなく、下を指揮指導する立場になってもらわなければならない。」
「そうなんですか?」
 リザは小さく呟いた。
「もう自分が優秀なだけではだめなんだよ。これからは、優秀な後進に育ってもらう必要がある。」
 そう言ってロイは、リザの手を握る手に力を込めた。
「軍も国も、それだけじゃなく周囲の環境もこれから大きく変わる。だからこそ、私はこれまでどおり・・・いや、これまで以上に、君にそばにいて欲しいんだ。」
「・・・そばにいていいんですか?」
 リザはそう言って、ロイの肩に自分の額をくっつけた。
「私がそうしてほしいんだよ。」
 ロイはそう言って、リザの背中を抱き寄せた。

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