イギリス大英博物館。
世界各地でさまざまな時代に生まれた文明の遺品や美術品などが収集されています。
その数は700万点以上。
この世界最大級の博物館が厳選した名品が今東京都美術館で展示されています。
古代文明の実像を語る貴重な宝。
更に現代のアートまでが選ばれています。
大英博物館は人類が誕生して以来200万年の歴史をモノを通してたどり文明のメッセージを読み取ろうとしているのです。
数々の名品が語る文明の歴史。
人類はどのような文明を築き上げてきたのか。
そしてどこへ向かうのか。
大英博物館の貴重なモノたちの声に耳を澄ませます。
「日曜美術館」です。
さあこの展覧会はあの大英博物館が古代の文明と現代のアートを一緒に同じようなモノとして展示をする事で文明の歴史を考えるきっかけになればというコンセプトで行われているものなんですよね。
僕も大英博物館現地に行った事あるんですけれども200万年という人の営みの中から生まれてきた美の形を通して時間旅行をしているような気分になりました。
今回はそれがまた東京で堪能できるという事なんですが今回のゲストは作家の池澤夏樹さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
池澤さんは大英博物館という存在が本当にとても特別な存在だと伺いました。
多分20回ぐらい行っていて各部屋詳しく見てひょっとしたらガイドができるかもしれません。
まあ本当に好きなんですね。
それは表情からも伝わってきますけれどもその博物館が今回100のモノを選んだ中で東京都美術館で展覧会が今開かれていますがそちらも足を運ばれていかがでした?なかなか上手なセレクションですね。
大英博物館そのもののコレクションを再現するよりはもう少し別の意図があって歴史の全体…200万年という言葉が出たけど今までとそれから世界の全域両方から代表を選んできて何か人類の歩みが全部一とおり分かるような展開になってる。
うまくできてると思いました。
今回まさに池澤さんがスペシャル案内人のような感じですがゲストとしていろいろお話を伺いたいと思います。
さあまずは人類が誕生して古代文明を築き上げるまでの長い道のりを見ていきましょう。
人類の歴史をたどるにあたって大英博物館がモノを重視するのには理由があります。
これは今から200万年前の石器。
大英博物館が収蔵するおよそ700万点の中で最古のものです。
発見されたのは人類が誕生したとされるアフリカのタンザニアオルドヴァイ渓谷です。
石の両側から違う石をぶつけてとがらせた石器。
意外な使用法が明らかになりました。
この石器のそばにはたたき潰された動物の骨が残されていたのです。
この事から人類は石器のとがった部分で骨を削り骨髄の中の高カロリーの脂肪を摂取していたと推測されます。
200万年前人類はまだ弱い存在でした。
動物の食べ残した死骸を食べる事で脳を発達させていったと考えられています。
やがて人類はアフリカから更に各地へと旅立っていきます。
これはフランスで発見された1万4,000年前のマンモスの彫刻です。
トナカイの角に彫られています。
目の下には巨大な牙でしょうか。
顔の先が折れていますが本来はその部分を手で握り尻尾の部分に槍を引っ掛けこのように槍を投げる道具として使用していました。
これは機能性とデザイン性を兼ね備えたいわば初期のアート。
人類が芸術活動を始めていた事を物語ると考えられています。
やがて人類は定住し農耕生活を始めます。
新たな秩序を築く中で文明が誕生していきます。
紀元前3000年ごろからおよそ2,700年間繁栄を続けた古代エジプト文明。
神秘に包まれた古代エジプトの意外な素顔がこの棺から明らかになりました。
棺には「ヒエログリフ」と呼ばれる古代エジプト文字で「シェペンメヒュト」という女性の名前が書かれています。
彼女が棺のあるじである事を示しています。
しかし近年CTスキャンによって調査したところ中に納められているのは男性である事が分かったのです。
なぜなのでしょうか。
古代からエジプトでは墓の盗掘が頻繁に起きていました。
豪華な装飾品を身につけていた女性のミイラはそのまま持ち去られてしまいます。
その後貴重な棺を再利用して別の男性のミイラを新たに入れたのではないか。
そう考える研究者もいます。
今から2,600年前の古代エジプトの知られざる素顔がこの棺から明らかになろうとしています。
エジプトと並ぶ最古の文明として中東地域で繁栄したのが古代メソポタミア文明です。
人類で初めての文字を生み出すなど高度な文明を築きました。
当時の社会の姿を伝えるのが大英博物館が誇る至宝…現在のイラクを中心に紀元前2500年ごろに栄えたメソポタミア文明の都市国家ウルの墓から出土しました。
軍旗の役割を果たしたとも楽器とも言われますが何に使われたかは分かっていません。
青は貴重な鉱物のラピスラズリ。
白は貝殻。
赤は石灰岩。
木の表面にぜいたくな素材がふんだんに埋め込まれています。
ここに描かれているのは当時のウルの社会の姿。
杯を交わす人々の中でひときわ大きく描かれているのがウルの王です。
その下には王に貢ぎ物を差し出す人々の行列。
当時既に階級社会が成立していた事を示しています。
ウルの王の威厳を伝える面の反対側にはもう一つの光景が。
馬車に乗った兵士の軍団が敵の兵士を次々になぎ倒しています。
ロバが引く乗り物はウルの時代に発明された戦車です。
これは王の前に連行される捕虜の姿。
「ウルのスタンダード」は古代文明の始まりとともに戦争の歴史もまた始まった事を今に伝えています。
紀元前3000年ごろ。
人類は世界各地で古代文明を築いていきます。
現在のインドパキスタンで1,000年以上の間栄えた古代インダス文明。
遺跡から武器が発見されていない事から階級のない平和な社会だったのではないかと推測されています。
インダス文明の実像を知る手がかりとなったのは19世紀パキスタンで発見された石の印章です。
軟らかな粘土質に押して使われていたと考えられています。
雌牛とユニコーンが合わさったような絵柄。
刻まれているのはインダス文字。
今も解読が続けられています。
印章はメソポタミア文明でも発見されました。
インダス文明が広く交易をしていた事が小さなモノから分かったのです。
地中海でも人類は文明を築きました。
紀元前3000年ごろから2,000年近くギリシャのクレタ島で繁栄したミノス文明。
東地中海から中東一帯をまたぐ広大な交易網を築き豊かな富を蓄えました。
その文明の姿を生き生きと伝えるものが高さ11センチほどのブロンズ像です。
四肢を伸ばし全速力で突進する雄牛。
その頭上をひらりと宙返りでかわす人物。
ミノス文明では雄牛が神聖視されていました。
雄牛をとび越える勇壮な行為は宗教儀式の場などで披露していたと考えられています。
海を越えた中央アメリカの密林では紀元前1400年ごろ最初の都市が築かれます。
現在のメキシコグアテマラを中心に1,000年にわたり繁栄した古代オルメカ文明です。
高さ13センチ。
儀式で使用していたとされる石の仮面。
王かその祖先の姿を表すとされています。
仮面からは古代オルメカ人の世界観がうかがえます。
両ほほに刻まれた模様は合わせて4つ。
東西南北の方位を表しています。
王が方位の中心でありこの世界の秩序を保つ事を暗示しているのでしょうか。
オルドヴァイの石器やマンモスの彫刻にしても機能美や技術の高さからこれまで野蛮だと思われていた原始への考え方概念というものが覆されるなという印象を受けたんですけれども。
何か人間の知恵というのは昔も今も変わらなくてただその蓄積があるから今ここまで来たけれどもその時々ひらめくものというのは昔だって今だって同じ。
ひょっとしてだんだん減衰してるかもしれない。
これ思うんですけど何かこう造形の喜びというか作ってる時にその手の中からこういうものが生まれてくる。
もちろん意図して作ってるんだろうけどこれが手の中に出来たといううれしさが形に表れてるみたいで好きですね。
こういう形にすればひょっとしたらマンモスが捕れると思ったのかもしれない。
そういう願いが込められていたのかもしれない。
おまじないみたいな。
ああ〜。
結局人間の中にはきれいなものを求めるという思いが最初からあったんじゃないですかね。
材料が手に入るようになって手が器用になって作れるようになったらもうどんどんそっちへ行ったんじゃないかしら。
いいものを作るとみんなに褒められるし。
うれしかったでしょうね。
楽しかったでしょうねやっぱり形が作れるという。
何かそのうれしさがそのまま出てるみたいな気がしますね。
そして今回のいろんなモノの中でも自然と足が吸い寄せられていくものの一つがやはりこの「ウルのスタンダード」ですよね。
石器から始めてここまで来たのかと。
これがまあ文明というものなんでしょうね。
文明というのはいつも都市のものなんですよね。
それが最も栄えて大きな帝国にまでなって。
さっき軍旗とかいう解釈があったけれどもこれだけ緻密なものを僕は屋外に持ち出したはずがないと思う。
もったいなくて。
だから王宮のどこかにあって他の国から来る使者の目につくように「うちはこれぐらいのものが作れる立派な国だぞ」という。
材料もすごく遠くから集めてますでしょ。
広い領土から集めた富を象徴して王様の権威を示すための制作物だと思うんですけどね。
あるいは戦争だったら捕まえてきた捕虜を並べて行進させる。
これだけ捕まえたぞと。
そうやって自分の地位を揺るぎないものにしてたんじゃないですかね。
力の象徴。
裏と表が面白いのは王様の仕事というのはおまつりと戦争なんですよ。
まつりと戦争?早く言ってしまえば。
だから「政」という言葉がありますよね。
政治の事。
おまつりをして国中の心を一つにして行政がうまく円滑に運ぶように権威を示す。
もしも他の国と対立したら戦争に行ってこれを打ち負かすと。
これが主要な任務だからそれが両面にあるんじゃないかしら。
平和な時にはこのぐらい栄えてる。
戦争になったらこうやって勝つという。
これを見てて戦争の側を見てメソポタミアでこのころも戦争あったんだなと思うと…。
僕はイラクに行ったのはねこの前の戦争の直前でずっと行けなかったの。
サダム・フセインが外国人入れてなかったから。
そしたらある時行けると聞いてすぐビザ出してそれから行ったのがね戦争の始まる4か月前だったんですよ。
そんな直前だったんですね。
国中を走り回っていつ戦争になるか分かんないなと思いながら遺跡一つ一つみんな見てったんです。
ウルも行ったんです。
そのあとである所で「発掘してるからちょっと見においで」と言われて行ったらこれくらいのラマッスという翼があって人間の顔をした像があの辺りたくさん出るのでそれの非常に小ぶりなのが出てきて。
地面から出たばっかりなんですよ。
「こんなものが埋まってるんだ。
本当によく見つけたね」と言ったらそこをやってた考古学者が「いやもううちはこんなものたくさんあるんだ。
掘り出すと盗まれたりするから埋めておくんだよしばらくは」というぐらいあると言うんですね。
それから4か月して戦争になってしまって。
だから僕が見て歩いた土地が全部激戦地として報道されるわけですよね。
本当にそう考えるとそれこそ今現代でもイラクの遺跡などが破壊されたり盗難に遭ったりとかでそれこそどんどん無くなっていく中でしっかりとこれが残ってるという事もある意味ありがたい事だったりするんですね。
今回展覧会では本当にたくさんのモノが展示されているんですがその中には「えっ?こんなモノも?」というある意味ユニークなモノも展示されていますが大英博物館にとってはそうしたものも文明の歴史にはとても大切なモノだそうです。
ここで1948年に発見されたモノがあります。
海岸にゴミとして捨てられていた陶磁器の破片です。
一見価値がないように見えるこの破片を大英博物館は展示品に選んでいます。
破片から世界のつながりが見えてくるのだといいます。
破片を調べると10世紀から15世紀にさまざまな地域で作られたものである事が明らかになりました。
緑色の青磁は中国。
白地に青の染め付けは中東地域のものです。
当時陶磁器生産の先進国だった中国。
明の時代には磁器が一大産業となり多くの名品がはるか中東までもたらされていました。
更に交易路は中東からアフリカへ。
タンザニアの海岸で見つかった陶磁器がそれを示しています。
当時の人々は広大な海の交易路を行き交っていたのです。
この陶器も東アジアの交流を示すモノ。
15世紀ごろ朝鮮王朝の時代に制作され日本に伝わりました。
一度割れたあと丁寧に修復されています。
日本ではお茶を楽しむ人々の間で中国や朝鮮半島の陶器が大切にされていました。
貴重な金を使って破片をつなぎ合わせています。
日本独自の「金継ぎ」と呼ばれる技法です。
継ぎ跡の亀甲模様には長寿吉兆。
うろこ模様には魔除けの意味が込められています。
一度壊れた器に新たな価値が加わりよみがえりました。
今からおよそ500年前ヨーロッパの侵略によって滅亡した文明があります。
南米大陸の険しいアンデス山脈沿いに築かれたインカ文明です。
残された記録はヨーロッパのものが多く実像を探る事は容易ではありませんでした。
その姿を知る手がかりが黄金の輝きを放つリャマの像です。
高さ6センチほどの小さな像にリャマの特徴が写実的に表現されています。
警戒のサインを示す逆立てた両耳。
荷物を載せるのに適した長い胴体。
リャマは険しい山岳地帯で重い荷物を運ぶ事ができその毛は毛織物の材料となる生き物。
インカの人々も大切にしていました。
この像は収穫と種まきに行う儀式で神々にささげられていました。
失われたインカ文明の独特の宗教世界を今に伝えています。
カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島。
15世紀のヨーロッパの人々の入植後この島の先住民タイノ族の伝統も失われました。
しかしモノから当時の彼らの暮らしぶりをうかがい知る事ができます。
それがこの椅子。
高さは僅か22センチ。
座ればひっくり返ってしまいそうな大きさです。
この椅子はタイノ族の首長が宗教儀式で使用していたもの。
幻覚作用のある「コホバ」と呼ばれる実から作った嗅ぎ薬を吸引し霊魂の世界と交信していたと考えられています。
人間のような姿をした生き物。
金が塗られた瞳とどんな声をも聞き取るかのような大きな耳が印象的です。
ここには今から600年前のカリブ海に暮らした人々の精神世界が息づいています。
リャマの黄金像。
小さくてかわいらしいんですけれどもやはり使用目的は祈りのためなんですね。
でももうこれはただもうすごく好きというか小さい事もあるしそれから形がリアリズムだけれども小さくなった分だけかわいさが凝縮されて。
しかもこの耳をピンと立てて足をまっすぐにしてりりしいでしょ。
はい。
こんなに小さいのにこんなにりりしいってもういいなっていうそういう気持ちの方が先に立って。
宗教的に意味もあるしそれから黄金である事ね。
貴重なものを王様は持ってきてそれでこういうものを作らせたんだから価値があるのは分かるんだけどただただほれ込みますね。
そういうのも博物館の楽しみなんですよ。
「だって好きだもん」と言ったらそれに尽きる。
できる事なら家に飾りたい持って帰りたい。
まあ預けてあると思ってますから。
だから時々行って会うんですよ好きなものに。
そして同じように何だこれはと驚かされたのがこの椅子なんですよねタイノ族の。
椅子とありますね。
だけど儀式用の椅子でしょ。
だからもしも使うとしたら一番偉い人があそこの所にお尻を下ろして足を広げてまたぐようにして座ったとしか考えられないでしょ。
それで幻覚作用を応用して何かを見た。
その儀式を人がこちら側で見てるとしたら王様あるいは司祭がこれに座ってる。
それを何か儀式性を強調するために。
下からあおるような見上げるような所に謎の顔がある。
ものすごい造形ですねこれ。
いや〜すごいです。
何か人間には世の中に邪悪なものがあってそれが迫ってくるんだという恐怖感があって。
そうするとその邪悪なものに対抗するためにはこちらも奇っ怪な凶悪なもので向かっていくという。
だから美しいものだけじゃなくて怖いものも作るわけですよそのために。
その典型だという気がする。
にらみ返すって感じですよね。
面白いのはね後ろの奥の方の脚が少し短いんですよね。
本当に霊力がある道具だと普通の職人では修理もできないという話を聞いた事がありますよ。
どういう事ですか?つまりその霊力に対抗するだけの力のある職人でないと手が出せない。
仏像の修理の時は一度閉眼供養というのをして仏様であるのをやめて物体に戻してから直してそれからまた開眼供養するでしょ。
同じようにあの脚が欠けてる所もそういう事があったのかななんて想像して。
さあそして本当に世界各地のいろんな時代の文明のモノがある中で日本との接点を感じるモノももちろんありましてこちらが「金継ぎされた碗」なんですがこれもまた特に池澤さんにとっては…。
これが僕は今回一番面白かったかな。
一番意味深いという気がしましたね。
というのは朝鮮半島で作られてしかもその時はごく普通の人たちが使う器でしょ。
それが日本に運ばれて茶道の人たちが非常に値打ちを認めて美を認めるだけの目があったわけですね彼らには。
大事に使っててしかし割れてしまった。
そこから先がすごいんだけど金継ぎでしょ。
漆でつないでその上に金ぱくをはって割れ目も新しい意匠として使ってしまう。
そこへ更にこれだけ緻密な模様を付け加える事で新たな価値を再創造する。
生み出す。
その度に何かその美意識が問われるわけですよ。
それでここまで来た。
何かこれがたどった歴史ってすごくいいなと思うんですよ。
それからもう一つはやっぱり僕らがモノを直さなくなったから今の時代に。
大量生産になってからは特にここ何十年か特に日本ではですけど壊れたら捨てる。
新しいのを買う。
その方が経済がぐるぐる回りますとか言われるんだけどついこの間までみんな修理して使ってましたよ。
服が破れたら縫うし縫うだけじゃなくて上に布をあててアップリケにして。
これと同じ原理でしょ。
そういう事をして長く長く使って一つの道具をそれこそまあ一生使う事だってあった。
それに比べると何もかも捨てるようになってしまったなと思いながらこういう知恵はどこ行ったんだろうと考えますよね。
最後にご紹介しますのは池澤さんが多くの中でも特に心をひかれたこの2つのモノです。
高さ103センチの像。
一体何で出来ているのでしょうか。
実は全身銃の部品を溶接して作ったアート作品です。
4年前の2011年。
アフリカモザンビークで作られました。
この国では1992年まで17年にわたる内戦が続き数百万もの死傷者を出しました。
ようやく内戦は終わったものの国内には700万丁を超える大量の銃器が残されました。
そこで民間の機関で銃を回収するプロジェクトが始まります。
銃を差し出した人には自転車やミシンなどの生産道具と交換するのです。
その後一部の銃はアート作品にもなりました。
作者はフィエル・ドス・サントス。
14歳の時内戦で肉親を失いました。
銃器は全てアメリカ旧ソ連ドイツなど先進諸国で製造されたものです。
肩はグリップ。
腕は銃身。
心臓部分は引き金。
顔は機関部と呼ばれる銃の中枢部です。
手に提げているのはショッピングバッグ。
戦争中は目にする事が少なかった買い物をする女性の姿でしょうか。
紛争地の人々の平和への願いが込められています。
池澤さんが選んだもう一つのモノも20世紀に入って作られました。
オーストラリアの先住民アボリジニが作った編み籠です。
2万年もの間変わる事なく受け継がれてきたと言われています。
アボリジニはヨーロッパの人々が入植する以前からオーストラリア大陸に暮らしていました。
彼らが描いた岩絵はその豊かな芸術性を示しています。
アボリジニの大きな特徴は住むための家を作らなかった事です。
洞窟などを転々とし狩りを行う暮らしを続けてきました。
移動生活をするアボリジニが持ち物全てを入れて歩いたのがこの編み籠です。
彼らに多くのモノは必要ありませんでした。
日々の生活は編み籠一つで賄えたと考えられています。
アフリカではさまざまな地域に工芸品や美術品などたくさんあると思うんですけれどもこの「銃器で作られた像」どのようなところに池澤さんは注目されたんでしょうか。
兵器を平和利用に使うというのはそれはあるんですよ。
戦後の沖縄でしたら飛行機のジュラルミンでお鍋作ってましたから。
だけど芸術作品にしてしまうという。
戦争から平和へという歩みをこんなにはっきり見せつけてくれる。
しかもなかなかほっそりしてエレガントだしよく見ると見慣れた部品であるという身近なものがこんなに変わってしまうという事で人々はもう平和なんだという事をいかにも体感できるんじゃないでしょうかしら。
もともとアフリカの人たちって造形能力とてもとてもすごかったですからね。
つまり僕たちはまだやっぱりアフリカに対して偏見があって奴隷の供給地であったとかそれから暗黒大陸とかそのあとだと資源が収奪されて政治が混乱して戦争ばかりで貧しいと。
実際そうなんだけれどもしかしその一方ですごいものを次々作ってきた地域でもあるわけですよ。
イフェの顔の像がありますでしょ。
あれはやっぱり皆見て驚きますよね。
あれが15世紀ぐらいですか。
あんなものを作ってたんだという。
顔全てにこまやかな模様が。
表情豊かで性格がくっきり出ててね。
その伝統はずっとあるわけで次々に不思議な造形を繰り出してくる愉快な人たちというかすばらしい人たちだという事もやっぱり僕らは知っておくべきで。
最近だと棺おけ。
ひどくリアルなようなおもちゃのようなしかし棺おけであるという不思議なものを次々作って亡くなった方にふさわしい副葬品ではないけど入れ物自体がそうなってるようなあんな考え方もあるわけでしょ。
それら全部含めてこれはやっぱり…。
今みたいな時代戦争だらけの時代だからこそこういうふうに考え方をひっくり返したっていいじゃないかというアピールがあっていいですよね。
そしてもう一つ心を捉えて離さないのがこの編み籠なんですね。
オーストラリアのアボリジニは家を作らなかったというかほとんど砂漠ですからオーストラリアは1か所で定住して食べていけない。
移動をしながらでないと暮らせない。
水が少ないから農耕もできなかった。
移動しながら暮らすかぎり家はないしという事は都市をつくらないからいわゆる文明もなかった。
だけどそのかわり彼らはオーストラリア全体を宗教的な聖地にして非常に複雑できめ細かなというか神話の体系をつくってそれから音楽もすごい。
さっきちらっと見えたディジュリドゥという細長いあれ延々と吹いてるでしょ。
それを全部彼らは文字は持たなかったから口伝えで伝承で今に伝えてそれに沿って生きてたわけでしょ。
それは文明ではないかもしれないけど大変豊かな精神文化ですよね。
このようなモノさまざまなモノを見てきて今を生きる僕たちはそれを見てどのようなものを感じそして学んでいけばいいと池澤さんは思われますか?これが2万年前と形が変わってないという事は彼らの暮らしも変わってない。
じゃあこちら側で文明と称して次から次へと違うものを作って進歩だと言って一回ごとに喜んでは結局それを失ってしまう。
それで今に至った。
じゃあ変わらなかったアボリジニの人たちと文明を大きくしては崩しを繰り返してきた我々とどっちが幸福だったか。
まあ幸福という概念を持ち出すと難しいですけどでもああいうやり方だってあったじゃないかという。
だから進歩進歩っていう時は一旦気持ちを抑えてこれをじっと見た方がいいかもしれない。
今回本当にこのスタジオで深い旅をしたような充実した時間でした。
本当にどうもありがとうございました。
どうもありがとうございました。
2015/08/16(日) 09:00〜09:45
NHKEテレ1大阪
日曜美術館「大英博物館 人類史への旅」[字]
大英博物館の名品を集めた展覧会。古代文明の至宝から現代アートまで様々な名品が並ぶ。すべて人類200万年の歴史の遺品である。作家・池澤夏樹さんと文明史を尋ねる旅へ
詳細情報
番組内容
大英博物館の名品を集めた展覧会が東京都美術館で開催中。メソポタミア文明の至宝から現代アフリカのアートまで様々な展示物が並ぶ。大英博物館はこうした「モノ」たちを通して人類200万年の文明を見つめようとしているのだ。私たちは歴史の多くを「本」や「活字」から学んできた。それらとは異なる「モノ」が語る歴史とは?大英博物館に何度も通ったという作家・池澤夏樹さんとともに、文明の過去をたどり、未来へと旅したい。
出演者
【出演】作家…池澤夏樹,【司会】井浦新,伊東敏恵
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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