昔北の大地にコタンと呼ばれる小さな村々が栄えていました。
春には山菜を摘む娘たちの声が野原にこだまし秋には鮭を獲る若者たちの掛け声が川に響き渡りました。
この豊かなコタンの村長も…。
毎日狩りや漁の先頭に立ち忙しく過ごしていました。
この日もたくさんの食べ物を森からいただきありがたいありがたいと火の神様に祈りを捧げていました。
すると神窓に吊るしてある古い筵の包みがぼうっと光り始めました。
村長は幼かった頃に父から聞いた話を思い出しました。
よいか息子よ。
あの包みを決して開いてはならぬぞ。
どうして?ここには不思議な力を持つ刀が封印されているのだ。
お前がまだ産まれる前このコタンが盗賊に襲われ何もかも奪われそうになったときこの刀がひとりでに飛び出して盗賊どもをなぎ倒し我々は救われたのだ。
よい刀なんだね。
うむ。
村人たちは喜び守り刀として大切に奉った。
ところが刀は村人たちにも刃を向けるようになってしまったのだ。
村人たちは恐れ刀をコタンから遠ざけようとした。
しかし何度捨てても必ず戻ってきてまた人々を襲ったのだ。
それでどうしたの?長老たちが何日も祈り続け恐ろしい刀の妖力を封じ込めた。
そうして今この家の神窓に吊るしてあるのだよ。
へぇ〜おっ!刀…刀はどこへ行った!?翌朝飛び去った刀に襲われた人々があちらこちらに倒れていました。
村中が悲しみに包まれました。
(犬の吠え声)村長の家では刀が元の場所に戻っていました。
村長はこの刀から村人たちを守ろうと決意しました。
そして遠く離れた山の深い森の中に刀を置き山の神に託しました。
ところが家に戻ってみると刀は家の神窓に元どおり吊り下げられています。
そこで地の神の力を借りようと深い穴を掘り地中深くに埋めました。
それでも刀は戻っていました。
今度はオモリを付けて川の深いところに沈め川の神に祈ってみました。
やはりダメでした。
村長は祭壇を作り長老たちとともに刀の災いからコタンを守ってくださいとカムイモシリの神々に祈り続けました。
しかしその夜も刀は飛び去り再び大勢の村人たちが犠牲となってしまいました。
村長はこれほど祈ってもなぜ助けてくださらないのかと神々を恨みました。
すると一人の女神が姿を現しました。
私たちカムイにはどうすることもできないのです。
ですがイペタムシュマという大きな岩の近くに底なし沼があります。
その大岩の上で祈ってごらんなさい。
翌朝村長は女神から聞いた大岩を探しに出かけました。
夜までに見つけなければなりません。
しかしいくら歩いてもそれらしい大岩はどこにも見当たりませんでした。
やがて日は西に傾き刀がいつ暴れださないかと気が気ではありません。
村長はなおも歩き続けました。
太陽が沈みかけたときようやく目の前が開けて沼を見つけました。
向こう岸にある大きな岩が女神の言うイペタムシュマに違いありません。
村長が岩のてっぺんで祈り始めたとき刀は妖しい光を放ち今にもコタンへ飛んでいきそうでした。
村長よ私はエゾイタチのカムイ。
このクルミの毒で沼の神が目を覚ましたらすぐにその刀を沼の神に預けなさい。
そりゃ!今です。
そりゃ!祈りが沼の神に届き刀は底なし沼に沈んでいきました。
村長はひと晩中歩いてコタンに戻り朝になっても刀が戻ってこないことを確かめるとようやく安心して眠りにつくことができたのです。
こうして平和を取り戻したコタンには村人たちの笑い声が再び響き渡ったということです。
1枚2枚3枚4枚5枚6枚7枚8枚9枚…。
1枚足りない。
ギャー!江戸番町とある武家屋敷から夜な夜な聞こえてくる声が…。
その屋敷は青山主膳という身分の高い侍の屋敷だった。
また1人奉公人が辞めていきました。
(主膳)うむ。
町の者たちの噂にもなっております。
もうこの屋敷は立ち行きません。
それもこれも殿があのような腰元に…。
お菊…。
1枚2枚3枚4枚…。
7枚8枚9枚…。
ギャー!せんだってから勤めておりますお菊でございます。
(お菊)菊と申します。
気立てもよく働き者で私もたいそう気に入っております。
お菊は殿様や奥方の身の回りの世話をする腰元で主膳の屋敷に奉公したばかりだった。
年はまだ16。
お菊は屋敷の誰からも好かれていた。
なかでも…。
(笑い声)無礼者!あっ。
お菊と親しくなった家来や奉公人は些細なことで主膳から叱られお仕置きを受けるのだ。
そんな主膳の様子を奥方も気づいていた。
あるとき主膳の屋敷で宴会が催された。
愛らしい腰元じゃのう。
あの娘はまもなく年季が明けて嫁にいくことになっています。
ほう。
お菊が嫁にいく。
主膳にとって初めて耳にすることだった。
やがて宴席も終わり後片づけをしていたときのことだ。
その皿は将軍様から拝領した家宝の皿だ。
もう一度数えてみろ。
はい。
1枚2枚3枚…。
7枚8枚9枚…。
どうしたお菊?もう一度探してまいります。
どこを探してもあと1枚の皿はなかった。
それもそのはず…。
主膳がひそかに隠していたのだ。
申し訳ございません。
お前が欠いたのだなただではすまぬぞ!まあ家宝の皿を欠いたと…。
うむ。
それでどうなさるのです?このことが知れてはお家の大事。
主膳は困った奥方が自分を試しているように感じたのだ。
そのうえ奥方の目がお菊の目が何もかも見抜いているように思えて…。
家宝の皿を欠いたとあれば成敗するしかあるまい!あ〜!うわ〜。
殿!ギャー!お菊の亡骸は世間に知られぬように古井戸に投げ込まれた。
夜お菊の声が聞こえるようになったのはそれからしばらくしてからだった。
1枚2枚3枚…。
その恐ろしさに家来も奉公人も次々と辞めていき屋敷にはとうとう主膳と奥方だけが残った。
お菊をもう1年屋敷にいさせようと思ったのだ。
何もかも手遅れでございます。
この一件がお上に知られ家はおとりつぶし主膳も閉門の身となった。
その後町内の者がお菊の亡骸を丁寧に弔うとそれきりあの声は聞こえなくなったという。
昔正月も間近いある日。
貧乏な夫婦が村はずれの堀に引っ越してきました。
そこは村人がムジナ堀とかカッパ堀とか呼ぶへんぴなところで誰も近寄る者はいませんでした。
(善助)わひゃ〜。
今夜も鮒1匹。
すまない明日こそ大漁だ。
(2人)わ〜。
すきま風で風邪をひきそうですよ。
明日は実家に帰らせてもらいます。
えっどうしてまた?前から言ってたでしょ。
義理の姉さんにややこが産まれるから手伝いにいくって。
そうかそうだったな。
女房が実家に帰っている間善助は正月の支度をしました。
朝から晩まで魚を釣り獲れた鯉を売ってそのお金で米を買い餅をつきました。
うわ〜寒い寒い…。
(物音)ムジナか?それはムジナが餅を障子の穴まで運び外に落とす音でした。
善助はムジナが餅を運び終わったところで脅かすつもりでした。
大声を出せば餅を置いて逃げると思ったのです。
こりゃ〜!フフフフ。
ありゃ。
やられたか…。
ムジナも腹空かせているんだな。
雑煮でも食っていい正月迎えろや。
なんですってお前さん!帰ってきた女房に善助が叱られたことは言うまでもありません。
年が明け春になり夏になっても善助夫婦の暮らしは一向によくなりませんでした。
痛え。
おっ誰じゃ?うわ〜。
なんともおかしなことに時々人けもないのに裏の森から石が飛んできたり堀のほうから泥が飛んでくるようになりました。
そんなある日のことです。
おっ大丈夫か?痛い痛い痛い…。
それは頭の皿にケガをしたカッパの子供でした。
なるほど。
ムジナもカッパも出てくるんでムジナ堀とかカッパ堀とか呼ばれてたんだな。
私ははなっから怪しいところだと思ってたんだよ。
そうか。
痛いよ〜。
おっ気がついたか。
痛いよ〜痛い!お皿のケガは万病に効く軟膏塗っといたから大丈夫。
ムジナの投げた石が当たったんだ。
ひでえことするな。
カッパとムジナが戦を始めたんだ。
(2人)え〜!ほ〜ら始まった。
オラも泥投げなきゃ。
おじちゃんおばちゃんありがとう。
わ〜。
森から石が堀から泥が飛び交いました。
そのうち家の屋根にも石や泥が積もりだしました。
そしてその夜のこと。
ごめんください。
このたびは倅がお世話になりました。
おかげさまでこの子は命拾いをしました。
これはそのお礼です。
まあ立派な鯉!それにしても皆さん傷だらけですな。
善助はカッパの一家を家に入れ話を聞きました。
はじめカッパの一族はこの堀で穏やかに暮らしておりました。
そこへムジナの連中が堀へやってきて鯉や鮒を奪っていくようになりました。
だからわしらも森に押し入りムジナたちが作っている作物を奪ったんです。
そしたらムジナたちは怒って石を投げてきたです。
だからわしらも堀の泥を投げ返したです。
そんな投げ合いの戦がちょこちょこあるんです。
そこへわしらが引っ越してきたってわけか。
大変なところへ来ちまったもんだね。
今日は特に激しかったので家を汚してしまって申し訳ありませんでした。
そうじゃこうなったら鯉と野菜を投げ合ったらどうじゃ?そうだよ石や泥を投げ合うからケガをするんだよ。
そうだろお互い相手の欲しがってる物を投げ合えば誰も文句は言わねえ。
(みんな)ああ。
そうかそれはいい。
翌朝早速善助は森に向かって叫びました。
お〜いムジナ聞いてくれ。
なんじゃその顔は?善助はムジナにカッパと同じことを言いました。
欲しい物を投げ合うそりゃあいいかも!そして次の日。
いくら待っても魚や野菜は飛んできませんでした。
カッパもムジナも泥や石は投げ合っても鯉やキュウリなど食べ物は投げ合いませんでした。
もちろん善助夫婦も戦を続けさせようと言ったわけではありません。
仲よくさせるための方便だったのです。
こうしてカッパは鯉や鮒をムジナはキュウリや野菜を石の上に置いて交換し合ったのでした。
もちろん善助夫婦にもおすそ分けは忘れません。
それからはカッパとムジナは困ったときはお互い食べ物を譲り合って助け合い仲よく暮らすようになりました。
善助夫婦もここが気に入って暮らすようになり堀はいつしか善助堀と呼ばれるようになったということです。
2015/08/16(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
大好評の怪談シリーズ!今週は「番町皿屋敷」をお送りします。江戸の武家屋敷で働く娘・お菊を襲った悲劇とは?ほか「沼に沈んだ妖刀」「善助とムジナとカッパ」も放送!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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