学校の先生に夏休みはある? 

内田良 | 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授

夏休み期間中における中学校教諭の勤務内容

■先生は休んでいない!

「先生には夏休みがあって羨ましい」という声を、たびたび耳にする。先生は、おおよそ7月下旬から8月いっぱいまで、子どもと同様に「休んでいる」という理解である。

結論を先に言えば、先生は休んでいない。夏休み中の日々は、立派な勤務日だ。それどころか、平日でも残業をし、さらには土日に出勤することさえしばしばある。

はたして学校の先生は、夏休みに何をしているのか。世間の誤解を解くために、その実態に迫りたい。

■先生の有給休暇取得状況

夏休み中、教員はたしかに通常の授業がある期間よりは、時間にゆとりがある。有給休暇を取得することも珍しくない。

ただし、教員の年間の有給休暇取得日数は、けっして多くない。ややデータは古いが2006年に約40年ぶりにおこなわれた「教員勤務実態調査」によれば、小学校教員が11.4日、中学校教員は8.9日である【注1】。同じ2006年で比較をすると、民間8.3日地方公務員11.3日国家公務員13.2日である。おおざっぱに言うと、中学校教員は民間並み、小学校教員は地方公務員並みである。

小学校教員、中学校教員における有給休暇の年間取得日数
小学校教員、中学校教員における有給休暇の年間取得日数

そもそも授業のある期間は、教員は有給休暇をほとんど取得できない。そこで夏休みをはじめとする長期休暇の限定された時期に、取得する。だからと言って、年間を通せば、他の職種よりもとりわけ多く取得しているというわけでもない。

■夏休みも残業、土日出勤

日本の教員が多忙であることは、よく知られている。OECDが2013年に中学校教員を対象に実施した調査によると、世界34の国・地域のなかで、日本の中学校教員はもっとも勤務時間が長かった。

ヤフーニュース個人「リスク・リポート」や拙著『教育という病』で私が強調してきたように、中学校教員は部活動顧問を担当するがゆえに、平日の時間外勤務、さらには土日の出勤(最低賃金以下の条件)が常態化している。とてもブラックな勤務状況である。

そして夏休みであっても、通常期よりはマシとは言え、残業があり、土日の仕事もある。先の「教員勤務実態調査」を詳細にみてみると、たとえば中学校の教諭は、夏休み中の「平日」に8時間28分の勤務をしている。しかも、自宅への持ち帰りの仕事が15分(計8時間43分)ある。夏休み中の「休日」でも、47分の勤務をこなし、自宅でも50分の時間を仕事に費やしている【注2】。

これが30歳以下の中学校教諭になると、時間数はさらに増加する。夏休み中の「平日」が8時間44分の勤務に、12分の自宅持ち帰り仕事(計8時間56分)がある。「休日」には1時間5分の勤務と54分の持ち帰り仕事(計2時間)である【注3】。

■学校で何をしているか?

「教員勤務実態調査」をさらに読み込んでいくと、夏休みの勤務内容も見えてくる。中学校教諭に関して、「平日」の主な勤務内容別に時間配分を見てみると、図にあるとおり、部活動指導、研修、事務・報告書作成、授業準備などに多くの時間が割かれている。研修はとりわけ夏休みに特徴的な仕事内容である。

中学校教諭における夏休み中の勤務内容
中学校教諭における夏休み中の勤務内容

ただしこれは、平均値に基づいているため、現実には、ある日は部活動指導が4時間、別の日は、部活動は0時間で研修が4時間といったように、具体的な1日の勤務内容は、図とは異なっていることも多々あると考えられる。

いずれにせよ、中学校ではやはり部活動が、夏休み中の平日勤務の主要部分である。考えてもみれば、「夏休み」とは言っても、部活動のために学校に向かう生徒の姿をよく見かけるではないか。いまの保護者世代も、中高生の頃には、土日関係なく毎日のように部活動に行っていたのではないだろうか。生徒に夏休みがないのと同様に、先生にも夏休みはないのである。

■働き続ける先生たち

授業期間中が多忙な分、教員に字義どおりの夏休みが保証されているなら、授業期間中の忙しさには目をつぶってもよいかもしれない。しかしながら、データが教えてくれるのは、夏休み期間中も、平日はもちろんのこと、ときに土日を含めてまで働き続ける先生たちの姿である。

私が知る高校教諭は、学内での特別夏季講習のために、終電で帰宅し始発で学校に向かうという生活を送っている。自宅にいても、講習の準備に追われている。倒れはしないかと、本気で心配だ。

また、お盆の数日を休んだだけで、あとは毎日部活動指導をしている先生もいる。「もっと休めばいいのに」と言うと、「保護者の目線が…」という言葉が返ってきた。

先生は休みなく、仕事をしている。先生が疲弊してしまっては、まともな教育など成り立つわけがない。なのに、「夏休みがあって羨ましい」とは、あまりに残酷な言葉である。

【注1】

「教員勤務実態調査」では、「0-2日/3-5日/6-10日/11-15日/16-20日/21日以上/昨年度の勤務が1年未満/無回答・不明」という質問で有給休暇の実情が調査されている。具体的な平均値を算出するために、まず「昨年度の勤務が1年未満/無回答・不明」を省き、さらに日数を「1日/4日/8日/13日/18日/23日」に置き換えて計算をおこなった。

【注2】

小学校教諭の場合には、「平日」は8時間3分の勤務(+自宅持ち帰りが16分)、「休日」は5分の勤務(+自宅持ち帰りが35分)である。

【注3】

ただし、夏休みの休日に1時間5分だけ学校で仕事をするのが平均像という理解は、実像からはややずれていると推察される。たとえば、土日のうち土曜日だけ2時間10分(1時間5分の2倍)、日曜日は0分の場合、休日の平均値としては1時間5分となる。さらに、その土曜日にA教諭は4時間20分(2時間10分の2倍)、B教諭は0分の場合、教諭の平均値としては2時間10分となる。

内田良

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授

学校での各種事故や問題(スポーツ事故、組体操事故、転落事故、「体罰」、「2分の1成人式」、教員の部活動負担など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。個別事案や学校現場との接点も多く、また啓発活動として教員研修等の場で各種問題の実態と防止策に関する情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。教育社会学会理事,子ども安全学会理事。著書に『柔道事故』(河出書房新社)、『「児童虐待」へのまなざし』(世界思想社、日本教育社会学会奨励賞受賞)。■講演・原稿依頼,お問い合わせはこちら:dada(at)dadala.net

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