「新国立競技場 公式サイト」より

写真拡大

 迷走を続ける新国立競技場の建設に関し、国民からは不満の声が高まっている。しかし、文部科学省や日本スポーツ振興センター(JSC)は、まったく責任を感じていないようだ。

 デザインや建設費をめぐる問題で、総工費が当初の見積もりより900億円ほど高い2520億円かかる見通しになった点について、下村博文文科相は「詳細は申し上げられない」と明言を避けた。

 そもそも建設費は当初1300億円を見込んでいた。それでも、過去のオリンピックメインスタジアムと比べて極めて高い。例えば、“鳥の巣”と呼ばれた9万1000人収容の北京オリンピックの競技場は約525億円、ロンドンオリンピックの競技場は8万人収容規模で900億円程度だった。新国立競技場は、桁外れの無駄遣いといえる。

 新国立競技場は、デザインを公募し、応募作の中から選ばれた。当然、予算の1300億円の枠内に収まるのが条件だったはずだ。しかし、デザイン決定後に総工費は最大3000億円にまで膨張することが明らかになった。

 デザイナーのいい加減な計算も去ることながら、その作品を選んだ選考委員にも大きな非があるといえる。しかし、問題発覚後もデザインの再選考などはなされず、床面積を25%削減して建設費を1785億円程度まで圧縮するとJSCは発表、さらに文科省と財務省は総工費の上限を1625億円とすることで合意した。それに伴い一部デザインを変更したが、見た目が悪くなったと多くの建築家からも批判の声が上がった。

 昨年5月、国立競技場将来構想有識者会議も、本体整備1388億円、周辺整備237億円、合わせて総工費1625億円とする基本設計を承認した。

 しかし、巨大な2本のアーチが特徴の新国立競技場だが、このアーチが一本当たり約500億円もかかるなど、資材や建設費を考慮すると2520億円に上ることが判明した。そのうち、500億円の負担を政府から求められている東京都は、舛添要一知事が拒否する意向を示しており、今後の協議に注目が集まる。

●文科省とJSCの不透明な関係

 そもそも、このように迷走するに至った大きな要因の一つに、文科省とJSCの馴れ合いが指摘されている。デザイン選考に関し、JSCの発表したコンペ内容が不透明で、事前に大賞は決まっていたとする「出来レース」を示唆する関係者もいる。

 例えば、新国立競技場基本構想国際デザイン競技報告書に掲載されている受賞作のデザインが、当初の応募案から最終選考では大きく変わっている。提出後のデザイン変更は不可で、変更した場合には失格とする応募要項に反するとの指摘が建築関係者から挙がっている。また、予定していた受賞作発表時期から実際の発表まで2カ月もずれ込んだことから、不透明さが増している。しかも1300億円の予算が実際には3000億円になるなどありえないと多くの建築家は口を揃える。つまり、予算を十分に検討せずに選ばれた可能性があるのだ。

 また、デザイン決定後かなり早い段階で、「複数の建設業者がJSCに対して総工費が3000億円を超えることや、技術的問題から開閉式屋根の設置がオリンピックまでに間に合わない可能性があると進言していた」と、都内の建設業者は明かす。

 しかし、JSCはその指摘を放置して文科省に報告せず、デザインを練り直すだけの時間的余裕がなくなった今年4月に入ってから報告したことが明らかになっており、JSCのずさんな対応が迷走を招いたといえる。

 JSCの実態は、文科省の外郭団体で、文科省をはじめ財務省などの官僚が役員として天下りする組織である。

 そもそも旧国立競技場の解体工事に関しても、入札に関して不正が疑われている。最低価格で落札したフジムラが失格とされ、理由は明らかになっていない。2番目に低い価格を提示した業者も、品質確保ができないおそれがある場合に実施する「特別重点調査」の対象としてJSC側が契約を保留するなど、不自然な点が目立った。

 その後、フジムラが不正入札の疑いがあるとして内閣府に告発した。

 入札の際、JSCは入札書と工事費内訳書の提出期限前であるにもかかわらず、各業者の内訳書を開封し、事前に入札金額を把握していた。さらにJSCは、内訳書の開封と並行して予定価格を決める手続きを進めていたという。

 このことをフジムラ側は問題視し、「予定価格の決定が恣意(しい)的に操作されたとの疑いを持たれる行為。公正性や公平性の確保で重大な疑義がある」「各社の入札額を先に確認してから予定価格を決めたと疑われても仕方ない」と批判している。

 その後、内閣府の調査においてJSCの河野一郎理事長は、「(入札情報が)漏れたとは考えていない」「(落札価格の)操作事実はない」と答え、談合入札を否定した。

 しかし、民主党議員の蓮舫氏による「苦情を申し立てた業者、落札した業者、解体設計者にはヒアリングしたが、JSC関係職員11人にはヒアリングしていない」との指摘に対し、河野理事長は「私が直接ヒアリングした。したがって調査部会はヒアリングをしていない」と答えるなど、調査に対しても疑義が湧き上がり、再入札となった。

 総工費とは別に、新国立競技場は将来負担する修繕費と大規模改修費だけで1000億円近く、さらに年間維持費は約45億円にも上ると見られている。ちなみに旧国立競技場の年間維持費は約4億円、横浜国際総合競技場は約5億円、埼玉スタジアムは約6億円で、桁が異なる。

 このように巨大な利権が絡む新国立競技場建設には不透明な部分が多く、各所で汚職などもささやかれる事態となっている。
(文=平沼健/ジャーナリスト)