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強くてニューサーガ 作者:阿部正行

第一章

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エピローグ

 勲章授与式の夜、レモナス王は宮殿の最上階にある薄暗い寝室で一人酒を飲んでいた。
 心ならずも息子を廃嫡した憤りからではなく、王女の暗殺に失敗したことに対する王子とゼントスへの怒りからだ。

 今回の王女暗殺の本当の黒幕はレモナス国王だった。

 動機は優秀な、優秀すぎる娘を疎んじての事。
 娘が偉大な女王になるのはわかっており、このままでは自分がミレーナのついでという存在になり歴史に埋もれるのを恐れたからだ。

 だが自ら手を下すわけにもいかないためゼントスに命じ、愚物の王子をそそのかせ妹を討つように誘導した。
 元々分不相応の野心を持っていた王子はすぐにその気になった。踊らされているとも知らずに。

 だが愚物さは予想以上でゼントスをつけてやり色々お膳立てしてやったと言うのに妹一人殺せなかったのだから。

 すぐに別の手をうたねば……そう考えているとレモナス王の前髪が揺れ、部屋を見渡すと今はつかわれていない暖炉の前に人影があった。
 黒ずくめの格好で顔もほとんどを隠し目だけが見える姿、怪しいことこの上ない姿だ。

 その人影は瞬時にレモナス王の側まで来ると、背後にまわり両腕を捻り上げ口を塞ぎ一瞬で動きと声を封じる。
 明らかに手馴れた動きで、武術の心得の無いレモナス王がそれに抵抗できるはずもなかった。

「……何で誰にも見咎められずここに来れたか不思議か? 簡単だよ、暖炉の奥にある秘密の抜け道、あれ王都の外まで繋がってるだろ? それを反対にきたのさ」
 確かに暖炉には万が一のときの為に、王都の外にまで続く脱出路がある。
 だがそれは極秘中の極秘、出口も厳重に隠されその存在を知るのは今生きている中ではそれこそ自分だけのはず。

「ここが落城するとき護衛だったからな……まったく、あの時は流されるまま貴様などを護衛したが、お前なんかを助ける為に……まあおかげでこの通路を知ることができたのだからな」
 とりあえず無駄では無くて良かったと呟く侵入者。
 言っていることはよくわからないが、とにかく自由になろうと口を押さえられたレモナス王は必死にもがくがびくともしない。

「一人で酒を飲んでいるとは丁度よかった。今日無理そうなら何回か来てでもいい機会を待つ予定だったが……これも俺の日ごろの行いがいいのか、それともそっちの行いが悪いのかな?」
 皮肉げに侵入者――カイルが言う。
 勲章授与に影響が無いようにと、今日まで待っていたがそれが良かったようだ。

「まあ当然こんな事をされる理由は知りたいだろうな……理由は色々あるがやっぱり個人的な恨みで逆恨み……ともちょっと違うな。強いて言うなら今のあんたに対しては八つ当たりかな?」
 八つ当たりと聞こえレモナス王が怒りのうめきを上げる、がカイルは気にした様子も無い。

「今のあんたに言っても無駄だがあの『大侵攻』の時、あんたに進言したんだよ、すぐさま隣国のドワーフ達の救援に向かうようにってな。ところがだ、主導権を握りたいという政治的判断ってやつで危機に陥ってから助けるという事になりわざと遅らせた。その結果、お前の予想を遥かに上回る魔族軍の攻勢を前にドワーフ達はあっという間に滅んだよ」
 あの時のカイルは少しだけ名の売れた腕自慢の魔法剣士で、その程度の扱いでしかなかった。
 リマーゼの街の生き残りで、その時の魔族の軍の恐ろしさ、脅威を必死に訴えたが聞き入られることは無かった。

「そこでの負けは後々にも響いてな……結局ジルグスが滅ぶ原因にもなったぜ。その後も愚策しかとらないし、追い詰められると責任逃れをはじめるし……」
 カイルがここで大きく、本当に心の底からのため息をつく。

「もうちょっとあんたらがしっかりしてくれればな。俺もこんな苦労しなくてすんだのかもしれないのに……お前みたいな指導者が多いからほんと困るぜ」
 怒りが篭ったのだろうか、やりきれない過去を思い出したのか、レモナス王の両腕を捻りあげた手に力がこもる。
 痛みにうなり声をあげるレモナス王。

「ああ、すまない。今のあんたにいくら言っても意味ないことだ。それこそ八つ当たりだったな……それに元々まだしてもいないことでお前をどうこうするつもりはなかったさ……だが己の保身、そして嫉妬心で息子に娘を殺させようとする外道なら話しは別、遠慮は無用だな」
 カイルは捻りあげた手に更に力をいれ押し出すように歩き出す。

「何よりも俺の戦友にあんな命令をし、俺にその戦友を殺させたことは許せななくてな」
 ゼントスの最期の言葉は「申し訳ありません、陛下」だった。
 それを聞いた瞬間、カイルには全てが理解できた。

「考えてみれば簡単だ、あの生真面目な忠義馬鹿に王女暗殺なんて真似をさせることが出来たのは一人だけ……お前しかいないのさ、国王陛下。思えばお前が死にジルグス国の無くなった後のゼントスは、重石でも除けられたかのように妙にすっきりしてたしな……あいつも仕える王を選べたらよかったのに」
 徐々に近づいてくるバルコニーに続く大窓。
 カイルが何をしようとしているのかわかり、レモナス王は一段と激しくもがくがびくともしない。

「あの王女様は……多少腹黒いが賢い。情より利を優先するだろうが保身しか頭に無いお前に比べれば遥かにマシだ、殺させるわけには行かない。それにどうせ王女の次は秘密を知ってる俺達も消す気だっただろ?……そんな訳で悪いがここで退場してもらう」
 大窓がそっと開かれ、夜の冷たい風が流れ込んでくる。

「まああんたはほっといても本来なら三年とちょっとでくたばる。早いか遅いかの差だ。なら多少早めても問題は無い、そうだろ?」
 淡々と、すでに確定事項のように自分の死を語るカイルにレモナス王は計り知れない恐怖を感じもがき、うめくが歩みは止まらない。

「おっと、長話になってしまったな。これ以上時間をかけるのも悪いしな……」
 バルコニーの手すり部分に来る。
 昼間なら整った中庭が見える眺めのいいバルコニー、だが今は深い闇が広がるばかりだ。
 ここは宮殿の最上階で五階にあたり、下は石畳で落下すれば命は無い。

「安心しろ、事故死に見せかけるし実の子供を殺そうとしたことは誰にも知られないようにするから死後の名誉は守られるぞ……ああ、叫ばれても困るんでな、先にちょいと落ちてもらうぞ」
 カイルがレモナス王の首筋に手刀をいれる。
 軽い一撃、だが絶妙な箇所に打ち込んだそれは意識を奪うのに充分だった。

「じゃあな、国王陛下」
 意識が闇に包まれる中、レモナス王が最期に聞いたのはそんな声だった。



 その夜、巡回中の兵士が大きな物音を聞き、駆けつけたところレモナス王が転落死をしていた。

 侵入者の痕跡などもまったくなく、酷く酔っていた様なので酔い覚ましに夜風にあたろうとバルコニーに出て誤って転落、そう推測された。

 酒に酔って転落死、というのは聞こえが悪かったため公式には急な心臓の病と発表される事となった……

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