交通死亡事故の損害賠償請求…遺族がやるべきこととは?【弁護士が解説】

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もし、家族や大切な人が交通事故にあってしまったら、どうすればいいのでしょうか?
あなたは家族として何をしてあげられるでしょうか?

死亡事故のご遺族は、まず、こちらの動画解説をご覧ください。



【交通事故の死亡者数は減少している!?】

警察庁が公表している統計資料「平成26年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況について」によると、平成26年に起きた交通事故は57万3842件、負傷者数は71万1374人、死者数(事故発生から24時間以内)は4113人でした。

交通事故件数と負傷者数は10年連続、死者数は14年連続の減少で、年々減少傾向にあることがわかります。

しかし、死者数の減少幅がここ数年縮小していること、さらには65歳以上の高齢者の死者が全体の半数を超えているなどの問題点が浮き彫りになっているようです。

ところで、交通事故は減少傾向だとはいっても1年間で4000人以上の方が亡くなっているのですから、自分や家族がそのひとりにならないという保証など、どこにもありません。

誰もが交通死亡事故にあう危険性と隣り合わせで生活しているのです。

【交通死亡事故が起きたらやるべきこととは?】

不幸にも交通事故にあってしまい、家族などを亡くされた場合、遺族は大変深い悲しみにつつまれます。

突然の出来事のため、どうしていいのかわからず途方に暮れてしまう方や、あまりのショックから茫然自失となる遺族の方もいます。

しかし、どなたかが交通事故で死亡された場合、
その瞬間から遺族と加害者との間で法的な問題が発生します。

加害者に対して、遺族(相続人)が行う損害賠償請求です。

事故のことは思い出したくない、という遺族の方も多いと思いますが、損害賠償金は当然、遺族が手にすることができる権利ですから、亡くなった方のためにも権利の放棄などしないようにしなければいけません。

賠償金は、亡くなった方の「命の値段」です。

不当に低い金額で示談をすることは、亡くなった被害者に低い値段をつけた、
ということにもなりかねないのです。

通常、加害者側の保険会社の担当者と示談交渉をしていくことになりますが、
死亡の場合、事故後の治療や後遺障害は発生しないため、損害額がすぐに決まります。

しかし、保険会社からの提示額は、適正な金額よりも低いことが多いので、その損害額について示談交渉をしていくことになります。

なお、損害賠償請求する権利には時効があります。

時効を過ぎると請求できなくなるので注意してください。
時効の期間は事故から3年間です。

ちなみに、ひき逃げのような加害者がわからない事故の場合は、加害者が判明したときから3年となります。
また、加害者が判明しない場合、事故から20年が経過すると時効となり、権利が消滅してしまいますので注意が必要です。

ここでは、損害賠償請求の手順とポイントについてお話ししていきます。

示談交渉はいつ始めるのか?

死亡後、通夜と葬儀が行われますが、加害者が刑事事件として逮捕されていない場合は本人が参列するのは当然でしょう。
ところが、参列しない加害者もいるため、保険会社の担当者が代わりに参列するケースもあります。

だからといって、このような場では交渉が始められることはありません。

被害者遺族の心情を考えれば当然ですが、
通常は死亡後の手続きが終了して遺族の方が落ち着いた、四十九日が過ぎた頃から交渉が開始されます。


<死亡事故のご遺族のための必見動画>


交通死亡事故では誰が損害賠償請求できるのか?

交通事故の被害者が死亡した場合、
加害者に損害賠償請求をすることができるのは被害者の相続人です。

被害者の家族全員ができるわけではないことに注意が必要です。

そのため、死亡事故の場合には、
まず損害賠償請求権を持っている人は誰かを確定する必要があります。

では、被害者が死亡した場合の相続人が誰になるのかについて考えてみます。
相続人には、配偶者(夫、妻)と親、兄弟姉妹、子などがいるとします。

配偶者がいる場合は、常に相続人になり、他の相続人と共に損害賠償請求権を相続することになります。

配偶者以外の相続人の場合には、順番があります。

第一位の相続人は子になります。

子がすでに死亡しており、子の子供(被害者の孫)がいれば、孫が第一順位で相続人になります。
つまり、子や孫がいれば被害者の配偶者は一緒に相続人になりますが、親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。

第二順位の相続人は親になります。

子がいない場合には、親が相続人になり、兄弟姉妹は相続人になりません。ただし、被害者の配偶者は一緒に相続人になります。

第三順位は兄弟姉妹です。

子も親もいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹がその時点で死亡している場合には、兄弟姉妹の子が同順位で相続人になります。
もちろん、この場合でも被害者の配偶者は一緒に相続人になります。


詳しい動画解説「被害者が死亡した場合、誰が損害賠償請求できるのか?」

すぐに示談してはいけない理由とは?

ご遺族の中には事故のことを早く忘れたい、もう触れたくないなどの理由から、
すぐに示談をしようと考える方もいますが、これはやめてください。

なぜなら、次の2つの理由があるからです。

ひとつは、加害者の量刑が軽くなってしまうからです。

交通事故では、刑事手続き、民事手続き、行政手続きの3つが並行して進んでいきます。
刑事手続きではまず、警察、検察による捜査(実況見分、取り調べ等)が行われます。
被害者側の遺族には生前の被害者の様子、ご遺族の無念さ、処罰感情等について聞き取りが行われますので、その際は、思っていることをそのままお話しすればよいでしょう。

捜査が終了すると、加害者を起訴するかどうか検察官が決め、起訴された場合は、刑事裁判が行われることになります。
(罰金刑となり、法廷で開かれる裁判が行われない場合もあります)。

じつは、この刑事裁判で量刑が確定する前に示談が成立してしまうと、
通常は被害弁償がある程度終わったとみなされ、刑事裁判における量刑が軽くなってしまうのです。

そのため、被害者の遺族としては刑事裁判の進行具合も考えながら示談交渉を進めることが必要です。


詳しい解説「死亡事故の遺族がやらなければならないこと、やってはいけないこと」

なお、加害者が起訴された場合には、公判(裁判)に立ち会い、ご遺族としての意見を述べることができる「被害者参加制度」というものがあります。
希望するときは、検察官に申し出ておきましょう。


詳しい解説「交通事故の被害者が加害者の刑事裁判に参加できるか?」

さて、もうひとつの理由は、

多くの場合、保険会社の提示額は適正な金額より低いということです。

本来ならば手にすることができるはずの金額が低く見積もられているとは、一体どういうことでしょうか?

じつは、交通事故の損害賠償には、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準の3つの基準があります。

自賠責基準がもっとも金額が低く、保険会社はこの基準で提示してくることがほとんどです。

しかし、本来の適正金額は弁護士基準であり、この基準での金額を手にするために示談交渉をしていくのですが、相手は保険のプロです。

保険の素人である遺族が交渉しても、なかなか上手くいかないことがほとんどです。

そこで弁護士の出番となります。

「有名な大手保険会社が適当な金額を言うわけないだろう」

「弁護士に依頼するのは難しそうで気が引ける」

と思う方もいると思いますが、

実際は弁護士に依頼したほうが交渉はスムーズに進みます。

遺族に代わって弁護士が交渉を進めていくのですが、ここで交渉が決裂した場合は民事裁判を起こします。

裁判では、ほとんどの場合、適正な金額を勝ち取ることができます。

以上の理由から、すぐに保険会社の提示額に応じずに、できれば弁護士に相談することをお勧めします。

過失相殺についての証拠を集める

死亡事故の損害賠償では、過失相殺について激しく争われることがあります。

過失相殺とは、交通事故において被害者側に過失がある場合、過失割合に基づいて損害賠償額を減額することです。

死亡事故では、損害賠償額が数千万円から場合によっては1億円を超える高額賠償となります。
過失相殺が10%違っただけで、数百万円から1000万円以上も賠償額が違ってくることがあるため、裁判上の大きなポイントになるのです。

通常、過失相殺は、被害者と加害者の証言を元に作成され、その後に刑事事件で作成した実況見分調書や供述調書などをもとに認定されることになります。

しかし、死亡事故の場合、被害者は亡くなっているため証言できず、加害者の証言と目撃者の証言をもとに作成されることになり、ここで問題が発生するのです。

被害者の遺族は、目撃者の確保を重視しなければなりません。
警察に対して立て看板を立てるように働きかけ、近所の聞き込みをしてもよいでしょう。

目撃者がいる場合には、可能であれば現場で説明を受けましょう。
その際、目撃者の了解を取って、ビデオを回しながら具体的な目撃情報を撮影し、証言を録音できることが望ましいといえます。
それが無理な場合には、目撃者の証言を文章にして、図面を添付したものに署名捺印をしてもらうことになります。

これらをしておかないと、目撃者の記憶が薄れてしまいますし、後で気が変わって協力してくれなくなったり、転勤や転居によって、連絡がつかなくなってしまう可能性もあります。

また、防犯カメラの映像は、一定期間で消去されるのが通常です
もし、近くに防犯カメラがある場合には、ダビングをお願いしておくのがいいでしょう。

保険会社側は、被害者有利に証拠を作ってはくれませんので、被害者側が努力してこのような作業を行わなければなりません。

損害賠償請求はどのように行えばいいのか?

交通事故で後遺障害を負った場合と同様に、死亡事故の場合も自賠責保険会社と任意保険会社の両者に対して、損害賠償請求をすることができます。

請求の仕方には2通りあります。

①自賠責保険会社に請求してから、その後、任意保険会社に残りを請求する進め方

(被害者請求)

②加害者側の任意保険会社に対して自賠責分も一括して請求する進め方

①のメリットは、遺族に経済的な余裕がない場合、まずは自賠責保険に被害者請求をして、
ある程度まとまったお金を得て生活を安定させたうえで任意保険会社と示談交渉を進めることができる点です。

ただし、裁判の判決までいく場合には、損害賠償金には事故時から金利年5%の遅延損害金が付加されます。
先にもらってしまうと、金利がその時点から付加されないので注意が必要です。

②のメリットは、一括請求なので、かかってくる遅延損害金の額が大きくなるということです。また、一括請求のため遺族側には手続き上の負担が少なく済むいというメリットもあります。

ちなみに、自賠責保険の損害賠償額は、3,000万円が上限になっています。

遺族は、経済状況などを考えながら、もっとも適した方法を選ぶことが大切です。

損害賠償金の項目とは?

死亡事故の場合に被害者の遺族が保険会社に請求できる主な項目は、大きく分けると以下の通りです。

①葬儀関係費

②逸失利益(生きていれば得られたはずのお金)

③慰謝料(被害者の慰謝料、近親者の慰謝料)

④弁護士費用(裁判をした場合)

上記以外でも、即死ではなく、治療の後に死亡した場合は、実際にかかった治療費、付添看護費、通院交通費等を請求することができます。

①葬儀関係費は、自賠責保険では定額で60万円、任意保険会社は120万円以内が大半です。

また、弁護士に依頼して訴訟を起こした時に認められる葬儀関係費の相場は、150万円前後になります。
墓石建立費や仏壇購入費、永代供養料などは、個別で判断されることになります。

②逸失利益は、被害者が生きていれば得られたはずのお金です。

将来得られたはずのお金を算定し、その金額を今、一時金として受け取ることを前提に、中間利息を控除するのは、後遺障害の場合と同様です。

後遺障害の場合と異なるのは、死亡の場合には、その時点で100%所得がなくなるので、「労働能力喪失率」は100%です。

また、生きていれば生活費にお金がかかるはずなので、後遺症の場合と異なり、生活費でかかるであろう割合を差し引くことになります。
これを「生活費控除」といいます。

少し難しいのですが、計算式は次のようになります。

「死亡逸失利益の算定式」

基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

※基礎収入は前年の年収です。
※ライプニッツ係数とは、損害賠償の場合は将来受け取るはずであった収入を前倒しで受け取るため、将来の収入時までの年5%の利息を複利で差し引く係数のことをいいます。
※生活費控除率の目安は以下の通りです。
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合は40%
被害者が一家の支柱で被扶養者2人以上の場合は30%
女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合30%
男性(独身、幼児等含む)の場合は50%

③交通死亡事故の慰謝料のおおよその基準は、次の通りです。

・一家の支柱:2800万円
・母親、配偶者:2400万円
・その他:2000万円〜2200万円

④死亡事案には限りませんが、訴訟になり弁護士が必要と認められる事案では、認容額の10%程度を相当因果関係のある損害として、損害賠償額に加算されるのが通常です。

損害賠償シミュレーション(死亡事故編)

なお、私たちは被害者や遺族の方がご自分で損害賠償額を計算できるように、WEB上の自動計算機を設置しています。個別の事情があるため完璧ではありませんが、一般論的な数字は算出できるので、ぜひ活用してください。

【慰謝料は相場で我慢してはいけない?】

先ほど、慰謝料の裁判における基準を説明しましたが、これは、あくまでも目安となります。

加害者が悪質だったり、事故が悲惨だったりし、被害者本人や遺族の悲しみが大きいと考えられる場合は、慰謝料が増額されて、相場金額よりも高額で認められます。

いくつか事例を紹介します。

①【30歳男性/4000万円】

30歳男性が、交差点を歩行中、無免許飲酒運転の被告自動車にひかれ、さらに約2.9メートル引きずられて死亡した事案。

引きずられながら絶命した被害者の苦痛苦悶は筆舌に尽くしがたいことを考慮し、死亡慰謝料は以下のように認められた。

慰謝料基準額 2800万円

【認められた額】
本人分 3500万円
近親者  500万円
計   4000万円

(大阪地裁 平成25年3月25日判決 自動車保険ジャーナル・第1907号)

②【17歳男性/3900万円】

17歳男性が、横断歩道を青信号で横断中、無免許・飲酒運転の被告自動車にひかれた事案。

被告は10年以上無免許で通勤にも車使用、飲酒運転が常態化。
衝突後、被害者を「危ない」と怒鳴りつけたことなど悪質なことから、死亡慰謝料は以下のように認められた。

慰謝料基準額 2000~2200万円

【認められた額】
本人分  3000万円
近親者   900万円
計    3900万円

(大阪地裁 平成18年2月16日判決 交民集39巻1号205頁)

③【19歳男性/3750万円】

19歳男性が、原付自転車を運転中、不良少年グループによる2台の危険運転行為がある中で衝突。
212メートル引きずられた後、轢過され死亡した事案。

少年らの生命を軽視した身勝手な危険運転行為で惹起された事故であり、通常の交通事故と同列に扱うのは相当でないとして、死亡慰謝料は以下のように認められた。

慰謝料基準額 2000~2200万円

【認められた額】
本人分  3000万円
近親者   750万円
計    3750万円

交通事故の事案はある程度の類型化がなされていますが、必ずしも相場通りに解決するわけではありません。

個別事情によって異なる結果となりますから、
「相場だから、妥当でしょう」ということで安易に示談をする必要はありません。

以上、交通死亡事故での損害賠償請求についてお話ししました。

より詳細な内容については、死亡事故の遺族の必見動画で解説しています。
無料ですので是非ご覧ください。



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