村上ファンド:再び存在感 黒田電気に役員要求
毎日新聞 2015年08月19日 21時27分(最終更新 08月20日 08時19分)
かつて「もの言う株主」として注目を集めた村上世彰(よしあき)氏(56)の流れをくむ投資会社が、再び市場の関心を集めている。世彰氏の長女絢(あや)氏(27)が最高経営責任者(CEO)を務める投資会社「C&Iホールディングス」(東京)が、電子部品商社の黒田電気(本店・大阪市)に対し、世彰氏ら4人を社外取締役として選任するよう求めており、可否を決める臨時株主総会が21日に開かれる。絢氏は「企業価値の向上には株主還元の拡大や手元資金の活用など、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化が必要」と訴えており、日本企業のガバナンスのあり方に一石を投じそうだ。
C&Iと世彰氏らは、昨年末から黒田電気の株を買い始め、現在は約16%を保有する事実上の筆頭株主。外資系金融機関出身の絢氏は「業績に対して株価が割安で、ガバナンス改善の余地がある」と投資理由を語る。他にも半導体商社や自動車部品メーカーなどの大株主でもある。
黒田電気は1945年創業で、2015年3月期の連結売上高は3264億円、連結最終利益は67億円。スマートフォンなどの液晶や自動車用部品をメーカーなどに販売し、電子部品商社業界では大手の一角だ。
絢氏は、黒田電気が約240億円の潤沢な手元資金を持ちながら、最終(当期)利益に占める株主への配当が19%しかないことや、積極的なM&A(企業の合併・買収)を通じた成長を目指す姿勢がみられない点を問題視。6月26日、黒田電気に世彰氏ら4人の社外取締役を選任するため、臨時株主総会の招集を要求した。
これに対し、黒田電気は7月10日、最終利益に占める配当を40〜65%に増やすと発表。そのうえで「社外取締役は既に取締役の半数の3人おり、ガバナンスは機能している」(持丸守・経営企画本部長)として、絢氏側の要求を拒否している。
21日の臨時株主総会では、4割弱を占める外国人株主の動向が鍵を握りそうだ。外国人株主に影響を与える議決権行使助言会社の米ISSは、絢氏側の要求に賛同する一方、米グラスルイスは反対するなど評価が二分している。絢氏は「M&Aによる業界再編を求める外国人株主の理解は得られている」と可決に自信を見せる。
世彰氏がインサイダー取引事件で逮捕されてから9年。当時は株主の権利を声高に主張する世彰氏への風当たりは強かったが、今では株主重視の経営を促す企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)が導入されるなど、株主に対する企業の考え方が大きく変わった。黒田電気の株価はC&Iなどの大量保有が明らかになってから大きく上昇するなど、ガバナンスの行く末を左右しそうな今回の結果に投資家も大きな関心を寄せている。【鈴木一也、浜中慎哉】
◇キーワード・村上ファンド
通商産業省(現経済産業省)元官僚の村上世彰氏が中心となり、1999年に設立した投資グループの総称。収益力や財務基盤に対して株価が割安な企業の株を次々と買い集め、株主還元の拡大や事業売却などを強く求める「もの言う株主」として世間の注目を集めた。阪神電鉄やTBS(現TBSホールディングス)などの株を、経営陣や他の株主の同意がないまま大量に買おうとする手法は「敵対的TOB(株式の公開買い付け)」として批判を浴びたが、株主の権利や企業価値の向上に対する日本企業の考え方を変える契機になったとの評価もある。2006年6月、村上氏がニッポン放送株を巡るインサイダー取引事件で逮捕され、ファンドは解散した。