私には惚れこんでいる店がある。
「心の味製麺」だ。
一風変わった店名だが、ゴリゴリに正統派のラーメン屋。松戸の人気店「とみた」の流れをくんでおり、つけ麺が人気。「つけ麺ってウマいけど、もう伸びしろなくない?」と生意気にも高を括っていたところに、ガツーンと叩きつけられた存在だ。
もっとも依存していた今年頭は、昼食っただけでは我慢できず夜もまた食いに行ったし、スマホの調子が悪く、つけ麺を写メできなかった日にauを解約もした。あの頃、私は脳の理性をつかさどる部位が心の味食品(心の味製麺が、麺や具を仕入れている会社)の麺に入れ替わっていたのだろう。
心の味製麺を食って、写メにおさめ、ツイッターに投稿する、そんなbotのような生活をしていた。
私レベルになるとこの交差点を見ただけで、心の味の到来を脳がキャッチし、唾液が出てくるし、すでに「おいしい」と言っている。
こちらは心の味製麺がある平井駅前の交差点だ。
平井駅。
総武線のなかでもマイナー駅に属するこの駅に、こんなにもしばしばやってくる日が訪れようとは、小学校時代の私に聞かせても信じてはくれないだろう。
お店までは国道沿いを歩いて、4分少々の道のり。
つけ麺だけでなく普通のラーメンもあるし、毎度「今日こそはラーメンを食べてみるぞ」と意気込んで家を出るのだが、食券機を前にすると、自然と指はつけ麺ボタンを押している。脳の指示に従ってくれない。耳元で、悪魔も天使も満場一致で「つけ麺食っちゃえ」と囁いている。
一度身体がつけ麺を覚えてしまうと、つけ麺以外を食べることが至極難しくなるので、ラーメンも食べてみたいなという方は初回来店時が最大のチャンスだろうが、やはり初回時はつけ麺を食べてみて欲しいし、私はとても困っている。
食券を渡してしまったら、誰ももう事態を止めることはできない。
席に座り、すべてのはじまりを黙して待つだけだ。
そして、すべてがはじまった
▲特製つけ麺 1,000円
すべてのはじまり、それは、濃厚豚骨魚介つけ麺。
我が味蕾よ、味という味を逃すことなく感知しておくれ。
特製つけ麺には、「焼き目のついた豚肉」「レア加減の燻製肉」「チャーシュー」の3種類の肉がのっかっている。バラエティー感溢れる賑やかなビジュアルもさることながら、多方面から味蕾を刺激してくれそうな頼もしさも共にある。
これだけ頼もしく絵になる3人組は、劉備・関羽・張飛が手を組んだ後漢以来。広々とした丼ぶりが、豊かなる蜀の大地に見えてくるではないか。
肉への言及は後ほどに譲るとして、まずは、麺をご覧いただきたい。
肉の隙間から垣間見える麺のかたまりは、乱れることなく静かにおさまり、それはあたかも茶道の達人が正座をしているよう。凛とした居住まいだ。
ノーマルバージョンのつけ麺を頼んでもチャーシューが付いてくるし、それはもう充分おいしいのだが、お財布にちょっと余裕があるのなら、まずは特製つけ麺を選んで欲しい。年初にひいたおみくじの待ち人の欄にもそう書いてあったはずだ。
お待たせいたしました、お肉です。
もっとも目を惹くのが、レア加減の燻製肉でしょう。ローストビーフといい、牛カツといい、ピンクの肉には逆らえない。燻製度合はかなり強くて、口いっぱいに香ばしい薫りが広がる。つけ汁にダイブさせるのもいいが、私はいっそひと思いに、このお肉を最初に食べてしまう。
こちらのお肉は、焼き目がパリッとしている。ごま粒のプチプチ感とあわせて、食感が楽しい1枚だ。
一般的なチャーシュー。これという特徴はないが、ほかの2肉の個性を最大に引き出す立役者。俳優でいうと寺島進。
もはや言うまでもない。美味しい。最速2分ちょっとで完食した。ウマすぎて、気持ちが焦るのだ。
豚骨ベースの濃厚なスープに、刻みゆずが入ってる。ほのかに爽やか。後味にちょっと甘みがある。
最後のお楽しみは、割りスープ。ネギも少し足してくれる。
1人の人間をこれだけ幸せにする1,000円の使い道があるだろうか。
今夜行くしかないですね。いってらっしゃいませ。
取材したお店
作者:松澤茂信(まつざわしげのぶ)
東京別視点ガイド編集長。
るるぶとか東京ウォーカーが積極的に載せないようなとこばっかし巡ってます。
そういう人生です。けっこー楽しいです。
(編集:編集プロダクション studio woofoo by GMO)
東京別視点ガイド:http://www.another-tokyo.com/
Twitter:https://twitter.com/matsuzawa_s