今日は、最近担当した面会交流事件のご紹介です。
いろいろ考えさせられると共にある意味汎用性のあるケースでした。
例の如く、プライバシー保護の関係上、個人が特定できないように一部変更して書きますが、お伝えしたいことが伝わりますように。
さて、事案は以下のとおりです。
・夫45歳会社員、妻43歳パート職員、長男中学1年、長女小学4年。
・夫婦は既に別居後2年が経っています。子どもは母親と同居。
・別居理由は、父親から母親へのモラハラ、暴言。父の借金。(母親の主張)
・別居後も月に2回程度は父親と子どもの面会交流あり。
・しかし、面会交流時にちょっとしたトラブルがあり、子どもが父親と会いたくないと言っているとのことで面会交流中断。
・中断から半年して父親から「ちゃんと会わせてくれ」と面会交流調停事件申立て。
さて、この調停ですが、初回期日に母親の姿はなく、かわりに数枚の書面が。書面の内容は、
「調停が苦痛でパニック障害と不安神経症を発症した。怖くて家を一歩も出られず仕事もやめた。ましてや電車に乗って家裁にまで行けるはずがない。子どもたちは父親と会いたくないと言っているのであきらめてほしい。」
というものです。
そして、父親からは驚くべき発言が。
実は、面会交流が断絶後、長女は母親に隠れて父親に会いに来ていると言うのです。
父によると、長女は友達を連れてきたり、好きなアイドルの録画ビデオを見に来ており、しかも、週に1、2回の頻度だと。
それならいいじゃないか、という気がしませんか。
お兄ちゃんは年齢的にも学校行事や部活動が忙しくなり、両親より友達のウエイトが大きくなる時期ですし、そもそも、会いたいなら自分で来られる年齢ですから。
しかし、よくよく聞いてみると、このご長男、なかなか大変なのです。
夫婦不和が決定的になった当初、夫婦は子どもの前でも大ゲンカを繰り広げていました。
長男は、日に日に元気がなくなり、食欲も落ちていきました。そして、別居前後は学校にも行けなくなりました。
現在、中学1年生ですが、登校できているのか、友人はできたのか、心配なことだらけだそうなのです。
相手方である母親が不出頭であったため、家裁調査官に出頭勧告の調査命令が出されました。
要するに、来てもらえるよう相手方と調整を図るということです。
電車にも乗れないということで、相手方宅にて面接調査を行ったところ、母の状態はとても悪いものでした。
まず、すぐにパニック状態になり、声はうわずり、呼吸は荒くなります。
キイキイと金切声をあげては、そばに置いてある錠剤を口に入れます。
安定剤か何かかなと思っていると、なんと睡眠導入剤だったのです。
そのときすでに5錠は飲んでいたでしょうか。慌てて面接を中止し、かかりつけ医まで同伴。
幸い、かかりつけ医が近所で、経過観察程度の処置で済んだため事なきを得ました。
調査官としては、「相手方は大変不安定であり、調停への出頭を強く促すことはできない。」と結論づけるしかありません。
次回調停で、父親に
・母の状態はとても悪く、調停出席は望めないこと
・調停が不成立となり審判に移行した場合、子どもに意向調査をすることになるが、そうなると長女の立場が難しくなること、長男が精神的に不安定になること
・だとすると、ここは取り下げが一番いいのではないか
ということを話しました。
すると父親は、すんなりと「分かりました。取り下げます。」と。
父親は、母親が不安定になることで子どもたちが辛い思いをするのではないか、少なくとも長女は会えているので、気長に長男とのパイプラインを確立したい、と語りました。
もちろん調停は当事者が意思決定するわけですから、調停委員会が取り下げを強要するようなことはしません。
父親としては、「そんな不安定な母親には子どもは任せられない。」と糾弾し、とことん戦うこともできたのです。
みなさん、この判断をどうおもいますか。
私は、できそうでできない英断だったのではないかと思います。
このお父さん、自分の子どもに会いたい気持ちや、母親への不満をぐっと抑え、まさに「子どもの福祉」を優先させたわけです。
このようなお父さんの気持ちを、子どもたちや母親が理解し、面会交流が再会される日が早くくることを願っています。