75人が亡くなった広島土砂災害から、20日で1年になる。

 山裾の住宅地を襲った土石流で大きな被害が出た広島市安佐南区では、今も巨石が住宅地そばの谷を埋めている。家屋が損壊した約180世帯が市の提供する公営住宅などに身を寄せるが、うち66世帯が新たな居宅へ移るめども立っていない。

 災害大国に暮らす私たちはこの災害を教訓にし、いま一度、身の回りの自然のリスクを点検したい。

 多くの犠牲者を出した同区八木地区などは、土砂災害防止法に基づく警戒区域に指定されていなかった。それが危険性に対する住民の意識に影響を与え、避難の遅れにつながったといわれた。

 広島市が被災地の住民約1千人を対象にした調査では、居住地が「危険」または「やや危険」と災害前に認識していた人は48%にとどまった。

 かぎは住民の危機意識だ。

 国は広島のケースを教訓に同法を改正し、警戒区域の指定前でも、現地調査を終えて指定の候補になれば住民に知らせるよう都道府県に義務づけた。行政は繰り返し、住民への周知を徹底してほしい。

 国土交通省は、土砂災害の発生の恐れがある警戒区域が全国に約65万カ所あると推計する。ことは住民の命に関わる。現地調査を急ぎ、危険な地域は自治体の責任で開発制限も考えていかなければならない。

 大雨による土砂災害は事前の予測が難しい。とはいえ、地震や火山噴火に比べれば、まだ被害を防げる可能性は高い。

 避難は明るいうちに早めにするのが基本だ。深夜など屋外への移動が危険な時は、自宅内であっても山側とは離れた2階以上への避難が有効だ。

 行政が出す防災情報も重要だが、大切なのは住民自身が地元の地形をよく知っておくことだ。5年前に土砂災害に見舞われた岐阜県では、自然災害による被害予測や避難経路を示すハザードマップを、全市町村で住民とともに作っている。

 地元の人だけが知る過去の土砂崩れの場所から、冠水の恐れがある道路、消火栓の場所やアマチュア無線を持っている家まで載せている自治体もある。

 情報のきめ細かさだけではない。マップを作るために住民が何度も集まる。そのたびに災害に関する伝承や知見の共有が進み、地域の防災意識を高めることにもつながるだろう。

 手間も暇もかかるが参考にしたい。日頃の備えは災害発生時の被害軽減に生かされよう。