防衛省が初めて軍民両用技術につながる基礎研究の公募をした。日本の科学者、技術者は民生用の技術開発に力を注ぎ、政府は後押しした。それが戦後の復興につながったことを忘れてはいけない。
民生用に開発したものが軍事用に利用されることは珍しくない。砂漠が戦場となった二〇〇三年のイラク戦争では、防じん性に優れた日本製ノートパソコンが米軍に採用された。もともとは英国のガス会社の作業員用に、ほこりまみれの現場でも壊れない頑丈なパソコンとして開発されたものだった。
先端技術は結果的に軍民両用となることが多い。パソコンはともかく、軍民両用技術ならはじめから軍事に傾くおそれもある。
安倍政権は一昨年末策定した国家安全保障戦略で「産学官の力を結集させ、安全保障分野においても有効活用に努める」と「学」を取り込む方針を示した。武器輸出も視野に入れているとされる。
今度、公募したのは「安全保障技術研究推進制度」といい、大学、高専、独立行政法人、民間企業などの研究者が対象だ。狙いは、防衛省にとって関心のある分野の研究促進だという。
研究内容は防衛装備品そのものではなく、将来の装備品に適用できる可能性がある基礎研究。二十八件の研究テーマを挙げている。たとえば、音や電波、光、赤外線の反射を低減したり、制御したりできる技術などがある。敵に発見されにくいステルス技術の向上に応用できる。
条件は、研究期間三年以内で、助成金は年間最大三千万円。本年度は総額で約三億円だ。研究者は学会などで成果を発表でき、商品化も可能。「特定秘密」にはならない、としている。
戦後、日本の大学と研究者は軍事研究と一線を画してきた。日本学術会議は一九五〇年の総会で「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わないというわれわれの固い決意を表明する」との声明を発表した。
新制度は幅広い研究者を巻き込んで、効率的に技術開発を進めるのが狙いだが、米ソが軍拡と宇宙競争に予算と人材を注ぎ込んだため、産業分野で日本に敗れたという歴史に学んでいない。奨励すべきは民生用技術だ。軍需産業は国民を豊かにはしない。
公募は、研究者自身も問われていると考えるべきだ。誰のために、何のために研究者の道を選んだのか、と。
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