近年バーチャルリアリティが進展していくのに伴い,様々な感覚を提示する技術が求められており, 加速度感覚を感じさせる技術についても研究されています. 従来,加速度感覚の提示にはプラットフォームの移動といった大掛かりな方法などが用いられおり, 使用場所が限定されるという短所がありました. そこで,前庭器官を電気刺激することで加速度の錯覚を感じさせる前庭電気刺激という技術について研究しています. 前庭器官とは,内耳部分に存在する,バランス感覚を司る器官です.前庭電気刺激による感覚提示ならば, 装置が簡略かつ小型であるため,携帯・運用が容易です.よって様々な環境で使用できる利点があり,より幅広い分野で応用されることが期待されています.
体験者の両耳の後ろに電極を装着し,電極間に電流を流すことで内耳の前庭器官に刺激を与えます. すると電流の陽極側への加速度の錯覚を感じ,陽極側へ体の重心がゆらぎ,歩行進路もその方向に曲がります. この姿勢制御は身体機能として自然に生じるものなので,体験者が違和感を感じることはありません. 前庭電気刺激に用いる電流は数mAの微弱なもので,人体に害はありません. また,新しい電気刺激手法を用いて左右,前後,回転方向への加速度感覚を提示することを研究しています.
応用例として,装着者の注意を割くことのない目的地への誘導, 危険を回避させるナビゲーションとしての用法,また, 映像と同期した加速度感覚の提示によるリアリティの増大や3D酔いの軽減などが考えられます.