安倍首相が戦後70年を機に出した談話は、自身の歴史認識を明確にしないなど、不十分な内容だった。

 なかでも歴史認識問題が二国間に重くのしかかる韓国に対しては、中国に比べて言及が少ないほか、日本が植民地支配した事実を明示しなかった。韓国側から歩み寄りがあるまで積極的には働きかけない、という従来の路線を貫いた形である。

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領にかたくなな姿勢が目立つのは事実だ。だからといって日本として有効な手立てを講じなければ、日韓ともにアジアのリーダーとして責任を問われかねない。

 そんな中、朴大統領は植民地解放を祝う式典での演説で、安倍談話について「残念な部分が少なくない」としつつも、「謝罪と反省を根幹にした歴代内閣の立場がこれからも揺るぎないと国際社会に明らかにした点に注目する」と語った。

 まもなく任期を折り返す朴政権は、内政外交とも目に見える実績が乏しい。これまでは世論の支持を得ていたとされる対日強硬姿勢も、成果が見通せず、逆に政策の問題点が浮き彫りになりつつある。

 朴大統領の発言は、遅まきながらも対日政策を転換し、両国関係を前に進める意思を示したとみてよいだろう。

 日本との関係ではすぐに「弱腰外交」などと批判することがあった韓国メディアにも、今回はおおむね韓国政府の対応を支持する報道が目立っている。

 今年6月、50年前の日韓基本条約の調印にあわせた記念式典が東京とソウルで開かれ、安倍首相と朴大統領がそれぞれ足を運んだ。

 いよいよ関係改善に動き始めたかと期待が高まったのもつかの間、世界文化遺産の登録をめぐる衝突が起きた。

 対立の原因は双方の思い込みや誤解だったが、特に日本側に相手への不信感が残り、それが慰安婦問題をめぐる政府間交渉にも悪影響を及ぼしている。

 半世紀前、東京で調印された日韓基本条約は、それぞれの国会で批准され、12月にソウルで批准書の交換式が開かれた。日韓にとって節目の年は、まだ4カ月あまり残っているのだ。

 今秋、韓国で日中韓3カ国の首脳会談が行われれば、安倍首相と朴大統領の初の首脳会談が実現する可能性が出てくる。そうなれば、日韓間の懸案解決に向けた推進力がおのずと生まれてくるはずだ。

 安倍談話が出た今、日韓に求められるのは、不毛な対立に終止符を打つ具体的な行動だ。