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法華狼の日記

2015-08-17

[][]『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』と植民地支配の娯楽性

なぜ異世界を日本領土としてあつかうのかと、@氏のツイートから@氏が疑問を発していた。

物語の方向性を見るかぎり、srpglove氏の解釈とは異なる理由で「建前」があるように思われる。

以前から日本が持っているとされる個別的自衛権でも、異世界からの侵攻に対する防衛戦は可能ではある*1。しかし現代では侵略された国家が単独で防衛戦をすることは難しい*2。そうなると日本が異世界からえた権益を、ともに戦った国とわけあう必要が出てくる。いってみれば第一次世界大戦で日本がしたことを、今度は他国にやられるかたちになる。

つまり日本が単独で防衛戦をして、単独で特地を植民地化するために、異世界は日本領土なのだと「強弁」したと考えるべきだろう。自国内の犯罪者ならば、とりあえず国際条約より国内法を優先させやすい。もちろん、そのような強弁が国際社会に通用するかは別問題だが。


ちなみに同じようなやりとりを、下記エントリのコメント欄でしたこともある。

『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』の、せまい世界観と段取り不足 - 法華狼の日記

ss 2015/07/16 21:00

なぜ他国を排除するかというと、ゲートはいわば新大陸であり、資源の利権などが重なってうるさいことになるからです。

特に中国あたりに関わられると、どんな騒ぎを起こして自分の国民を移住させようとするかわからず、日本にも被害が及ぶことが予想されるので、地続きの日本の領地という仮定を強弁しているのです。

hokke-ookami 2015/07/21 22:35

それは話が逆です。

うるさくなるような問題だからこそ、他国の排除が大変になるものでしょう。排除したいと思うことと、思っただけで排除されていることは、似ているようで正反対です。

そうして充分な情報を集める前に自衛隊が派遣されたわけだが、知らなかったことが自衛隊にとって良い結果をもたらすばかり。

たとえば侵略者の陰謀で異世界の別勢力が自衛隊を攻撃し、壊滅して6万人の戦死者を出す。しかし別勢力の敵意が新たに自衛隊に向けられたり、異世界が団結していくことははないらしい。

たとえば地球にあらわれたものより強力なモンスターとして炎龍が登場する。しかし派遣された自衛隊の、それも少数の部隊だけで撃退できて、むしろ現地民を助けて受けいれられる結果となる。

たとえば少女の姿をしながら単独で多数の兵士を倒せるキャラクターが出てくる。いまのところ異世界で最も戦闘力が高いらしいが、あっさり自衛隊に協力する。魔法少女という特殊能力をもつ存在も、好奇心から自衛隊に同行する。

ちょうど同期に似た経緯でWEB小説からTVアニメ化された『オーバーロード』では、ゲーム設定と異世界の類似と相違を主人公がひとつひとつ確認し、それでも根本的な見落としをかかえて物語が進んでいく。そうした慎重さや展開の妙がない。


しかし、あえて自衛隊が新たな満州国をつくろうとする物語と考えると、能天気な展開になっている理由もわからないではない。

むしろ作品批判ととらえられてきた意見の多くは、植民地主義の欲望を描いた娯楽であるならば理解できるという内容だった。困惑の声があるのは、どこまで自覚的かがわからないためだろう。

たとえばTV放映の初期に注目されたtogetterでのka_ma_ta氏も、そういう作品ならば理解できるし楽しめると@氏とツイートしていた。

アニメ『GATE』の描写は「正しい」か? - Togetterまとめ

その後、TVアニメ第6話で『地獄の黙示録』を自衛隊ヘリが再現した時、たまたま見た@氏が困惑したのも同じような理由だった*3

ちなみに第6話の冒頭を見ると、上官は『地獄の黙示録』を念頭においた台詞をもらし、こっそり部下の態度にあきれている。自覚的ではあるというエクスキューズだろう。その自覚性を物語に反映させていくか、むしろ自覚的に無視するという宣言かは、今後の展開しだいだが。

*1:敵地へ乗りこんでの反攻作戦までは難しいところだが。

*2:作中の年代では発動できないだろうが、もし集団的自衛権があるとすれば、日本が他国の防衛戦に巻きこまれるだけでなく、日本の侵攻に他国が参加する口実ともなる。そうでなくても、日米安保条約があるとすれば、作中の米国の動きの遅さがよくわからない。

*3:これ以前のツイートはTogetterでまとめられていたが、まさに困惑と批判を混同するようなタイトルがつけられている。篠房六郎氏アニメ「GATE」ヘリでの出撃で自衛隊が「ワルキューレの騎行」を流すパロディネタを批判。 - Togetterまとめ さらに、はてなブックマークではid:sea_side氏のように、明らかに悪役像で『地獄の黙示録』を参照している映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶジャングル』を、なぜかナチスドイツになぞらえているかどうかだけ論じようとするコメントもある。

はりはり亭はりはり亭 2015/08/18 22:26 六話を見たとき、たまたまMXの電波状態が悪くなって、回復した時がいきなりワルキューレのシーンだったのです。いわば前振り抜きでいきなり見せられてしまったので、危うくお茶をふくところでした(本当にちょうどお茶を飲んでいて、たまたま口に含んでいなかったのは本当に幸いでした)。まあ私は、@sino6氏のような意味で困惑したというより、そのあまりに臆面のない引用に噴いたわけですが(一応前振りで突込みらしきものはあったようですが)。

>目の前で起きてることが全部他人事のように無感動に受け止められているのに、その起きてること自体はバイオレンス色強く、ショッキングに描かれてる

六話で戦闘が終わったあと、住人がまったく平静に「ありがとう」と礼を言うわけですが、敵を倒すためとはいえ、あれだけの(未知のテクノロジーによる)「オーバーキル」(好意的な感想でもこの言葉が使われていました)を見せつけられて、なんのおびえも動揺もなく感謝のみというのはあまりに不自然、と思ったのですが、これはあれですね、昔の時代劇の、ドラマの最後の大立ち回り、主人公がばったばったと悪人どもを大殺戮するあの感覚に近い。おそらく殺戮がその程度の娯楽的感覚で描かれている。その昔でさえ、同時期の「カムイ外伝」や「どろろ」などでは住民を助けるために力をふるったカムイや百鬼丸が、当の住民からおそれられ、拒否される様子が描かれたものですが。

とはいえこのあたりに目をつぶる、どころか「俺つええ」的展開の一つとして受け入れてしまえば、たぶんこんなに痛快で愉快な作品はない。このエントリではいわば設定的な枠組みとしての植民地支配の娯楽性がテーマですが、今のところ、もっと刹那的な暴力の快楽が主のような気がします。それをいろいろとオブラートに包んでいる(つもり)らしいですが。

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