SPECIAL INTERVIEW WITH CORNELIUS

六本木・東京ミッドタウンのガレリアに漂う、世界中のポップ・ミュージック。アンビエントにオールディーズ。そこに溶け込むCorneliusサウンド。
2013年の秋からスタートしたCorneliusの選曲による「東京ミッドタウン ガレリア BGMセレクション」に端を発し、そこから近年のCorneliusワークスを抜粋、新曲を加え再編成された新作が、『Constellations Of Music』だ。
タイトルを和訳すれば、「音楽の星座」。人が夜空の星々を線で結び、そこにさまざまな物語を投影してきたように、このアルバムの内面にもさまざまな才能との邂逅による偶然や必然が忍び込み、13の名曲が、1枚の天体画として浮かび上がっている。
手元には300曲以上のリストと、そこにリンクするアルバムのクレジット。「全曲解説」のフォーマットにて、現在のCorneliusに迫ってみた。

大野由美子 / Escalator Step

──まずはアルバムの発端である「東京ミッドタウン ガレリア BGMセレクション」のことから訊いていきたいんですけど、2年で300曲以上。これは壮観のリストですね。

2013年の秋から始まって、クリスマス、冬、春、初夏、夏、また秋に戻って、こないだの夏まで続けてきたわけだからね。基本的には自分のiTunesから選曲していったんだけど、持っていないものは新しく買ったりもして。……やっぱりクリスマスの回は大変だったな。90分みっちりクリスマス・ソングで、それが2回ぶんあったから。

──選曲に対して心がけたことはありますか?

人がたくさんいるところでかかる音楽だし、空間を邪魔するものとか、テンションが高すぎるものは外すようにして、みんなにいい気分になってもらおうというのが基本。ミッドタウンは『デザインあ』の仕事で密接な場所だったし、たまにビルボードにもいったりするから、あそこの空気感というのはなんとなくわかっていて、やっぱりあの場所の年齢層は、自分と同年代のオジサンやオバサン中心じゃない(笑)? そういう人たちに「お?」っと思わせたいっていうのは多少あったかな。

──その数秒間だけでも、スピーカーのほうをジッと見つめてしまうような。

自分でもそういう曲ってたくさんあるからね。記憶の奥のほうをサッと撫でられるような曲というか。

──ミッドタウンに出向いて自分の選曲を聴いてみたりというのはありましたか?

「あ、本当に流れてる」って思った(笑)。通りかかったときに聴こえただけで、フルで聴いたわけじゃないんだけどね。

──(選曲リストを見直して)これははっきりと『Constellations Of Music』との相互性が感じられるリストですよね。Hundred Waltersなどいかにも小山田さんが選んだとわかる近年の作品もあれば、今また新たな感覚で聴ける60年代のサイケなんかも選曲されていて、そのすべてがCorneliusの養分になっていることがわかる。……90年代、フリッパーズ・ギターやCorneliusに音楽を教えてもらった世代の自分としては、かなり染み入るリストです。

(笑)そうなんだ。

──「選ぶ」仕事って、あの当時は山のようにありましたよね?

雑誌に年間ベストを挙げるとか、好きなレコードについての対談とか、かなりの量をやったと思う。でも、最近はほとんどDJもしなくなったし、選ぶといえば自分用にiTunesのプレイリストを編集するぐらいのもので。それも、昼用、リラックス用、ドライブ用とか、ものすごく実用的なものを(笑)。ただ、プレイリストって編集が終わってしまうとあまり聞かないんだよね。選んだ時点で満足しちゃって……。

──そもそも積極的に音楽を探さなくてもいい時代になりましたよね。

好きなものは探さなくても自然に出会うようになっているというか、友だちが教えてくれたりもするし、AMAZONとかiTunesで、なんとなく辿り着いたものを聴いていることが多いかな。……ただ、僕が若い頃に聴いてた人たち、たとえばRoddy Frameとか、Ben Wattとか、Johnny Marrとか、あのへんの大人たちが新作を出してるでしょ? そういうのは意識的にチェックしてる。やっぱり昔聴いてた人がどういうオジサンになってるかというのは、気になるから(笑)。

──枯れ方のサンプルになる?

なるほどこういうパターンもあるのか、っていう。

──(笑)。ところで『Constellations Of Music』というアルバム・タイトルは「音楽の星座」という意味ですよね?

うん。浅草キッドの『お笑い男の星座』って本があって……

──あの、和田アキコとYOSHIKIが対決する?

そうそう(笑)。あの本、前から好きで持ってたんだけど、最近また読み返したら、「Constellation」って言葉が出てきたんだよね。そもそもはユングの心理学用語なんだけど、それまで無関係に見えていたものが、なにかしらのきっかけで、意味を孕んだものに見えてくる………「こ、これや!」って(笑)。

──「わてのアルバムにぴったりやないか!」って。

(笑)もともと星座って、人が勝手にこじつけたもので、それぞれの星を、勝手に線で結ぶことで、動物とか、神話の生き物にしていて。で、今回の作品も、リミックスとか、コラボとか、新曲とか、あと、僕がボーカルだけで参加した曲なんかが(笑)バラバラに入っているんだけど、でもそこにはなにかしらの必然とか整合性が感じられる瞬間があって……

──結果的には1枚の天体になっていると。

うん。そうだといいんだけど。

──アルバムの1曲目「Escalator Step」がBuffalo Daughterの大野由美子さんによる新曲で、小山田さんが参加していないにも関わらず、それがしっかりとCorneliusの新作になっているというのも、その必然を象徴していますよね。細かな話ですが(ミッドタウンの選曲の)2014年の春の回の1曲目、Carlos Nino & Miguel Atwood-Ferguson「Fall In Love」のイントロとこの曲のイントロがリンクしていたりもして。

そのあたりも大野さんにお任せした結果の偶然なんだけどね。ミッドタウンの選曲では何曲かに1曲、Perrey & Kingsleyみたいな60年代のムーグものを混ぜていて、ああいうキラキラした、ショッピング・モール的な感じというか、エレベーター・ミュージックっぽい音楽というか……

──いつもは買わないものまで買いたくなるような。

うん、そういう曲のオリジナル・バージョンがあったらいいなと思って。あと、1曲目に自分が関わった作品を置かないことで、アルバム全体の印象を軽いもの、コンピレーションっぽいものにしておきたいというのもあったんだよね。

──大野さんへはどんなリクエストを出したんですか?

「いい感じでよろしく」って。

──(笑)「いい感じでよろしく」は100%の信頼度ですね。

うん、100%信頼してる。大野さんの弾くムーグはすごく好きなんだよね。あの楽器をあんなに使いこなしている人を見たことがないし、ムーグ奏者でいったら本当に世界一だと思う。もちろんベースも巧いし、スティールパン、バイオリン、オルガン。本当になんでもできる。
大野さんと初めて話したのはBuffalo Daughter時代なんだけど、彼女が前にやっていたハバナエキゾチカのときもニアミスはしていて、プロデューサーの牧村(憲一)さんがフリッパーズ・ギターを担当してくれる前にやりたがっていたバンドというのが、ハバナエキゾチカだったんだよ。でもハバナは違うレコード会社にいっちゃったから、「じゃあしょうがないからフリッパーズ・ギターでもやるか」ってなったらしくて(笑)。それは牧村さん本人から聞いたから間違いない。

──せ、星座がつながった……。

(笑)それも縁といえば縁だよね。

──これはCorneliusのファンであれば誰もが感じることだと思うんですけど、この曲にはちょっと『Fantasma』的な享楽感がありますよね。最初の音が鳴ったときに、妙に懐かしい気持ちになったというか、安堵したというか。

安堵(笑)。まぁ、そうだね。架空のユートピア感というかね。ここ最近のオリジナル・アルバムって、『Point』にしても『Sensuous』にしても緊張感があって、ストイックでモノトーンな感じだったから、いい感じに力が抜けていてカラフルな感じというのは、確かに『Fantasma』以来だと思う。あと、今回のアルバムにはいろんな国のいろんなミュージシャンが参加しているから、アルバム全体としても『Fantasma』に近い部分はあるかな。

──Corneliusが『Point』や『Sensuous』に向かったというのは、世相的なことも関係しているわけですよね。小さな不安が蓄積していって、笑ってばかりもいられなくなってきた時代の空気というか。

もちろん世相に照準をあわせてアルバムをつくるわけではないんだけど、影響はあっただろうね。当然自分も街の中で生活しているわけだから。

──メッセージのないものが許されない風潮というか。

でも、こういう時代だからこそ、そうじゃないものが許されてほしいという気もするけどね。

──音楽ぐらいは、って。

ねぇ。

CorneliusとBuffalo Daughterは1993年に始まって、以降も規模は違うけど同じように活動している唯一の同胞みたいな存在。個人的にもいろいろと一緒に活動できていつも刺激になります。これからも面白いことたくさんやっていきましょう!

──大野由美子(Buffalo Daughter)

坂本慎太郎 feat. Fuko Nakamura / 幽霊の気分で(Cornelius Mix)

これは『CM4』の発売記念企画で『サウンド&レコーディング・マガジン』に提供した坂本(慎太郎)くんのリミックス。今のスタジオに引っ越してきて最初の仕事だから、結構印象に残ってるな。選曲は「ずぼんとぼう」かこの曲かで迷ったんだけど、とにかくこの女の子(Fuko Nakamura)の声が好きだったんだよね。

──エンジニアの中村宗一郎さんの娘さんなんですよね。

ゆらゆら帝国の曲にも参加してたよね。決してフラットな声質ではないんだけど、そこに邪気というものがまったく感じられないのがすばらしい。

──たぶん、この歌でなにかしようとは思っていませんよね。つくられた声じゃないというか。

それが逆に印象に残るんだよね。だから、自分のリミックスでは歌い出しをこの子だけにして、声の魅力に耳がいくようにしてるのね。原曲は最初から坂本くんとのデュエットだったから。この曲は本当に好きだったな。ロックにラテンの要素が入ってて、ギロが鳴ってるのもよかった。ロックでギロってあんまりないセンスだよね。その部分は僕のリミックスでも活かすようにして。あと、「幽霊の気分で」というタイトルからすぐに思いついたのは、フレクサトーンという楽器。

──リズムの隙間に「ひょい~~ん」と上昇する金属音。

これが自分にとっての幽霊のイメージ。

──幽霊といっても、ホーンテッド・マンションというか、キャスパーというか……

ちょっとコミカライズされた幽霊だね。だいぶ成仏に向かってる感じの。

──坂本慎太郎さんはSalyu × Salyuや『攻殻機動隊』にも歌詞を提供していて、小山田さんとは作曲者と作詞者の関係でもあるわけですが、自分と似ているな、と感じる部分はありますか?

具体的には思いつかないけど、大枠でいえば一緒かもしれない……そこまでテンションが高くなくて、平熱で。……『Constellations Of Music』っぽくいえば、同じ天体の人。違う部分? なんだろう……坂本くんは僕なんかよりもずっとちゃんとしてるね。すごいしっかりしてる。だって曲をつくって、自分でジャケットを描いて、レーベルもやって、そのすべての締め切りを守って。そういうことを含めてすごいと思える。そんなに社交的な人ではないんだけど、社会性があるよね。

──そこが違う部分だとすると……(笑)。

うん、僕は遅刻とかしちゃうし。

──もちろんそこで衝突したりというのはないわけですよね。

ふたりとも、決して破天荒なミュージシャンではないからね。

──話せばわかる。

話せばわかる(笑)。

雑誌『サウンド&レコーディング・マガジン』の企画で、Corneliusが僕のファースト・アルバムから1曲選んでリミックスしてくれることになり、ワクワクしながら待っていました。完成したリミックスは、こちらの予想を遥かに超え、まるで1曲の中で同時に何曲かの違う曲が演奏されているような、聴いたことのない不思議なサウンドでした。大変気に入ってます

──坂本慎太郎

The Bird And The Bee and Cornelius / Heart Throbs And Apple Seeds

この曲はThe Bird and the Beeのほうから僕とコラボレーションしたいと誘ってくれて、作曲が僕、作詞が彼らで、アレンジに関してもメンバーのGreg Kurstinが鍵盤を弾いてて。だから、フィーチャリングではなくコラボレーションだね。彼らのファースト(『The Bird and the Bee』)は大好きだったし、「Again & Again」はラジオでもよくかかってたよね。あと、ボーカルのInara Georgeはすごくいいソロ・アルバムを出してるんだけど、そのレーベルが、Corneliusのアメリカ盤を出しているEverlovingというところで。

──実はレーベル・メイトでもあった。

イナラのアルバム(『All Rise』)はよく聴いたな。ちょっと暗くてフォーキーな作品で。「Fools Work」という曲はミッドタウンの選曲にも入れてるね。

──今回のコラボレーションはイントロが印象的ですね。10ccの……

「I'm Not In Love」? もちろん意識してそうしたわけじゃないんだけど、聴き返すと超10ccだよね(笑)。声を継ぎ目なく編集してパッドにするというのは自分がよくやることで、時期的にも『Sensuous』を出してすぐぐらいの仕事だったから、間奏がちょっと「Breezin'」っぽかったりもして、アレンジに関してはいろんなところに自分の手癖が出ていると思う。

──この曲を受け取ったThe Bird and the Beeからの反応というのは?

「歌いにくい」

──やっぱり(笑)。

僕の曲はメロディが入り組んでいるし、声を楽器っぽく使うことも多いから。
ここまで一緒に曲をつくったのに、彼らはまだ来日してないし、まだ会ったこともないんだよね。ファイル交換のコラボレーションというのはもう珍しくなくなったけど、よくよく冷静になって考えてみると、不思議なことだよね。

Salyu × Salyu / Hammond Song

──これはSalyu × Salyuのライヴでも披露されていたRochesのカバーですね。初めて聴いたときは後ろに倒れそうになりました(笑)。

この曲を好きな人は多いよね。僕が最初に知ったのはColourfieldの『Virgins & Philistines 』に入ってるカバー。Teenage Funclubなんかもやってるよね。ただ、原曲の魅力は三姉妹の完璧なコーラスなんだよね。あれがあることで、すごい名曲になってるというか。

──それを完コピできるのが、Salyu × Salyu Sistersだった。

彼女たちならできるだろうなって。Salyu × Salyuはアルバムを1枚しか出していないし、ライヴとなるともう少し曲を増やさなくちゃいけないから、なにかいいカバー曲がないかなって探しているときに、ふと思いついて。

──原曲はRobert Frippのプロデュースですが、フリッパートロニクスへの興味は?(フリッパートロニクス:Robert Frippが考案したテープ・ループ・システムやペダルなどを組み合わせギターのための演奏装置。「Hammond Song」の原曲では間奏にフィーチャーされていた)

(笑)あの部分はカット。そもそもこの曲で僕がやったことといえば、選曲と、最後のほうのチーンという音だけだから。アコースティック・ギターはヒロコ。ムーグは大野さん。あとはみんなの声の力で頑張ってもらって。……そういえば、全然関係ないんだけど、フリッパーズのときに、ギタリストの渡辺香津美さんとラジオの番組で一緒になったことがあって、なぜか僕が渡辺さんの隣に座ることになったんだけど、そのときに「フリッパーズ・ギターってフリッパートロニクスと関係があるの?」って訊かれた(笑)。

──(笑)いい話ですね!

「すみません、なんにも関係ないです」って(笑)。

──小山田さん唯一のパート、トライアングルには絶妙な一番星感がありますよね。アルバム・ジャケットを眺めながら聴いていて、すごく今回の「星座」に貢献しているなぁ、と思いました。

ああいう音はよく使うし、やっぱり星をイメージさせるよね。正確にはトライアングルじゃなくて、指にぶらさげて使う小さなフィンガーシンバルにリバーヴをかけた音だね。本当にこの曲はそれしかやってない。コーラスのアレンジも練習も、Salyuに丸投げ。「この曲やりたいんだけど」ってメールを送って、「いいですね」と返ってきて、あとは「いい感じでよろしく」(笑)。本当にドラマのない制作現場で、話すことがまったくない(笑)。

──第一線のミュージシャンやクリエイターが歳を重ねるということは、いかに「いい感じでよろしく」できる人に恵まれるか、とも言えますよね。

そうかもしれないね。今後もどんどん言っていきたいと思ってます(笑)。

salyu × salyuのボーカル・レコーディングとは、私ひとりの声での多重録音が常です。しかし今回収録された作品の制作は例外的に、複数名の声を合わせたコーラス編成となりました。小山田圭吾さんから「さまざまな声色を合わせて、コーラス隊により幅を出すのはどうか」との提案があったのです。そうして、私が以前より歌唱に信頼を寄せる4人の友人に協力を頂きながら、制作は楽しい歌唱研究の場に。この機会に、私は改めて、音楽が明かす人間の声の「無限の調和力」を実感しました。このような場と、またコーラス・ワークの醍醐味が凝縮された楽曲を複数提案してくださったプロデューサーへ、絶大の信頼と感謝の気持ちでいっぱいです。

──salyu × salyu

Cornelius / Holiday Hymn

──5曲目にしてようやくCornelius名義の新曲です。

といっても初CD化というだけだけどね。これは無印良品に提供したCM曲で。

──CMの短い尺で聴くのとは、またイメージが違って聴こえますね。

もともとはループだったものに展開をつけて、きちんと曲が終わるようにしたら、意外とCorneliusらしい曲になった。

──ふんわりとした雰囲気の中にも、独特の緊張感が感じられる曲ですよね。

CMの演出をしている阿部洋介さんに映像を見せてもらったときに、自分の想像以上にカット割りがパキッとしていたというのがあって、音の配置自体はすごくシャープでスクエアなんだけど、そのぶん口笛とか、スティールパンとか、音色は柔らかめのものにしていて。あと、阿部さんの頭には、僕が2005年に参加した『リズムであそぼう』っていうコンピレーションの曲(「Clap & Whistle & Walking」)のイメージもあったみたい。その曲は子どもと大人が一緒に楽しめる知育音楽がテーマだったから、手拍子と口笛と足音で構成していて。だから、あまり打ち合わせらしい打ち合わせというのもなかったと思う。

──無印の場合、ミッドタウンよりは身近な場所ですよね。

だから、昼間っぽい音像、光量の多い感じっていうのはすぐに理解できたね。もともと僕は地元系だから(笑)、買い物も家の近所で済ませてしまうことが多くて、三茶店にはたまにいくかな。靴下を買ったり、生活雑貨を買ったり、こないだも息子に「水泳の合宿にいくから短パンが欲しい」って頼まれたよ(笑)。

Korallreven / Try Anything Once(with Cornelius)

このコラボは謎なんだよね。突然メンバーの人(Marcus Joons)から「今日本いるんだけど会いたい」って連絡があって。ちょうど英語ができるスタッフがいたから事務所にきてもらったんだけど、僕は彼らのことを全然知らなかったから、すごく妙な時間が流れて(笑)。

──それにしてもすごい行動派ですね。

でも、そこまで社交的な人でもないんだよ。僕の印象だと80年代のエレポップとかが好きなんだろうなっていうのがあったから、「Depeche Modeとか好き? Tears For Fearsとか好き?」って話題をふってあげるんだけど、そのたびに「全然知らね」って(笑)。すごい若い子だったから質問をハズしたのかもしれないけど(笑)、なんだかぶっきらぼうな印象で。で、そのときに「アルバムをつくってる」って話をされて、あとでYouTubeのリンクを送ってもらったら、結構よくて。そしたら「ボーカルで参加してくれ」って連絡がきた(笑)。

──ボーカルだけというのは初めての経験ですよね?

初めてだね。ただ、ボーカルといってもコーラスだけどね。Corneliusの「Drop」が好きみたいで、「ああいうふうに声を重ねてほしい」っていう、すごく具体的なオファーがあった。

──「Omstart」のことを思い出したりしましたか?(『Sensuous』に収録。Kings Of ConvenienceのErlend ØyeにCorneliusが日本語とノルウェー語でのボーカルを依頼)

それは思った! KorallrevenもKings Of Convenienceと同じ北欧のバンドだし、ちょっと不思議な偶然を感じたなぁ。あぁ、あのときErlend Øyeも僕から奇妙な依頼を受けて、こんな気分だったんだろうなぁって(笑)。

──作業的にはこれもファイルの交換ですよね?

そうだね。アレンジもほとんど見えていたんで、そこにコーラスを足して、向こうでミックスしてもらって。僕がマスタリング前の音源をチェックしないというのはすごく珍しいケースなんだけど、まぁ、そこは彼らの曲だし、結果待ちということで。

──それにも関わらず、この曲もすごくアルバムに馴染んでますよね。

ね。アルバム中盤のいいフックになってくれたと思う。

Corneliusとの出会いは、僕がスウェーデンの軍隊の試験を受けた日のことです。武器などうまく使えるわけないと不安に思いながら、朝早く家を出たのですが、僕は友だちと、試験を途中で抜け出して、バスに乗り込みレコード・ショップへ。『FANTASMA』と『Point』を買ったのです。帰りの電車の中、CD Walkmanで聴いた2枚のアルバムは僕を圧倒しました。
そこから15年経った2012年、圭吾とは、彼の東京のスタジオで初めて会うことができました。スウェーデンに帰国した僕は、「1曲歌ってもらいたい曲がある」と連絡してみました。彼のボーカルについては、そのサウンドほど評価されていないと感じていたので、この曲でフィーチャーしてみたいと思ったのです。圭吾がレコーディングしたボーカル・トラックに、僕らが録ったゴスペル的なコーラスを合わせた瞬間、名曲になるのを感じました。たとえるなら、現代版Beach Boysと、80年後半もしくは90年代前半のイリーガルなUKレイブ・ミュージックのミックス。
このコラボレーションは夢のようでした。自分の中で区切りがつきました。

──Marcus Joons(Korallreven)

Cornelius / Night People

──Little Creaturesのカバーです。2011年のトリビュート・アルバム『Re:TTLE CREATURES』に収録されていたものですね。

とくにこの曲は好きだったな。彼らはすごくいいバンドだよね。Corneliusで対バンしたこともあるし、ベースの鈴木(正人)くんはSalyu × Salyuでもやってもらってるし、なんとなく近いところにいるバンドだね。

──フリッパーズ時代に交流はありましたか?

それがほとんどなくて、話し始めたのはCorneliusになってからなんだよね。彼らも僕と同じ和光に通っていたからそう思う人も多いと思うんだけど、僕が高3のときに彼らは中3だから、実は学年はかぶってなくて。……今思えば、よくまぁあんな町田の山奥まで通っていたなって思う。その部分でもシンパシーを感じるバンドだね(笑)。

──Little Creaturesの作品、とくに2000年以降の作品は、Corneliusにも通じる平熱の感覚がありますよね。音の風景が一定のスピードでスクロールしていく感覚というか。

そうかもね。ただ、彼らは若い頃からすごく大人っぽかったよ。メロディにしても、絶対に寸止めな感じがカッコよかった。

──本人を目の前にしてあれですけど、この曲の小山田さんのボーカルって、すごく色っぽくないですか?

そう?(笑)。あんまり変えたつもりはないんだけど、たぶん青柳(拓次)くんのカラーに引っぱられてるんじゃないかな。彼の歌は発音もスタイルもすごくしっかりしているし、やるならそのままやりたいと思って。僕がそのままやったとしても、絶対にそのままにはならないわけだしね。

学園祭で演奏する先輩・小山田くんは、在校生でありながら、みんなが観にいく外タレのようなスターでした。Little Creaturesのトリビュート(恐縮です)盤に参加してもらったとき、先輩は「Night People」を取り上げてくれたのですが、そのインティメイトな静けさを感じるアレンジにとても感激したのを覚えています。僕自身もCorneliusの作品を楽しみにしていたので、まさかそこに自分の曲が収録されるとは……と驚いています。本当の意味で、新しい音楽を生み続けている数少ない音楽家のひとりとして、先輩を尊敬しています。

──青柳拓次(Little Creatures)

Penguin Cafe / Solaris(Cornelius Mix)

Penguin Cafeは2012年に来日していて、そのときはSalyu × Salyuで前座をやったのね。そのステージをリーダーのArthur Jeffesがすごく気に入ってくれたみたいで、「なんでもいいからコラボしたい」と誘ってくれて。じゃあひとまずはリミックスかなって。彼らは彼らで、Corneliusの「Bird Watching at Inner Forest」をカバーしてくれて、それは配信だけなんだけど「Penguin Cafe Umbrella EP 1」というシングルとしてリリースされてる。すごくいい内容だったから、できればアナログが欲しいんだけどね。

──「Solaris」はラテン語で「太陽」の意味。Corneliusの天体にとっても重要な1曲になっていますね。Penguin Cafe Orchestra(Penguin Cafeの前身グループ。リーダーはArthur Jeffesの実父である故Simon Jeffes)は聴いてきましたか?

もちろん好きだったよ。Simon Jeffesは70年代後半から業界の裏仕事みたいなのをたくさんやってるんだよね。Sex Pistolsが解散した後にSid Viciousがシナトラのカバー(「My Way」)をやってるでしょ? あれのアレンジもサイモンで。

──えー!

Malcolm McLarenと仲がよかったみたいで、Bow Wow WowとかAdam And The Antsのアレンジもやってたみたいだね。

──パンク周りの音楽的な部分を。

環境音楽の元祖でありつつSid Viciousってのがカッコいいよね(笑)。

──Corneliusのリミックスは生弦に絡む電子音が印象的ですね。

それ、もしかしたら嫌がられるかな?と思って事前に確認をとった唯一の部分(笑)。Penguin Cafeは生のバンドだし、これまでエレクトリックなことはやってきていないはずだから、「電子音とかってどう思う?」って相談したら、「ちょっとだけなら」って言われて(笑)。だからカッチリとした打ち込みじゃなく、人差し指でポロポロ弾いてるぐらいの感じならいいのかなって。……もともとこの曲は大好きだったから、どこまで崩すかに悩んだね。もしかしたらこれまでで一番難しいリミックスだったかもしれない。

──というのは?

僕のリミックスというのは、ほとんど原曲の素材を使わないのね。ボーカルだけを残して、ほぼすべての演奏を差し替えてしまうことが多いんだけど、彼らの音楽はインストゥルメンタルだから、元の素材を残しておかないと、すぐに「カバー」になってしまう。だから例外的にかなりの素材を残すことになって、そのさじ加減が難しかった。やっぱり「ペンギン・テイスト」というのはきちんと残しておきたいと思ったからね。

──Simon Jeffesの意匠を実の息子が受け継いでるわけですし、それを尊重しないわけにはいかないと。

世界的にも珍しいケースだよね。二代目がバンドを継いでまったく違和感がないっていうのがすごい(笑)。もうお父さん時代のメンバーは誰も残っていなくて、世代交代が完全が終わった状態なんだけど、演奏はほとんど変わっていないもんね。Gorillazに参加しているメンバーがいたり、ドラムの人が元Senseless Thingsだったり、個性的な人が多くて、アーサーはアーサーで、南アフリカとか、北極探検隊とか、いろんな場所でいろんなことをやってきたみたい。

──息子さんがCorneliusを引き継ぐのって、想像できますか?

考えたくないな……(笑)……息子は最近ヒップホップにハマってるよ。こないだもPharcydeのレコードを貸してくれって言われて、手元になかったからわざわざ買いにいった(笑)。DJとかにも興味があるみたいだね。Corneliusなんかよりも、そのほうがずっと健全だと思うな(笑)。

Gotye / Eyes Wide Open (Cornelius Remix)

Gotyeはバカ売れしてたよね。本国オーストラリアから火がついて、全米1位。「Somebody That I Used To Know」は2012年で一番売れた曲だったんじゃないかな。

──声質がStingにそっくりですよね。

そうそう。僕は以前にStingのリミックス(「Moon Over Bourbon Street(Cornelius Mix)」)もやってるから、ちょっとヘンな気持ちになった(笑)。Gotyeは大ブレイクする前からCorneliusのことを知っていてくれて、もともとは彼のサポート・キーボーディストに教わったみたいなんだけど、そこからファンになってくれたみたい。Corneliusのオーストラリア・ツアーは2回とも観にきてくれたみたいで、彼がワールドワイドな存在になる前に、オーストラリアを一緒にツアーしようと誘われたこともあったんだよね。当時からオーストラリアではすごい人気で、会場も大きなところばっかりだったから、タイミングがあえばやりたいと連絡していたんだけど、その直後にアメリカでドカーンといって、そのツアー自体がナシになっちゃった……。

──Gotyeからの感想は聞きましたか?

うん、喜んでくれたみたいだね。お礼のメールがきてた。

──Gotyeの原曲はもっとストレートなポップスというか、大陸感がありますよね。それがとてもルーム感のあるサウンドに変貌していますよね。裏拍が強調された、コンパクト・スカというか。「やるならなるべく異質なものをぶつけたい」という意思を感じさせるリミックスですね。

(笑)まぁ、そこは狙ったわけじゃないんだけどね。「こうしよう」じゃなくて「こうなっちゃった」って感じかな。僕のリミックスは、まず音の隙間を探して、そこになにかを置いてみるというところから始めることが多くて、そうするうちにだんだんと音が増えていって、なんとなく全体を俯瞰したときに、リズムみたいなものが生まれていて……みたいなところがあるから。無意識に組んだブロックを、いろんな角度から眺めるうちに、なにかの動物に見える瞬間がくるというかね。

Plastic Sex / The End

──元Plasticsの中西俊夫さんのプロジェクト、Plastic Sex。ちょうど10年前のプロデュース作品ですね。

まだ中目黒のスタジオで作業していた頃の仕事。これはやっててすごく楽しかったな。2005年というのはまだニューウェーヴ・リバイバルがくる前だったし、それでいてトシさんはリアル・ニューウェーヴの人だから(笑)。トシさんとは世代も違うし、とくに面識はなかったんだけど、Corneliusがロンドンでやったときに観にきてくれて、そこで初めて喋って。そのあとトシさんが日本に戻ってきたときに、「新しいプロジェクトをやるんで」と声をかけてもらったんだよね。

──レコーディングはどんなふうに進んだんですか?

トシさんが僕のスタジオにギターとかエフェクターをもってきて、まずはエレキの弾き語りでデモっぽいものを録ったのかな。そこにあわせて僕がトラックをつくって、そこにトシさんがまたギターを弾いたり、エフェクターでノイズを重ねたり。
それまでのトシさんはロンドンでMo'Waxに関わったり、SKYLABでダウンビート的なことをやっていたんだけど、このときはバンド名からしてPlastic Sexだから、Plastics的なことを思い切りやっちゃってもいいのかなって思った。Plasticsのファンにも喜んでもらいながら、アップデートしたサウンドにしようと思ったんだよね。楽曲自体はPlasticsだし、ボーカルも当時と変わらないんだけど、サウンド的にはもう少しプログレッシブなものになってると思う。ニューウェーヴといってもパンクっぽいものではなくて、ちょっとTalking Headsなんかに近い感覚というか。

──確かにPlastic Sexの新曲ではあるんですけど、PlasticsのCorneliusリミックスに聴こえたりもしますよね。

それもトシさんのお陰かな。すごくサバッとした人で、ある程度かたちが見えた時点で、「やりたいようにやって!」と投げてくれたので、すごくやりやすかったね。

──それは同時に、ボーカルの個性や強さを証明するエピソードでもあって。

そうだよね。このボーカルが入ればどうやってもトシさんの作品になるからね。2~3テイクでバシッと決めちゃうし、本当に日本人離れしてる。音程とか表現力みたいな次元じゃなくて、ノリ一発でどんどんもっていっちゃう。ファンキーだけど「ブラザーのり」は全然なくて、本物のニューウェーヴ。日本人の男性が一番苦手な部分というのを、サラッとやってる感じがすごいよね。こういう人は他にいないと思うな。

小山田くんとは、Corneliusロンドン公演の後で会ったのが最初だと思う。今度なんか一緒にやろうよ、僕はバスドラの音がどうのこうの言わないから、好きにやっていいから、と言ったのを覚えている。本当に凄い才能の持ち主だなと直感したので、僕は素材に徹し、できる限りのやることをやっておまかせしても大丈夫だと思っていた。そして結果はそれ以上のものだった! サプライズな要素がいつも入っている。それがなんだか上手く言えないのだが、それこそが魔法の粉がきらきらとまぶされた、Corneliusマジック?なのかも知れない。

──中西俊夫(Plastics/MELON/The Ghetto Blasterz)

sakanaction / Music (Cornelius Remix)

サカナクションのメンバーとちゃんと話したのは(高橋)幸宏さんとかテイ(トウワ)さんとやらせてもらってるMETAFIVEがタイコクラブに出たとき。そのときに、「うちの息子がよく聴いてます」みたいな雑談をしたんだよね。そのあとすぐにリミックスの依頼がきたんだけど、そのときの印象は、「うちでかかってた曲と違う」ということ(笑)。やっぱり知ってる曲のほうがやりやすかったし、気合いが入るので、「こっちの曲でもいいですか?」と連絡して。

──プロダクション的にはGotyeのリミックスに違いですよね。バンドのスケール感を、ちょっとスモールにするというか。

そうだね。原曲のエレクトロニックな部分はアコースティックにして……あと、このバンドはベースの女の子がすごくいいんだけど、そこはあえてシンセにして(笑)。結果として、原曲のテイストを裏おもて逆にしたようなリミックスになったね。

──サカナクションは新しいバンドの中でも頭ひとつ飛び抜けた存在だと思うんですが、小山田さんにとって、彼らの魅力というのはどこにありますか?

彼らのファンは違うところを聴いているのかもしれないけど、僕はAメロが好きなんだよね。抑制が効いていて、素直にいいなぁって思える。ただ、サビで必ず爆発するじゃない? そこでちょっとびっくりしちゃうんだよね(笑)。もちろんそこが売れるか売れないかの境目だと思うんだけど、僕はずっとAメロでもいいぐらいで(笑)。……や、でも、彼らはいいバンドだと思うよ。すごく真面目な子たちだし。

──他に気になる日本の若手はいますか?

うーん、ちょこちょこいいなって思うバンドはいるんだけど、自分から欲して聴く音楽とはやっぱり違うよね。

──理解はできるし、魅力もわかるけど、聴くタイミングがない。

まさにそう。自分が音楽に求めるものというのが、バンドへの興味じゃないというか、もっと生活の中に自然に溶け込んでいるようなものだから、どうしても昔から聴いてきた洋楽とか、インストの作品とかになっちゃう。……あ、そういう意味ではThe fin.ってバンドは結構よかったな。これも息子が好きなバンドなんだけど、サウンドのクオリティが高くて、全編英語詞で、いい意味で引っかかるものがない。僕が聴いてきた洋楽と並列に入ってきたんだよね。

──『Constellations Of Music』は壁を壊す作用のあるアルバムだと思うんですよ。それこそサカナクションのファンが洋楽を聴くきっかけになったり、Gotyeのファンに坂本慎太郎さんのアルバムを買わせたり(笑)。

だといいよね。いつもは隣り合わせにならないアーティストの曲ばかりだもんね。

──40代の先輩ミュージシャンとして、自分が若いバンドや後進に対しての橋渡しになっていることを意識したりもしますか?

全然しない。なんの役割も意識せずに、そういうことがあったら素敵だなぁ、っていう(笑)。

たぶん15年位前だと思いますが、まだ札幌に住んでいた頃です。『Point』のワールド・ツアーでペニーレイン24にCorneliusが来ると聞いて、お金を貯めて足を運びました。当時の僕はイベンターでアルバイトをしていたので、間近で素晴らしいLIVEを何度も見てきましたが、この時はそれまで体感してきたLIVEとはまったく違う次元のもので、始まりから終わりまで放心状態だったのを覚えています。その時からずっと背中を追いかけております。いちファンとして、ミュージシャンとして、自分たちの曲をREMIXして戴けたことは本当に嬉しかったです。

──山口一郎(サカナクション)

Cornelius / Tokyo Twilight

──これは純粋な新曲ですよね。「Sensuous」の兄弟曲としても聴ける1曲だと思いました。

どっちもインストだしね。でも、こっちのほうが温かみがあるね。つくったのは……去年だったかな。ニュー・アルバムのためになんか録ってみようかなというときにできた曲だね。

──こういうサウンド・スケッチ的な曲というのはどこから手をつけ始めるものなんですか?

まずスタジオにきて、1音出してみて、その1音が他の音なりメロディを連れてくるのを待つというか。

──じゃあ、できないときは1音だけしか進まずに帰るという日もあるんですか?

(笑)さすがにそれはない。最初になんらかの設計図を広げて曲をつくるということをほとんどしていないというだけで、レコーディングするときは結構集中してやるから。……ちょっと説明が難しいんだけど、音を出すのは自分の無意識的な部分なんだけど、無意識に発した音の集合体が曲らしくなっていくプロセスを、意識が見ている感覚っていうのかな。

──アルバムのリリースというのは、その「意識が見ている感覚」が更新されるタイミングでもありますよね。たとえば『Point』は「点描」というコンセプト的なものがあって、それが1枚の作品としてリリースされる頃には、アルバム制作中に頭で考えていた部分はすでに肉体化していて、そうなると、今度はそれが自然に出るようになるから、『Sensuous』のときは、またべつのことを考えられるようになっているというか。

う~ん、そういう客観視は結構難しいんだけど、遠くはないような気はする。確かに無意識の集合体がCDにまとまることで、あぁ、あのときはこういうことを考えていたんだなっていうのが明確になるというのはあるから。ただ、そのひと区切りに劇的な成長みたいなものがあるかといったら、そうでもなくて、そろそろ『Sensuous』から10年ぐらい経つんだけど、それでも昔ほどの変化というものが感じられないんだよね。20歳から30歳への成長とは明らかに違うし、細胞の代謝も記憶の定着も落ちてるし(笑)。……ただ、ゆっくりとでも変わっている部分というのはあって、それが今後、作品にどう現れるのかが自分でも楽しみというのはあるかな。

──これはミッドタウンの選曲にもつながる話ですが、当然のように、小山田さんの中にはこれまで影響を受けてきた音楽のアーカイヴであったり、引き出しというのがあるわけですよね。

そうだね。

──あらかじめすべての要素が自分の中にあるとして、どんな感情や回路を経て、それが音に現れるのでしょう?

いろんな音楽に影響を受けたのは間違いないんだけど、それは自分の中でスープのように混ざってしまっていて、どれかひとつを取り出すみたいなことではないんだよね。やっぱり無意識的な部分というのが本当に大きくて……。

──無意識だからこそ、これまでの影響どれかひとつに偏ることがないと。

そうだね。もし僕が意識的に音楽をつくっていたら、まったく違ったものになると思うし。

──ところで全世界待望のニュー・アルバムですが、ひさびさにギターポップっぽい曲が入るという噂を聞きました。

まだできていないのでわからないんだけど、もしかしたThe Smithsっぽい曲が入るかもしれない。

──!

もちろんそれも結果としてそういう音になりそうだというだけだし、他の人が聴いたら「なんだよこれまでと変わらないじゃん」って思うかもしれないけどね。でも、だんだんと自分が新しいモードになってきているのは間違いないんだよね。その変化がすごくゆっくりなせいか、自分でも分析できていないというだけで。

Salyu × Salyu / May You Always

──最後はふたたびSalyu × Salyuのカバーです。

原曲はMcGuire Sistersで、Rochesと同じく三姉妹のグループだね。

──その星座はなんだか怖いものがありますね。

(笑)ただ、アレンジの下敷きはLennon Sistersのバージョンで、そっちは四姉妹。だからSalyu × Salyuはほぼ完コピのコーラス。僕はマニアではないけど、こういうオールディーズは大好きで、ひとつヒット曲が出ると似たようなグループがどんどんカバーを量産していったりする構図を含めて、すごく夢のある時代の音楽だなぁって思うんだよね。こんな曲が自分でも書けたらなって思うもん。

──書けませんか。

「May You Always」のメロディは比較的サラッと書かれているし、似たようなものはできると思うけど、自分が狙ってやると、絶対にフェイクっぽくなってしまう。こういう曲は50年代の幸福な時代背景が一緒になっていないとダメなんだよね。

──つくれないからこそカバーする。

そうだね。これもRochesのカバーと一緒で、Salyu × Salyuのライヴでやっていた曲のスタジオ版なんだけど、こっちは僕も演奏に参加している。みんなで「せーの」でやれたのも楽しかったな。2~3テイクやって「あぁいい感じだね」って。音楽って、やる気になれば早くできるんだなぁ、って(笑)。

──たとえばCorneliusも「弾き語り」という表現や手法を選んでさえいれば、年1枚ぐらいのリリース・ペースは死守できたかもしれないですよね。

それはそれで大変な気もするけどね。同じ曲を何度も練習したりしなくちゃいけないだろうし。

──たとえば美術に置き換えて考えた場合、ひとりで街や森の俯瞰図を描いたものすごく緻密なミニアチュール(細密画)と、アシスタントと一緒に何枚も刷られるAndy Warholのシルク・スクリーンが並んでいたとしますよね。ただ、それを見る人の好みによっては、必ずしも手間をかけた作品が評価されるとは限らない。そもそも作品の背景にある苦労についてはカウントされないというのが芸術の常だったりするじゃないですか。

そうなんだよね……確かにそういうことを考えたりもするときもあるね。……ただ、自分は「なんでもできる」という立場から今の手法になってるわけではないんだよね。むしろ、「これしかできない」からこれをやってるっていうのがあって……もし僕の作品がコンセプチャルに聴こえたとしても、その核になっているのは、やっぱり、無意識であったり、そのときどきの気分なんだよね。
あと、もしウォーホルがもしミニアチュールを描けたら、シルク・スクリーンにはいってないかもしれないよね? もしかしたら「風景画もそこそこ描けるけど、そこそこだと意味がないしなぁ」みたいな(笑)、若い時期にそういう発想の転換があったのかもしれない。

──それは本人でないとわからないことですよね。伝達の史実だけでは推し量れない部分がある。

ただ、自分に関していえば、そういう「発想の転換」というのもとくにないんだよね。いろんな音楽を聴いて、いろんな影響が混ざって、世間の空気を吸って、そのときどきの気分で音楽をやっていたら、いつのまにかこうなっていたというか。どうしても自分のことは分析できないし、自分の無意識もコントロールできない。だから、「ニュー・アルバムはいつですか? どんな作品になるんですか?」という質問には答えようがなくって(笑)。

──黙って楽しみにしています。

うん。自分ですら、自分を待っている状態だからね。