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司会の松尾貴史さんの紹介で、(株)博報堂のアートディレクター、佐野研二郎氏が登場しました。佐野氏は今までの数ある仕事の中から、ソニーコンピュータエンタテイメントの「PSP」のキャンペーン展開について紹介しました。このキャンペーンでは「実物の画面の美しさを知ってもらいたい」と、実物を貼付けたポスターを展示したり、ショップの店頭にPSPを持ったマネキンを配置したりしました。佐野氏は「クライアントがアートディレクターに求めるものが、どうやって売ったらいいか、どんなキャンペーンをしたらいいのか――という内容になっている」と語ります。それを痛切に感じていた佐藤氏は、単にぽポスターをデザインするといった作業ではなく「どうしたら振り向いてもらえるか」という視点で、さまざまな「仕掛け」を考えたのです。「広告デザインは"誰も期待してない"というところからスタートしないと。歩いている人に"何だ、あれ?"と思ってもらえるようではないと、いかに文字詰めなどにこだわったとしても意味のないものになる。例えば子供が見て"わぁ!何それ!"と思ってくれるくらいじゃないと」(佐野氏)
司会の松尾さんは、「広告にはどんな仕掛けがされていて、どんなふうにモノを買わせようとしているか消費者がわかってきている。"その手にはのらないよ"という人が多い。そんな状況の中で、意表をつく展開が求めらていますね」「デザイナーというと昔は職人的というか、プロの図案家という印象で、1mmの中にカラス口で何本の線がひけるか――といった話のように、仕事のきれいかきたないかで評価されるところがあったと思うのですが、今はそうではなくなっていますね」と話します。それに対して佐野氏は「今は器用か不器用かといったことではなく、どういった発想を持っているか、何と何を組み合わせるとどんな効果が出るのかといった、DJ的、プロデュース的な感覚が重要になってきている」と話しました。
そして佐野氏は「オリエンテーションが終わったら、どんどん作業して、どんどんカタチにしていくスピードが求められている」と語ります。「思いつくときは、すぐ"コレだ"と思いつきます。作業に時間がかからないもののほうが、シンプルで良いものができるように思います。机でずっと考えてデザインを積み重ねたものよりも、誰でもできると思われるものくらいのほうが、よい結果が得られるのではないでしょうか」と佐野氏は語ります。「考えている緊張感と、自転車に乗っている開放感が合わさったときがいいアイディアが浮かびます。また、音楽は重要ですね。ラフォーレの仕事をするときは、10代の気持ちに合わせた音楽をiPodで聞いていました。一方、日産の高級SUV"ムラーノ"のときはクラシックを聴いたりとか、状況を作っています。」(佐野氏)
佐野氏は続いて、Adobe Creative Suite 2を使って実際の作業をデモしました。Adobe Bridgeから思いついたキーワードでストックフォトを検索。気に入った画像をベクトルデータに変換し、Illustrator CSでさまざまな加工を施しました。中でも、人物の額の部分を極端に伸ばし、佐野氏が「コーンヘッズのレターセットができた」と話したシーンでは、会場は笑いの渦に包まれました。思いついたアイディアをすぐにカタチにする、しかもできるだけシンプルに――それが、佐野氏の信条のようです。「コーンヘッズのレターセット」も、そんな佐野氏だからこそ生まれたアイディアかもしれません。「寿司は、職人がパッと握ってサッと出してくれるから上手いんです。職人がいつまでも延々と握っていたらイヤですよね。それと同じことなんです」と言う佐野氏の言葉には、多くの聴衆がうなずいていました。
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(株)博報堂 アートディレクター 佐野研二郎氏 |
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| 松尾貴史氏 |
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