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社会人として、きちんと給料をもらい研修に励むが、何せ忙しい毎日

他の社会人1年生に比べれば圧倒的に忙しい毎日が続く

社会人1年生ながら、毎日帰宅時間も遅く仕事量も多い研修医の生活。休みはどうだろう。多くの同世代のビジネスパーソンと同じように、毎週決まった休日があるのだろうか。残念ながら、プライベートな時間は満足に取れない場合が多そうだ。もちろん、基本的な休日は決まっているのだが、気になる患者がいれば病院に出て様子を見たり、当直を担当する日もあったりと、ろくろく休めないことが多い。休みは、週に1回決まった日に取るというより、1か月間に何日か取るというパターンだ。

当直とは、勤務先の病院で月何回か割り当てられる夜間の宿直や休日出勤のことだ(※1)。研修医が単独で対応することはなく、必ず複数体制で行われる。問診、診察、採血といったことを、必ず上席の医師に相談し、指示に従って処方・処置する。「手に負えないような状況に遭遇したことはありません」と、大学病院で研修を積む研修医は言う。

休みが取れないのは何も研修医に限ったことではない。医師はだれでも連続した休みを取るのが難しい。まとまって取れるのは1年に一度、夏休みの1週間くらいのものだ(※2)。その期間中は別の医師に担当患者を診てもらうため、急に電話で呼び出されて病院へ……ということもない。この休みが唯一、1年のうちでホッとできるときだろう。

研修医が必ず回らなければならない科に「地域医療」がある。これは、へき地・離島診療所(※3)や中小病院といった、地域に根ざした医療の現場を経験する研修だ。研修施設によって、結核のフィルム読影、HIV検査の採血やカウンセリングなどを行う場合もある。1か月間研修を受けるのが一般的だが、病院の臨床現場から離れることもあり、このときだけは唯一定時で帰れるという。

しかし、朝は早い、夜も遅い、休みはろくに取れない……こんな状況では、社会人なら相当疲れやストレスが溜まるはずだ。どこでストレス解消をしているのかといえば、やはり「飲むこと」や「買い物」などで発散している人が多いようだ。もちろんそれだけでなく、自分が好きなスポーツに興じるなどという人もいる。ただ、確実に休める日が少ないだけに、恋人とのデートの約束などはなかなかできないらしい。こうした話は研修医だけでなく、すべての医師にもいえることだ。

医師同士が非常に仲のよいところでは、「みんなで夜遅くに病院を出た後でワーッと繰り出して、帰るのが面倒くさくなって病棟のベッドに戻って寝ちゃったこともあります」と言う人もいる(※4)。また、大学の同期生と休みが合うときなどは、会ってそれぞれの病院の実情や回っている診療科の情報交換をすることもあるという。

一方で、こんな話も聞く。指導医の立場のある医師によると、最近の研修医は飲みに誘ってもつきあわないというのだ。「若い先生は縦のつながりをあまり好まないから、つきあいは薄くなってきていますね。同期の仲間と飲んだほうが楽しいんじゃないかな。本当は同じ病棟のコ・メディカル(※5)の人たちとも飲み会の席がきっかけで仲よくなって、仕事がしやすくなったりするんですけどね」と嘆く。

短いと1か月、長くても3~4か月でひとつの科を回っていく研修医は、看護師などのコ・メディカルのスタッフたちとも円滑な人間関係をなかなかうまく築きにくいのが実情だ。病院で働くという点で、研修医は仕事のやり方がわからず、ぎくしゃくする場面も多いようだ。研修医の当面の目標は、経験を積んで臨床能力を上げることに尽きるが、そこにはコ・メディカルとのコミュニケーションをうまく図れるようにすることも含まれる。

ちなみに、社会に出たての研修医も、病院で働きはじめるとすぐに患者だけでなく、コ・メディカルの人たちからも「先生」と呼ばれる。そして、目上の教授であれ指導医であれ、研修医のことを「○○先生」と呼ぶのである。一般の世界から見ると、少し奇異に感じられることかもしれないが、医師の世界ではこれが普通なのだ(※6)。



※1 当直は労働基準法などで「原則として診療を行わず、病室の定時巡回など軽度または短時間の業務」を前提としているが、「現実は寝る時間もほとんどないし、診療も行う。夜勤と同じ」と話す研修医もいる。
※2 先輩医師から順番にいつ休みを取るか決めていくので、研修医の夏休みは10月、11月になってからということも珍しくない。
※3 山間部の地域医療の現場を見てほしいと、都市部の大学病院で地方の複数の研修施設に協力してもらっているところもあれば、市中病院で離島や農村研修を設定している病院もある。
※4 しかし、何かあると病院にいつでも戻らなくてはいけない状態なので、「酔うほど飲めない」と話す人もいる。
※5 看護師をはじめとする、医師の仕事をあらゆる側面でサポートする、さまざまな職種の医療スタッフのこと。
※6 極端な話、大学の同級生であっても病院内ではお互いに「○○先生」と呼び合う。これは慣れるまで何となく妙な気持ちになるそうだ。