編集委員・松下秀雄 編集委員・松下秀雄
2015年8月18日04時56分
■平和のすがた〈4〉トラウマ
大きな音が銃声に聞こえ、戦場の光景がよみがえる。悪夢にうなされ悲鳴を上げる。
戦場から帰った兵士らにしばしば、こんな症状が現れる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)である。
その名がつく前にも、戦争のトラウマ、つまり心の傷で苦しむ人はいた。なのに元日本兵のトラウマに目を向けた研究は少ない。
貴重な例外があった。のちに厚生省生活衛生局長を務める精神科医の目黒克己(82)が、戦後20年の時点で手がけた調査だ。
日本人の精神力を強調する軍は、日中戦争開戦の翌年には、「戦争神経症」と欧米で呼ばれる病には1人もかかっていないと誇っていた。現実には対応を迫られ、国府台(こうのだい)陸軍病院(千葉県)をその拠点とする。敗戦時、軍は資料の焼却を命ずるが、病院長の故・諏訪敬三郎はひそかに8千冊の病床日誌を倉庫に残す。
これを見つけた目黒は生存している元患者を捜し、郵送と面接で調査した。回答のあった104人のうち25%が治っていないと答え、治ったという人も神経症的傾向が続いていた。
面接した患者の話で特に目黒の印象に残ったのは、軍での扱いと、加害行為でトラウマを負った例だ。たとえばこんな話である。
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