悪いロボット
一昨年のクリスマスにルンバを買った。共働きで忙しい妻へのプレゼントという体裁をとりつつ、もちろんロボット掃除機というものに対する個人的興味があったことは否めない。面白おかしく動けば十分楽しめるだろうと思っていたが、なかなかどうして毎日すごい埃を集めてくるので、嬉しいやらげっそりするやらである。
もう一つ予期しなかったルンバの効能として、齢三歳の子供が玩具を片付けるようになった。子供は、まあ玩具を床に散らかすのだが、「片付けないとルンバに吸い込まれちゃうよ!」と言うと、到底ルンバが吸い込めないような大きな玩具も慌てて片付けはじめるのである。ルンバは動作時にすごい騒音を出すので、子供は普段から恐れているようだ。
怖がっている子供には申し訳ないが、これはなかなか面白いものである。親になって思うこととして、片方では子供を厳しくしつけたい、ちゃんと物事の良し悪しの分かる大人になって欲しい、と思っている。反面、そこまで子供に厳しく言う必要はないんじゃないか、言いすぎて子供が自分を嫌いになってしまったらどうしよう、という不安もある。
結果、子供がなにか悪いことをしたとき、母親が「(私は構わないけど)お父さんが怒るでしょ」と言ったり、父親が「(自分では怒りたくないけど)先生に怒られるよ」と言ったりして、誰かに「怒る」責任をなすりつけることがままある。そうすると、時には夫婦が互いに「怒り」役を押し付けあい、自分だけは甘い顔を見せようとして、険悪になったりする。
ルンバは、我が家において、子供の片付けの「怒り」役を担う。夫婦はもう互いに「怒り」役を押し付けあわなくて済む。怒っているのはルンバで、憎まれるのはルンバである。ロボットは人間に協調的なものと見なされがちだが、こういう悪いロボットがいてもいいのではないだろうか?
いや、子供だけに限らない。我々は自分に甘く、他人に厳しい生き物である。ロボットはそういう人間をしっかりと見守り、注意していくべきではないか。悪いロボットは:
- 節約のため、部屋の電気をすぐに消す。
- ことあるごとに「ちょっと太った?」と言う。
- 会議中、誰かの話が長いと欠伸をはじめる。
- メッセージをぜんぶ既読スルーする。
- 一日何時間ネットを見ていたかを観察し、いつでも累計時間を答える。
- スナック菓子を食べていると「あれあれー?」と嘆く。
- うるさい犬を威嚇する。
- 朝、まだ寝ているのに窓を開けて掃除機をかけはじめる。
- 電車の中でうるさい人をひとにらみする。
- カラオケで連続で歌おうとした人に「ツギハ、コチラノカタデス」とわざわざロボットボイスで言う。
- テレビを無言で消す。
- オンラインで本を買おうとしたときに「○冊の積読があります」と教える。
もちろん、対になる良いロボットも必要だろう。たとえば、どんな記事にもいいね!をしてくれるロボットとか。