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Bloody Chaos 作者:SIN
15/19

3‐4[目撃]

PM.4:00 ニューヨーク ウォール街 『RURER』本部

ニューヨークの頭部とも言える、ウォール街。金融業界の中心地として栄えてきたのは、戦後も変わらない。毎日のように多くの人々が出入りし、様々な交通機関が通勤ラッシュに見舞われている。
その町の中心に、一際目立つビルがある。
 世界平和維持機関『RURER』本部
 30階ほどの高さがあるビルは、底面が正方形の角錐型であり、ビルの一面がガラス張りになっている。角錐の中間部にはガラスよりも一層青が濃く、煌びやかな光沢を見せる太陽光発電パネルがつけられている。現代では『S・E』の電気生成特性を利用した発電方法で電気を作り出しているが、それには火力発電と同様に火が用いられる。火力発電よりも排出量はかなり少ないが、二酸化炭素は出ている。地球温暖化の悪化を防ぐために、こうして太陽光発電のような無害な発電方法を世に示している。『RURER』本部は、その運動のモニュメントのような存在でもあった。
「……時間だ。行く」
 ビルの手前の道路の隅に止めてあるシルバーの車からキースがそう告げながら出た。修羅はビルに向かうキースを無言で見送った。
 今日のキースの姿は、黒一色のスーツ姿であり、首元には赤いネクタイが下げられている。いつものレザーコート姿では不自然だと思ったのだろう。客観的に見ても、勤務を終えて帰る人々と何の違和感もない。片手には、横幅の広い黒ケースを持っている。中に入っているのはもちろん、『商売道具』だ。
「……さて、こっちも仕事を始めるか」
 修羅は傍らに置いてあるノートパソコンを取り出し、スリープ状態を解除した。モニターにはウィンドウが2つ開かれており、両方を見られるように片方は小さく表示されている。大きい方のウィンドウには多数の文字で構成された文字列が無数に並んでおり、一番下には『実行』と表示されたボタンがある。
 そして、もう1つのウィンドウには、何かの建物の見取り図が表示されている。三次元で構成されたその図に、1つの赤い点が動いている。
「よし、発信機には気づいていないな」
 この赤い点は、キースが着ているスーツに取り付けた小型の発信器の位置を示している。つまり、この見取り図は『RURER』本部のものである。
 この間からキースを疑っていた修羅は、いつまでも隠す彼に痺れを切らし、自ら彼を調べ尽くすことにしたのだ。これでキースが怪しい行動をとれば、何かが分かるかもしれない。
 正直、仲間としてやりたくないことだったが。
『こちらキース。エレベーターに入った』
「OK。『落雷』のいつでもできる」
 インカムのイヤホンから聞こえてくるキースの声に、修羅は怪しまれないように、いつも通り、自然に応えた。
 赤点はエレベーターに乗り、上昇している。
『……10階に到着した』
 修羅はキースの声に耳を疑い、そして画面にも疑問を浮かべた。点は11階の中央に位置している。キースの言っている階の、1つ上なのだ。
(早速見せたか)
『落とせ』
 修羅は敢えてキースに従い、大きいウィンドウの『実行』ボタンを押した。
 直後にウィンドウが消え、緑色のバーが表示された。バーの中が青の斜線で満たされていき、数秒後にはバーが斜線で満たされた。

     ……ジリリリ……

遠くから警報機の音が微かに聞こえる。ビルの方からだ。
『予備電源に切り替わった。サーバー室に向かう』
 とキースは言い残し、直後に「ブッ……」と、通信が切れる音が修羅の耳に不快を与えた。
 キースと打ち合わせた計画。
 通常、4時が本部にいる従業員の帰宅時間で、その後、家で残業をすることになっている。その時に、人の少なくなったビルの変電室に修羅がハッキングし、外部電源をカット。予備電源に切り替わる。予備電源は、主に太陽光発電で蓄えた電力を使用しているが、その量は、施設内の照明とサーバーに回すので手一杯であるため、エレベーターが使えなくなる。キースが10階に降りた後に止めることで、下からの警備隊の足を抑える。その間に、キースがデータを入手する。
 だが、サーバー室は10階。
 11階に降りたということは、やはり――
「別の目的があるということか……」
 修羅は舌打ちをしながら赤点を見つめ続けた。


 『RURER』本部 11階
 何の変哲もない、白い床のビルの廊下。そこを1人の青年――キースが歩いていた。
 手には持っていたケースの代わりに、愛刀が握られている。二丁銃も、スーツの裏ポケットに収まっている。
 ふと、歩みを止めた。

 「N・Y『S・E』Director of seizure case special investigation department room(強奪事件特捜部 部長室)」

 そう書かれたプレートが嵌められている、ドアの前に。
 キースはノックせず、ドアノブを回し、ゆっくりと開けた。
 中は特に何かの装飾と言ったものがなく、資料が詰まった本棚とソファ、テーブルがあるだけだった。そして、奥の窓際に部長のデスクがあったが――
「……!?」
 その光景に、キースは思わず息を飲んだ。
 人が、男が、死んでいた。
 デスクの前にもたれかかるようにして死んでいた。胸から、心臓から流れる大量の血が、白Yシャツを真っ赤に染めていた。
「面会中だということを忘れたのですか?」
 この状況下にしては、冷静な男の声が聞こえた。
 死体の傍に、男性が立っていた。身長はキースと同じくらいで、無駄な肉の無いスマートな身体に白いスーツを纏っている。金色のセミロングヘアーを、銀の金具で後ろに纏めている。後ろの窓から差し込む夕日の光が、髪を煌かせていた。
 手には、刃渡りが長い、鮮血を滴らせているナイフを握っている。
「お前が、殺したのか……?」
 刀に手を置き、キースは訊いた。
 この状況だと、この男が殺したと見るのが妥当だろう。
「……その刀……そういうことか……」
 キースが持っている刀に目を見張り、だが、すぐに戻った。そして、何かを確信した。
「何を言っている?」
 男の様子に疑問を持ったキースは、さらに疑問を投げかける。
「いや、こちらのことだ……足跡を追って、ここに至ったか」
「……貴様、強奪事件――『S-U-218』の犯人か?」
 キースは眼光を鋭くし、身構えた。
「……やはり、半蔵を殺したVIPHか」
冷静な姿勢は崩さない。
「半蔵……霧原 半蔵の事か?」
「そうだ……おかげで、手間が増えてしまった」
 手に持ったナイフをゆっくりと上げ、血を払うように振った。鉄が擦れる音とともに、ナイフの刃が伸びた。よく見ると、刀身に等間隔でV字型の節が刻まれている。おそらく、ナイフの柄に仕込まれている刃が重なり、伸びる仕組みになっているのだろう。
「時間の清算をしてもらおうか」
眼をさらに鋭くし――男が動いた――キースに向かって!
「!」
 急接近してきた男は、キースの胸目がけて剣を突き出してきた。反射的に腕を動かし、キースは刀の鯉口を切った。刃を僅かに出し、剣を受け止めた。
 耳障りな金属音が耳の奥を震わせた。
「……ハッ!」
一瞬の硬直も見せず、男は剣を下に振るい、刀を弾いた。反動で後ろに下がりながら、『残毀閃』を引き抜いた。男は勢いに乗じ、キースに斬りかかった。迫りくる斬撃を、キースは体を反らしたり、刀で弾いたりしてやり過ごす。が、防戦一方だったキースは、後ろ壁に追い詰められた。
「それが全てか?」
 剣を回し、キースの喉元に切っ先を近づけた。
「勘違いするな。こんなのは豆粒程度だ」
 右手の刀を回し、剣を弾いた。
 出来た隙を見逃さず、キースは懐に入り、腹を力強く蹴飛ばした。衝撃で男は後ろによろけたが、膝をつかない。腹に力を入れ、衝撃を殺したか。
 キースは壁から離れ、刀を左半身に構え、八相の構えを取る。
「It is my turn.(俺の番だ)」
 言葉と同時に、男に斬りかかった。左上段から迫る刃を、男はしゃがんで回避したが、すかさず右下段から斬撃が放たれた。体勢を立て直せないまま、男は剣を体の前に持っていき、刃でそれを防いだ。が、防いだ反動で後ろに下がった。
「っおらぁ!!」
 足を止めずに男に向かい、笠懸に斬る。男は体を無理やり反らしてかわし、体を回転させてキースの死角に剣を振るった。キースは刀を腕に刃がくるように回し、死角に刃を割り込ませた。刃と刃がぶつかり合い、鍔迫り合った。
「……流石は『あの人』と同じ血が流れているだけの事はある」
「何!?」
 『あの人』とは?
それを聞こうとした時――
『外部電源復旧しました。予備電源から切り替えます』
 と、女性の従業員の声が室内に響いた。
 キースが反らしたのを見たのを狙い、男は刀を弾き、鍔迫り合いから抜けた。
「こっちには門限がある。続きはまただ」
 男は剣先をキースに向けながらそう言った。
 だが、男に逃げ道は無い。男の後ろは窓だ。
「悪いが、今日は『豚箱』で夜を明かしてもらおうか!」
 キースは素早く八相に切り替え、再び男に斬りかかった。
 だが、男は横斬りをしゃがんでかわし、そのままキースの横を駆けた。
「チッ……逃がさな――」
 キースは振り向き、追いかけようとしたが――

    ――カッ!!――

    ――キィィィィィィィ!!――

 突如、不快な音とともに視界が白一色になった。
 閃光音響弾だ。
 去り際に置いていったのだろう。
「がぁっ……っ!」
 視界が戻ってきたのを認識し、キースは急いで部屋を出た。元来た道を辿り、エレベーターに向かう。キースが来た時には、エレベーターは9階を過ぎていた。
「Son of a bitch(畜生が)……!」
 苛立ちを込めて吐き捨てる。それでも、キースには止まる様子がなかった。
 ポケットから球型の装置――小型吸着爆弾を取り出し、それをエレベーターの扉に貼り付けた。一旦扉から離れ、一緒に持ってきたリモコンのスイッチを押す。
 直後、熱とともに爆音が響いた。エレベーターに戻ると、扉に大きな穴が開いていた。勿論、中には何も無く、暗い空間に太いワイヤーがあるだけだ。
 キースは2つのグローブをポケットから取り出した。一見手袋の様だが、手のひらには、所々に鉄板が貼られてあり、指を動かせるように指の関節部分にはワイヤーの束が鉄板と鉄板の間を埋めている。
 エレベーターが6階を過ぎたのを確認したキースは、エレベーターのワイヤーに向かって跳び、ワイヤーを掴んだ。
「使い捨てだが、何とかなるだろう……っ!!」
 手の力を緩めると、グローブの鉄板とワイヤーが火花を散らしながら、キースはワイヤーを下り始めた。
「熱っ……!!」
 火花が顔に当たり、顔を反らした。頭をワイヤーに触れないように動かし、下を見ると、下に向かうエレベーターが見えてきた。
 エレベーターにある程度近づき、キースはワイヤーから手を離して着地した。ボロボロになったグローブを剥ぎ捨て、デザートイーグルを取り出す。
「……っお!?」
 エレベーターが止まったのか、ブレーキの反動で揺れ、キースは体勢を崩しかけたが、両足に力を加え、踏ん張った。銃口を、エレベーターの工事用ハッチのロック部分に向け、1発で壊す。ハッチを蹴破り、中に降り立った。
「……いない!?」
 だが、中には誰もいなかった。多分、すでに降りたのだろう。
 閉じかけたエレベーターをこじ開け、外に出た。
 エレベーターの外は、ビルの地下らしく、薄暗い空間に立つ柱に付いている照明が辺りを照らしていた。コンクリートに刻まれた多数の長方形の枠に、少数の車が収まっていた。奥にある通路から茜色の光が差し込んでいる。地下1階、駐車場だ。
「……!?」
 けたたましいエンジン音とブレーキ音が混じった音が響き、音の方向を見ると、白のセダン車がターンし、出口に向かおうとしていた。
 あんなに慌てているのは、あの男以外にいないだろう。
 キースは車に向かって駆け出した。


 一方、修羅は戸惑っていた。突如、赤点の動きがおかしくなったのだ。
 同じところ行ったり来たり、ついには、エレベーターをあり得ない速度で降りて行ったのだ。それに途中、ビルの方から爆音が微かに聞こえた。
「一体何してんだよ、あの野郎……」
 と、修羅が呟いた直後に、さらなる爆音が響いた。エンジン音と、ブレーキ音が混じった爆音。振り向くと、地下パーキングから白のセダンが飛び出してきた。
それを追う人影も――
「キース!?」
 キースが、セダンを全速力で追いかけているのだ。だが、セダンが道路に入ると、キースは足を止め、遠のくセダンを見つめた。
 だが、それも束の間。
 周りを見回し、そして、何かを見つけたように駆け出した。その先を見ると、黒バイクに乗ろうとしている男がいた。キースは駆け寄ると、すぐさま男を退け、バイクに跨った。隣で怒鳴る男に幾つか言葉を残し、キースはエンジンをかけ、猛スピードでセダンをまた追いかけ始めた。
「おいおい……何だってんだよ!!?」
 正直、今の状況を修羅に把握することは出来なかった。が、ここで立ち止まっているわけにもいかず、エンジンをかけ、キースを追いかけた。


 PM.4:30 プロヴィデンス 廃工場

 「当たり、だな」
 薄暗い空間の中で、グレンは呟いた。
 プロヴィデンスの廃工場地下。そこにグレンはいた。そして、今グレンの目の前には、大きな洞窟の入り口のような穴があった。そこからレールが続いている。
「搬入履歴を見つけた。全て日本のフォート社のものだ」
 と、物陰からラスティーが現われ、書類を片手にグレンに駆け寄り、それを手渡した。肩にはAKMSが担がれている。
「どれどれ……やっぱ『S・E』は消されているか」
「辺りを調べてみても、輸送用の容器すら見当たらなかった」
「『S・E』の手がかりは無いか……骨折り損か~」
 グレンは失望の声を上げ、手に持っている長い棒――赤色の槍をかかしのように両腕にかけた。槍の取っ手の部分は赤く、先には鋭利な刃が煌いている。刃の下のあたりに、小型の機械のようなものが付いている。
「『スサノオ』まで持ってくることは無かったか~。誰もいねぇし」
 グレンは呆れたようにぼやき、槍――『スサノオ』を右手で持ち、回したりなどして弄んだ。
「危ないからよせ。撃つぞ」
「キース以上に手癖がわりぃな、お前」
 ラスティーが腰のマカロフに手を置いたを見て、グレンは回すのを止めた。
「『お偉いさん』は十分に警戒しろって言ってたが……」
「その判断は合ってるぜ」
「「!?」」
 一際大きく、威勢のいい声が響き、2人は辺りを見回す。

    ……ゴツ……ゴツ……

 重厚な足音が階段から聞こえ、2人は階段に目を向けた。
 足音が大きくなるにつれて、狭い階段を下りる人物の姿が見えてきた。
 体格は大きいというわけではないが、それよりも目立つのはその身なりである。上半身は赤のジャケットだけであり、真ん中から、日に焼けたのか、浅黒い肌が露出している。下は黒のダメージジーンズで、茶色の革製のウエスタンブーツを履いている。ブーツの踵部分には、歯車の歯が棘になったようなのが付いている。ブリーチの髪は、ワックスで相当固めたのだろう、重力に逆らうように立っている。眼はサングラスで隠されていて見えないが、両手に持っている物から大体の意図が把握できた。
 両手には、ハンドガンと言うにはでか過ぎる銃が握られていた。手で持って下げていても、銃身の長さは膝より下まで伸びており、銃口が戦車の砲台の砲口を彷彿させるほど大きい。
「……クレイヴか?」
 ラスティーは男の顔を見て、そう訊いた。
「久しぶりだなぁ~、ラス。グレンの兄貴も元気そうで」
にぃ、と口元を歪め、男――クレイヴは2人との再会を喜んだ。
「どういうことだ、クレイヴ・ロッソ?」
 今度はグレンが訊いた。
「お前たちと同じく、『仕事』さ。裏でコソコソ嗅ぎ回っている蠅どもいそうだっていうんで、どんな奴か顔を拝みに来たんだが……まさか、お前たちだったなんてなぁ。ハハハハ」
 クレイヴは両手を、参った、とでも言わんばかりに上げ、笑い声を上げた。
「何を言っている?誰の依頼だ?」
 一方、グレンの声は笑っていなかった。いや、笑えないと言った方が正しいだろう。
「おっと、主の希望でそいつは秘密だ。主からの依頼は、ここの破壊と――」
 と。クレイヴの顔から笑みが消えた。同時に、二丁銃の銃口が2人に向けられる。
「害虫駆除を頼まれてるんだ。悪ぃが、先に逝ってくれや」

      ――ドガン!ドガン!――

 言葉を切ると同時に、鉄がひしゃげたような銃声が響いた。グレンとラスティーは左右に散会し、直後、2人がいた床にアルミ缶の直径ほどの大穴が空いていた。クレイヴは銃口をそれぞれに向け、腕を左右に開くように撃ちまくった。2人が駆けた壁や床、資材などが、次々と粉々に砕けていく。
 グレンは傍にあったコンテナの影に滑り込むようにして隠れた。コンテナが銃撃でへこんだが、貫通することはなかった。
 銃声が止んだ。
 ラスティーもどこかに隠れたようだ。
「クレイヴ!どういうつもりだ!!?」
 グレンはクレイヴに怒鳴った。
「何って、見てのとおりさ。お前たちをぶっ殺して稼ごうとしているんだ」
「『規則』を忘れたのか!?『豚箱』にぶち込まれるぞ!?」
 ラスティーも、グレンとは反対側の方から怒鳴った。
「何言ってんだよ?俺は――」
「ラス!CODE:A‐I!5カウントだ!!」
 グレンはクレイヴの言葉を聞かず、ラスティーに叫んだ。
 反対側に止めてあったフォークリフトの物陰からラスティーが飛び出し、クレイヴに向けてAKMSをフルオートで発砲した。威嚇のため、狙いは疎らだ。
「ひでぇぜ、ラス。『相棒』に牙剥くなんてよ」
クレイヴは支柱に隠れながら、寂しそうにラスティーに嘆いた。
「黙れ、『裏切り者』!!」
 クレイヴの周りを回るようにラスティーは走りながら撃ち、クレイヴもまた、支柱から離れて銃撃を避けながら撃ちまくる。かなりの装弾数があるのか、二丁銃は未だに弾切れになっていなかった。
「グレン!!」
ラスティーが叫びながら、またコンテナに隠れて銃撃を防いだ。
 ダッ、とクレイヴの近くのコンテナから音がした。すかさずクレイヴはコンテナを撃ち抜く。だが、そこに誰もいない。
「こっちだ!」
 と、声がした方を向くと、グレンは天井の鉄骨に乗っていた。コンテナを蹴って跳んだのだろう。
「ラス!!CODE:W‐SG‐W!!」
 コードを叫びながら、グレンは鉄骨を蹴った。『スサノオ』の矛先をクレイヴに向け、突っ込んで行く!
「うらぁっ!!」
 渾身の突きを、クレイヴに放つ。
 クレイヴは二丁銃の銃身を身体の前に出し、矛先を受け止めた。グレンは矛先を支点にクレイヴの背後に跳んだ。着地し、すかさず矛先をクレイヴの背中に突き出す。だが、クレイヴは体を回転させ、その拍子に銃で矛先を弾いた。体勢を立て直し、グレンは『スサノオ』を後ろに構え、素早く突きを放った。対するクレイヴは二丁銃をうまく使い、矛先をテンポ良く受け止める。槍を引っ込めたグレンは突きに入らず、矛先を上げて斬りかかった。またしても二丁銃に受け止められる。だが、グレンは槍を動かさず、足に力を加えて跳躍した。そして足を揃え、ガラ空きのクレイヴの胴体にツインドロップキックを入れた。両者は反動で後ろに下がった。
「っはぁ……!やってくれるなぁ、グレン……!」
 クレイヴは呻き、だが、その顔に喜びを浮かべていた。
「……何故だ?クレイヴ」
 槍を構え直し、矛先をクレイヴに向け、訊いた。
「訊くまでもないだろう?『使命』のためさ」
「『仲間』を殺すことがか?」
「『敵』だから殺すんだろうが!」
語尾を強く言い放ち、再び銃口を向ける。
「ラス!!」

      ――カラン――

グレンの呼びかけとともに、2人の間に1つの『筒』が転がってきた。グレンは逃げるようにそこから離れた。
 直後、濃い白煙が一気に広がった。
「ラス!逃げるぞ!!」
 グレンはラスティーに駆け寄り、彼が頷いたのを確認すると、階段に向かって走った。
 階段を上がり、工場の地上区画に出る。
 地上区画は加工区で、辺りにベルトコンベアなどの機会が並んでいる。
 シャッターが半分開いた、トラック搬入口に向かって2人は駆けた。まだグレイヴは追ってこない。
 このまま逃げ切る。

      ――ドォン!……ドォン!……――

 曇り空の外に出た直後、高い銃声が遠くで鳴った。2人の足元で、銃弾が弾けた。
「っ!?」
「スナイパーだ!!戻れ!!」
 続けて襲いかかる銃撃をかわし、2人は工場に中に戻った。
 仲間がいた。クレイヴの、仲間が。
「俺たちをどうしても殺したいらしいな……!」
「どうする!?あいつはそう簡単に諦めないぞ!」
「俺をよく見てくれているようで光栄だな」
 階段に振り返る。
 白い煙とともに、クレイヴが階段を上がってきた。
 歪んだ笑顔を、浮かべて。
「せっかく再会したんだ」
 と、二丁銃のトリガーの下にあるボタンを押した。すると、銃身の下部が外れ、床に重々しそうな音を出しながら落ちた。どうやら、あれがマガジンらしい。
「3人で楽しく盛り上がろうぜ?あの頃みたいによ……」
 ジャケットの裏からマガジンを取り出し、銃身の下部に取り付けながらそう言った。
「……マリー!工場に誰も入れるな!駆除は俺一人で十分だ!!」
 と、2人ではなく別の人物に叫んだ。通信機で狙撃手と話しているのだろう。
「……グレン」
「……付き合ってやろうぜ。このままじゃ家に帰れねぇ」
2人は各々の得物を構えた。クレイヴも、応えるように銃を構える。
「ハハハハ! OK!!Ich werde dich vollständig töten(存分に殺し会おうぜ)!!」
 クレイヴの歓喜に満ちた叫びが、開戦の狼煙となった。



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