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七人の魔王と連合国軍が戦争します! 作者:シャム猫
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第二次対馬沖海戦 北海道殲滅戦

北海道 紋別
ロシア空軍第八十六空挺旅団
チェルナヴィン大佐

北海道全域に広く浅く降下したロシア空軍の空挺二個旅団と装甲車を中心とした空挺機甲大隊一個旅団は窮地に陥っていた

本来なら日本全土にばらまかれる筈の彼らだが護衛機でも捌ききれないほどの飛竜の軍勢が輸送機に襲いかかり、最新鋭の輸送機An-200が次々と撃墜され、残った空挺部隊を一番近い北海道全域に降下させたのだ

降下部隊はここ紋別に臨時の作戦司令部を作ったのである

携帯式地対空ロケット砲を構えたロシア兵が日本空軍の戦闘機に狙いを定めミサイルを撃つ
ちなみに戦闘機の種類は四式戦闘機“疾風しっぷう改二型”という戦闘機と二式戦闘攻撃機“鍾馗しょうき改二型”という従来のレシプロ機のカスタマイズ版を使用している

疾風改の武装は13.5粍重機関銃二門であり、速度は風魔法と重力魔法を併用し、新型の金星改エンジンを用いた物で、時速850kmは出るとされている
鍾馗改の方はというと、攻撃機として改造されているので、搭載できる武装は豊富だ。噴進砲二十八発か百番対艦用爆弾三発もしくは六番対人用爆弾三発であり、機銃は13.5粍重機関銃三門、7.9粍軽機銃二門が標準装備されている
ちなみに機銃弾はそれぞれ次元魔法の“箪笥アイテムボックス”と呼ばれる魔法に格納されており、およそ二万発ものストックがされており、よほどの事がない限り弾切れは有り得ない

「クソォッ!何で落ちないんだ!」
ミサイルは鍾馗に着弾したが、日本空軍の戦闘機は堕ちておらず、爆煙の中から日本軍の戦闘機が現れた
それもそのはず、鍾馗は複座式になっており、それぞれ後部に魔法障壁を展開する兵員が乗り込んでいるため、常に個別防空障壁を展開することが可能なのである
疾風改の方は携帯型地対空ミサイルでは射程外なのである

ロシア軍の上陸部隊の戦車隊が歩兵の盾になろうと前線に出ても、日本軍の召喚魔導師が生み出した“土傀儡人形ゴーレム”が彼らの前に立ちはだかった

日本軍の戦術教本だと、二十のゴーレムを一度に突撃させ、戦車が相手の場合ちゃぶ台返しのように下からすくい上げて無力化するのが常識である

いくら精強なロシア軍とて、十メートルを越す巨人を二十数体同時に相手取るのは厳しい
オマケにゴーレムは術者を倒さないと消滅しないし、なによりほとんどのゴーレムは125mm滑膣砲かっこうほうの対戦車榴弾一発では倒れず、果敢にロシア軍の戦車に体当たりしていった

地中の岩石や土を人型に固め、術者によってはそれらに石で出来た槍や剣を持たせたりしている

ロシア軍の戦車隊が決して弱い訳ではない。ただ相手が悪かったのだろう
巨大な土の巨人がロシア軍の戦車をサッカーボールのようにポンポン蹴り飛ばし、滑膣砲の砲撃を受けつつも槍や拳を振るい装甲車を粉砕した

「同志チェルナヴィン!機甲部隊の消耗率が40パーセントを突破しましたぞ!」

「狼狽えるな同志トモロフ。戦闘ヘリと攻撃機を向かわせた。地上部隊を離脱させるのだ」

「ダーッ!すぐにやらせます!」
トモロフが司令部のテントを出て行くと別の士官が入ってきた

「極東艦隊が壊滅しました。ですがTu-95の八十機編隊が日本軍の防空網を突破しました。またそのうち八機は戦車の砲弾や燃料、食糧などを投下してくれるとのことです」

「よろしい、日本軍の後方陣地、補給部隊、工場を破壊してやれ!進軍は一旦停止。全部隊に投下物資を集めるように命令しろ!」

「ダーッ!」






*****








日本軍とロシア軍の双方が戦場から撤退し、戦場は静けさに満ちた

そして、二時間後。ロシア軍の爆撃機が日本軍を爆撃し、体制を整えたロシア軍が動き出した

ロシア軍は残る戦車と装甲車を前面に出し、戦闘ヘリと歩兵が乗ったトラックを前進させるという戦法に出た

本来なら海上部隊のミサイルで援護を受けてから前進する予定だったのだが、海軍が全滅してしまったので上陸した歩兵と戦車部隊、それと駆け付けた戦闘ヘリ部隊だけで敢行することになった

しかし、ロシア軍がこの作戦に踏み切ったのには第六十六戦略爆撃連隊のTu-95八十機が日本軍の防空網を突破したからである

Tu-95から落とされる爆弾がGPSに導かれて正確に日本軍の前線基地や戦車、高射砲陣地を粉砕したからこうしてロシア軍は進撃できるのである

雪原を乗り越え、爆撃された日本軍の陣地跡に入り込んだロシア軍は安全を確保。前線指揮所をここまで押し上げた

「同志チェルナヴィン大佐。UAVによると敵は大幅に前線を下げ、地図によるとゴリョウカクという大昔の要塞に立て籠もったようです」
トモロフが赤外線写真を見せてくる

「ゴリョウカクか……また戦爆連隊がやってこれるとは限らん。どうにか突破し、占領せねば……」
チェルナヴィン大佐が悩んでいると外から複数の銃声が響いた

「な、なんだ!?どうした!?」
慌てて無線機を操作している将校にかけよる

「敵襲のようです。甲冑を着た日本兵が大挙して押し寄せてきたそうです」

「なに?」







******







ルシファーの配下の軍勢。“戦列亡霊騎士団”の騎兵隊と歩兵隊による大地を埋め尽くすような突撃を前に、ロシア軍は割と苦戦していた

というのも、それらの突撃に混じって先ほどのゴーレムやアンデットワイバーン、さらには第二次大戦時代の白骨化し、武器装備を持ったソ連兵やアメリカ兵の格好をした骸骨が銃を乱射しながら突撃してきたのだ

それらの混成軍を日本軍は“百鬼夜行”と呼び、召喚術と降霊術を掛け合わせ、相手に甚大な被害を負わせ、その隙に味方は立て直すという戦術である

実際、ロシア軍は骸骨が銃を乱射する光景を前に、多くの兵士の腰が竦みつつある
爆撃機の爆弾で空いたクレーターを避けて不規則に止められたT-95Aや新型のT-97から砲撃が開始される
地平線から迫る百鬼夜行の軍勢の各所で爆発が起こるが、百鬼夜行に紛れた日本兵の魔法障壁により戦車の砲撃は防がれた

およそ八割の砲撃が防がれ、ロシア軍と百鬼夜行の異形達の接近戦が繰り広げられた
ロシア軍はAKシリーズの最新型のAK-104に銃剣を取り付けたり、ドアブリーチ用の小型のショットガンや拳銃、中にはスコップや破壊を免れた日本軍のライフルを使って戦う兵士もいた

上空から我が物顔でミサイルや機関銃を撃ち込むロシア軍のハボックは、旋回中に突然、見えない壁に正面からぶつかり墜落してしまった
日本軍の魔法障壁にはこういう使い方もあり、無色透明な分パイロットにはどこに見えない壁があるのか、疑心暗鬼を募らせて動きを鈍くさせる戦法である

骸骨の兵士がロシア軍に弾幕を張り、その隙にゴーレムを盾にした“戦列亡霊騎士団”が前進を始める

言葉を話さない甲冑の騎士が声無き突進を開始し、ロシア軍も一斉射撃を開始する

ロケットランチャーやグレネードが炸裂する中、騎兵隊はクレーターの縁に留まるロシア兵目掛けて馬上から槍を突き出す
最新のポリマーメットや防弾チョッキを易々と貫通し、ロシア兵を串刺しにしてそのまま遥か前方の上空へ放り投げる

一撃で屠られたロシア兵を踏み潰し、騎兵隊は進む

逃げ遅れたロシア兵を蹄が踏みつけ、軽機関銃を乱射するロシア兵を鋼鉄の鎧に包まれた馬が正面から跳ね飛ばし、騎士の槍にはメザシを思わせる状態のロシア兵がぶら下げられ、亡霊騎士の鈍色の甲冑に血飛沫を浴びせる

そして遅れて馳せ参じたゴーレムと歩兵隊が戦闘に加わる

圧倒的な重量の大剣が振り下ろされ、ロシア兵の命を刈り取る

ロシア兵の撤退を援護しようとした戦車はゴーレムに踏み潰され、呆気なく爆発する

司令部は辛うじて脱出したが、もはや反撃は不可能だった






*****






対馬沖合
中華民帝国海軍北海艦隊所属第一空母打撃群所属空母“黒龍江ヘイロンチヤン
リン少将

全長220mを超える中国海軍一の巨大なミサイル巡洋艦“天津”を先頭にし、真ん中には空母“黒竜江”そしてその周りを多くの駆逐艦が菱形に包囲して二十四隻の艦隊が日本海を進んでいた

全長300m程の巨大な空母“黒竜江”の甲板には50m程の巨大にして四発の爆撃機“百里馬チョンリマ”が待機していた

この“黒竜江”は驚くことに大型爆撃機の離発艦専用の空母であり、四十機の巡航爆撃機が艦内で待機しており、発艦を今か今かと待っていた

「ハッ、わかりました。必ずや!日帝共を駆逐いたします!」
林少将が無線機の電源を切り、軽く溜め息を吐く

「まったく……上層部もよくやるよ……」
林少将の視線の先には黄色い全身防護服とガスマスクを身にまとった中華民帝国陸軍特殊化学兵器実験院の兵士がいた
彼らがフォークリフトで慎重に運んでいるクラスター爆弾の中には目に見えない悪魔が封入されている

アフリカやヨーロッパなどの紛争地帯から集めてきた天然痘、デング熱、コレラ、スペイン風邪、ペストなどの致死率がアホみたいに高い細菌や病の元である

中華民帝国はこれを日本に落とし、伝染病に羅漢した日本人を“人道的に救う”(←ここ重要)目的として軍を派遣するのである

「まぁ、ここで暴発なんてことにならなければなんでもいいか……」
林少将があくびをしながら艦橋からぼんやりと水平線にぼんやりと浮かぶ対馬を眺めた

「…………んっ?」
一瞬だが、僅かに艦が揺れたような気がした

「……気のせいか?」
そう思った次の瞬間

“黒竜江”が二つに割れた






*****






「海は全ての生まれた場所にして、全てが帰る場所」
地球のどこかの深海。レヴィアタンがポツリポツリと呟く

「どれほど強い剣士でも、どれほど美しい姫君でも、いずれ老いて朽ち果て、死ぬ」
レヴィアタンの呟きに呼応するように海にほんの僅か。人間では気づかないような微細な振動が帰ってくる

「朽ち果てた命は、新たな命を育み、また海に戻ってくる……」
レヴィアタンは目を開けた。自分が生まれ育った青い海。しかしこの世界の海は汚れていた

日本以外の国が環境サミット的な事をやってはいるが、全て的外れの見当違い。一時しのぎにしかならず、結果的に根本がなっておらず、陸は綺麗になり、海が汚れている

「そのサイクルを、連鎖を、崩すわけにはいかない……」
レヴィアタンが憂いを帯びた表情で息を吐く。無数の気泡が一匹の蟹を包み込んだ

「魂の還陣を、元に戻さないと……」






*****






中華民帝国海軍西洋派遣艦隊
原子力空母“大連ターリェン
ファン大将

以前年表でヨーロッパ戦争は終結したとの旨を書いたと思う

その後、紛争で荒れに荒れたヨーロッパ全土を米国中華民帝国ロシアの三国が中心となり整備したのだ

そしてその際、工事関係者などの邦人護衛の為、各国はこぞって軍を派遣した

そして内陸部での“人道的支援”(←ここ重要)を大規模かつ円滑に進めるために三国はそれぞれの新政府から土地を格安で租借し、軍を駐留させその地の治安維持、自らテロリスト達への抑止力となる役目を買って出た

そんな三国の“涙の出るような優しさ(棒)”のお陰でヨーロッパは平和であった

今日までは

イギリスに駐留する中華民帝国海軍西洋艦隊の旗艦でもある“大連”の艦橋で盃大将は爪を手入れしていた

「……あぁ、やる事ねぇー」

訂正、かなり暇を持て余していた

今日のノルマの仕事はこなした。追加の書類は未だ来ていない。イギリス政府からの“思い遣り料金(駐屯軍に対する感謝料)”の決済は済ませた。他の雑務も全て終わった
なにが言いたのかというと、この盃大将、書類処理に特化しすぎているのであり、こうして実戦も訓練もないと毎日艦橋でボーッと海を眺めながら爪を磨いたりドイツ製のゲームをやるしかないダメ人間である

この日は日本との開戦に伴い、陸上の基地ではなく、自身の艦でありがたい訓辞を述べなくてはならず、こうしてその時間までダラダラしているのである

そしていつものようにゲーム機を取り出し、巨大恐竜をハントしようとしたそのとき

艦が揺れた

思わず椅子から転げ落ちるほどの揺れで、盃大将は地震とは思えなかった

すると、艦橋の窓から見えた大型駆逐艦“貴陽キヨウ”が水柱と共に真っ二つに折れた

「んぉ!?なんじゃありゃ!?」
盃大将には見えた。水柱と共に貴陽を折った正体が

ハサミだ。タラバガニのような巨大なハサミが貴陽の船体を真ん中から切り裂いたのである

そして大連にもその時は訪れた

深海を切り取ったような深い青色の巨大なカニバサミは横幅二十mはあるこの“大連”を楽々と挟み込んだ

そして切り裂く為の刃が付いたカニバサミが大連の船体に食い込み、徐々に力付くで食い込み、僅か一分で建造費数千億人民元の船体を真っ二つに切り裂いた

“大連”を切り裂いた犯人は海底におり、体色はヤシガニのような群青色で、ハサミの直径は約50m。脚を含めた全体の体長は100mを越すほどの巨体である

その名を“巨大怪物蟹バラダガル・コパラケサ”レヴィアタンの腹心でもある

巨大蟹は金色の目に写った中華民帝国海軍の艦隊に次々とハサミを伸ばし、強引に、力付くでねじ切り、沈んできた乗組員の死体を喰らうのである

西洋艦隊の艦船が全て沈んだが、海は何事もなかったかのように凪いでいた







*****





対馬沖合
中華民帝国海軍
ミサイル巡洋艦“天津”
キム上尉

“黒竜江”が突如、海面から伸びた巨大なカニバサミに挟まれ、真っ二つに切り裂かれて沈没した

「海底に動体反応!スゴくデカい!画面をはみ出しています!」

「なんだと!?」
金上尉が覗くと確かにレーダースコープは緑一色だった

「いったい、なにが?」
レーダースコープを埋め尽くすほど巨大な動体。一撃で空母を沈めた巨大なカニバサミ

金上尉の処理限界を越えていた

まるでドイツで流行りの怪獣映画のような事態であり、どうするべきかわからなかった

その時、巡洋艦“天津”が浮いた

カニバサミが艦を挟むのではなく、下から船底のど真ん中を突き上げられ、船の生命線とも呼べる竜骨がへし折れ、艦内はミキサーのようにシャッフルされた






*****






対馬沖合上空
大日本帝国空軍九州方面防空戦闘団343航空団
藍原大尉

大日本帝国空軍最強の名をほしいままにした航空部隊三四三航空団が対馬沖合ので海中からの一方的な攻撃になす術なく打ちのめされる中華民帝国海軍を見つけた
残存する艦艇は駆逐艦や巡洋艦が合わせて十四隻ほどで、追撃がないところを観ると巨大怪物蟹はお腹いっぱいになったようである

「よぉーし、三四三聞けッ!貴様等の目的は眼下で戦う中国人を叩きのめすんだ!甲隊は右翼!乙隊は左翼!丙隊は正面からだ!全機魔法障壁展開!必ず生きて帰るんだ、以上!かかれ!」
大日本帝国空軍のエリート兵向けに開発された零式戦闘攻撃機“颱風たいふう”百二十機は一斉に編隊をバラけさせ、攻撃を始めた

零式戦闘攻撃機“颱風”は戦闘攻撃機というだけあって、対艦用の五百番爆弾を二発、または百番爆弾を四発、航空用酸素魚雷を一発のどれかを搭載し、その状態でも13.5粍重機関銃四門を搭載することが可能であり、それらを搭載した状態でも時速900kmという冗談みたいな速力を誇る、大日本帝国の隠し玉ともよべる戦闘攻撃機であり、見た目はT-7をスマートにして両翼の中程から機銃の銃口が飛び出ているイメージである
ちなみに、藍原大尉が乗る“颱風”は複座型の指揮官機であり、完全に痩せたT-7で前部座席で操縦し後部座席は無線統括や火器管制を司っている

これらは設計の段階から魔法が使われており、機体には風魔法を刻み込んでいるので空気抵抗を受けることが無く、この速力を確保しているのである
ちなみに、着陸の際だが空気抵抗が無いので止まらないのでは?と思った方も多いと思うが着陸の際は重力魔法を使って緩やかに垂直着陸するのである

さて、そんな三四三航空団は胴体下に五百番爆弾や航空魚雷を抱え、中華民帝国海軍の艦隊に三方向から近寄る

水上レーダーも働いてはいるのだが、先の巨大怪物蟹による尋常じゃない光景と被害を受けて多くの乗組員が混乱しており、殆どの兵員が持ち場を離れて救命ボートに逃げ込んでいるのである

砲術要員も射撃管制官もおらず、無人のCICでレーダーは真面目に三四三航空団の接近を伝えていた

両翼の航空機から魚雷が投下され、航空機はすぐさま離脱する

そして酸素魚雷が忍び寄る中、正面の航空隊は腹に対艦用の五百番爆弾を抱え、徐々に距離を詰めていた

やがて、中華民帝国海軍の艦艇が間近に迫り、腹に抱えた五百番爆弾が解き放たれた

慣性の力をまともに受け、斜めの起動を描きながら爆弾は自由落下を始め、中華民帝国海軍の艦艇の砲台や艦橋に次々と爆弾が突き刺さった
砲塔の弾薬が誘爆し、救命艇に乗り込もうとしていた中華民帝国海軍の兵士を根こそぎ吹き飛ばした

そこへ左右からの魚雷の挟み撃ちが襲い掛かった

ミサイル巡洋艦“龍山ロンサン”や駆逐艦“孔子”といった軍艦に命中し、艦底を食い破り艦内を爆風と熱せられた海水で蹂躙した

唯一、魚雷が命中しなかったのは大型巡洋艦“陝西シャンシー”だけであり、砲塔とVLS発射口が損傷しているが乗組員はまだ大半は無事で、未だ高い士気を保っていた

小日本シャオリーベンめ……やってくれたではないか!」
シュウ大佐が怒りのままに机を殴り、激を飛ばす

「あの忌々しい戦闘機を撃ち落とせ!たかがレシプロ機だ!SAMを全弾撃ってもかまわん!」

「了解しました。ミサイルハッチオープン」

「艦対空ミサイル一番から八番まで諸源入力完了!」

「撃てぇ!」

「ファイヤッ!」
損傷してないVLSの蓋が開き、八発の対空ミサイルが噴射炎と白い煙を撒き散らしながら飛び立つ

《こちら343の関野!噴進弾がケツについた!振り切れない!》

《おう!荒木野だ!噴進弾が命中して部隊が壊滅しザッーーー》

《やろう!ふざけやがって!》
さしもの343航空団とて、音速に近い速度で飛翔するミサイルから逃れるのは不可能だった

この“陝西”はイージス艦ではないので、一度に数機しか落とせないがそれでも強敵である
遥か上空からその光景を眺めていた藍原大尉が親の敵のように

「やろう!上等じゃあ!今にみておれ!山崎ぃ!“金剛弾”を撃つぞぉ!」
藍原大尉が後部座席の山崎少尉に合図する

「了解です!」
藍原大尉が座席の下に通された円筒形のパイプを二つに開き、自身の首に掛けていたボールペンほどの金属棒を差し込んだ

「装填よろし!」

「了解!」
装填すると山崎少尉が最大限の身体強化を自身に掛けて操縦桿の手前のレバーを引っ張る

パチンコのようなこの装置。弾頭には炎の第九階位魔法“迦楼羅焔かるらえん”が付与された“魔法金オリハルコン”があり、風の抵抗を無力化する風魔法が込められた“魔法銀ミスリル”の弾殻だんかくにして、弾芯には僅かばかりの魔法障壁が展開できる魔法が掛けられている

山崎少尉がパチンコのゴムを力いっぱい引っ張る

「照準……よし!弾道よし!安全装置解除!発射口開口よし!」
藍原大尉が最終確認を済ませ、巡洋艦“陝西”に対して正面を向いて真っ直ぐ飛行する
プロペラの真ん中、ハブと呼ばれるパーツが吹き飛び、発射口が口を開ける

「八式金剛弾、発射!」

「くらえ!」
山崎少尉がパチンコを離すと同時にVの字のゴムが伸縮し“金剛弾”が投出される

魔法の力により時速500kmを維持したこの金剛弾は、“陝西”の船体に突き刺さった

その瞬間。第九階位魔法が炸裂。アメリカ軍の空母を一撃で焼き払ったこの一撃は凄まじい威力であり、とても巡洋艦が耐えられるものではなかった

艦の上部構造物を全て一瞬のうちに融解させ、砲弾の誘爆や人間、有象無象の全てを呑み込み、船体自体は圧倒的熱量に溶かされると同時に爆風に圧されて融けながら海中に沈んだ

出来上がった水蒸気のキノコ雲は高々と空に立ち上り、かの原爆投下を思い起こさせた

垂直着陸で茹だった海面に降り立った藍原大尉たちは水上機に救難信号を送りながら煙草を咥える

「やったのぉ、山崎」

「やりましたね、大尉殿!」
風防をあけた二人はハイタッチした
+注意+
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