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絶望の光
雨が降っている――――――
深夜の雨が、霧のように景色を煙らせ滲ませている――――――
雑踏の賑わいや、イルミネーションの煌めきを孕んだ、アウトデュナミス連邦国第二都市|《イルシェイド市》の繁華街も、遠く離れてみれば不穏な静けさをもって、雨の夜に浮き立って存在している―――――――
市街地から約十数km程離れたなだらかに起伏する丘の頂上に、巨大な施設群がサーチライトで雨を照らし出し、その周囲は厳重に幾重にもフェンスで覆われていた。
その施設の一角――――アウトデュナミス陸軍第七兵器開発研究所の地下88メートルでは、今この時、雨が降っていることすら解りはしない。
“最後に外の景色を見たのはいつだったろう”
デュナンは激痛と悪寒に加え、時々薄れそうになる意識の最中、ふと思った。
(――――あぁそうだ、3週間前施設を移動するときに見た、あのちんけな生垣だ。まるで間に合わせのように植えられていた貧相な立ち木が、妙に今の自分とシンクロして胸騒ぎを覚えたんだっけ―――――)
その思考を断ち切るように、“異形の怪物”としか見えない大きな爪の生えた足が、2分前に自らが吹き飛ばした頭部の一部を踏み砕き、デュナンへと近づいてきた。
『よお“ルーザー”、これじゃあただの虐殺だな。一方的過ぎて達成感すらありゃしねぇ、害獣駆除でもしてる気分だぜ』
頭部から生えた角、全身鎧のような装甲に覆われた体、血と肉片がこびり付いた鋭い爪、御伽話に出てくる伝説の怪物そのもののように思われた。それにただ一つ相違するものは、残忍な欲望を漲らせた、あまりに人間的なその瞳だった。
翻って自分を見てみれば、まるでモザイクのように装甲化したその体は、まるで継ぎはぎだらけで出来損ないのアンドロイドの様だ。彼らのように完全な装甲化など出来ず、体力も底を尽きかけている――――――
まるで巨大な墳墓の中の様に無慈悲なコンクリートに覆われた高い天井と、400平方メートル以上はあると思われる広い地下軍事場には今、血生臭い凄惨な雰囲気が立ち込めていた。
辺りには内臓や血をぶちまけ原形すら留めない者や、かろうじて上半身の3分の1が残った状態で痙攣し続けている死体など、状態の差はあれ似たような残骸が20体ほどが転がっていた。――――高さ50メートルの天井から内臓を垂らしているモノも、もちろん含めて。
31人の自分達に対し相手は5人―――――
(半分以上やられたか……)
デュナン自身も右の腹部を深くえぐられ、千切れた筋肉や血管、そしてその合間に生物のように蠢くメタリックな“プラグマ”がチラチラと覗いていた。
視界が揺らぎ、荒い息遣いと共に自身の鼓動が早鐘のように鳴り響いているのを、どこか現実味を欠いた思いでデュナンは感じていた。
(変身し続けないと……ッ!!)
焦る気持ちで震える体に力を込めようとするが、この戦いが始まって数十分、逃げ回るだけで精一杯でとうの昔に体力を使い果たし、最早体が言うことを聞かない状態になっていた。
『オラオラァ、人間に戻っちまってるぜぇ!!――――そうなるとぉっっ!!!』
集中力が欠けた一瞬の隙をついて、伸びてきた巨大な手が素早くデュナンの首を締め上げ、徐々に力を加えてきた。
「がぁっっはぁっ!!!」
デュナンは大人に掴まれた赤ん坊のような状態で、相手の手を必死に外そうとするが、びくともしない。その間頸椎が嫌な音を立てて軋み、酸素を求め大きく口を開けながら見上げた天井が赤く歪み始め、視野が暗くなっていった。
(死ぬ…んだ……俺は――――――)
相手の腕を掴んだデュナンの手の力がゆっくりと抜けていった――――――その瞬間、
「デュナン!!!」
はっと失いかけた意識が戻ると同時に、デュナンは自身を見上げている相手の目をめがけ、自らの装甲化させた右足を蹴り出した。
『があぁぁッッ!!!』
両手で顔を覆いデュナンを放した男に追撃するように、2本の赤銅色の触手がムチのようにしなりながら、男の体を突き刺した。
「大丈夫か!?デュナン!」
激しく咳き込むデュナンへ、左腕に2本の触手をもち、部分的に装甲化した男が傍らに走り寄り、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「あぁ…がほっ!―――――ありがとな、“イサーク”」
「何簡単に諦めてんだよっ、おまえは!!」
その心配をした本人も、体中傷だらけだった。
ボサボサの黒髪に褐色の肌、意志の強そうな顔には赤銅色の瞳が今は怒りでギラついている。デュナンよりは装甲化出来ている体は、背中や両腕の後ろに暗い赤銅色のメタリックな突起が連続して突き出ていて、左腕の部分にはその突起から長い2本の触手が生え、今も自ら意志を持つかのようにゆらゆらと動いていた。
「奴ら何が“模擬戦”だ…用済みの俺らは死んで当然かよ!!」
デュナンはイサークから目を逸らし、咽喉をさすりながら、
「俺らは“完全体”じゃない…現に俺はもう…」と、弱々しく呟いた。
「諦めんのかよ!!?こんな…ゴミの様に潰されたいのか!!?お前は!!」
荒い息をしたままデュナンは返事をしない。イサークはそれを苦々しい思いで見下ろしながら、
「他の生き残った奴らと力を合わせれば――――…!?何だこれ!!?」
思案する声が不意に断ち切られた。
イサークが咄嗟に避けたその下には、プラグマ特有の機械と生物を合わせた質感の真っ黒な“木の根”の様な物が広がっていた。
それはまるで獲物を探す巨大な黒蛇のように刻々と広がり続け、近くの死体に到達するや、その死体を徐々に覆っていった。
根に飲み込まれた死体は、木の根と同じ黒色へと変化しながら覆い尽くされていく。
『ギャアァァァ―――――――ッッ!!!』
二人が振り返ると、それは今しがた倒した男の声だった。
男の潰された眼から細かな黒い根が伸び、それを取ろうと必死にもがいている背後から、まるで魚を捕える網のように広がった根が襲い掛かり、男は全身を根にはびこられながら、断末魔の叫びをあげのたうち回った。
とその時、赤色灯が回転しながら辺りを照らし、同時にけたたましいサイレンが響き始めた。
その刹那―――――――
デュナンとイサークは、突き上げるような地響きに足を掬われた。思わず膝をつきながら見上げたその先に、
「な、何だ…あれ――――――」
高さ50メートルはある天井に届きそうな程巨大化した、黒光りする枝葉の無い?大樹?のような形態をした怪物が出現し、真っ赤な口を開け咆哮した。
『ゴォアアアアァァ――――――――――――ッッッ!!!』
その咆哮は、だだっ広いフロア全体を揺るがし、見上げる二人を本能的な恐怖で刺し貫いた。
「ッ!!危ないっっ!!」「うぉっ!!」
デュナンがイサークに飛び掛かり避けた場所には、先程よりも太くなった黒い根が、コンクリートを侵食していた。
「――――――床を食ってやがる…」
イサークは顔色を失い、ごくりとつばを飲み込みながらさらに一歩下がった。
「…イサーク、あれ―――――」
デュナンが指差した先に、さらに成長した怪物が、とうとう天井に頭がつくまでに巨大化していた。
「もしかすっと…上手くいくか―――――?」
イサークがごくわずかな脱出への希望を抱いたその時、怪物が天井に向かい大きく口を開いた。
その先端が光り輝きながら光量を増しエネルギーが集中していく――――――
「おい…嘘だろまさか」「イサークっ!!伏せろぉっっ!!!」
音も無く振り続ける雨の夜景を、一線の光が空高く貫いた。
アリスはわずかな振動で目を覚ました。
その直後、揺れが大きくなると同時に窓がビリビリと震え出し、轟音が辺りに響き渡った。
思わずサイドテーブルの時計を見ると、時刻は午前一時を過ぎたところだった。
「ヴェシェル…何かしら」
『アリス、“プラグマ”が暴走しているわ』
「何ですって!?」
アリスの問いに答えたものは“ヒト”ではなかった。
彼女の枕元に横たわり、銀色の瞳で見上げているのは、尾を含めば人の腕より長くなる、鮮やかな紫紺色をした“トカゲ”だった。
しかしトカゲにしてはやけにごついウロコと、背中には二つの“突起”が存在していた。
アリスがベットから飛び起き、肩に飛び乗ったヴェシェルと共にベランダに出ると、周囲の人々も各々何事かと、窓やベランダから外を見ていた。
静かに降る雨の中、辺りに消防車のサイレンが鳴り始め、警察まで出動しているが、轟音の元は見えなかった。
「ヴェシェル、方向は」
しばらく何かを探るように黙り込んだヴェシェルは『あっちよ、南の方向』と答えた。
「見えないわね……」
『ここからでは遠すぎるもの』
するとその時ドアがノックされ、同じ年頃と思われる女性が現れ「アリス、リビングに来てくれ」と呼びかけた。
18、9才程の、鋼のように艶やかな、肩まである真っ直ぐな黒髪の女は、生真面目そうな顔立ちに、暗い銀のフレームの眼鏡を掛け、どこか硬質さを感じさせる白銀色の瞳には、隠しきれない緊張が走っている。
すらりとした高い背に、紺色の薄手のセーターに黒のスキニ―パンツをはき、そのピンと背筋を伸ばした姿勢の良さと相まり、どこか男性的な雰囲気を醸し出していた。
そしてその傍らにまるで影のように、子牛程はありそうな一頭の大きな黒いオオカミが、鋭い金色の瞳を光らせ静かに付き従っていた。
「ゾフィ、ヴェシェルが―――――」
「ああ、“ロエン”も同じことを言っていた、とにかく早く」
40畳はありそうな広いリビングに置かれた、革張りの大きなアイボリーのソファには二人の少女が既に待っていて、それぞれの場所に座っていた。
アリスとゾフィが入っていくと、16、7歳程の、柔らかそうな淡い白金の長い髪を二束のおさげにし、前髪が長すぎるためにその奥にある若草色の瞳が隠れて見えない華奢な少女が立ち上がり、不安げに白く細い手で、白地に花柄のパジャマの胸をつかみながら二人を見た。
そしてその肩の上にも、水色や黄色が鮮やかな“インコ”が止まっていた。
アリスはその少女の元に近づき、微笑みながら声をかけた。
「ユージェニー、大丈夫?」
小さく頷いた少女はどもりがちな細い声で、「す、すごい音だったね…ぐ、軍の施設だってビアンカが……」と言いながら、もう一方の少女を見やった。
そこには17、8歳程の少女がソファに胡坐をかいてだらしなく座り、ノートパソコンに向かい時々声を出しながら熱心にキーを打ち込んでいた。
短いこげ茶の髪に、大きめの太い赤茶色のフレームの眼鏡を掛け、萌木色の瞳で真剣にモニターを睨んでいる。上下灰色のジャージ姿で胸には“|LIBERATED AREA《解放区》”と書かれている。
その肩や周りにも、蜂というには大きすぎな感のする、それぞれ違う色をした3匹のスズメバチがいた。ビアンカはしばらくモニターに集中していたがアリスたちの存在に今気づいたかのように、
「今統合軍の第7研究所をハッキングしてるとこ、聞いてよこれ」と、楽しげにPCを向けてきた。
【カルファーブ基地へ支援要請、大型プラグマが実験中に暴走、地下施設を破壊し地上に出た模様。他にも何体か脱走したらしい、直ちに市街地に封鎖網を―――】
ゾフィが眉をひそめ「実験体だと…?」と呟いた。
「ここ、こっちに向かって…い、るの…?」
「さぁ――、でも“ジャズゥ”“カーラ”解るんじゃない?あんた達なら」
ジャズゥと呼ばれた、クレアの耳の裏の首筋にある小さな接続端子BrainGate―OutputDevice、通称“B―G・O・T(ビーゴット)”(※…ブレインゲートシステムに対応した様々な外部デバイスを接続するため、人工遺伝子により胎児期に他の器官と同時に発生するよう組み込まれた人造器官)に、尾針をケーブルのように長くして接続していたメタリックなその灰銀色の蜂は、
『判明。計4体が位置はバラバラながら移動中』と、低い声でややぶっきらぼうに答えた。
ビアンカのPCにジャズゥと同じように接続していたメタリックな黄緑色の蜂―――カーラは、
『各地に散らばる“アルディナ”からも、いくつか報告が入っています』と、こちらは丁寧な口調で報告した。
PCのモニターを覗いていたもう一匹の金色の蜂―――“ラートリ”が勢いよく飛び立ち
『いこーよ、ねぇ早くぅ!!』と快活そのものの様に、ユージェニーの肩にとまっている色鮮やかなインコの近くを、ぶんぶんと飛び回った。
そのインコ――“トゥーラ”はうるさそうに横歩きでラートリから遠ざかり、
『ラートリ一人でお出掛けになれば?美しいワタクシと違って、ちっこい貴女なら誰も見つけられませんもの』と、ツンと澄まして言い放った。
『なぁにおぅッ!?』チュピチュピブンブンと言い争うさまを尻目に、黒オオカミの“ロエン”が冷静に、『どうするのだゾフィ、指示を』と、問うた。
ゾフィはあごに手を当てて思案し「――――今動くのは得策とは言えないな。軍が出動しているこの時に我々が動くのはまずい、…これが今回の“異変”と関係しているのかまだ分からないしな―――――他の二人もそれが解かっていればいいが…」と、眉根を寄せた。
そう答えたゾフィを見ながらアリスは「ナタルは無理ね」と、即座に言い切った。
ビアンカはさもおかしそうに「あ~何が何でも突っ込んじゃうねぇ、あいつは。こんな時に外出中なんて、ぼく等も運が悪いよねぇ」と返した。
「ど、どどうしよう…ナ、ナタルが…」ユージェニーが青ざめたその横で、ゾフィは束の間意識を集中し“テレパシー”を送った。
すると〔はいは~い、何ゾフィ?〕能天気なほど明るい声がそれに応えた。
ゾフィは他のものにも意識を融合し、会話に加わるよう目配せした。
〔分かっているんだろうな、今何をすべきか――?〕
〔えぇ~良く聞こえないなぁ~??〕
〔ふざけるなっ、これは電話じゃない。お前は…!〕
「あぁ~ゾフィ?」さらに言いつのろうとしたゾフィを、ビアンカが遮った。
「何だ!」振り返ったゾフィに対し、ビアンカはPCのモニターに市街地のどこかを移動中の赤い点を示した。
「もう遅いみたいよ?」笑いをこらえながら、ビアンカは肩をすくめた。
アリスはさもありなん、という様に天を仰いで嘆息し、ユージェニーはさらに青ざめた。
ゾフィは頭痛を感じるような錯覚を覚えつつ額に手をあて、思い切り眉をしかめながら
〔―――――もう向かっているんだな?〕
〔ごみんニ~ッ♪ゾフィ!!〕と、一切悪びれていない声が返ってきた。
ゾフィは瞬間覚えた殺意を抑えつつ、PCのモニターを見て「市街地を…あぁっくそっ!南下中だな――――――」と、忌々しそうに吐き捨てた。
「もう止められないわね…」
「じゃあさー誘導すればいいんじゃない?さすがに研究所行くほど馬鹿じゃないでしょ」
〔うぉ~い聞こえてんぞ~!〕
「ゆ、誘導って…?」
「今実験体の位置は分かってるわけっしょ?それを精査して伝えようよ。まぁ軍が追いつくのも時間の問題な訳だし」
〔あ~うん、そうしてもらうこっちも助かるわ~〕
「―――――早いに越したことはない…な。頼めるかビアンカ?」
「いいよー、カーラぁ、そっちの情報こっちにちょうだい」言いながらビアンカは早速作業を開始した。
ユージェニーはそれを心配そうに見ながら「だ、大丈夫かな…あっ、シ、“シエラ”に連絡…」と言いかけた。
と、不意にハスキーな声が全員の頭の中にこだました。
〔おい、状況はどうなってる?〕
〔あぁ、シエラ、今は動くな危険すぎる〕
〔けどよー、今あたしの近くに来てんだってよ。なぁ、“アラクネ”〕
するとさらに違う声が答えた。
〔あぁ、私達は今ちょうどマキャベリ地区にいるんだけど、研究所の方から爆発音が聞こえて地下から出たら、普段と違うプラグマの反応があった。そのうちの一つはこっちに向かっているみたいだ〕と答えた。
「ビアンカ、どうだ?」
ゾフィが問うと、ロエン、カーラ、ジャズゥと共にプラグマの位置を精査していたビアンカは、
「アルディナ達の集合意識を統合して取れたデータをGPSに乗せれば…っはい出来たっと!!カーラ、アラクネと“オランプ”にこのデータ送ってやって」
『分かりました』
アリスは示されたデータを見「ナタルのは――――市街地から外れたところね…シエラは――――本当に近いわね…あと二つは――――」と呟いた。
ビアンカが同じようにモニターを見つめ「たぶん遠いんじゃないかなぁ?反応が薄くて判らないみたいだね」と言いながらあごをさすった。
〔ところで二人はどうだった。―――――“調査結果”は?〕ゾフィは自分たちの今回の主題である“プラグマの異変”の件で、調べを進めるために外出していた二人にその結果を尋ねた。
〔ダメだな、あたし等が調べた場所じゃあ何の異変も感じ取れなかった。住民は何も気付いてないぜ〕シエラはため息交じりに言った。
〔あ~あたしの方も収穫なし~、本当にここで当ってるのかなぁ?〕ナタルも珍しく疲れた様子で嘆き、
〔だいたいさあ、“プラグマ製品の不調”ってだけじゃあねぇ。そりゃあこの市は異常に数値が高いけど、結局今回の事が原因じゃないの?〕と続けた。
しかしアリスはそのナタルの返答に眉根を寄せた。
〔でも…異変はこの市の各地で、何年も前から起きていたでしょう?さっきの軍の通信では何かの被検体の事故のようだった…関連があると決めるのはまだ早いわ〕
ゾフィも腕を組み、アリスと同じように難しい顔をしながら続いた。
〔まだ我々が此処に到着して1ヶ月に満たない、が…あまりにも情報が少なすぎるのは確かだな。私達のアルディナをこれだけ市に放っているのに、ほとんど何も解らないなんて―――今回の爆発がもし私達の調べている事と無関係なら、調べるだけ無駄という事になる〕と言うと、ナタルが食い気味に〔えぇ~それは面白そうだから調べようよー!なんかいい予感がするんだよねっ!〕と打って変わって弾んだ声で異を唱えた。
ゾフィは眉根を寄せ〔お前のは単なる好奇心だろうナタル!〕と叱咤すると〔うんっ!!〕と元気のいい返事が返ってきた。
ゾフィはその能天気な返答に青筋を立て、その様を横で見ていたアリスはぷっと吹き出し、取り繕う様に話題を戻した。
〔まあ…アウトデュナミスが関わっているのなら“マキナ派”だって関わっているかも知れない。今回私達が調べている件との関連も含めて、やっぱり調査は必要だわ、ゾフィ〕と頭の中で会話しながら、目の前のゾフィにねっ?、と笑いかけた。
ゾフィは仏頂面でそれに応えながら〔…アリスの言う事も一理ある。本来の調査が進んでいない以上止む負えないな〕と言うと〔やったー!〕とはしゃいだナタルの声がゾフィの頭に鳴り響いた。
〔じゃああたし等の件との関連も含めて、ちょっくら行ってくるわ〕
〔わーい楽しみ~!飛ばすよ“パシュト”!〕シエラとナタルはそれぞれ返事をした。
PCに向かい自分の作業に没頭していたビアンカは顔を上げ「準備完了、いつでもOKだよ」と、ゾフィに向かいに笑いかけた。
〔アラクネがデータを受け取ったぜ、行ってみるわ〕
〔こっちもデータを受け取ったよ――っ、ンじゃ行って参りま~す!〕
〔待てナタル!!深追いは絶対にするな!軍と鉢合わせになれば―――――〕
〔だ~いじょうぶだってぇ、心配性だね~。ゾフィハゲるよ?〕
〔ッ!!!―――~~~ッッ何の根拠でそんな能天気なんだお前はぁっっ!!〕
そこへ〔ナタル〕と、アリスが割って入った。
〔はぁい?〕
〔失敗して軍に捕まるなんて無様な真似――――もちろんしないわよね?〕
少しの間が空いて〔―――誰に言ってんの、アリス…する訳ないじゃん―――このあたしが〕と、まるでアリスの言葉が自分を侮辱したとでも言う様に、先程までとは違う真剣な声音で、ナタルは傲然と言い放った。
アリスはゾフィに向かい、いたずらっぽい目つきで目配せしながら〔そう、ならいいのよ〕と、澄まして答えた。
〔二人とも、くれぐれも慎重に行動するんだぞ。アウトデュナミスはまだ何とかなる――――だがマキナ派もいることを忘れるな。それと、アラクネとオランプに状況をリアルタイムで私達に伝えられるよう、“接続”は続けさせてくれ〕
〔はいよ、ゾフィ母さん〕からかい気味に言い、シエラはテレパシーを一旦閉じた。
〔いってきま~~す!ゾフィママ――っ♪〕ナタルは元の能天気な口調に戻りながら言い、同じようにテレパシーを閉じた。
ゾフィは盛大な舌打ちをし、「誰がママだっ!」と吐き捨てた。アリスはくすくすと笑いながら、「ご苦労様、ゾフィ」と同情をこめて労った。
そして口調を改め「―――でも…軍やマキナ派に発見されない為にも、私達でサポートしたほうが良いんじゃないかしら?」と続けた。
ビアンカもモニターから振り返りながら「ぼくも賛成。もう軍も動き出してるし」と同調した。
「わ、私も…心ぱ、配だから…」と言い、ユージェニーも自信なさげに同意した。
「ナタルもシエラもバイクだ。小回りは利く――――だが私達も何もしない訳じゃない」
ゾフィは決意を込めた視線で、雨の降る街並みを見つめた。
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