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Stylish 作者:月乃宮

第一話

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2. クラスの友達

 ぼんやりしていたら春休みは瞬く間に過ぎてしまった。四月に晴れて星華学園高等部に入学して早一週間。
 クラスメートは真面目で育ちの良さそうな連中ばかりだった。中学はサボってばかりいたあたしは、慣れない環境と雰囲気にまだなじめそうになかった。
 ――ま、いいけどね。中学の頃だって浮いてたしな。
 帰りに駅のホームで電車を待っていると、ふと視界に入ったのは電車待ちの列の先頭に立つクラスメートだった。コイツの名前は知っている……井沢優香。あたしの髪を切った美容師の妹だ。
 井沢優香はパッチリ目の美人で、長いフワフワの髪を垂らしていた。話したことは一度もないけど、すっかりクラスに溶け込んでいた。
 それにしてもコイツが一人でいるってめずらしい。というのも何度か駅で会ったけど、いつも数人の友達と一緒にいるのを見たから。
 ホームに立つ井沢優香のまっすぐのびた背筋をぼんやりながめていたら、その背がクルリとひるがえったのでバッチリ目が合ってしまった。井沢優香は笑顔を浮かべると、ずっと後ろに立っているあたしのもとにやってきた。
「伏見さん、だったよね? 家こっちの方角なの? 最寄駅はなに駅?」
 矢継ぎ早に質問され、あたしはあっとうされながらも、
「……桜町駅」
 とワンテンポ遅れて短く答えた。こうして並ぶと、井沢優香はあたしよりずっと背が高かった。そういや兄貴も高かったな。
「私と同じだね! ところで伏見さんの髪、うちの兄貴がカットしたんだよね? 兄貴ってば『顧客情報だから』って、なかなか名前教えてくれないから、伏見さんのことだって昨日聞いたばかりなんだよ? まさか一週間同じクラスにいたのに声掛けられなくってゴメンね」
「いや別に……」
 あやまられる意味が分からないけど、井沢優香はごめんと言う割にはちっとも申し訳なさそうで、逆にニコニコとうれしそうだ。
「うちの兄貴がね、伏見さんのことめちゃくちゃカワイイ子だって。髪が長くてもカワイイけど、俺がカットしたらもっと可愛くなったって自慢してたよ。でもホント可愛いし、顔がちっちゃくてスタイルいいし、うらやましー」
 こんな美人に可愛いだのうらやましいだの言われると、気恥かしくて返答に困ってしまう。押し黙ったまま突っ立っていたが、井沢優香はさして気にする様子もなく、あれこれ学校のことやら家族のことやら話かけてきた。やがて電車がホームに滑り込み、あたしたちは一緒に帰ることになった。
 こうしてクラスメートと一緒に帰るなんて初めてのことだ。けど嫌な気はしない。
「今日帰ったら、伏見さんと友達になったって兄貴に自慢してやろうっと」
「なんで?」
 井沢優香は意味深な笑みを浮かべた。
「そりゃ兄貴がうらやましがるからよ。伏見さんのこと、ずいぶんと気になるみたい。どう思う?」
「どう思うって?」
 あたしが首をひねると、井沢優香はパアッと晴れやかな笑顔を咲かせた。
「ああもう、兄貴の気持ちも分かるなあ! ホント伏見さんって可愛いもん。同じクラスになったわけだし仲良くしようね」
 どうやらあたしは初めての友達が出来たらしい。

 それからと言うもの、井沢優香はよくあたしと一緒にいるようになった。もちろん、お昼もコイツに引っぱられて屋上で食べることになったし、休み時間は大抵なんとなく一緒に雑誌めくったりおしゃべりしたりする。
 井沢優香と一緒にいたら、自然と他の女子にまで声をかけられるようになった。今までこんな風にクラスメートと話したことないし、慣れなくてぎこちない、気のきかない返事になってしまう。だけど皆、そんなあたしを悪く言わなかった。いつも隣にいるようになった井沢優香は、そんなあたしの様子をどこかうれしそうな顔でながめている。
「ねえ真紀、今日の帰り付き合ってよ」
「いいけど?」
「うちのママに『ALICE'S HALL』ってケーキ屋さんのオレンジケーキを買ってきてって頼まれているの。真紀、食べたことない?」
「ないけど……」
「あ、じゃあ予定が無いなら、帰りにそのままうちに寄っていかない? 一緒にケーキでお茶しようよ」
 その言葉に半分当惑、半分嬉しい気持ちが入り混じる……友達の家に呼ばれるなんて初めてかもしれない。
 だって昔つるんでいた不良仲間とは、どんなに誘われても決して家とかアパートとかへ行かなかった。なぜかというと色んな意味で危険だったからだ。法に触れるようなことしてるって噂あったし。あたしはひねくれて学校サボっていたけれど、ケーサツの世話になる気はサラサラ無かった。
「ねえねえ、うちにおいでよ。ママも真紀に会わせたいし」
 井沢優香の家は、きっと安全だ。コイツの世界はあいつらの世界とはまるっきり違う
「うん、いいよ」
「やった! 兄貴もきっとよろこぶよ! ていうか、真紀が急に来たらすっごく驚くんじゃないかなぁ~フフフ、今から楽しみ」
 少し興奮気味の井沢優香の隣で、あたしはやはりなんて返したらいいか分からず無言で突っ立っていた。

 井沢家は結構デカイ一軒家だった。西洋風の鉄門が囲む敷地内には花が咲き誇り、まるで一枚の絵になりそうだ。
「おかえりなさい。あらまあ、お友達も一緒ね。いらっしゃい」
 玄関で出迎えてくれたのは、井沢妹そっくりの美人だった。
「伏見真紀ちゃん。ほら覚えてる? 昨日兄貴が話してた、髪を切った子」
「まあまあまあ、あなたが真紀ちゃんね!? 本当に真人まさとの言ってた通りだわ、可愛らしい子ねえ」
 井沢母の迫力に押されながら玄関をあがった。長い廊下を通って居間に入ると、すでにお茶の仕度は整っていた。
 紅茶を煎れる間も、井沢母はひっきりなしにあれこれ他愛もないことを聞いてくる。ついに井沢優香が、
「ママってば、あんまり色々質問するから真紀がびっくりしちゃっているじゃない」
「だって優香が高校入学して、初めて家に連れてきたお友達だもの。しかも真人のお得意様だって言うじゃない」
 ――やっ、お得意様どころか、一度カットしてもらっただけなんだけど。
 なんて説明したらいいかわからず、まごまごしていたら、タイミングよく玄関を開く音と、続いて「ただいま」っていう声が聞こえた。
「あ、真人も帰ってきたわね」
「兄貴、お客さんきてるよー」
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