朝鮮王朝時代の文官・李恒福(イ・ハンボク)について伝えられている話がある。李恒福の自宅の庭で柿の木が大きく育ち、枝が隣家にまで伸びた。隣家の召し使いがその木の柿をもいでいるのを見て、李恒福は隣家を訪ね、主人のいる部屋の障子紙を破ってこぶしを差し出し、こう問いただした。「この手はあなたの手ですか、私の手ですか?」。主人が「なんと行儀の悪い少年だ。その手はお前の手だろう、どうして私の手なのか」と答えると、李恒福は「それならあなたのお宅がもいだ私の家の柿を返してください」と言ったという。
「南橘北枳」という故事成語もある。昔、中国の楚の王が斉の使者である晏嬰をからかおうと、斉の出身の罪人を連れてきて「斉の者は盗みが性分なのか」と尋ねた。すると晏嬰は「江南で育つと(美味な)橘(たちばな)は、江北に植えると(食べられない)枳(からたち)になります。斉では盗みが何かさえも知らなかった人が楚に来て盗みをするのは、楚の風土のせいでしょう」と答えた。
兄弟の経営権をめぐる対立を機に、韓国でロッテグループが日本企業なのか、韓国企業なのかという論争に火がつき、「反ロッテ」「反財閥」ムードが広がっている。ロッテグループは「根」に関心を持つ李恒福に言わせれば日本企業、企業の「風土」に着目する晏嬰に言わせれば韓国企業だろう。
株主の国籍を基準にすると、日本企業が韓国ロッテグループの持ち株会社に当たるホテルロッテの大株主であるため、韓国ロッテは日本企業だ。しかし、この日本企業の株主は韓国国籍を捨てていないグループ創業者の辛格浩(シン・ギョクホ、日本名:重光武雄)総括会長と、韓国国籍を持つ長男の辛東主(シン・ドンジュ、日本名:重光宏之)元ロッテホールディングス(HD、本社・東京)副会長、次男の辛東彬(シン・ドンビン、日本名:重光昭夫)ロッテHD副会長(韓国ロッテグループ会長)のため、韓国企業ともいえる。日本では、日本ロッテが日本企業ではないとの批判が出ているという。