本日(2015.8.14)「ネットの電話帳」をプラバシー侵害で提訴しました。
以前は、電話を持っている以上、電話帳に氏名、住所、電話番号が掲載されるのは当たり前と考えられていました。
ところが、プライバシーに関する社会の意識の変化に伴い、電話帳への掲載を望まない人が多くなり、20年くらい前から、NTTは、掲載を希望しない人の情報は、電話帳に掲載しなくなりました。
そして、電話帳は、毎年、新しいものが発行され、古い電話帳は廃棄されるのが通常なので、一度、掲載中止の措置をとれば、第三者が10年も前の古い電話帳で電話番号を調べて電話をしてくる、ということは、普通はあり得ないことです。
ところが、インターネットの発展に伴い、大きな問題が出てきました。
「ネットの電話帳」というサイトが、10年前、15年前の古い電話帳のデータを網羅的に収拾して、これをネットで公開するようになったのです。
その結果、電話帳には自宅の電話番号を載せていないはずなのに、第三者に電話番号を知られて執拗に電話をかけて来られるなどの被害が続出し、中には、自宅にまで押しかけて来たりといった、ストーカーまがいのことをされて困っている方もあるようです。
では、このように過去の電話帳から情報を取得してネットで公開する行為は許されるのでしょうか。常識的に考えて、氏名、住所、電話番号といった個人情報を本人の承諾なく公開する行為はプライバシーの侵害として許されないはずですが、「ネットの電話帳」の主宰者は、【 ネットの電話帳が適法である理由】 を幾つか掲げて、適法だと主張しています。
いずれも、とるに足りない主張なのですが、誤解して、電話帳から削除することを諦めておられる方も多いと思いますので、以下に、その主張を掲げ、どこが誤っているのかを、説明します。(なお、下記のBは、「ネットの電話帳」の主宰者が明示的に主張しているわけではないのですが、おそらく、こういうことを言いたいのだろうと推察して掲げたものです)
@「本サイトに掲載されている情報は、 過去にハローページにより公に出版された情報をそのまま利用したものであり、 個人情報保護法の規制を受けません。」との主張
削除請求は、個人情報保護法に基づくものではなく、人格権としてのプライバシーの権利が侵害が侵害されたことを理由とするものです。
プライバシーの権利は、個人情報保護法が成立する遙か以前に、「宴のあと」事件(昭和39年9月28日東京地裁判決)で初めて認められ、その後、掲示板プライバシー侵害事件(平成11年6月23日神戸地裁判決)などを経て、権利として確立されたものです。
従って、「個人情報保護法の規制を受けません」と言ったところで、削除請求を拒む根拠にはなり得ないのです。
A「電話帳の掲載情報は、単に事実を羅列したものあることから、『思想又は感情を創作的に表現したもの』」ではなく、著作権法上の著作物に該当しません。」との主張
これに関しても、情報を掲載された個人からの削除請求は、著作権侵害を根拠とするものではないため、「著作権法上の著作物に該当しません」と言ったところで、法的には、何の意味もありません。
電話帳を発行したNTTが著作権侵害を理由に削除請求をするには、電話帳の情報が「著作物」と認められる必要がありますが、これは、個人からの削除請求とは無関係なことです。
B「プライバシー侵害は、公になっていない情報について成立するものであり、一度でも過去に電話帳に掲載された情報については、プライバシー侵害の余地がありません。」との主張
一度でも公になった情報はプライバシーとして保護されないというのは誤りです。
掲示板プライバシー侵害事件(平成11年6月23日神戸地裁判決)では、職業別電話帳に掲載されている情報であっても、当該電話帳に掲載した目的と無関係のネット上の掲示板に無断で掲載することは、プライバシー侵害に該当するとの判断を示しています。
目次へ
■
インターネット上の誹謗中傷、プライバシー侵害に悩む方に朗報です。
インターネット上に存在する、名誉毀損、プライバシー侵害のサイトに対しては、人格権に基づく削除請求をすることができます。
そのようなサイトの数が限られた場合であれば、個別に削除の申し入れをしたり、個別に削除請求の裁判をすることによって、全てを削除することも可能です。
ところが、「ニュースまとめサイト」「2チャンネルログ保存サイト」「ブログ」などでネット上に情報が拡散し、名誉、プライバシー侵害のサイトが多数存在する場合は、その全てを削除することは現実的には不可能であり、仮に削除することができるとしても、膨大な労力、時間、費用を要することになります。
ただ、こういったサイトも、グーグル、ヤフーなどの検索サービスがなければ、ただ存在するだけであり、一般の人の目には触れません。サイトを見るには、そのサイトのアドレスを知っている必要があるのですが、アドレスを知っている人など、皆無といっていいからです。
ところが、グーグル、ヤフーなどの検索サービスがあれば、特定の個人の名前などで検索すると、検索結果として、サイトのアドレスや、サイトの内容の一部を抜粋したもの(「スニペット」と言います)が表示され、多数の人の目に触れるのです。
裏を返せば、仮に、多数のサイトが存在していても、グーグル、ヤフーの検索結果として表示されなければ、ネット上では、存在しないに等しく、人々の目に触れることはないので、実際上は、名誉、プライバシー侵害は、ゼロと言えないまでも、極めて限定的なものとなります。
そうだとすると、個別にサイトの削除をする代わりに、グーグル、ヤフーに、そのような検索結果の表示をすることを禁止するのが、名誉、プライバシーを護るのには効果的ということになります。
ところが、これまで、グーグルやヤフーは、検索結果は、検索プログラムが機械的、自動的に表示するものであって、グーグルやヤフー自体が、名誉毀損、プライバシー侵害に当たる情報を表示しているのではないという理由で、検索結果の表示の削除を拒否してきました。
これに対して、このようなグーグル、ヤフーの主張は認められない、すなわち、名誉毀損、プライバシー侵害の情報は、検索結果としての表示であっても、検索サービスの会社の意思に基づく表示であり、そのような表示は許されないとする裁判所の判断が、昨年10月と今年の2月に、相次いで示されました。
一つは、グーグルに削除を命じた東京地裁の仮処分決定(平成26年10月9日)であり、もう一つは、ヤフーに関する大阪高裁の判決(平成27年2月18日)です。
東京地裁決定については、毎日新聞に詳しい解説が出ているので、こちらを参照して下さい。 【 毎日新聞 2014.11.9】
大阪高裁の事案は、執行猶予判決が出たにもかかわらず実名で検索すると逮捕歴を記載したサイトの内容が表示されることから、ヤフーに対し、検索結果の表示を行わないことを求めた事案です。
第1審の京都地裁(平成26年8月7日)は、ヤフー自身が逮捕歴の表示をしているのではないとして、請求を棄却しました。
これに対し、第2審の大阪高裁は、以下のとおり、ヤフー自身が逮捕歴を表示したものであり、検索サイトであるからといって、検索結果の内容につき責任を免れることはないとの判断を下したものです。
被控訴人は,本件検索結果の表示のうちスニペット部分につき,自動的かつ機械的にリンク先サイトの情報を一部抜粋して表示しているにすぎず,被控訴人が表現行為として自らの意思内容を表示したものということはできず,名誉毀損となるものではない旨主張する。
しかしながら,その提供すべき検索サービスの内容を決めるのは被控訴人であり,被控訴人は,スニベットの表示方法如何によっては,人の社会的評価を低下させる事実が表示される可能性があることをも予見した上で現行のシステムを採用したものと推認されることからすると,本件検索結果は,被控訴人の意思に基づいて表示されたものというべきである。
このように、大阪高裁は、検索結果を表示する行為が名誉毀損となりうることを認めながらも、逮捕後2年しか経ってない段階での本件逮捕歴の表示は、公共の利害に関することであり違法性が阻却されるとして、ヤフーに対する削除請求を棄却しています。
既に執行猶予判決から2年近く経った段階でも逮捕の事実の表示につき違法性が阻却されるという大阪高裁の判断は、社会内での更生を期待して刑の執行を猶予した刑事裁判所の判断を蔑ろにして、ネット情報による過度の社会的制裁を合法化することによって更生を妨げるものです。
最高裁では、執行猶予制度の刑事政策的な意義とネット社会の状況を十分に踏まえた上で、高裁判決が是正されることが、期待されます。
大阪高裁の事案では、上記のように逮捕歴の表示につき違法性が阻却されるとして、結果的に、名誉毀損は成立せず、ヤフーに対する削除請求は認められませんでした。
しかし、大阪高裁の判断の枠組みを前提にすれば、明らかな誹謗中傷、名誉毀損、プライバシー侵害については、検索サービスの会社に対する削除請求が認められることは、間違いありません。
その結果、名誉毀損、プライバシー侵害の情報がネット上に多数拡散している場合でも、個別の削除を求める必要はなく、ヤフー、グーグルなどの検索サービスの会社を相手に削除を求めれば足りることになります。
この意味で、今回の大阪高裁の判決は、ネット上の誹謗中傷、プライバシー侵害に悩む人たちにとって、画期的な判決と言えるでしょう。
大阪高裁判決は、東京新聞で報道されているので、こちらを参照して下さい。 【 東京新聞 2015.2.19】
ネット情報の削除に関しては、この問題の第一人者であり、東京地裁決定の債権者代理人をされている神田知宏弁護士の ブログ【 IT弁護士カンダのメモ】を、ご覧下さい。
また、逮捕歴などの表示など、検索サービスの発展に伴う諸問題に関しては、大阪高裁判決の控訴人代理人である島崎の【 グーグル監視委員会(仮)】
を、ご覧下さい。
目次へ
■