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18話 仮説の確証。
ワッペンを探さなかったら、タケヤが夕方、わざわざ僕の部屋に来た。
「フジノ、ワッペン」
タケヤは、なんか変だった。
「ああ。探してみるから」
「つっか、お前の部屋入っていい?」
訊きながら僕の返事も待たず、入ってきた。強行姿勢に、少し不快だった。
「ワッペンくらい、どーだっていいだろ」
僕が言うとタケヤはうなずく。
「ああ。ワッペンくらいどーだっていい」
あっさり、ワッペン目的で来たのではないと認めた。
「じゃ、どうしたの?」
「お前、キサラギとどーなってんの?」
タケヤの問いに、言葉に詰まる。
「カキタが、俺んとこに相談に来た。フジノがキサラギの部屋から出てきたって」
冗談ばかり言っているタケヤのくせに、やけに真剣な顔だ。
「……こないだ、キサラギに食事持って行ったときから、キサラギの話を聞いてるんだ」
素直に言う気はなかった。適当にごまかす。
「……服、脱いでか?」
タケヤの問いに息が詰まる。完全にバレてるな……。
「こんな聞き方、卑怯とは思うが、カキタの話じゃ、お前、キサラギの部屋から出てきたとき、シャツのボタン止めてなかったそうだな?」
タケヤの言葉に、僕は黙っていた。どんなことを言っても否定できないと分かった。……だって、事実だからだ。
「まぁ、言いたくなけりゃ、言わなくていい……カキタも口止めした。他に言わないと思う」
タケヤは苦笑する。
「余計なお世話かもしれんけど、気になってなぁ。サイインも死んですぐだし」
「サイインは関係ない!」
つい、声を荒げた。タケヤはニヤリと笑った。……仮説の確証をつかんだようだった。
「まぁ、なにがどうだって言う気はない。でも、ここは閉鎖空間だから、ちったぁ世間体気にしろよ」
タケヤの言葉に僕は返事ができなかった。……タケヤは、全部見抜いているようだった。僕なんかより、ずっと人間関係に器用ないいやつだ……わざわざ僕に忠告に来てくれたのだろう。余計なお世話だと思うと同時に、ありがたかった。
「じゃ、ワッペンの紛失届取りに行って、再発行手続きしてくるわ」
タケヤは部屋を去ろうとする。
「タケヤ」
思わず呼び止めた。
「なんだ?」
「僕は、どうしたらいいんだと思う?」
僕が言うとタケヤは笑う。
「知るか。そもそも、どーなってんのか知らねぇし」
僕はタケヤにイスを示した。タケヤは座る。僕は自分のベッドに腰掛けた。
「絶対、誰にも言うなよ」
僕は念押しする。
「ああ。遺書にも書かねぇぜ」
タケヤは冗談でうなずいた。ここで遺書なんて書いてるやつなんていない。規定では家族に遺書を残せることになっているが、縁起が悪いからだ。遺書を書くやつなんかと一緒に出撃したくない。戦いは、生きて戻ってナンボだ。
「キサラギと……」
いざ、話そうとすると、言葉に詰まる。この施設では、この手の会話は皆無だ。なんたって、ここのやつらには性欲がない。
「あー……なるようになったんだろ?」
タケヤが目をそらしながら言う。
僕は赤面してうなずいた。
「本当は、僕はサイインの代わりなんじゃないかと思う」
吐き出すように言った。
「そりゃ……また……気の毒に」
タケヤが困った顔をした。
「代わりなら、代わりでいいんだ」
僕が言うと、タケヤは驚いた。
「いいのかよ……」
僕はうなずいた。僕とキサラギは言葉もなくはじまった関係だ。
「どんな理由でも、しがみつかれたら、僕はもうキサラギを拒めないよ」
僕は笑った。それは事実だった。キサラギの熱を、柔らかさを知ってしまっている。依存症になりそうなほど甘美なのだ。
「でも、それじゃ、いけない気もしてる」
僕は心の底に溜まっていた本音を吐く。欲望だけに支えられたアンバランスさを感じているのも、また事実だった。
「あー」
タケヤは、本当に困った顔をしていた。
「……ごめん。俺には分からない。そもそも、俺だったら、代わりの時点で無理だし。本当ごめん」
謝られた。
「……そうだね」
僕はうなずいた。以前の僕ならタケヤと同じで、誰かの代わりなんて無理だったと思う。
つづく。
男子寮でこーゆーシーンは外せません!キリッ!タケヤとカキタは『お前らもー付き合っちゃえよ』な仲良しさんであって欲しいです。無駄に並べて書かれてて欲しいです。
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