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22話 あの頃の混乱。
「黒髪、変か?」
夜、キサラギの部屋を訪ねると真っ先に訊かれた。自室では、さすがにタオルをはずしていた。
「いや、変なことはないよ」
変……ではない。違和感はあるけど。
「カキタが……清楚系とか、言うし」
キサラギは恥ずかしそうにしていた。
「確かに、カキタの発言は変だったね」
カキタのこと、お坊ちゃんかと思ってたけど、ただの天然かもしれない。
「早く戻したい」
キサラギは頭を抱える。こんなにまごまごしたキサラギは初めて見る。
「そんなに黒髪、嫌?」
訊いてみたら、何度もうなずいた。
「落ちつかない」
キサラギは言った。確かにキサラギは立ちっぱなしだ。自室に鏡があるわけでなく、黒髪の自分の姿は見えないはずなのに、ずっとソワソワしていた。戦場ですら不敵に笑う男が、髪色一つでこの態度である。
「いつから金髪なの?」
「ここ来る前から」
……中学生の頃である。不良学生だったのかもしれない。やけに強いし……金髪学ランでケンカに明け暮れるキサラギを勝手に想像したが、しっくりこない。
「……ねぇ、キサラギが中学生のときはトヤ政権の混乱期じゃない?」
僕が小学生の頃だったが、よく覚えてる。トヤ大改革と名づけられたマニフェストで、政権交代をしたが、突発的に行われたトヤ大改革は実際には機能せず、国民生活は混乱に陥った。特に印象的なのは、出荷規制で小売店から食料品以外が消えた。棚がガラガラになったのを覚えている。国内では暴動一歩手前、と言われていて、外国では、『なぜこの状況でクーデターが起きないのか?』とも言われたらしい。
「そうだな。俺、混乱期のさなかにここに来たんだが、結局、あの頃の混乱はいつ終結したんだ?」
「あれは……すぐ終わったよ。総辞職の後の総選挙で元に戻った。けど、あの頃、出荷規制で毛染めなんかなかったよね?」
「消毒液使って脱色してた。ここに来てからも、最初は消毒液だったけど、今はちゃんと染髪剤使ってる」
キサラギの言葉に驚いた。消毒液で脱色ができることが初耳だ。
「……なんで、金髪にこだわるの?」
僕の問いに、キサラギは苦笑した。
「そんなの、どうだっていいじゃないか」
「いや……僕、キサラギのこと、全然知らないから」
僕の言葉に、キサラギは黙って微笑んでいた。どうにか、キサラギの話を聞けないかなと思った。もっともっとキサラギを知りたい。
「いいじゃないか。知らなくたって」
キサラギはベッドに腰掛け、ころんと寝転がった。
「知らなくたって、分かり合っていけるだろ?」
寝転がって僕を見る。黒い髪が無防備にシーツに広がる。なんだか、いつもより幼く見えた。まごまごした態度もあいまって大人しくも見える。カキタが清楚系って言っていたのも、なんとなく理解できる。見慣れてきたら、これはこれで魅力的だ。僕は、その髪を指先で弄ぶ。
「黒も似合ってるよ」
意地悪のつもりで言った。案の定、キサラギは目をそむけた。
「……俺は、金髪の方が好きだ。視察が終わったら、すぐ戻してやる」
すねたように言う。
髪に唇を寄せた。いつもと違う、フルーツ香料に似た匂いがした。
「黒でも金髪でも、僕はどっちでも構わないけどね」
どっちだってキサラギだ。
戦場を勇ましく駆ける死神も、ベッドで無防備に横たわる姿も、キサラギだ。
きっと、まだ僕の知らないキサラギがいるのだろう。もっと知りたい。
つづく。
当作品は架空の話でございます。特定のなにかを批判する気はありません。あと、消毒液で髪を脱色してはいけません。2次元は2次元です。3次元とは違います。読者の皆様方、ご自愛くださいませ。
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