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彼女は、『ヒト』のきもちが分からない
彼は結局、涙を流して美味しいといいながらその弁当を食した。
それから語った会話は、
とりとめもないテレビのお笑いタレントのゴシップだったり、
学校に伝わる七不思議だったり、
今、流行りのゲームの感想だったり、と。
多分、どれも全く意味なんてなくて、意味も分からなくて。
でもそれが、彼と交わした最後の語り合い。
私が、断罪人形ではない只の高校二年生の女子であるベリー・グレイナーとして話した、唯一の全く仕事と関係のない異性との。
他愛もない記憶。
幾つもの戦場を駆けて、私が成長してから後に彼を思い出した時。
彼は、この瞬間だけは。
私の人生で初めての友人であったと。
恋には届かない気持ちだったとしても。
私は、彼にほんの少しだけ惹かれていた。
これは、単なる記憶。
そして、私の愛しきあの時よ。
運命の針が戻るなら、私は彼ともっと話してみたかった。
もしも、が許すなら。
ただの少女として、彼に触れて。
異なる世界に生まれたなら。
彼とも出会わずに、私が生まれなかったら。
数え切れない、願いを繰り返しても。
――――ラストは、変わらない。
一番星は、こんな町の端の工場に囲まれたボヤけた空でも見える。
煙突から延びる白色の煙が暮れ方の藍空に広がって、燃えるような太陽が沈みかけていた。
そんな中、私と秋塚聡は、地下鉄のホームに向かって人気のない町を歩いていた。
ふと、視線を上げた先に一人の人物が映る。
夜にま白い光を放つコンビニの前に、金髪の、無理矢理脱色して染めたようなバサバサに傷んだ髪を二つに縛った少女がいた。
パンキッシュなピンクのレーススカートに、黒色のキャミソールは穴が所々空いている。
革ジャンを羽織ってクチャクチャとガムを噛んでいた彼女は、こちらに気がつくとギロリと射殺しそうな視線を向けてきた。
その冴え冴えとした瞳から目を逸らす。
「……おい、止まれよ」
怒気を孕んだ声に歩みを止める。
隣の秋塚聡は戸惑ったような顔を向けた。
「……知り合い?」
「何のようですか?ミス」
その瞬間、襟首を掴まれた。
……私ではなく、秋塚聡が。
「え?……ちょっとっ」
「テメエ、面かしやがれ」
そのまま引っ張って路地裏に入り込む。
廃ビルとの間だろう、まるで人の気配がない。
私が慌てて追いかけると、地面に転がされた少年がいた。
その腹部を思い切り踏みつけた少女は、猟奇的に笑う。
「……こいつを殺せば全部終わりよね?」
少女の取り出したサバイバルナイフに、彼が息を呑んだ。
私は、それを視認した瞬間に駆け寄る。
そして、振り下ろしたナイフを思い切り腕で受け止めた。
「…………へえ」
痛くは、ない。
痛覚なんて私には存在しない。
地面に転がった私は、ワンピースを捲くり、太もものホルスターから、それを取り出した。
受身から体勢を立て直そうとしたところで、ぐいと首根っこが掴まれる。
「いい機会だから、あたし、確認したかったのよね」
そのまま、首に負荷がかかった。
「本当にアンタが人間なのかをさ!!」
――――そして、『ベリー・グレイナー』の頭部はねじ切られた。
秋塚聡は、瞳を驚愕に見開く。
回転しながら吹っ飛んだ首が、彼の足下に転がってくる。
血は一滴も流れていない。
その首の断面を見た瞬間、彼は悲鳴を上げた。
「――――うわああああああああああああっ!?」
その断面部には、幾つものコードがぶら下がっていた。
青、白、赤、人の身にはありえない色のコードに、バラバラと落ちた破片。
それに気をとられていた彼と彼女に、
一つの発泡音が鳴り響いた。
「――――――ぁっ」
ゆっくりと崩れ落ちる、金髪少女の身体。
ばしゃ、とその胸から地面に鮮血が散る。
花開くように、椿の花弁が舞い散るように。
暗い地面を赤黒く染め上げる。
そして骸になった彼女と対比するように。
白く細い煙が昇る、一本の拳銃を握ったベリー・グレイナーの身体が身を起こす。
それは、頭部を失ってもなお、美しかった。
地面に落ちたその頭蓋を拾い上げ、少年の方へと振り返る。
そして、死んだはずの唇が、静かに音を紡いだ。
「デートの邪魔は殺しましたわ、ミスター」
さあ、
楽しい時間をつづけましょう?
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」
秋塚聡は、発狂した。
ただひたすら叫びながら、抜かした腰で後退しようと抗う。
ベリーを視界から外そうと、歯をがちがちと噛み合わせながら、肌を粟立てながら。
目の前の恐怖から逃れようと、抗う。
その姿に、ベリーは硬直した。
……どうして?
何か私、間違えた?
だって、邪魔な者は取り除かなければ、デートは遂行できないから。
この人間がいたら、あなたは殺されてしまうから。
分からない。
何でか、私は、分からない。
初めて、疑問を持った。
人を殺すことがこんなにも酷いことなのか。
こんなにこの人が動揺するようなことを、私は今まで重ねてきたのだろうか。
そうだとしたら、そうだとしたら自分はなんて。
罪深い――――――。
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