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現代魔剣のタングラム 作者:きたや ごう

第一章

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「英雄ナイン」

 入学式にはそれほど目新しさはなく、中学校の時と大きな違いは感じられなかった。
 いわゆる「校長先生のお話」も、長いだけだ。

「みなさんは、政治、経済のことにどこまで関心を持っているかはわかりませんが、今の日本国は大きな変化の波に飲まれています。半年前、事実上この国の政治形態が一変したと言っても過言ではないほどの、政界再編がありました。皆さんが住むこの国は、変わっていきます。変わらざるをえない!その中で、次代を担うのは若い皆さんなのです!どうかこの国の伝統文化を守りながら、新しい時代を創る為に…」

 現在の社会情勢を踏まえ、新入学生への期待と責務を語っているようだ。
 武士はそれよりも、目の前に座っている女子生徒の後ろ姿に興味を持っていた。

 ブロンドの長い髪。

 映画でよく見る外国女優の、明るい金髪ではなく、やや暗めのブロンドではあったが、日本人が脱色したりしている金髪とは明らかに異なっているように、武士には見えた。

 ――外国人かな? でも最近の染髪料は良くできてる? とか…

 つまり、目的を持って暁学園に入学した武士も、「校長先生のお話」より目の前の女子の髪に興味を持つ、ごく普通の高校生なのだ。

 校長の訓示が終わった。
 あとどれくらいで式は終わるのだろうと、武士はまだ見ていなかった式のプログラムに目を落とした。
 次は生徒会長の挨拶。
 その会長の名前を見たとき、武士の心臓がどくん! と大きく鼓動を打った。

「校長先生、ありがとうございました。続きまして、生徒会長より新入生の皆さんに挨拶があります。生徒会長、三年、九龍直也君お願いします」

 入学式には、一般の在校生は出席していない。
 舞台の両脇に並んだ椅子に座っていた教師たちの列から、一人だけ新入生とは違う色の校章をつけた、長身の男子生徒が立ち上がった。

 白く輝くオーラの柱が立ち登る。

 ……そう、武士には感じられた。

「九龍先輩……」

 思わず呟きが漏れると、前に座っていたブロンドの女子生徒に声が届いたようで、チラリと後ろを振り返った。

 しかし、武士はそんなことにまるで気がつかない。
 生徒会長は背筋をまっすぐに伸ばし、ただ静かに歩いて壇上に向かう。
 それだけなのに、武士にはまるで歌劇のワンシーンのようにも見えた。

 とうとう、英雄の登場だ。
 生徒会長だったんだ…。

 壇上に上がり、生徒会長は新入生たちに対し正面を向いた。
 二百人を越す新入生たちの視線を受け止めると、彼は緊張した様子など微塵も見せず、爽やかに微笑んだ。

「新入生の皆さん。入学おめでとうございます。生徒会長を努めています、九龍直也です」

 俳優顔負けの恐ろしく整った顔立ち。
 しかし、軽薄さはまるでなく、例えるなら、鍛え上げられた日本刀のような精悍な印象。
 若くして海外に渡り活躍しているスポーツ選手も似た雰囲気を持っていた。
 さらにその声には張りがあり、若々しさと包容力を同時に感じさせる、不思議な魅力のある響きを持っていた。

 武士は、夢に見た〈先輩〉との再会に、鳥肌が立つ思いだった。
 彼に憧れて、苦手な勉強に必死になって、ついに辿り着いた。

「英雄ナインだ」 

 無意識に、再び呟きが漏れる。
 前に座る女子生徒が、今度はぐるんと完全に振り返り、武士を見た。

「知ってるの?」
「えっ……」

 視線を顔で遮られた形になって初めて武士は、つい先程までその後姿に興味を持っていたブロンド女子生徒が、自分をまじまじと見つめていることに気がついた。

 大きなブラウンの瞳。
 意思の強そうな眉に、スッと高く通った鼻筋が日本人離れした雰囲気を持っている。
 小顔のかなりの美人だった。

 ――ちょ、邪魔!

 不意打ちのように現れた国籍不明の美人に対して、武士は思わず口に出しそうになった。

「知ってるの? 生徒会長のこと」

 興味深そうに、まじまじと武士の顔を覗き込んでくるブロンド女子生徒。
 武士はアメリカ人? 日本人? ハーフ? と疑問を持つ。

「ねえ?」
「え、あ、うん。知ってる」
「知り合い? 同じ中学の先輩後輩とか?」
「いや、同中じゃないし、向こうは僕のこと知らない、というか……覚えていないと、思う……けど……」

 入学式の新入生たちは、静かだった。
 暁学園は有名な進学校で、様々な地域から受験して集まった生徒たちだ。
 まだ初日で互いに友人にもなっておらず、式の最中に私語をしている生徒は少ない。
 その為、声のトーンを落としているとはいえ、真後ろを向いて話しかけている女子生徒と武士はかなり目立っていた。
 視線を感じて恥ずかしい上に、舞台上で始まった生徒会長・九龍直也の声と話に集中することもできず、武士は困り果てていた。

 しかし、そんな思いに気付いていないのか無視しているのか、女子生徒は言葉を重ねる。

「え、じゃあどこで知ったの生徒会長のこと。ファン? おっかけ? ストーカー?」
「ストーカーって、なんで」
「有名だもんね、彼。一部でだけど。ねえ、ところでさ」
「ちょ、ちゃんと、前向かないと……」
「英雄ナイン、ってなに?」
「! ……な、なんだろう?」
「さっき、彼のこと、そう呼んだよね」

 武士と女子生徒の私語に気がついたのか、離れたところに座っていた教師達の一人が立ち上がり、武士の方へと歩いてきた。
 武士は視線を歩み寄ってくる教師に向ける。
 女子生徒は、その視線を追って教師に気付くと慌てて、

「後で教えてね」

 と囁き、前を向いた。
 私語を止めた二人に、教師は咳払いをした後、座っていた椅子に戻っていく。
 武士は安堵して、再び壇上の〈先輩〉へと意識を向けた。

 そして、その憧れの姿を見ながら、〈先輩〉と初めて会った日のことを思い出す。
 詳しく思い返すと謎だらけな、しかしそれは武士にとっては大切な記憶だった。
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