ゴキブリといっても、火星に出る「しょうじ」って喋る奴ではない。
もし地球でそいつに遭遇したら、国際的に懸念すべき安全保障上の緊急事態なので、命の安全を第一に確保した上で、然るべき公的機関に通報してくれ。
部屋に出る奴だ。
火星のアレほどではないが、部屋に出る奴も、いざ殺ろうとすると案外難しい。
打撃で仕留めようとしても、動きが早い上に、狭いところや角、張り出しなどに逃げ込まれて、有効にヒットしない。
そうこうしているうちにさらに狭い穴や隙間、家具や家電の下に逃げ込まれてしまう。
触覚などのセンサーが強力で、打撃は察知されて、強力な走力で躱されてしまうのだ。
全く厄介だが、お手元に専用の撃退グッズがないときに、何をお見舞いすれば良いのか。
意外なものが奴らを仕留めるウェポンになる。
スーツのお手入れや、観葉植物のケアに使う霧吹き、そして誰のうちの台所にもある中性洗剤がそれだ。
まず、霧吹きに水を満たす。
次に中性洗剤を適量入れる。
そして人間の雑な打撃などに打ち取られるはずがないと慢心している奴に近づけば、君の仕事の半分は終わっている。
そう、シュッシュしろ。
ちょっと逃げ回っても、放射状に出る洗剤が奴を必ず捉える。
打撃じゃ難しい角っこや張り出しはむしろ好都合。行き場を失って逡巡する奴にシュッシュするんだ。
シュッシュシュッシュシュッシュシュッシュシュッシュ、オッケー、まだ奴は動いてる。
続けろ、ワンモア シュッシュだ!
しばらくすると、奴はちょっとヌルヌルした泡の中で仰向けになって活動を停止するはずだ。
もう奴に起き上がる力はない。
ミッションコンプリート、君はオオスズメバチやカニの遺伝子のスーパーパワーに頼ることなく、奴との戦いに勝利した。
しかし、なぜ洗剤が奴にとって死の雨となるのか?
別に中性洗剤が毒ってわけではない。
ゴキブリは体に気門という穴が開いていて、そこで呼吸をしている。
通常、その気門は、油と毛で守られていて、水が入ってこないようになっている。
しかし、これが洗剤入りとなると話が変わってくる。
洗剤の界面活性剤が、油と水の境を曖昧にし、奴らの気門を塞いでしまうのだ。
製剤の雨に濡れて、奴らは丘で溺れてしまう。