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世界投資へのパスポート
【第379回】 2015年8月16日公開(2015年8月16日更新)
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著者・コラム紹介

世界投資へのパスポート

広瀬隆雄 ひろせ・たかお
三洋証券、S.G.ウォーバーグ証券(現UBS証券)、ハンブレクト&クィスト証券(現J.P.モルガン証券)を経て、2003年、投資顧問会社・コンテクスチュアル・インベストメンツLLCを設立。長年、外国株式関連業務に携わっており、特にBRICsをはじめとした新興国市場に詳しい。米国カリフォルニア州在住。

広瀬 隆雄

人民元切り下げでパンドラの箱は開いた。
相場はトレーディング的には反発局面だが
「深追いは禁物」の理由とは?

<今回のまとめ>
1.人民元の切り下げで、センチメントは悲観に傾いた
2.しかしイベント・リスクは高くなっている
3.米国の利上げは中国政府の努力を台無しにしかねない
4.人民元の切り下げが、これで打ち止めになる保証はない
5.新しい不確実性が生じた以上、慎重に行動すべし

人民元切り下げで投資家はビックリしたが、
いまは落ち着きを取り戻した

 先週、中国人民銀行が人民元を切り下げました。これに驚いた世界のマーケットは新興国市場を中心に調整しました。

 その後、中国人民銀行が市場をなだめるコメントをしたため、人民元相場は落ち着きを取り戻しています。

センチメント的には反発もあるが
今後1~2カ月のスパンでは注意が必要

 米国の株式市場の参加者のセンチメントを見ると、かなり悲観が増え、目先的には相場が底入れしやすい状況となっています。下はブルベア指数です。

 ブルベア指数とは、全米の株式ニュースレターの「強気」ないしは「弱気」を集計したもので、米国で最も歴史の古いセンチメント指標のひとつです。

 この指数は、「強気が多ければ多いほど、相場は逆に下がる」という風に解釈します。つまり逆指標というわけです。現在は強気が40.2で去年の10月22日以来、最も少なくなっています。これは買い場が近いことを示唆しています。

 このため今週はマーケットが反発してもおかしくないと思います。

 ただ今後1~2か月の展望を考えると、イベント・リスクは極めて高いと思います。

米国の利上げを巡る不確実性。
市場関係者はほぼ50:50と予想

 その最大のものは米国連邦準備制度理事会(FRB)の次の出方です。具体的には米国の政策金利であるフェデラルファンズ・レートを、現行の0~0.25%から0.50%へ引き上げるかどうかが注目されています。

 その可能性を知るひとつの方法として、先物市場で取引されているフェデラルファンズ・フューチャーズの価格から、トレーダーたちがどのくらいの確率で利上げが実施されると織り込んでいるかを逆算する方法が知られています。

 説明が煩雑になるのでその計算方法は今回省略しますが、結論として、先週金曜日(8月14日)の段階で市場参加者は「45%の確率で9月17日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げがある」と見ています。

 45%の確率は、限りなく50:50に近いです。つまりどちらに転んでもおかしくないわけです。

もしFRBが利上げしたら、
米中の関係が市場に不安を与える

 もし9月17日にFRBが利上げしたら中国は苦しい立場に追い込まれます。なぜならこのところの1年物貸出基準金利の利下げ(現行は4.85%)や人民元の切り下げは、いずれも中国経済をテコ入れするための措置だったからです。

 この場面でFRBが利上げすると、それはドル高要因であり、せっかく切り下げた人民元が、また各国通貨に対して強含むことを意味します。これは中国の努力を台無しにする行為です。

 もし中国とアメリカとの間で金利政策面での協調が無いと投資家が感じると、それはちょうど1987年にドイツとアメリカの不協和音がブラックマンデーの引き金になったように投資家を不安に陥れるでしょう。

先週の人民元切り下げで
中国経済がプラスになるかは未知数

 もうひとつの不確実性は、中国経済の減速が、実際、どのくらい深刻か? という問題です。

 先週の人民元切り下げは、言うまでもなく景気を支援する意図でなされたものです。しかし3%程度の元安誘導が、実体経済にとってどれほどプラスになるかは未知数だと思います。

 中国政府は、更なる利下げを打ち出してくる可能性があります。しかし前回、中国人民銀行が1年物貸出基準金利を引き下げたときは、市場参加者は(中国経済は、そんなに深刻な状態なのか?)とこれを嫌気し、株式市場が急落しました。つまり中央銀行が後手に回っている観が否めないわけです。

中国政府だって間違える事はある。
ダラダラとした人民元安が続く可能性も

 このような一連の出来事は投資家に(中国政府だって間違える事はある)という印象を与えています。つまり完全無欠のオーラが消えてしまったわけです。

 同様のことは日本も過去に経験しました。1980年代までは欧米人は(日本の通産省は、やること成すこと、すべて完璧だ)という尊敬というか畏怖(いふ)の念を抱いていました。しかしバブル崩壊後は、一転して、何をやっても上手く行かないという焦燥(しょうそう)にさいなまれたのです。

 いま、中国の経済運営は、魔法が消えかかっている大事な局面に来ています。よく「景気は気から」と言いますが、国民や事業主の中国政府への信頼感が失われると、取り返しのつかないことになるリスクがあるのです。

 いくら中国人民銀行が「今回の人民元の切り下げは、これで終わりだ」と主張しても、人民元の切り下げが景気浮揚効果を目指しているものである以上、肝心の景気が上向かないことには切り下げを打ち止めにすることは出来ないのです。その場合、ダラダラとした人民元安が続く可能性は排除できないでしょう。

 つまり先週、中国人民銀行が人民元と米ドルとのペッグをやめてしまったことは、喩えて言えばパンドラの箱を開けてしまったのと同じだということです。これからどんな災いが世界経済に降りかかってくるかは、誰にもわからないのです。

 なるほど上で見たようにマーケットのセンチメントは悲観の方向に振れたので、目先的にはトレーディングBUYかも知れません。でも新しい不確実性が世界経済にもたらされている以上、我々は慎重になるべきです。

 ここはキャッシュポジションを高く維持し、守りに徹することをお勧めします。

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