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「ちょっと待ちな」 凄味を利かせた声が背後から聞こえた。 コンビニで飲み物を買って出てきた隼人に女が声をかけたのだ。 振り向いてみると自動ドアの脇でウンコ座りをしている。脱色した髪は根本が黒くプリン状態、いかがわしいジャージに網サンの姿は笑い出したくなるほどステレオタイプのヤンキー娘だ。もちろん眉毛はない。 「僕のことですか?」 以前の隼人だったら逃げ出してしまったかもしれない。しかし、力を得てから自信のようなものが身につき、普通に答えることができた。 「そうだよ。お前見てると妙にムカつくんだ」 「すみません。すぐにいなくなりますから」 「だから、待てっつーの!」 歩き出そうとした隼人に女は強い口調で言った。 場所は静岡市のはずれ。熱海を離れてから三日経った午後遅くのことだ。「霧庵」を出た後、どうも「サイ」を使って女と交わるのがためらわれ、隼人は歩き続けていた。やり過ぎなのだ。「サヒ」の力にも限界があるらしい。途中で美しい女性を見かけても、あまり関心が湧かなかった。欲望を感じたらすぐに「サイ」をかけろという服部早苗の言葉が逆にブレーキになってしまったのかもしれない。 「待てっつーてるだろ」 女は隼人の前に立って顔を斜めにしてすごんだ。 「どうして僕のことなんか気になるんですか?」 「わかんねぇけどよ、なんか、すっげえムカつくんだ」 「僕は旅の途中なんです。すぐにいなくなりますから」 隼人は、これ以上からまれるのだったら「サイ」をかけてジュースでも奢らせ、その場を立ち去ろうと思った。 「ちょっと顔貸せよ」 女はコンビニの裏の方を顔で指した。 そこなら人目に触れることもないだろうから「サイ」をかけるにも好都合だ。結花との一件から、隼人は人の中で「サイ」をかけるコツをつかんでいた。 「あたいの名前は服部杏奈。このへんじゃ、ちょっとした顔なんだ」 わざとらしいヤンキー言葉で女が言う。 隼人は女の苗字が引っかかった。傍系の者と言った服部早苗の言葉を思い出した。それなら、隼人を見てなにかを感じるのもおかしくない。 「僕は斎部隼人。どうして僕が気になるのかわからないけど、かかわらない方がいいと思いますよ」 「なにぃ!」 冷静な受け答えに腹を立てたらしい女は隼人の襟首をつかんだ。 「ちょっと、やめてください。人が見てますよ」 その場で「サイ」をかけようかと思ったとき通行人がこっちを見ているのに気がついた。 「チッ!」 女は地面にツバを吐いた。 「お前、あたいが怖くないんか?」 上目遣いで隼人を睨む。 「そりゃ、怖いですよ。いきなり声かけられて・・・逃げようと思いました」 逆らうのは得策じゃないと思った隼人はそう答える。 「その、すましたツラが気に食わねえんだ」 「すみません。ですから、すぐに消えますから勘弁してください」 目が合った。 「ふん・・・なんか・・・いい度胸してるじゃないか・・・」 女の口調が変わる。張り詰めたものが影をひそめ、なんとなく場の空気まで変わった感じだった。隼人の発する「気」が影響しているのかもしれない。 「気に触ったらごめんなさい。僕は旅の途中で急いでいたものですから、なんか悪いことしちゃったかも」 「そんなんじゃねぇよ。お前を見た途端に、胸騒ぎがして声をかけちまったんだ」 やっぱり怪しいと隼人は思った。 「なんだか忍者みたいですね」 隼人はカマをかけてみる。 「どうして知ってんだよ?」 女は一瞬考えた後に言う。なにか引っかかりがあるようだ。 「なにを・・・ですか?」 「あたいの先祖が忍者だってこと」 「いえ・・・ただ思いついただけで・・・知りませんでした」 「あたいん家はさぁ、みんなスポーツ万能なんだ。無茶しても怪我なんかしたことねぇ。自分でも忍者なんだって思うときがあるよ。でも、どういうわけか表に出るなって言われて・・・あたいのバイクの腕はそうとうなもんだよ。旅の途中だって言ったね。あたいのバイクで途中まで送ってやろうか」 必要ないことまで女はしゃべりだす。やはり「気」のせいだ。これ以上かかわるのはやめようと隼人は思った。 「あ・・・ごめんなさい。家のしきたりで歩いて行かなきゃならないんです」 「ふ〜ん、なんだか事情がありそうだな」 「そうなんです。杏奈さん・・・でしたっけ? 厚意はうれしいんですけど、そういうわけなので。じゃあ、失礼します」 「待ちな」 歩き出そうとした隼人を、ふたたび杏奈が止めた。しかし、その口調は強いものではなく、媚びさえ感じるものだった。 「お前って不思議な野郎だな。おとなしいツラしてんのに度胸は据わってるし、気に入ったぜ。あたいん家でちょっと休んできな」 「いえ、悪いですよ。ご家族もいらっしゃるでしょうし」 「あたいはひとりだよ。兄ちゃんがいるけど、鳶で日本中を飛び回ってる。トビだからな」 そう言って杏奈は笑った。どうやら中身はオヤジ並みらしいと思ったが、初めて見せた笑顔はピュアでかわいらしかった。よく見ればきれいな顔立ちをしている。眉毛を剃らなきゃいいのにと隼人は思った。 「あのさ・・・なんか気になってしょうがないんだ。できれば、話を聞かせて欲しいと思ってさ・・・それとも・・・あたいなんかが相手じゃ嫌か・・・?」 そう付け加える杏奈の言葉は、さっきの勢いとは正反対のものだった。 また隼人は服部早苗の言葉を思い出した。吉野へ行く途中に伊賀の里を通らなければならないから注意しろと言われた。杏奈から情報を引き出せるなら役に立つんじゃないかと思った。 「じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・ちょっとだけ」 「おうっ! そうか。こっちだ、すぐそばだから」 そう言う杏奈はすごくうれしそうだった。 木造のアパートかなにかを想像していた隼人のイメージは見事に崩された。杏奈が案内したのは、そのあたりでは大きく高級な部類に入るマンションだった。 「意外だと思ってんだろ?」 杏奈が笑う。 「世間が、あたいたちをどう見てるのかわかってんだ。それに、あたいひとりの力じゃ、こんなところには住めない。小さいころ、両親が事故で死んで、その保証なんだってさ。あたいが選んだわけじゃない」 自嘲気味に言う杏奈の顔はちょっとさみしそうに見えた。 「うん。ちょっと意外でした。僕も偏見を持っていたのかもしれません。ごめんなさい。それから・・・杏奈さんって、なんだかさみしそうに見えて・・・これも違ってましたか?」 「ちぇ・・・お前といると調子狂うな。ま、いいか。中に入れよ」 杏奈がドアを開ける。部屋の中は片付いているというよりかは、なにもなかった。慎ましやかなテレビの前には二人掛けのソファー、小さなダイニングテーブル、女が住んでいる感じじゃない。 「コーヒーでいいのか?」 「はい。大好きです」 「そうか。あたいはこればっかりなんだ」 パックに入ったドリップ式のコーヒーを見せて、杏奈はヤカンに水を入れた。 「ふ〜ん・・・」 「なんだよ?」 「杏奈さんがコーヒーを淹れてるのって・・・」 「似合わないって言いたいんだろ」 「いえ・・・そうじゃないんですけど・・・」 どうやら、傍系といえども一族の者はカフェインを好むらしいと隼人は考えていた。 「僕の知り合いで、とってもおいしいコーヒーを出す店があるんです。杏奈さんにも飲んでもらいたいなって思って」 「ほんと、お前ってヘンな野郎だな。でも、その店、そんなにおいしいのか?」 「エスプレッソって知ってますよね」 「ああ・・・」 「そこのエスプレッソはすごくおいしいんです。トロッとして、いい香りで」 「へぇ・・・ほら、できたぞ。ブラックでいいのか?」 杏奈はマグカップを差し出す。 「はい。ブラックで・・・」 隼人はひとくち飲んでニッコリと笑った。 「どうしてだよ?」 「なにがですか?」 「それは、こっちが聞きたい。これでも、あたいは勘が鋭いんだ。お前はただ者じゃない。じゃなかったら、こんなに胸が・・・」 「胸・・・ですか?」 「ヘンなんだよ。最初はムカつく奴だと思ったのに・・・」 「気」のせいなのか、それとも一族の血が騒ぐのか、杏奈は自分の行動をわかっていないみたいだった。 「僕は杏奈さんの先祖のことが聞きたいな」 「忍者ってやつか?」 「はい」 また隼人は笑う。 「やめてくれ、その笑顔。気持ちが・・・」 「気持ち悪いですか?」 「い・・・いや・・・その・・・」 杏奈の顔が少し赤くなる。 やはり「気」のせいかとも思う。でも杏奈は敏感すぎるようだ。 「お兄さんは鳶だって言ってましたよね。そういう家系なんですか?」 「いや・・・あたいは父さんがなにやってたか知らないんだ。小さいころ死んじゃったし・・・」 「あ・・・悪いこと聞いちゃった・・・」 「いいんだよ。あたいは兄ちゃんに育てられたようなもんなんだ。暴れん坊ですばしこくて、ケンカが強くて、いつも守ってくれた。父さんと母さんが死んだとき、ヘンな奴らがやってきて兄ちゃんをさらっていこうとした。兄ちゃんは怒って、そいつらとケンカして・・・グレて・・・」 「いつ頃の話?」 「十四年くらい前かな・・・」 杏奈の両親が傍系の仕事をしていたなら結花の母親の死や、それにまつわる事件に関係している可能性が強いと思った。 「杏奈さんは、お兄さんがそうなったから・・・ええと・・・」 「そうだよ。兄ちゃんはあたいの憧れだったし、物心ついてから、そういう世界しか知らないしな。気にすんな。あたいは何を言われても平気だから」 「なんとなくだけど・・・わかるような気がする。僕も小さいころにお母さんを亡くして、お姉さんに世話をしてもらったから」 「そうなんだ。お前も苦労したんだな」 「いや、杏奈さんとは比べものにならないよ。でも忍者の話って・・・」 「兄ちゃんが言ってただけ。あたいは、よく知らないんだ・・・」 「そうなんだ」 「おかしいな・・・」 「なにが?」 「あんたは兄ちゃんと同じ匂いがする・・・似てるんだ・・・顔かたちじゃなくって・・・雰囲気みたいなものが」 呼び方が「お前」から「あんた」に変わった。微妙な違いだが杏奈の心の中では大きな変化が生じているような気がした。 それに、杏奈の顔立ちはどことなく服部早苗や奈緒と似ている。やはり彼女は傍系の者なんだろうと思った。おなじように、杏奈は隼人に対して兄の面影を見ているのかもしれなかった。 「なあ・・・」 「なんですか?」 「あんたの旅って急ぐのか?」 「いえ・・・決まりや制限はないんです」 「宿とかは・・・野宿とかするのか?」 「いえ・・・知り合いのつてを頼ったりするので野宿はしたことがありません。まだ出発してから一週間くらいだし」 「だったら・・・ここに泊まっていけ・・・」 なにかを決意するような調子で杏奈が言った。 「えっ・・・?」 「誤解すんなよ。あたいは・・・その・・・」 「うれしいよ。そうさせてもらえれば」 外を見れば日も暮れかかっていた。誰かに「サイ」をかけて泊まらせてもらうのも面倒だった。 「ほんとか?」 「うん。ありがとう、杏奈さん」 隼人は最大限の笑顔で答えた。 「あっ・・・だから・・・やめろってば・・・」 「なにが?」 「その顔だよ・・・あたい・・・ヘンだ・・・だって、ここに他人を泊まらせるなんて初めてなんだ・・・なんで、こんな気持ちになったのか、あたいにもわからないんだ」 そう言う杏奈の表情は、はにかんでいるようにも見え、一種の色っぽささえ漂わせていた。 「たぶん・・・だけど、杏奈さんと僕とは近い存在なんだと思う」 「え・・・どういうこと?」 「血に縛られている・・・」 隼人はどこまで話そうか悩んだ。 「あたいは、あの連中は嫌いだ」 しかし隼人の言葉が直感的に答えを引き出したようだ。即座に杏奈が反応した。 「えっ?」 「兄ちゃんを連れてこうとした」 「やっぱり・・・一族だったんだね」 「そう。本家とか分家とか、あたいには関係ない」 杏奈の口調が強くなった。 「もしかして、あんたも本家の人間なのか?」 隼人を睨む眼には怒りが宿っていた。 「いや・・・むしろ敵なのかも・・・」 「どういう・・・こと?」 杏奈が鼻白む。 「杏奈さんの両親ってどんな事故で亡くなったの?」 「そんなこと関係あるのか?」 「たぶんね。僕のお祖父さんや、大切な人たちも、その時期に亡くなってるんだ。関係があると思う」 「よ・・・よくわからないんだ。小っちゃかったし・・・いきなり知らない野郎たちが家に来て、父さんと母さんが死んだって知らされて・・・」 杏奈が嘘をついている様子はなかった。そして傍系の者であることは間違いないと思った。ならば、これ以上、自分のことを話してしまうのは危ないかもしれない。「サイ」をかけるべきだと感じた。 「杏奈さん、僕を見て」 「なんだよ」 「サイ」 怪訝そうな眼で隼人を見つめる杏奈に「サイ」をかけた。 杏奈からヤンキー独特の虚勢が消える。 「杏奈さん」 「は・・・い・・・」 杏奈はうっとりとした声で答える。 「杏奈さんの先祖は忍者だっていうのはお兄さんから聞いただけ?」 「そうです・・・」 「ほかに知ってることはないの?」 「兄ちゃんは、あたいたちの田舎は三重なんだって・・・言ってた。でも、行ったことないし・・・でも・・・」 「でも?」 「兄ちゃんを見てると、やっぱり忍者なんだって・・・思う。だって誰にも負けないし、強いだけじゃなくって・・・なんていうのか、人の気持ちがわかって先回りできるんだ」 「もしかして、それは杏奈さんもできるんじゃない?」 「うん・・・相手がなに考えてるかわかるときがあって・・・なのに・・・」 「なのに?」 「あんたは違った。あんたを見たときに鳥肌が立った・・・」 「それが嫌だったんだ」 「あ・・・ちょっと違う・・・気になったっていうか・・・気がついたら声かけてた・・・」 未成熟な力が杏奈にはあるようだった。それが「気」を察したのだろう。 「お兄さんは鳶だって言ってたよね。仕事でここにいないだけなの?」 「違う・・・出ていったんだ・・・」 「どうして?」 「あたいが16になったとき本家の連中がやってきて・・・兄ちゃんに、あたいを抱けって言ったんだ。そうじゃないと仲間になれないって・・・兄ちゃんは、それを拒否って・・・あたいに、この家を頼むって言って・・・」 「そうだったんだ・・・」 「あたいは・・・ほんとは・・・」 「もしかしてお兄さんに抱かれたかった?」 「う・・・うん・・・それでもいいって思った・・・なのに・・・」 「悲しかったんだね」 杏奈は涙を流していた。 隼人はそれを見て胸が締めつけられるような気分になった。傍系の者にも、それぞれの人生があり、運命に翻弄されているのだと思った。 そして、もうひとつ隼人の心に変化が生じていた。ピュアになった杏奈がかわいらしく思えてきたのだ。髪の色や眉毛のことを除けば、肌はきれいだし、顔立ちも整っている。それにたっぷりとしたジャージを着ているのにスタイルの良さがわかる。わりと上の方にあるバストはニット地を高く持ち上げている。隼人は欲情していた。杏奈の裸を見たいと思った。いや杏奈を抱きたい。三日ぶりに感じた欲望だった。 「杏奈さん」 「はい・・・」 「僕のことが気になるって言ったよね?」 「はい・・・」 「どんなふうに?」 「あの・・・自分でもわからない・・・胸が苦しくなって・・・」 「杏奈さんは、お兄さんの他に男の人を好きになったことってある?」 「ない・・・です・・・」 「じゃあ、男の人と付き合ったこともないの?」 「はい・・・」 「杏奈さんはきれいなのに・・・杏奈さんのことを好きになる男の人は多いと思うんだけど・・・」 「言い寄ってくる男はいました」 「で、どうしたの?」 「ぶっとばした・・・」 「どうして?」 「なんか・・・ガツガツして気持ち悪かったから・・・」 「きっと、お兄さんと比べちゃったんだね」 「そう・・・だと思う・・・」 「僕はどう?」 「えっ・・・?」 「気持ち悪い?」 「いいえ・・・最初は・・・気に触るガキだって・・・すいません・・・でも、いまは・・・」 「僕の手を握ってごらん」 隼人はテーブルの上に手を置いた。「サイ」がかかった杏奈が逆らうはずもなく手を伸ばして拳の上から包むように握ってくる。 「どんな感じ?」 「あったかい・・・」 うっとりとした様子で杏奈が言う。 隼人は手を返して杏奈の手を握った。 服部早苗と交わったとき手に入れた力を試してみようと思った。 意識を集中して手のひらに「気」を送り込む。 「くうっ!」 杏奈が喘いだ。隼人の手を強く握ってきた。伝わった手応えがあった。 杏奈がビクンと震える。椅子がガタンと音を立てた。 まだ使い慣れていないせいで、隼人は杏奈にいきなり絶頂感を与えてしまっていた。 「はうぅぅっ!!」 手の甲に杏奈の爪が食い込んだ。 杏奈が救いを求めるような眼で隼人を見た。 一瞬、順番を間違えてしまったと思った隼人だが、ここまでくれば後に引くわけにいかない。連続して絶頂感を杏奈に送り込む。 「ああっ! ああんっ!!!」 中腰になった杏奈は激しく痙攣してテーブルに突っ伏してしまう。隼人が手を離すと、そのままズルズルとしゃがみ込んでしまった。 「杏奈さん」 「は・・・い・・・」 杏奈の声には力がない。 「僕はこれから杏奈さんのことを抱く。僕のものが入ればもっと気持ちよくなるよ。だから寝室に連れてって」 悶える杏奈の姿を見ていたら、三日分の禁欲が堰を切って痛いほど屹立を膨らませていた。杏奈と交わって出してしまいたい。しかし、殺風景なリビングにはソファーもない。硬い床の上で杏奈を抱くのはかわいそうだと思った。 「わか・・・り・・・ました・・・」 杏奈はよろめきながら立ち上がった。 「こっち・・・です・・・」 案内された寝室にはホームセンターあたりで買ったらしいスチールパイプのベッドが置かれ、あとは半透明の衣装ケース、そしてパイプラックにはジャージなどがかかっていた。 質素というよりは、身の回りの修飾や女性らしいお洒落に関心がないように思えた。部屋はきれいに片付いていて不潔感はない。 「服を脱いで」 隼人が言うと、当たり前のように杏奈は脱ぎはじめる。 思った通りだった。杏奈は驚くほどスタイルが良かった。大きな胸は梨花よりも張りがあって輝いていた。乳首は小さめで色が薄い。うっすらと腹筋の筋が浮いたウエストは引き締まって細く、その下のヒップラインを際立たせている。なにより美しいのは肌の白さだ。滑らかで思わず触りたくなる。 シンプルなコットンのショーツを脱いだとき、あそこを覆っている部分がグッショリと濡れているのを隼人は見逃さなかった。 燃えるように上を向いて生えるヘアーが杏奈らしかった。 隼人の頭に使ったこともない「眼福」という古めかしい言葉が浮かんだ。眉毛のない顔から仏教彫刻を思い浮かべたからかもしれない。杏奈の肢体は美術品を連想してしまうくらい美しかった。 「杏奈さん、すごく・・・きれいだ。ベッドに横になって」 隼人はそう言いながら服を脱ぐ。 その言葉に従う杏奈は隼人の屹立にから目が離せないでいた。「サイ」にかかっているのに、驚きと不安が見て取れた。 「どうしたの?」 隼人は杏奈の視線に気がついて聞いた。 「そんなに・・・大きいのは・・・見たことない・・・」 杏奈は屹立に視線を注いだまま言った。 「あ・・・もしかして・・・杏奈さんは処女?」 「はい・・・そうです・・・」 ちょっと意外な感じがした。ヤンキーはやりまくっているという先入観があったのかもしれない。杏奈は外見とは違い、ピュアで物堅いのだと隼人は思った。 「これが杏奈さんの中に入ると、杏奈さんは経験したことがないほど気持ちよくなれるんだ。さっきの快感よりずっと。それに、僕が触ったり舐めたりしてもおんなじように感じるんだよ」 ベッドサイドにひざまずき、横になっても高さを失わない杏奈のバストに手を伸ばしながら隼人は言った。 「あうんっ!」 手のひらでバストを包まれただけで杏奈は呻いた。 「ほらね」 杏奈のバストは手のひらに収まりきらないくらいのボリュームがある。 「あっ! あうっ!」 その感触を楽しみながら揉んでいくと杏奈の声はどんどん甘くなっていく。 「はうぅぅっ!!」 乳首をつままれると杏奈は身体を硬直させた。 「どう? 気持ちいいでしょ?」 隼人は微笑みながら杏奈に聞く。 「はい・・・こんなの・・・はじめて・・・あんっ・・・」 ちょっとだけ強く揉むと杏奈はまた身体を震わせた。 「まだまだだよ。もっともっと感じるようになるんだから・・・」 隼人は顔を杏奈に近づけながら言う。 「はっ! はあんっ!!」 首筋から耳の後ろまで舐め上げると、それだけで杏奈は何度も身体をバウンドさせた。 舌先から伝わる感触からも杏奈の肌の滑らかさがわかる。 「んぐぅっ!」 唇が重ねられ、隼人の右手が両方のバストを彷徨うと、杏奈は激しく震えだした。 杏奈の身体からは服部早苗や奈緒と似た香りが漂っていた。 指先をバストからウエストへ、そして下腹へと這わせる。 「んんんんんっ!!!」 秘肉をとらえたとき、杏奈は腰を浮かせて硬直した。 隼人は熱い洪水に指を絡ませながら敏感な部分を探る。 そこは、はっきりとわかるくらい硬く尖っていた。 その先端を指先で震わせるようにして愛撫する。 「んっ! んっ! んんっ!!」 深く達してしまった杏奈は身体を一直線にして痙攣した。 真っ直ぐに伸ばした足首、その先端の指が鍵上に曲がって震えている。 隼人の頭に浮かぶメーターは完全に振り切っていた。 それでも隼人はもっと感じさせたいと思っていた。なぜだかわからないが、そうすべきだと頭の中の声が伝えていた。 隼人はベッドの上に上がり、杏奈の脚を大きく開かせる。 濡れきった秘肉がピンク色に光っていた。襞とは言えないくらい控えめな小陰唇は愛らしささえ覚える。その合わせ目にあるクリトリスは見ただけで勃起しているのがわかる。隼人は舌先でそこを舐めた。 「あうぅぅんっ!」 腹筋を収縮させながら杏奈が喘ぐ。 かまわず隼人は舌先を往復させる。 「あうぅっ!」 杏奈はまた達した。 隼人は人差し指を蜜壺へ挿入した。そこは驚くほど狭かった。恥骨側の肉が膨らんだ感じで指を締めつけてくる。杏奈の内部はその部分から「く」の字に曲がっているようだ。そして、その曲がり角が感じるようで反応が激しくなる。 「くぅぅっ!」 連続して絶頂を迎えている蜜壺が隼人の指をくわえこむように蠢いている。内部は熱く濡れていて柔らかいのに、指を回転させて探るとザラッとした感触の部分がある。隼人は本能が赴くままそこを撫でる。クリトリスを舐めながらだ。 「あぐぅぅっ!」 杏奈の叫びとともに隼人の手と顎に潮が噴出された。 大きな痙攣を繰り返した杏奈は、やがてぐったりと弛緩してしまう。 残酷だとも言えるくらい的確で執拗な愛撫が処女の杏奈を愉悦の奈落へと堕としてしまっていた。 身体を離した隼人はその様子を見下ろしていた。 余韻に浸り痙攣を繰り返す肢体はたまらなく美しかった。 隼人は杏奈に覆い被さると屹立に手を添えて蜜壺にあてがった。 怯えたような杏奈の眼と視線が合う。 隼人は微笑みかけて挿入を開始した。 「ああぁぁんっ!!」 濡れきった処女の蜜壺はほぼ抵抗なく先端まで受け入れて、杏奈は高く喘いだ。しかし、例の肉の膨らみか曲がり角が邪魔をして奥まで入らない。隼人は気合いを込めて進んだ。 「あうぅぅぅっ!」 潰されてしまうのではないかと思うくらい狭い管をかき分けていくと杏奈がのけ反った。そして隼人の放出を促すように締めつけてくる。こんなのは初めてだった。 荒い息の中で喘ぎ続ける杏奈を抱きしめると「気」が高まってきた。グイグイと屹立を押してくるような感覚がある。名器というのはこういうものかと隼人は思った。 隼人は強く律動する。 その動きにシンクロする喘ぎは悲鳴に近い。 そして、何かが弾けるような感じがした。 同時に隼人も「気」とともに激しく放出した。 杏奈は意識を失っていた。 隼人は大きく力が進歩したことを自覚しながら動くことができなかった。 三日間、なんとなく女と交わることを避けてきた隼人だが、杏奈を抱くことで考えが変わった。もっと、もっと「サイ」を使って力をつけるべきなのだと思った。服部早苗の言葉が真実であることを本能的に理解していた。 「なにこれ!?」 目を覚ました杏奈は「サイ」からも覚めていた。 「あたいに、なにした?」 隼人のことを凄味の利いた眼で睨む。たいていの者ならブルッてしまうくらい迫力があった。しかし、隼人は動じない。 「僕らは結ばれたんだ。杏奈さんだって、あんなによろこんでいたじゃないか」 「なにぃ!」 そうは言ったものの裸だし、まだあそこに疼きが残っている身体に気づいて杏奈はたじろいだ。眼の力が消える。 「な・・・なんで・・・」 両手で胸を隠してベッドの上にしゃがみ込む杏奈。 「サイ」をかけられたせいで心の中に隼人に対する好意が刻み込まれている。理不尽とも思える状況なのに、なぜか甘い感覚を覚えてしまう自分に杏奈は戸惑っていた。 「思い出させてあげる」 隼人は杏奈の眼を見つめ返しながら「サイ」を唱えた。 「あっ・・・」 杏奈の眼が虚ろになる。 「杏奈さん。僕らが出会ったのは偶然じゃない。運命だったんだ。どうやら僕らは近い一族で敵対していたらしい。でも僕は争いは望まない。だからというわけじゃないけど僕は杏奈さんを抱いた。そうしたかったから」 「・・・」 「僕は杏奈さんを抱いてうれしかったよ。杏奈さんは?」 「あ・・・気持ち・・・よかった・・・」 杏奈はうっとりした声で言った。 「そうだよね。僕らは敵じゃない。僕は杏奈さんのこと好きだよ。これから術を解くけど、僕がしたことを忘れないで欲しいんだ。でも、これは二人だけの秘密。誰にも話せない。たとえお兄さんであっても。いいね」 「はい・・・」 「もちろん本家の人間にも秘密だ。もしかして、杏奈さんの本家は僕らの一族を襲えって命令するかもしれない。そうなったら従う振りをして僕らのところに来るといい。かくまってあげる。わかるね?」 「はい・・・」 「杏奈さんは僕に抱かれたこと後悔してる? ちゃんと答えて」 これを確認しておくことは大切だと思った。もし、兄に対する想いが強く残っているのなら「サイ」で結ばれた記憶をなくした方がいい。 「いいえ・・・最初は驚いたけど・・・運命って聞いて・・・納得しました・・・いまは・・・とってもうれしい気持ち・・・」 「お兄さんのことは気にならない?」 「だって・・・兄ちゃんは兄ちゃんだもん・・・あんたは・・・あたいの殻を破ってくれた・・・だから・・・うれしいです・・・」 「わかった。術を解くね」 隼人は念のため手をかざして「サイ」を唱えた。 「あ・・・」 「サイ」を解かれた杏奈は乙女の顔になっていた。 「あ・・・あたいは生まれ変わった・・・」 無意識に杏奈はそう言っていた。 「ありがとう・・・礼を言うよ」 頬を染めながら杏奈は隼人に言った。 「そんな。僕だって杏奈さんと仲よくなれてうれしいんだ」 隼人は微笑む。 「あ・・・だめだ・・・」 「なにが?」 「あんたの・・・その顔だよ。胸が苦しくなる」 「どうして? ダメなの?」 「だって・・・」 「僕もさ」 「えっ?」 「杏奈さんが欲しいよ」 一族の女が相手だと「サイ」をかけた後にも、また抱いてしまう流れができてしまったと隼人は思った。でも、それも悪くない。 まだ二人は裸のままベッドの上にいる。ハードルなど存在しない。隼人は飛びかかるように杏奈に覆い被さった。 「あふっ!」 身体中を這いまわる隼人の手と唇に杏奈の身体はふたたび燃え上がった。 「ああっ・・・そこ・・・あんっ! ダメだ・・・おかしく・・・なるぅっ!」 隼人は杏奈の身体を裏返して背中にキスをしながらヒップの谷間に手を差し込む。 「あうっ・・・こんなになるなんて・・・知らなかった・・・ああっ! あたい・・・だめぇっ!」 隼人の指先が秘肉へ到達すると、杏奈は自分から求めるように尻を突き出す。 「舐めてあげる」 隼人は杏奈の後ろにまわり込んで膝をつかせて腰を持ち上げる。 「あんっ・・・恥ずかしい・・・」 アヌスの注がれる隼人の視線に気がついた杏奈は腰をくねらせた。 「あれ・・・? もしかして・・・杏奈さん・・・」 「なんだよ・・・」 「これ・・・気持ちよくない?」 「ひゃうんっ!」 隼人が舌先でアヌスを突くと杏奈は不思議な喘ぎ声をあげた。 「ひゃっ・・・だ・・・だめぇ・・・汚いから・・・ひゃうんっ!」 言葉で否定しても身体は正直だった。隼人の舌がアヌスに侵入すると鳥肌が立って蜜壺の中が疼いてしまう杏奈だった。 もしかしたら一族の者はここが好きなのかもしれない。 「ああっ! そんなっ! ああんっ!」 杏奈の疼きを察した隼人は指を蜜壺に挿入した。 「だめっ! だめぇっ!!」 四つん這いになっているので、さっきのザラザラしたポイントが責めやすかった。隼人は指を鍵状に曲げて内部を愛撫しながらアヌスを舐める。 「あうっ! あうぅぅぅんっ!!」 杏奈は叫びと同時に潮を吹いた。 「杏奈さんはすごく感じやすいんだね」 濡れた手を見ながら隼人が言った。 「知らなかったんだ・・・恥ずかしいから・・・言わないで・・・」 「こっちも感じるみたいだし」 「いやぁっ!」 そう言ったときには隼人の親指がアヌスを刺し貫いていた。 「い・・・いや・・・そんな・・・ああっ!」 杏奈は腰をくねらせながら悶える。 「もっと素直になって・・・感覚に身を委ねて・・・」 隼人は直腸の内部をやさしく撫でる。 「ヘ・・・ヘンなのぉ・・・あん・・・だめ・・・だめだよぉ・・・」 「じゃあ、こっちも」 「いやぁ〜っ!!」 杏奈が叫んだときには蜜壺に屹立が挿入されていた。やはり濡れていなければ無理だと思えるくらい狭い。 みるみるうちに杏奈の背中が朱に染まった。 シーツを握りしめる手にいっそう力がこもり押し寄せる波に耐えている様子が艶っぽい。 このまま放出してしまおうか、それともアヌスを侵してしまおうか、どちらも捨てがたく隼人は悩んだ。いずれにせよ惜しいのは杏奈の魅力的なバストが鑑賞できないことだった。 「杏奈さん、こっち向いて」 「ああんっ・・・」 隼人が屹立を引き抜いて言うと杏奈は吐息のような喘ぎ声をあげた。 「僕を跨いで欲しいんだ」 隼人は仰向けになって言った。 「えっ・・・?」 杏奈は隼人が望んでいることを理解できないようだ。 「こうだよ」 隼人は杏奈の向きを変えて脚を持って跨らせる。 「あっ・・・やだ・・・恥ずかしいよ・・・」 「杏奈さんはとってもきれいだから、つながりながら見たいんだ」 隼人は右手で屹立を握り左手で杏奈の腰をつかんで半ば強引に引き寄せた。 「やっ・・・やだっ・・・やだよぉ・・・」 やっと事態が飲み込めた杏奈はそう言いながら両手で顔を隠した。それでも隼人の指示に従って腰の位置を変えているので、本気で嫌がってないことがわかる。 「あっ・・・ああっ・・・こ・・・こんなのって・・・」 屹立の先端が蜜壺の入り口にあてがわれ杏奈は弱々しく言った。 「杏奈さん・・・自分で腰を沈めて・・・入れてみて・・・」 「やっ・・・はず・・・かしい・・・よぉ・・・あんっ!」 言葉では拒否しながら自ら屹立を受け入れようとする杏奈は乙女そのものでヤンキーの面影はなかった。 「はうっ!!」 先端が潜り込んだとき杏奈は高く喘いだ。その表情がたまらない。 「いやぁぁぁぁっ!!」 覚悟したのか、それとも感じすぎて力が抜けてしまったのか、杏奈は一気に腰を沈めた。姿勢を維持できないらしく前のめりになって両手を隼人の肩につく。結果、腕で豊かなバストを挟み込むことになり、ボリュームが倍になったようなバストが隼人の目の前にくる。屹立を飲み込んで悶える杏奈の表情が興奮をそそった。 暗示が効いているのか痛がっている様子はない。むしろ感じすぎているくらいだ。 「はぁんっ! ああっ!!」 腰を突き上げると高い声で喘ぐ姿は、とてもさっきまで処女だったとは思えないくらい淫らなものだった。 隼人は動きを速く細かくする。 「あうっ! それ・・・や・・・やばい・・・よぉ・・・ああんっ!」 そう言って硬直した杏奈はブルブルと身体を震わせた。内部が収縮して隼人のものをグイグイと締めつけてくる。 「まだだよ」 隼人はさらに腰を動かしながら目の前にある乳首を吸う。 「やっ! いやぁ〜っ!!」 杏奈は高い声で叫ぶ。続けざまに絶頂を迎えているのがわかった。 背中を弓なりにして硬直する。 隼人は、そんな杏奈のバストへ両手を伸ばして鷲づかみにした。 「あぁ〜んっ!!」 柔らかい肉の感触を楽しむ隼人は一回出した後なので余裕たっぷりだ。反対に、杏奈は激しい波に翻弄されて啼き続ける。 次第に隼人も高ぶってくる。また「気」が充実してきた。 「いくよ!」 そう言うと同時に腰を持ち上げて思いきり放出した。 「あぁぁぁぁ〜っ!!!」 熱い奔流を受け止めた杏奈はあらん限りの声をあげて悶えた。 「あ・・・うぅぅ・・・」 何度か大きく痙攣した後、杏奈は隼人の上に倒れ込む。 それを受け止め、やさしく抱いた隼人も大きく息をしていた。 「あんたみたいなガキにこんなにされちゃうなんて・・・」 まだ余韻で震える身体を恨めしく思いながら杏奈は言った。 「とってもすてきだった」 ベッドに肘をついて杏奈を見ながら隼人が答える。 「なんか悔しいな・・・」 「どうして?」 「あたいは男になびいてベタベタする女が嫌いなんだ。なのに・・・」 「僕もツッパリは嫌いだった。なのに・・・」 「なんだよ・・・」 「杏奈さんは大好きだ」 「ば・・・ばか・・・」 隼人の笑顔を見て杏奈は真っ赤になった。 「ちきしょう・・・あたいがこんなになるなんて・・・」 「きっと、いままで無理をしていたんじゃないかな。辛いことは吐き出しちゃった方がいいよ」 「えっ・・・?」 「ひとりで生きていかなきゃならないって思ってた・・・そうじゃない?」 「う・・・うん・・・」 「杏奈さんはひとりじゃないよ。僕には夢があるんだ。一族のみんなとひとところに暮らすっていう。傍系だとか言われているけど、杏奈さんだって一族なんだから資格はあると思うよ」 「どういうことだ?」 「僕の力は一族の中でも特別強いらしいんだ。そして、僕には一族を統率する使命があるって言われた。どこにだかわからないけど、僕らの村を作って、そこでみんなと暮らすのが夢なんだ」 「おとぎ話みたいだな」 「いや、そうでもない。僕の実家は神社なんだけど、運営する資金は宮内庁の機密費から出ているらしいんだ。他の一族も客が来ない高級旅館をやっていたり、静かな住宅街にきれいな家を持っていたり、そういうものを利用すれば村のひとつくらいは手に入りそうな気がする。それに杏奈さんのこの家だって保証って言ってたけど、どういう種類のものか知ってるの」 「いや・・・」 「たぶん、ここも似たような事情がある気がする」 「それで、あたいもそこで暮らせるのか?」 なにか心当たりがあるらしく、杏奈の顔が真剣になった。 「杏奈さんさえ嫌じゃなかったら」 「行きたい・・・」 「でも・・・」 「なんだよ。期待させといて・・・金とかいるのか?」 「他にも女の人がいるんだ」 「なんだ・・・そんなことか・・・」 「いいの?」 「本家とおんなじだからな・・・でも、あんたがいるならいいよ」 「えっ? 本家ってそうなの?」 「ああ、ひとつの屋敷に男はひとりだって」 「サイ」をかけたときにも聞き出せなかったことを杏奈は答える。 「ふ〜ん・・・そうなんだ・・・でも、さっき教えてくれなかったね」 どうも、イメージしているような忍者の一族とは違うようだった。 「ああ、なぜだか今思い出したんだ。あたいの記憶じゃないみたいだ」 もしかしたら一族のマインドコントロールが解けたのかもしれなかった。危険はないと頭の中の声が告げていた。 「ほかに思い出すことってある?」 「わからない・・・考えると頭が痛くなる・・・」 「じゃあいいや。とにかく杏奈さんには僕のところに来て欲しい」 「言われなくったって行くさ・・・だって・・・」 「だって?」 「うん・・・あたいは・・・あんたに惚れちまったから・・・」 それだけ言うと杏奈はうつむいてしまった。 「僕はひとりで歩いて吉野へ行かなきゃならないんだ。そして力が一人前になったら跡継ぎになれる。それまで待っててくれる?」 「あたいは・・・ずっとひとりだって思ってた。なのに、あんたは夢をくれた。あたいの心はあんたのもんだ。待ってろって言われれば・・・」 「ありがとう。なるべく急いで行くことにするよ」 隼人が微笑むと、杏奈もうれしそうに笑った。その顔は一人の女のものだった。
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