DEAD OR ALIVE 【SAMUEL RODRIGUES】   作:eohane
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増えた悪ガキ

「俺、山賊大っっ嫌いなんだ!」
「黙れクソガキ!」

 口から唾を飛ばしながら叫ぶのは、カーリー・ダダンという女性(?)。ヒグマ達とはまた別の、コルボ山を根城とする山賊ダダン一家の棟梁である。

「ふわあぁぁ……」

 ルフィが来る前から預けられていたらしいエースという少年が獲ってきた野牛の、焼かれた肉の匂いが立ち籠める部屋の角で、壁に背を預けて座り込むサムの口からあくびが漏れる。
 メシ食い足りねぇ、とよだれを垂らすルフィに、ムシャムシャと肉を頬張りながら、ダダンは山賊の“いろは”を教え込んでいるようだ。
 いわく、山賊界は不況らしい。「ここでしたことはガープの奴にチクるんじゃねぇ!」と、ダダンはしっかりと釘を刺す。意味は無いだろうが。ルフィの場合、しっかりと釘を刺す(物理)ぐらいしておかなければ意味は無いだろう。
 どうやら、完全にガープの支配下に置かれているようだ。

「1日に1回、茶碗1杯の米! コップ1杯の水! これだけは保証してやる」

 「そして勝手に育ちな!」と、ガープの前で見せていた正反対の態度で、ダダンはルフィに言い放った。仮親とは名ばかりに、さっそく育児放棄である。
 しかし、ルフィを甘く見てはいけない。

「わかった」
「わかったんかい!」
「はっはっは……」

 思わず笑ってしまうサム。
 やはりルフィは相変わらずのようだ。すると野牛の肉を食べ終えたのか、エースが立ち上がった。

「…………」
「……ん?」

 座り込むサムの目の前で立ち止まったエースは、じっと、額の左側から口にかけて走る傷痕、右目の真下につけられた傷痕があるその顔を見つめる。
 ならば負けじとサムも見つめ返す。目の前に立つ小さな少年の瞳を見据える。
 感じ取ったのは“寂しさ”。
 何でもない風を装ってはいるが、その瞳からは僅かに“喪失からくる悲しみ”を怖れる寂しさがあった。

「…………」

 しかし、エースが何か言うことはなく、そのまま山小屋を出て行ってしまった。そのあとをルフィが追い、部屋にはダダンの「逞しすぎだよ!」という叫び声が響く。

「おミーは肉食わニーのかい?」

 ふとサムが顔をあげると、小柄な男が目の前に立っていた。不思議な口癖を持つ男で、名前はドグラという。恐らく、エースがいなくなったことで残った野牛の肉に山賊達が群がり始めたことを気にしてくれているのだろう。先ほどから何1つ口にしていないサムを見ていれば、誰もが少しはそう思うはずだ。

「あぁ、気にしないでくれ。少食なんだよ、俺は」

 右腕、右胸をサイボーグ化しているサムは、常人よりもエネルギーを摂取する必要がない。全身をサイボーグ化している者達ほどではないが、身体の血糖値を常時一定に保つ機能が搭載されているからだ。巨大な虎を食べたことで、雷電との死闘で著しく減少したエネルギーを回復し、さらに今日の昼頃、すでにマキノの店で昼食をとっていたサムは、今はまったく食事をする必要がなかった。

「そ、そうか。……となりいいか?」
「ご自由に」

 そリじゃ、と焼けた肉をのせたお皿と共に、ドグラは座る。ムシャムシャと肉を食べながら、ドグラはサムに話しかけた。

「ガープさんが連れてきたっティことは、おミーもルフィの仮親なのか?」
「なったつもりはないがな。それと、正確には“監視役”だ」
「似たようなもんじゃニーか」
「まぁな」

 はっはっは、とサムは笑う。
 ドグラも、かなり社交的な性格なのかさして緊張するそぶりもなく、サムと同じように笑った。

「おい、ドグラ……だっけか? あのエースってガキは何者だ?」

 先ほどの、自身を見つめていた瞳を思い浮かべながらサムは言った。
 それに、ドグラは少し声のトーンを下げて応える。

「……あいつはゴールド・ロジャーの息子なんだよ。もっと小さい頃からおりらが面倒見ることになっティな……」
「ゴールド・ロジャーに息子が?」
「あぁ。“鬼の子”っティ呼ばれティるよ」

 先ほどまでエースが座っていた場所を見ながら、ドグラが言った。
 それは、その力強さから畏敬の念を込めてそう呼ばれているのか、はたまたただ忌み嫌われ、蔑むためにそう呼ばれているのか、サムに判断はできない────わけではない。
 “海賊王”ゴールド・ロジャーの息子。
 響きはかなり良いような気もするが、一般人からしてみれば海賊と言う無法者(デスペラード)の息子なのだ。
 後者だろうと予測するのは容易なことであった。

「ところでおミー、ルフィの監視役なんだろ? 行かなくティいいのか?」

 そこで、単に話題を変えたかっただけなのかもしれないが、ドグラが思い出したように言う。

「大丈夫だ。あいつには監視なんてしない方がいい。そもそも監視自体不可能だ」
「……ただめんどくさいだけじゃニーのか?」
「よくわかってるじゃないか」

 あきれたように、ドグラが溜め息をつく。

「しかしエースの奴……えらい不機嫌だったな。あいつ無事ディすまニーかもしれニーぞ?」

 にやり、とサムは笑った。

「……まぁ見てな」



 ***



 ──約3か月後──

「どういうこったこりゃあぁぁぁ!!」

 ダダンの悲痛な叫び声、いや咆哮がコルボ山に轟いた。

「よう、ダダンだろ? 俺はサボ」

 いつものように山中での命懸け鬼ごっこをしに行き、いつものように……いや、いつも以上に傷を増やして、ひょっこりと帰ってきたルフィ達は、なんと仲間を1人連れてきた。
 名前はサボ。約3か月間ダダン一家と過ごしてきたサムも、聞いたことがある名前だった。決していい意味ではなく、悪名轟くクソガキとして、だ。いつの間にルフィは彼とコネクションを築いたのだろう。

「言ったろ? ドグラ」

 はっはっは、と笑いながらサムは言った。

「あぁ、こいつは驚いた……」

 2人の視線の先には、とても仲の良さそうにじゃれあっている────ようには見えないが、以前とはその距離が縮まったように感じるルフィとエースがいる。
 ────いや。どうも一方的にルフィがエースにじゃれついているだけにも見えるが、意外とまんざらでもなさそうな表情を浮かべているエースが、なんともこそばゆかった。

「あ、サム! 友達できたぞ!」
「よかったな、ルフィ」

 サムに向かって、ルフィが嬉しそうに叫ぶ。
 サムも笑いながらそれに応え、踵を返して山小屋へと向かおうとしたその時だった。

「ちょっと待った」

 がしっ、と腕を捕まれ、サムの動きが止まる。
 見るとそこには、先ほどダダンと握手を交わしていたサボが立っていた。「にかっ!」と背景に文字が浮かんでいると錯覚するほどの清々しい笑顔で、サボは言う。

「お前がルフィの()のサムだな? 俺はサボ。よろしく!」
「…………よろしく」

 がっしりと握手を交わす。ここは敢えて突っ込まないでおこう。あとでルフィにはお仕置きだ。

「聞いたよ。メチャメチャ強いんだってな!」
「…………」

 ルフィの方をちらり、と見る。ルフィはニコニコ、エースはニヤニヤと笑っている。
 調子に乗りやがってあのガキ……、と心の中で毒づく。ルフィが余計なことをしてくれたお陰で、何かと面倒なことになりそうだ。

「そこでだ……」

 エースが1歩前に出る。エースと話すのは初めてだな、とのんびり思う反面、この悪ガキ(エースとサボ)の企みを、そのニヤついた表情から察した。

「「俺と勝負しろ!!」」
「…………はっはっは……」

 ────まあ、いっか。

 顎をしゃくりながらにやり、とサムは笑う。

「……来な」

 その日、ダダン一家の山小屋の前には、黒いオーラを纏い、ズーン……と四つん這いで打ちひしがれる2人と、それを、「な? 言ったろ?」と棒でつつきながら慰めるルフィの姿があったそうな。
 おかげでダダン一家は、サムが獲ってきた猪の肉に、いつも以上にありつけたという。




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