地球が誕生して46億年。
生物は驚くべき多様な進化を遂げてきました。
精密機械のような体の仕組み。
複雑にプログラムされた本能。
これらはどうやって生まれたのか。
その謎を解き明かして世界に衝撃を与えたダーウィンの「種の起源」。
今から150年前ダーウィンが見つけた真実には人間と自然の関わりを見つめ直す深い洞察がありました。
「100分de名著」第1回は「種」とは何かに迫ります。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…「100分de名犬」になりました?わんわん大集合!違います。
「100分de名著」もちろん!今月取り上げる名著は「進化論」で有名なダーウィンの「種の起源」でございます。
ところで私と伊集院さんは同じ種でしょうか?同じ種ですよ。
人間ですからね。
ちょっと大きさ違いますけどね。
じゃあこのダックスフントちゃんとこのアイリッシュウルフハウンドというめちゃくちゃ大きなワンちゃん。
これは同じ種でしょうか?え?だけどさもう今犬種の名前が違うという事は種。
種って何だ?ダーウィンの言う種。
こんがらがってきたもう。
その辺のところを先生に伺ってみましょう。
今回この名著の解説をして頂きますのは長谷川眞理子さんでございます。
先生どうぞ!今身動きが取れない状況なんです。
行動生態学・進化生物学を専門とする長谷川眞理子さん。
ダーウィンの進化論には今を読み解くヒントがあるといいます。
よろしくお願いします。
先生種という事なんですけどこれまであんまり意識して使ってなかったんですがここにいる2匹のワンちゃんは同じ種という事なんですか?はい。
もちろんイヌというのは1種類です。
1種です。
あっそうなんだ。
我々がペットショップとかで言う犬種とはまた別で種と言われれば…。
ええそれはみんな1つです。
へ〜!定義…何か分かりやすい定義何ですか?同じ種の定義。
でも先生どうしてイヌなのに同じ種のこの大きさの差がついちゃったという事なんでしょうか。
それがダーウィンが着目した点で「種の起源」というのはそういうところから説明を始めるんですけど人間が何か特徴を持ったものを選んだわけですよね。
もともとオオカミみたいなものだったのからいろんなものができてきたわけ。
これはこの序盤お話聞いただけでもう果てしない話になりそうですが何とかついていこうとは思っております。
さあ生命のミステリーに150年前に挑んだダーウィンの「種の起源」。
まずはこの本が生まれたいきさつを見てみようか。
チャールズ・ダーウィンは1809年イギリスの裕福な医者の家に生まれました。
幼い頃から生き物が大好きで学校は嫌いでした。
少年ダーウィンは広大な家の庭で昆虫採集をしたり鳥の観察をして伸び伸びと成長しました。
父はこんな息子を医者にしようとエジンバラ大学に入学させます。
しかしダーウィンは血を見るのが苦手で挫折してしまいました。
しかたなく今度はケンブリッジ大学で牧師を目指す事になりましたが神学にも興味はなく博物学や地質学にのめり込みました。
大学を卒業したもののぶらぶらしていたダーウィンの所へ思わぬ幸運が舞い込みます。
ビーグル号という船が「博物学者として同行する者を探している」というのです。
ビーグル号の主な目的は南米大陸の海岸線の測量。
生物や地質の調査を存分に行う事ができるまたとない機会が突然ダーウィンに訪れたのです。
ダーウィンは5年に及ぶ航海で膨大な生物や鉱物の資料を集め論文を次々と発表。
科学おたくの若者は一目置かれる学者へと大きく変わりました。
この航海はダーウィンに新しい考えを芽生えさせます。
環境などの影響で生物は変化し新しい「種」が生まれるのではないか。
つまりルーツをたどれば原始的な微生物から人間まで全ての生物は一つにつながっていると考えたのです。
これはとても危険な考えでした。
ダーウィンの時代全ての生物は神が作ったもの。
天地創造以来それぞれの「種」は変わる事などありえないと考えられていました。
この考えに異を唱える事は身の破滅を招きかねません。
ダーウィンは自分の考えを胸のうちにしまっておく事にしました。
ビーグル号の航海から20年以上過ぎたある日の事。
若い博物学者ウォレスからの手紙がダーウィンの運命を変えます。
(ダーウィン)これは私の考えている事とほぼ同じではないか!ウォレスもまた種は進化するという考えに到達していました。
ダーウィンは背中を押された形で膨大な資料をまとめる作業に着手しました。
そして50歳の時「種の起源」を出版したのです。
ダーウィンのまず基本情報をどういう人だったのかご覧頂きましょう。
こちらでございます。
お医者さんでお父さんは大金持ちなんですけどお母さんのおうちが陶器で有名なウェッジウッド。
おっ!そんなとこでつながってるんですか。
それがお母さんの家なんですね。
ですからもうとにかく大金持ち。
医学を志すんですが中退。
お父さんが医者ですから医者を継がせようと思った。
しかし当時麻酔がないしね子供の手術なんかもう泣きわめくのを押さえつけて切ったりするわけでしょ。
そういうところに彼は耐えられなくてやめましたね。
ここで神学を学ぶけどもあんまり興味なかったとさっき言ってましたね。
牧師なんていうのも全然牧師やってれば見栄えがいいというだけのそういう選択だったんですね。
それこそ世間体じゃないけども。
さあそして運命の転機となるのがそのビーグル号に乗って世界を一周するという事なんですがちょっとこちらのどういうふうに世界一周したのかご覧下さい。
ここからこうず〜っとこっちつながってるんですよね。
こう行ってこう行ってこういうふうに何か世界一周して。
とても有名なガラパゴス諸島にもこの時に行ってるんですね。
ビーグル号というのは…特にこの時南米の辺りがまだいろんな測量が残っていたのでその測量のためなので何度も止まりながら行ってるんですね。
そこでダーウィンはずっと船に乗ってないでよく陸に上がって探検に行ってものすごくいろんな経験をしました。
その中で一つは彼に大きな影響を与えたのは地震に遭った事。
一夜にして陸がこんなに盛り上がってしまうなんていう事を経験した。
こういうふうに大陸があってこういうふうに山や川があるというのもず〜っと同じではないという経験をしたわけ。
変化するというか。
変化するという事。
山は昔から山として出来上がって今後も山として存在してるわけじゃないと。
地球全体が変化しうるという事をまあ身をもって感じたという事ですね。
それからパタゴニアのこっちの方ですね。
化石を…ナマケモノの昔の化石。
ですのでこういろんな生き物が絶滅して化石になるという事も自分で発見した。
そもそもそのころの考え方だとどうなんですか。
動物が絶滅するみたいな事というのは。
なかなか説明しにくくてみんな神様がちゃんと作っていいところに配置してあるというのが勝手に絶滅されたらほんとは困るんですよね。
そうかそれが大前提だと神様完璧なものを完璧な場所に置いてるはずじゃないと。
それが絶滅するって神様に何か落ち度があるとおかしいだろうという。
だからまあノアの洪水じゃないでしょうかねとか。
ノアの洪水で。
そうか全部。
それは絶滅もしてるだろうみたいな。
そういう事をちょこちょこ経験しながらあの有名なガラパゴスに行くんですね。
そうですね。
ガラパゴスはねそんなにその時にすぐ何かを考えついたというわけではないんですけどね。
まだやっぱりキリスト教的に育てられたとかそれは強いものですからなかなか一夜にしては変わらない。
でもゾウガメといっても島ごとに甲羅の形が違うとか島ごとに違う生き物がいるとか南米と似たようなものがいるけどちょっと違う鳴き声をするとか。
だんだん何かおかしいなという気はしてくる。
これってどうやって説明…みんな神様がそんなふうにいわばつまんない事まで考えて作ったのかな?という気がだんだんしてくるというとこですか。
まあでも時間かかってますよね。
そう「種の起源」書くまでに20年。
そうですね。
名家の家のジェントルマンだからいろいろそのキリスト教と真っ向から対立するとか家族もいるしという事ですっごく慎重になったんですね。
それでずっとその考えを書いて秘密のノートに書いて論を組み立ててる最後のところで友達に「これは実は殺人を告白するようなものなんだけれど進化が起こったんではないかと考えている」というふうにこそっと打ち明けるんですよね。
すごい。
「殺人を告白するようなもの」。
今僕の考えてる事をこのまとめてるものは。
冗談じゃなくてほんとに命懸けでというぐらいの。
まあでも結果書くわけですよね。
書いちゃった。
これはどういうふうに受け止められたんですか?意外にももう飛ぶように売れました。
1,250部の初版っていうのはもう即日完売くらいにすごいすごい売れてしまって。
みんなそういう事に興味があった。
いろんなインテリ全部読んで。
首相も読んだしビクトリア女王も読んだし当時の小説家たちもみんな読んだというようなそういう事ですね。
はやりの書物として。
みんな何が書いてあるんだろうって。
でもやっぱり人間も結局そういう他の生き物とつながって一つの生き物にすぎないという事を言われたという事にまあ信仰の面からキリスト教の面からしてものすごく反論されたわけですね。
嫌だと思う人はいっぱいいた。
そうするとベストセラーというか大ベストセラーではあるけども絶賛されたわけではないと。
ものすごい波紋を呼んだという。
そうですね論争の火をつけたというか。
嫌なんですか?人間はまあ大ざっぱな言い方をするとサルみたいなやつから進化して人間になったんですよは嫌なんですか。
嫌なんですね。
やっぱり特別な存在…。
そうですね。
その辺は人間…日本の文化はちょっと違うかもしれないけれど。
西欧はやはりキリスト教というのは人間は神様の次に偉くてそれで人間は動物を支配してよろしいんだと。
人間のために他の生物は存在するんだというようなそういう偉さの違いがあるような宗教ですからね。
それともう一つちょっとこれをご覧になって頂きたいんだけどこういうものが落ちてたらどういういきさつでこれが存在しているんだろうと思いますか?ここで先生がおっしゃりたいのは誰が落としたとかそういう事じゃなくなぜ存在したのかという事ですね。
要するに誰かが作らなきゃ。
例えばねたまたまあった鉄鉱石の塊がいろんな所にぶつかってそうはならないから誰か時計職人のすごい人がいて一個一個部品を作って一個一個組み立てて作ったものが忘れられたかどうかは知りません。
そこに置いてあると思いますよね。
そうですよね。
そのとおり。
本当にこれほど精密にそれぞれ役目のある部品が集まってこんなにうまく出来ているというのは絶対設計者がいるはずで生き物を見ると鳥の翼もビーバーの尻尾も目も本当にうまくできていて部品から成ってますよね。
目も網膜とかレンズとか部品から成ってる。
みんなすごく上手に動く。
こんなにうまく出来ているというのは絶対設計者がいるはずでそれを「デザイン論」と呼びます。
デザイン論。
デザイン論。
というところでやっぱりこれも神様ですものねという話になるんですよね。
そんな気がしてきた。
いやそうだよ。
そっちの方が…。
誰かがこうこさえなきゃ出来ませんよって思う方がむしろ普通ですよね。
そうだ神様すばらしいってみんななってるところにダーウィンは「違う」と。
そう。
ダーウィンは「種は固定されている」という一つの考えと神様によって「デザイン」私今信じそうになりましたけどデザインされたものなのであるというこの2つの両方を否定。
その2つを両方とも自分の理論できちんと科学的に説明しなきゃいけないという事になったわけですね。
ダーウィンはどうやって説明したんでしょうか。
「種の起源」の第1章でダーウィンはまず人間が行ってきた品種改良を例に挙げて種が変わりうるものだと説明します。
その例として当時ペットとして人気があったハトを取り上げました。
ペット用のハトにはたくさんの品種がありました。
ダーウィンは自宅にハト小屋を作り観察を続けます。
これだけ多様なハトたち。
しかしその特徴を分析していくと共通の性質が見つかります。
これらの性質を持つ野生種カワラバトが祖先であると推察しました。
ダーウィンはそれを確かめるために白いファンテールと黒いバーブという全く似ていないハト同士を掛け合わせてみました。
すると孫の世代でカワラバトが生まれました。
つまり先祖返りしたのです。
「種の起源」の議論はここから始まります。
お金持ちの家だからさ相当な種類のハトを集めて大きいハト小屋で飼って交配させていろんな事できる。
こういう人がお金持ちな分には僕大歓迎ですよ。
ひがまないひがまない。
すごいですね。
でもまあいろんな品種のハトあれはこう品種改良して人間の手が加わったらそのように変わっていくという。
だけど大本は一つなんだという事を人々に納得させようと。
今のハトが同じカワラバトというものからあれだけいろんなものが出てくるんだったらそれは人間がそうやったんだったらもっともっと長い時間のもっともっと広い範囲で自然が何かを選択しているという事があれば違うものができるだろう。
だから種は絶対的に存在するものではなくて何か変わる…変わる手だてがあるはずだという事を示唆しようとしたんですね。
先生ハトいろんな形が違うものがありますけどこれは同じ種のハトという…?はいそうです。
この段階だとね別にこれとこれが繁殖ができないなんていう事はないわけだから先ほどのイヌと同じで全部1種ですよね。
ただしこういう変種みたいなものがこれだけ臨機応変に出るんだったらどこかで地球の長い歴史の中で分かれたものがやがて別種になる。
もうお互いに繁殖しない違う種になるという事が出てくるだろうと推測したんです。
変種が重なっていけば別種になる。
そのダーウィンの考え方ちょっとここにまとめて下さいました。
こちらがダーウィンより前の考え方。
現在種がこういうふうに見えていると。
いろんな種がいます。
これは…。
これはもう最初に神様が創造の日というところにこれを作る。
そうすると時代がどれだけ進もうと創造の日に作られたものがいっぱい今でもいますという事ですね。
そしてダーウィンはといいますと見え方は同じ。
種はこうあって。
見ると一緒。
しかしこの下はどうなっているかというと…。
昔はきっと大昔は一つだったんじゃないか。
地球上に今何万種いるとしても大本のところでは大昔に何か単純なものが一つ現れたんではないかと。
それがこう時代を進むにつれて違ったものが分かれる。
これがこう分かれてまたこっちにも別のものが出てきてというふうになって現在これが見えてる。
現在これが見えてる。
これが見えてるこれが見えてる…。
これは我々は現代の人間だからすごく理解できますけどましてや逆な先入観として進化論が正しいんだという方の先入観すらもう持ってますから分かりますけどこれやっかいなのは両方とも今だけを切ると合ってますもんね。
種類はいっぱいあるんです。
今現在別の形をしていますという事に関しては合ってるわけじゃないですか。
合ってるわけですね。
ましてや人間の一生の中で劇的に変化するものなかなか僕は思いつかなかったから。
おじいさんが見たゾウも鼻が長かったし俺が見たゾウも鼻が長いという事になっちゃうから。
証明するのも難しいしでもハト…ハトがあったね。
これでもハトの品種改良で起こったような事がこれからの自然界でも起こっていくという事になる。
起こってきたという。
過去に遡れば起こったしこれからも何万年何十万年といけば変わるでしょうよと。
私たちも何か変わるかも。
変わるかもね。
何か僕はこの本がテーマに選ばれた時に割と「名著」と言うぐらいだから文学の番組という先入観で僕最初入ってきたんだけどこれどういう感じになるんだろうと思ったらいろんなまたちょっとわくわくが。
思ってる進化論ともまた違うダーウィンの一面が見えてきた気がしますがさて次回はいよいよ自然界では進化のメカニズムがどう働くのかに迫ってみたいと思います。
長谷川先生どうもありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。
2015/08/12(水) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 ダーウィン“種の起源”[新]<全4回>第1回▽“種”とは何か?[解][字]
ダーウィンは人間が飼育栽培する動植物が同じ「種」とは思えないような変化を遂げていく事実に注目。そこから「種は進化し別の種になる」という進化論を展開していく。
詳細情報
番組内容
生物分類の基本単位「種」は神が創造して以来不変のものだというのが19世紀当時のキリスト教的な世界観だった。ダーウィンは人間が飼育栽培する動植物が同じ「種」とは思えないような変化を遂げていく事実に注目。そこから「種は進化し別の種になる」という理論にたどり着く。第一回は、ダーウィンが既存の世界観にどう挑んでいったかを明らかにしながら、「種の起源」で説かれる進化論の発想の原点に迫っていく。
出演者
【講師】総合研究大学院大学教授…長谷川眞理子,【司会】伊集院光,武内陶子,【声】水島裕,【語り】墨屋那津子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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