教科書が変なんです。変なんです……が,

 某社の数学 B の教科書が,とてもおかしい。

 内積の成分表示について説明し,問題を解いていくくだり。高校数学でのベクトルの内積は長さとなす角で先に定義されるので,まず,余弦定理を根拠に,次の式が示される。
2007061101
 そのあと,これを成分表示して,次の式を得る。
2007061102
 さらに,成分表示を利用して,次の「内積の分配法則」を示す。
2007061103
 その後自分自身の内積が長さの 2 乗になること等が示され,いざ,これを利用して練習問題,というところで……出てくる問題が,なんと。
「次の等式を証明せよ。」
2007061101

 ……おいおい。たった 2〜3 ページのあいだに,こんな誰にでも分かる循環論法って,いったいどういうことなんだ……。

 本校の生徒だと,たぶんこちらからそれっぽいことを言わない限り,大人しく内積の分配法則を使って「ハイできました」とやってくると思う。しかし,それは教師として容認していいものか。本質的に内積の定義とは何なのか,ここをきっかけに追究させたほうがよいものか。深追いしすぎては理解できるものも理解できなくなりはしないか。……サジ加減に大いに迷うところである。

 以前内積については当随想録でも議論したことがあったが,やはり「成分表示が内積の定義」という立場と,「高校数学では内積は図形的に定義する」という立場が教科書の中でも入り乱れているのが顕著に出た形だ。どうする,どうする数学教育者。

 蛇足になることを覚悟の上で言うと,中学校の教科書で「二等辺三角形の性質」が循環論法になっているのは有名な話。結局のところ「わかりやすく伝えたいならば,多少はデフォルメして教えなければならない」⇒「多少デフォルメして教えるならば,循環論法を内包するのは仕方が無い」⇒「循環論法を内包するのが仕方ない,と認めて初めて,わかりやすく伝えられる」という,この数学科教育学上の課題自体が循環論法に陥っているのではないか,と思ってしまったりするわけだ。
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