自家製プログラムでアルゴリズム取引に励む個人投資家

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何千人ものデイトレーダーが自前の取引ソフトを作っている(写真はアレクサンダー・ソマーさん) Photo: Severin Koller for The Wall Street Journal

 マイク・ソウルさんは3カ月に100時間以上をコーディングに費やし、ようやくプロジェクトを開始する準備を整えた。何が起こるかは分からなかった。うまくいけば、金持ちへの道を突き進むかもしれないし、そうでなければ、貯蓄を失う可能性があった。

 彼が作ったのは、新しいモバイルアプリでも、オンライン店舗でもなかった。それはコンピュータープログラムで、週5日間、毎日24時間にわたって通貨を売買するものだった。DIY(Do It Yourself、日曜大工のように素人が何かを作ること)の世界で最新のフロンティアがアルゴリズム取引だ。好奇心によって突き動かされ、趣味の団体やインターネット講義で指導を受けた何千人ものデイトレーダーが自前の取引ソフトを作り、それを市場で使っている。

 ソウルさんは「これは『うまくいくかな』と思いながらやるようなもので、実際取引が始まると、わくわくする。結果が予想通りになるか分からないけど、やってしまったという感じだ」と話す。ソウルさんはネバダ大学リノ校の学生であり、病院を運営するタホ・フォレスト・ヘルス・システムズでネットワーク管理者を務めている。

 インタラクティブ・ブローカーズ・グループ社は、自宅でアルゴリズム取引を行う人を積極的に集め、取引を支援するサービスを提供する。動画投稿サイトのユーチューブには、トレーダーや企業が基本を説明する動画が投稿されており、これらは何万回も再生されている。ジョージア工科大学のタッカー・バルチ教授が教える人気のインターネット講座「コンピューターによる投資」は、17万人を超える人々が受講する。講座を修了するのは全体のわずか5%程度だが、4月にニューヨークで開催されたアルゴリズム取引のイベントで、同教授は3人からサインを求められたという。バルチ教授は「大学教授がサインを求められることなど、めったにない」と話した。

 オーストリアのウィーンに住むアレクサンダー・ソマーさんは、アルゴリズム取引の基礎をもっと学ぶため、バルチ教授のビデオ講義を視聴した。ソマーさんは平日仕事に行く前、その日に行う予定の取引についてまとめた電子メールで目を覚ます。この電子メールはソマーさんお手製の取引プラットフォームが作成したもので、このプラットフォームはソマーさんと3人の取引仲間が開発したアルゴリズムを使って1日中自動的に取引をする。4人は自分たちの資金計約20万ドル(約2500万円)をS&P総合500種株価指数やナスダック総合指数の構成銘柄に投資する。

 ソマーさんは日中、欧州の石油会社OMVグループのプロジェクトマネジャーとして働く。午後9時から午前0時まで、4人のチームはアルゴリズムの改善に取り組む。ソマーさんは通常、ウィーン時間午後3時に米国株式市場が開く前に全てをダブルチェック。市場が引けた後は、正しい取引が行われたかを確認する。ソマーさんとパートナーたちは交代で取引システムを監視している。

 何十億ドルもの規模を持つ、コンピューター主体のヘッジファンドが米国の議会の公聴会や規制当局から監視を受けている。そんななか、この自家製版にも今春、厳しい目が注がれた。ウエストロンドンの自宅から取引していたトレーダーが、英当局に逮捕された。米当局から「フラッシュクラッシュ(瞬間暴落)」を引き起こした疑いがあるとの容疑をかけられたのである。フラッシュクラッシュは2010年5月6日に起きたもので、ダウ工業株30種平均が数分のうちに1000ドル急落した。

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