深い霧が立ちこめた緑の森。
アフリカ大陸の沖に浮かぶ島…ここはほかでは見る事のできない不思議な生き物たちの宝庫です。
まるでキツネのような顔をした…その動きも極めて特徴的です。
ユニークな姿のカメレオンはマダガスカルで進化したは虫類です。
そしてクロヒョウのような姿の謎めいた哺乳類。
箱船のような島で独自の進化を遂げてきた生き物たちの素顔に迫ります。
アフリカ大陸から東へ500キロ。
インド洋に浮かぶ島マダガスカルです。
世界で4番目に大きな島で広さは日本のおよそ1.6倍。
今からおよそ8,000万年前に古代の大陸から分かれて以来ほかの陸地とは一度もつながった事がありません。
島には太古の面影をとどめた独特の自然が広がっています。
中でも特に生き物たちの種類が多いのが東海岸に広がる熱帯雨林。
森の奥から奇妙な声が聞こえてきました。
(鳴き声)声の主はインドリ。
キツネのようなとがった鼻が特徴でキツネザルと呼ばれる原始的なサルの仲間です。
体長70センチ。
キツネザルの中では最大です。
葉の硬い繊維質を消化するため長い腸が発達し体も大きくなったと考えられています。
(鳴き声)森に響き渡る大きな声。
(鳴き声)数キロ先まで届きます。
(鳴き声)鳴き声は縄張り宣言。
毎朝家族で鳴き交わします。
(鳴き声)最大の特徴はこのジャンプ。
助走なしで10メートル以上木から木へと飛び移ります。
キツネザルはマダガスカル固有のサルで種類は80種にも上ります。
その姿形は実に多様です。
長い尾のしま模様が特徴のワオキツネザル。
15匹ほどの群れを作って暮らしています。
住んでいるのは島の南部の乾燥地帯。
もっぱら地上を歩いて移動します。
子育てはメスが中心。
普通1匹の子どもを母親が背負って育てます。
遠くから何やら不思議な動きをするものがやって来ました。
まるでダンスを踊っているようです。
体長およそ50センチ。
シファカと呼ばれる大型のキツネザルです。
日暮れとともに活動を始める種類もいます。
ネズミキツネザルです。
体長僅か10センチ。
人の手のひらに入る大きさです。
主食は昆虫。
セミを狙っています。
夜行性のネズミキツネザルは昼間は木のうろで休みます。
同じキツネザルの仲間とは思えないような変わった種類もいます。
まるでコウモリのように木からぶら下がっています。
その独特の風貌から現地では悪魔の使いとも呼ばれてきました。
中でも独特なのがまるで針金のような細い中指。
木の幹をたたき始めました。
一体何をしているのでしょうか。
幹に耳をつけて中の様子をうかがっています。
鋭い歯でかじり始めました。
開けた穴に中指を差し込んでいます。
お見事!カミキリムシの幼虫を捕まえました。
アイアイの指は木の中の獲物を捕らえる事ができるよう特殊化した結果なのです。
ほかでは見る事のできない個性的なサルが暮らすマダガスカル。
この不思議な世界が誕生した背景には数々の奇跡と偶然がありました。
中でもある地球規模の大事件が深く関わっています。
今からおよそ6,550万年前地球では恐竜が絶滅した大規模な気候変動が起こりました。
この時マダガスカルでも多くの生物が死に絶えました。
この大異変を生き延びたのは昆虫や小型のは虫類など小さな生き物だけ。
少ない資源や食料でも命をつなぐ事ができたのです。
気候変動を生き残ったものは競争相手の少ない島で多様な進化を始めました。
その代表がカメレオンです。
カメレオンは恐竜が絶滅したあとマダガスカルで小さなトカゲの仲間から進化したと考えられています。
左右別々に動く目はあらゆる方向にいる獲物を探す事ができます。
一瞬で遠くの獲物を捕らえる長い舌。
現在マダガスカルでは70種類が確認されています。
カメレオンは競合する生物が少ない島で多種多様な進化を遂げてきたのです。
そんなマダガスカルに新たにやって来たのがキツネザルです。
キツネザルの祖先はもともとアフリカ大陸にいた事が分かっています。
しかしアフリカ大陸とマダガスカルは最も近い場所でも500キロ離れています。
一体どのようにして海を渡ったのでしょうか。
その秘密はインド洋に発生するサイクロン。
(雷鳴)大量の雨で氾濫した川は木々をなぎ倒し海へと運んでいきます。
うろに避難したまま海に流されたキツネザルの祖先もいたに違いありません。
それが漂流の果てにマダガスカルへとたどりついたと考えられているのです。
しかし一体どのようにして大海原の長旅を乗り切ったのでしょうか。
鍵を握るのが祖先に最も近い暮らしぶりを持つネズミキツネザルです。
雨季の終わり。
ネズミキツネザルはひたすら食べ続けます。
栄養は脂肪として蓄えられ体重は4割近くも増えます。
こうした奇妙な行動をとるのには理由があります。
ネズミキツネザルが暮らす西部の森。
乾季になると風景は一変します。
半年間雨はほとんど降りません。
川は干上がりバオバブの木が次々と葉を落とします。
昆虫もいなくなり食べ物も少なくなります。
たっぷりと脂肪を蓄えたネズミキツネザル。
巣穴に入ると仲間と共に深い眠りに入ります。
休眠と呼ばれる独特の生理現象。
何も食べずに5か月過ごします。
実はこの能力こそがアフリカからの長旅を可能にしたと考えられているのです。
川が干上がると限られた水場には多くの生き物が集まってきます。
こちらは…体長は30センチ。
見かけによらず肉食の動物です。
マングースもまたキツネザルに後れてアフリカからやって来た哺乳類です。
そしてキツネザル同様島で独自の進化を遂げてきました。
中にはキツネザルの大きな脅威となったものもいます。
素早い身のこなし。
フォッサです。
(鳴き声)姿はまるでクロヒョウ。
体長は1メートルにもなります。
鋭いかぎ爪で木に登ります。
マダガスカルにはライオンやヒョウのような大型の肉食獣がいませんでした。
その結果小さなマングースがこんなどう猛なハンターへと進化したのです。
フォッサは木登りもお手の物。
時には2匹で協力して木の上のキツネザルを追い込み捕らえる事もあるといいます。
危険を感じるとキツネザルは素早く避難。
独特のジャンプはフォッサから逃れるために発達したとも考えられています。
どうやら今回は水を飲みに来ただけのようです。
フォッサのような例は収れん進化と呼ばれています。
全く類縁関係のない生き物が住んでいる環境などによって同じような姿形になる現象です。
マダガスカルではそうした例をほかでも見る事ができます。
ハリネズミとそっくりです。
マダガスカル固有の原始的な哺乳類テンレックです。
その祖先はアフリカに住むトガリネズミの仲間。
やはりマングースと同じ頃海を越えてやって来たと考えられています。
現在30種類近くが生息。
ネズミの仲間がいなかったマダガスカルでさまざまな姿に進化してきました。
中でも独特なのが水中生活に適応した…体長15センチほどで頬に長いヒゲが生えています。
足にある水かきを使ってまるでカワウソのように上手に泳ぎます。
夜行性で目はあまりよくありません。
ヒゲの感覚を頼りに魚やカニなどを探して捕らえます。
日本にいるカワネズミにもよく似たミズテンレック。
不思議な進化の一例です。
11月。
海からの湿気を含んだ空気が山にぶつかり雨雲が発生します。
乾いた大地に雨の季節が到来しました。
乾季が終わり森に緑が戻ってきました。
雨季の訪れと同時にネズミキツネザルが眠りから目覚めます。
体に蓄えた脂肪を使いながら長く厳しい季節を乗り切ったのです。
休眠から覚めるとすぐに繁殖に入ります。
そして12月。
新しい命が誕生していました。
生後僅か2日。
人の親指ほどの大きさしかありません。
DNAの分析によるとマダガスカルへやって来たキツネザルの祖先は1種類だけだった事が分かっています。
それが世代を重ね80種類へと爆発的な進化を遂げていったのです。
多様な環境に適応する中でさまざまな食べ物を利用するものも現れました。
昆虫を食べるもの。
木の実を食べるもの。
樹液をなめるもの。
中にはパンダのように竹を主食としている珍しい種類もいます。
竹は硬い上に繊維も多く消化しにくい食べ物です。
軟らかそうに見える葉っぱも乾季には硬くなります。
これはジェントルキツネザルの仲間。
世界的に見ても竹を食べるサルはほとんどいません。
現在3種類が知られていて興味深い事にそれぞれが竹の異なる部分を食べます。
ハイイロジェントルキツネザルは葉の根元の軟らかい部分を食べます。
こちらは…鋭い歯で硬い竹を割り内側の白くて軟らかい部分だけを食べます。
そして第3のタイプが竹の子を食べる…この竹の子には猛毒の青酸が含まれていますがちゅうちょする様子はありません。
実は体内に青酸を解毒する機能を持っているのです。
争い合うのではなく限られた資源を分け合う事で共存してきた興味深い例です。
雨の季節を迎えバオバブの花が一斉に咲き始めました。
この時を待っていたのがネズミキツネザルです。
お目当てはバオバブの甘い蜜。
花にやって来る昆虫を探しているうちにいつしか蜜の味を覚えたと考えられています。
以来ネズミキツネザルは花の受粉を助けバオバブと共に生きてきました。
夜の森。
素早く動き回るアイアイがいました。
親子です。
母親は独特の細長い指で子どもの毛繕いをしています。
親子が移動を始めました。
やって来たのはヤシの木です。
頑丈な歯で穴を開けていきます。
そして細長い指で果肉をかき出し食べます。
今度は大きなジャックフルーツの木にやって来ました。
子どもも上手に指を使って実を食べています。
アイアイの子育ては1年ほど。
その間に子どもは母親から森で生きていくすべを学んでいきます。
はるか昔大航海の末に島にたどりつき爆発的な進化を遂げた生き物たち。
マダガスカルはそんな新天地を目指した冒険者たちの箱船なのです。
2015/08/10(月) 17:25〜17:55
NHK総合1・神戸
ホットスポット・セレクション「太古の箱船 進化の冒険者たち〜マダガスカル〜」[SS][字]
アフリカ大陸の東、インド洋に浮かぶマダガスカルは原始的なサル・キツネザルや謎の肉食獣フォッサなど珍獣たちの宝庫。数々の偶然と奇跡が生んだ進化の実験場の謎に迫る。
詳細情報
番組内容
アフリカ大陸の東、インド洋に浮かぶマダガスカルは他では見ることのできない珍獣たちの宝庫。忍者のように木々の間を飛び回る原始的なキツネザルの仲間インドリ、独特の細長い指で幹に潜む虫を取り出して食べるアイアイ、黒ヒョウのような姿をした謎の肉食獣フォッサ、彼らはすべてアフリカ大陸からやってきた祖先の子孫たちだ。どうやってマダガスカルにたどり着き、生き延びてきたのか?数々の偶然と奇跡が生んだ進化の謎に迫る
出演者
【語り】渡邉佐和子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
バラエティ – 旅バラエティ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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