午後のサスペンス「小杉健治サスペンス・絆」 2015.08.10


(原島保弁護士)あなたは検面調書に署名押印していますね?
(加納医師)はい。
では…もう一度再度お尋ねします。
あなたは今回の患者死亡事故は横井看護士個人の医療ミスであり病院側には一切責任がないと述べておられますが良心に誓って真実を述べていると言えますか?加納さん…。
答えることができないのはあなたのこれまでの証言が偽りだからじゃないんですか?
(彩)やめてお父さん…。
加納さん勇気をもって話していただけませんか?あなたが医師としてのいや人間としての尊厳を失わないためにも…どうか真実を…。
(検察官)異議あり!申し訳ありませんでした。
お話します。
全部…。

(記者)加納医師はお嬢さんの婚約者って本当ですか?答えてください!・
(バイオリン演奏)ただいま。

(バイオリンの弦の切れた音)・
(留守電の告知アナ)「ただいま留守にしております。
ピーという音の後に…」亜樹子です。
彩の三回忌…。
・お話したい事もありますので必ずいらしてください。
(電話の切れる音)
(弓丘奈緒美)救急車を…!主人が…刺されてます!
(バイオリンケースを落とした音)
(八木刑事)午後9時半頃帰宅してご主人を発見されたんですね?はい。
家にはどなたか…?主人は明日まで出張で留守のはずでしたし娘も演奏会前で帰りが遅くなると言ってましたので…。
するとご主人は1日早く戻られてこんな事に…。
お手伝いさんは?休みでした。
ご主人が殺害された午後7時から8時の間どちらにいらっしゃいました?映画を見てました。
それを証明してくれる人はいらっしゃいますか?あちらでお休みください。
結婚指輪をしてない。
離婚届の用紙といい夫婦仲よくなかったみたいだな。
(TVニュース)「現場からお伝えします。
ここ麻布の高級住宅街で起きた社長弓丘勇一さん49歳の殺刺事件に新たな悲劇が起きていました。
被害者の愛人が真鶴岬から飛び込み後追い自殺が明らかになったのです。
亡くなったのは被害者の秘書三津井沢子さん33歳。
勇一さんが殺害されたショックから発作的に身を投げたと思われます。
また夫に愛人がいただけでなく発見者の妻にも愛人がいた事も…。
離婚話でもめていたことが明らかになったのです」
(水木邦夫)冗談じゃないよ!奈緒子さんにかぎって愛人だなんて…。
(一枝)お知り合いなんですか?先生!中学時代の親友の姉さんだ。
へえ!
(お手伝い)奥様!奥様!
(市橋晴彦)姉さん…!晴彦…。
美砂子をお願いね。
うん。
心配しなくても…。
それより姉さん…。
大丈夫…。
もう一度伺います。
殺害時刻の午後7時から8時映画を見ていたんじゃなく家にいたのでは…?いいえ。
午後8時少し前に家を出て行くのを見られてますよ。
隣の人に…。
そして8時40分頃銀座線の上野駅構内でご主人の会社の人があなたを目撃してるんですよ。
あなた凶器を上野公園に捨てましたね?知りません。
上野公園の清掃員が凶器を発見しましてね。
あなたが以前愛人らしき男と会ってたのも上野公園だ。
お嬢さんが見たと言ってるんですよ。
犯行後あなたその男と会ったんじゃないんですか?誰なんです?その男…。
犯行後あなたが上野公園で会った男は誰なんです!私が殺りました。
私が主人を殺しました。
(小鳥のさえずり)何とかもう一度お考えいただけないでしょうか?私は弁護士を辞めた人間ですから…。
「母には愛人がいる」と娘の美砂子が警察に話してます。
警察は離婚話がこじれた事件と…しかしいくつかの不審な点が…。
110番ではなくなぜ119番に通報したのか?殺害後3時間近くもたってから通報しているのはなぜか?先生はおっしゃいました。
「殺人事件の裁判で最もつらいのは被害者よりも加害者よりも…その家族だ。
被害者の家族と犯人の家族だ」と…。
娘の弓丘美砂子は僅か16歳でその両方を背負う事になりました。
父親が殺害され容疑者として母親が逮捕された現実はあまりにもむごい。
娘が独りで持ちこたえられるとは思えません。
いつ何をしてもおかしくないほど追い詰められてると思います。
故郷平潟で奈緒子さんはご両親を大切にする弟思いの優しい女性でした。
彼女何か隠してます。
娘をあそこまで追い詰めてまで必死で何かを…。
私は弁護を断られました。
いえ例え断られなくても私には無理です。
私には最後まで彼女の真実を追求する自信がない。
先生…どうか奈緒子さんを救ってください。
先生のお力で真実を明らかにしていただきたいんです。
彩:真実って何?お父さんは真実を守る事がそんなに大切なの!だから何度も言うように加納さんに真実を話してほしい。
真実を守る事は人間の尊厳を守る事なんだ。
私はその信念を支えに今まで弁護士を続けてきた。
その事はお前も分かってるはず…。
お父さんは真実が人を不幸にしても…それでも真実を追求する事の方が大事なの!
(水木)お願いします。
本件をお願いできるのは原島先生をおいて他には…。
せっかくですが私はもう弁護士に戻るつもりはありません。
もう弁護士に戻る気はないの?ああ…。
あなた無理してる…。
彩への償いの気持かもしれないけど…。
変われやしないのに無理してるわ。
無理なんかしてないよ。
2年前裁判であなたが加納さんの医師の良心に訴えて病院の隠し事を問い詰めたのは加納さんの将来を考えてのこと…。
あんな事になったけど…。
その話はもういい。
彩だって分かってたはずだわ。
あの子…あんなふうに死んでしまったけど…あなたのことずっと誇りにしてたから…。
私…あなたにあなたらしく生きてほしいの。
彩も…あの子も生きてたらきっと同じこと言ったわ。
今になって弁護士辞めるならそれくらいならあの時彩のために信念曲げてやればよかったのよ!私…こんな事を言うつもりじゃ…。

(バイオリン演奏)あの…。
ああ失礼。
今の曲何ていう曲ですか?美砂子さんですね?週間ズームの坂本です。
ちょっとお話を…。
これじゃある事ない事憶測されて…。
何でもしゃべった方が君のためだと…。
君のために本当の事書きたいんだよ!ねえ!やめなさい!分かりました分かりました。
真実は…いつか必ず分かります。
(美砂子)真実なんて…もうどうだっていい!16歳の娘が独りで持ちこたえられるとは思えません。
いつ何をしてもおかしくないほど追い詰められている…。
真実なんて…もうどうだっていい!先生のお力で真実を明らかにしていただきたいんです原島先生!?先日はどうも…。
力になれるかどうか分かりませんが例の件やらせていただきます。
ありがとうございます!協力できる事は何でもするつもりですから。
よろしくお願いします。
《弓丘奈緒子は茨城県平潟町で漁師の父市橋喜八と母初の長女として誕生。
弟寛吉と晴彦の5人家族。
長男寛吉に軽い知的障害があったが平凡で幸せな家庭。
多忙な両親に代わって奈緒子が2人の弟の面倒をみていたが20年前奈緒子の結婚半年前に長男寛吉が死亡。
両親も数年のうちにあいついで他界。
弓丘勇一の一目ぼれで望まれての結婚。
長女美砂子誕生。
会社は順風満帆。
美砂子にはバイオリンの才能…》原島先生。
一休みなさいませんか?ええ。
目撃証言…彼女すべて認めてるんですね。
はい。
ただ1点認めてないのが娘が上野公園で目撃したという男の存在です。
現在男の身元が不明な事が検察側の唯一の弱点ですね。
凶器の捨て場所がなぜ上野公園だったんでしょう?警察も当初共犯の線もと捜査していたんです。
現場の状況と彼女の自供により単独犯と断定したようですね。
娘の美砂子ですがなぜ母親に不利な証言をしたんでしょうか?公園で美砂子さんが目撃したという男性に何かお心当たりはありませんか?いいえ。
美砂子は姉の後をつけてはっきり見たと…。
後をつける!?父親に頼まれたんだそうです。
父親がそんな事をですか?私も聞いた時は腹が立ちました。
義兄もつらかったんだと…。
姉を愛していたからこそそんな事を…。

(バイオリン演奏)姪の美砂子です。
私たち姉弟はこの曲が子守歌がわりでした。
母親が音楽の好きな人で漁師の家には不釣り合いでしたけど…。
ちょっと失礼します。

(バイオリン演奏)この間はどうも…。
弁護士の原島先生だ。
お母さんの弁護を引き受けてくださった。
お母さんの…!?美砂子待ちなさい!私が…。
(小鳥のさえずり)この間はまだお母さんの弁護士じゃなくて…。
この前家の前にいたのは…?偶然です。
じゃどうして声をかけたんですか?あの曲…私の娘もよく弾いてたんです。
ちょうどあの日は娘の三回忌で…。
あれ…何ていう曲ですか?『タイースの瞑想曲』です。
『タイースの瞑想曲』…。
どうしてあなたお母さんに不利な証言をしたんですか?父に隠れてこそこそ男の人と会って…汚い。
お父さんにも好きな女性がいたんでしょ?父が愛人を作ったのは母のせいなんです。
父は母に振り向いてほしかった。
母がいけないのよ!あんな男と…!弁護士の原島と申します。
お嬢さんに会ってきました。
美砂子…どんな様子でしょうか?お元気ですよ。
お嬢さんなぜあなたに不利な証言をしたんでしょうか?お嬢さんが以前上野公園で目撃したという男性ですが…。
あれは美砂子の見間違いです。
見間違いだと申し上げてます。
見間違いで母親に不利な証言をするようなそんなお嬢さんでないことあなたがいちばんご存じのはず。
弓丘さん…どうか真実を話してください。
お嬢さんはまだ16歳。
大好きなお父さんを亡くしてその上お母さんまでも…。
やめてください!私は一刻も早く刑に服して罪の償いをしたいと思っています。
夫の冥福を祈りたいんです。
もうよろしいでしょうか?
(金沢検事)「被告人は昭和57年4月10日弓丘勇一と結婚し同人との間に一児をもうけ一家の主婦として東京都港区西麻布6丁目にて平和な家庭を営んでいたものであるが平成11年頃より弓丘勇一は秘書の三津井沢子を愛人として交際を深め被告人と別れ同女と結婚の意志をほのめかすに及んで度々翻意を促したが同人は聞き入れずこのため同人を殺害しようと決意するに至り平成13年10月3日東京都目黒区下目黒7丁目の森谷刃物店で刃渡り20cmの柳刃包丁を買い同年10月5日午後7時から8時の間に自宅居間にて離婚の話し合い中に隠し持っていた柳刃包丁で殺意を持って同人の左腹部を2度刺し失血死にて死亡せしめたものである。
罪名及び罰条…殺人。
刑法199条」以上の事実を立証するため甲乙各証拠の取調べの請求をいたします。
(裁判長)被告人は前へ…。
被告人はただ今検察官が読み上げた起訴状の訴因により起訴されたわけですがその事についてどう思いますか?間違いありません。
弁護人の意見は?弁護人は被告人の無実を主張します。
なぜ私の無罪を主張するんですか?私が殺ったと言ってるんです!私はあなたの無実を信じてます。
勝手な思い込みは迷惑です。
あなた何か隠してる事があるんじゃないですか?私は罪を償いたいんです。
1日も早く…。
これ…落ちてましたよ。
桜貝は耳にあてると波の音が聞こえてくるんですよね。
ここにはよく来るんですか?公園で見たお母さんの相手どんな男だったんですか?お母さん…お金を渡してた。
お金を…?お母さんなんて嫌い!大嫌い!
(一枝)原島先生!はい!先程から宮城さんという女性の方がお待ちです。
宮城さん!?ええ。
弓丘さんのお手伝いさんです。
宮城さんという方から預かってきました。
パンです。
何か…?いいえ。
食べ物は規則でお渡しできませんので…。
お嬢さんが公園で見たという男性ですがあなたお金を渡されたそうですね?知りません。
そんな人いません。
お嬢さんが晴彦さんに尋ねたそうです。
「私は本当に父の子か?」って…。
美砂子は主人の子です。
主人の子に間違いありません。
問題はそこなんです。
どうして美砂子さんそんな疑いを持ったんでしょう?苦しんでる美砂子さんの疑いを晴らしてあげてください。
すみませんね忙しいのに…。
頼みます。
「親父の墓参りもしてこい」っておふくろに頼まれました。
じゃ…。
ごめんください!
(テル)いらっしゃい!ご無沙汰してます。
水木です。
水木…?邦夫…邦夫ですよ。
あ〜…!邦ちゃん!
(船の汽笛)あそうですか。
うん!?
(波の音)君もお母さんが会ってた男の人の事が気になって?私は…私は…この貝の海が見たくて…。
お母さんによく似てるね〜。
市橋さんとこはホントに仲のいい姉弟でね〜。
ここでよく遊んでたあ。
(波の音)寛ちゃんはいい子だった〜。
年寄りの荷物は持ってやるしケガした子をおぶって病院へ運ぶし…。
奈緒子ちゃんをしつっこく付け回していたチンピラがいたんだけどい〜つも守ってやってたっけ〜。
でも知らない間に病院に入ってその後すぐ亡くなった〜。

(波の音)
(水木)寛吉さんのお墓だけなぜこんな所に…?いちばんの親不孝だからね〜。
親より先に逝くのは…。
寛ちゃんが亡くなった年はむごい事件が次々起きて…。
市橋さんとこでは床下まで掘って…。
床下を掘る!?自殺!?寛吉さん自殺だったんですか?河原で若い娘の襲われる事件が多発して寛吉さんを疑う噂が広まったとか…。
しかたなく病院に入れた直後に自分で頭を壁に打ちつけて…。
警察は別人を調べていたようですが…。
噂は怖いです。
床下を掘ったというのは?寛吉さんの自殺直後に彼女の縁談が決まったのでまた変な噂が広まったとか…。
寛吉さんを邪魔にして床下に埋めたんではと…。
レイプ事件の犯人は捕まったんですか?いえ。
警察が追っていたチンピラが突然行方不明に…。
結局オクラ入りだそうです。
オクラ入り…!?何か?どんな噂があったにせよ床下をわざわざ掘り返して見せた…。
それに寛吉さんの自殺ってのも何か引っ掛かるんですよね。
先生…。
寛吉さんの死に何か隠されている事があるんじゃ…?
(水木)原島先生!寛吉さんの自殺前後で消息不明になった男に大沼勝治というチンピラが浮上…。
20年前のレイプ事件で警察が目をつけていたのはこの男のようです。
実は…この大沼勝治奈緒子さんに一目ぼれしつきまとってたと…。
テルさんの言ってたチンピラはこの男の事ですよ。
大沼勝治…という男を知ってますね?あなたに言い寄り追い回してたそうですが?もう…20年も前の事です。
忘れました。
20年前床下を掘る騒ぎがあったこと。
これは覚えてますね?弟の寛吉さんが殺されて床下に埋められているそんな噂が立ったからだそうですが…?根も葉もない噂です。
なぜわざわざ床下を掘り返し死体を埋めてないと証明する必要があったんですか?あなたの縁談に差し障りがあったからですか?異議あり!裁判長!本件とは無関係な尋問です。
弁護人は質問の趣旨を明らかにしてください。
お嬢さんが上野公園で見た男性のことを被告人が言えないのは寛吉さんの死に何か関係があるんでは…?だから被告人は何も…。
異議あり!裁判長!誤導です。
異議を認めます。
ではお嬢さんが公園で見たという男性ですが自分の父親ではないかと疑ったのはなぜでしょうか?やめてください!美砂子は…主人の子です。
美砂子を…美砂子をつらい目に遭わせて…胸が張り裂けそうです。
すまないと思います。
それでも私は…私は…。

(泣き声)いらっしゃい。
(船の汽笛)一人でつらかったですね。
ムシャクシャするといつもここへ来るんです。
ぼんやりここで遠くを見てるとなんだかみんなちっぽけに思えてきて気持が楽になるんです。
私もこれからここへ来よう。
(船の汽笛)ね先生。
ん…。
『タイースの瞑想曲』聴きたくなったらいつでも言ってください。
ありがとう。
父が母のためによくリクエストした曲なんです。
お母さんのために…。
ご両親は仲がよかったんですね。
だから…母の裏切りが信じられなくて…。
公園で見た男性をどうしてお父さんだなんて思ったんです?母の笑顔です。
(笑い声)それにあのヒトなんだか私に似てる気がする…。
似てる?先生あのヒト本当に私のお父さんじゃないんですよね?あなたのお父さんは弓丘勇一さんです。
お母さんの言葉に嘘はない。
だったら…なんで母はあのヒトのことを隠すんですか?これだけははっきり言えます。
隠しているお母さんがいちばんあなたにこんな思いをさせているお母さんがいちばんつらいのではないでしょうか?そうでしょうか?私のことほんの少しでも考えてくれたらこんなことには。
弁護人の任務は被告人の利益と尊厳を守ることであります。
そのためには真実を追求するほかはないと確信しております。
被告人の弟市橋寛吉さんは昭和56年12月10日に茨城県にある岬台病院にて死亡。
死因は頭蓋骨陥没による自殺。
この寛吉さんの死こそ今もって被告人の心理に深く影響を与えているものではないかと弁護人は考えます。
もうすでに20年という長い年月が過ぎているのにいまだに被告人の心を苦しめているものは何なのか?被告人が自分の犯行だと言いだしたきっかけは事件当夜のアリバイを証明する男性の正体をあかしたくないためです。
弁護人はこの男性の正体を明らかにすることが被告人の無実を立証すると信じ今後の審理に臨む所存です。
何をしてるんですっ。
やめなさいっ。
死なせてくださいっ。
妙な気を起こすんじゃないのっ。
死なせてっ…。
死なせて!それほどまでにあなたを追い詰めているものは何ですか?夫殺しの汚名を着て自分の命を絶ってでも隠したいあなたの秘密というのは…?弁護士さんて…私を守ってくださる人じゃないんですか…。
その秘密を暴くことはあなたにとっては死ぬよりつらいことなのかもしれません。
それでも私はあなたの真実を守るほうを選びます。
あなたと美砂子さんのためにそうすることが正しいと信じるからです。
きれいごとはよしてください。
あなたはご自分の仕事をまっとうしたいだけでしょう。
そのためにどんなに人を傷つけてもいいんですか?私の娘も恐らく…あなたと同じことを思ったまま死んだのだと思います。
私が真実を暴いたことで娘は命を絶ちました。
私は…私の娘と同じようにあなたも追い詰めてしまった。
迷いました。
迷って迷い抜いた上であえて私はあなたに上野公園で会っていた人物が誰なのか話していただきたいとお願いしております。
大沼勝治…。
たしか兄貴が東京に…。
勝治はいろいろ世間に迷惑をかけてましたが私にはたった一人の弟でして…。
でももう20年も経ってますからあきらめました。
勝治さん当時市橋奈緒子さんに一目ぼれしてつきまとってた…。
すみません。
いいんですよ。
実は市橋さんの娘さんに会いに行って突然行方不明になったんですよ。
それで捜しに行きました。
市橋さんの家へ。
そしたら疑ってるのかと床下を掘る騒ぎになりましてな。
驚きましたよ床下掘る騒ぎにそんな裏話があったなんて。
大沼さんそこまでしなくてもと断ったそうなんですが市橋さんウチの寛吉の妙な噂を晴らすためにもと結局掘り返したと。
なんでそんなにこだわるの…?ふだんは温厚な人がいつになく強気だったと大沼さんも首かしげてた。
わざとかもしれませんね。
わざとですか?床下に弟の勝治が埋められていないことを大沼さんにわざと見せた。
寛吉さんの妙な噂も市橋さん本人が流したのなら床下を掘る口実にはなりますね。
なんでそんなことを?まさか先生大沼勝治…?すみません遅れました。
あの夜奈緒子さんを見たという隣の奥さんの証言では襟元に金のネックレスが光って見えたらしいんですが奈緒子さん金属アレルギーなので装飾品は一切着けないと…。
そうかだから彼女結婚指輪をしてないんだ。
もしかして隣の主婦が見たのは三津井沢子…?考えられますね。
問題は証拠ですね。
山中君これはひょっとすると大逆転劇よ。
よしっ今夜はパワーの源をじゃんじゃんいきましょう。
よし頑張るぞ。
先生大きいほう大きいほう!ほらおつぎして。
はい先生。
(船の汽笛)この辺はお母さんとよく来たんですか?まだこんな小さかった時に。
ここよ…。
ここだわっ。
昔よく母が用事をすませる間ここで待ってました。
ここでいつもどのくらい待っていたんですか?30分ぐらいだと思います。
30分で往復して…用をすませられる所ですか。
はいこれ…。
(道代)310円です。
道代ちゃん張り切ってるわね。
もうすぐねお式…。
はいっ。
ありがとうございました。
いらっしゃいませ。
ちょっとお尋ねしたいんですが…。
この写真の方パンを買いに来たことがあると思うんですが?さあ〜。
・『タイースの瞑想曲』どうしました?あの人…。
似てる。
母が上野公園で会ってた人に…。
私確かめてみます。
いや…。
私が確かめましょう。
原島と申します。
ボクは筒見…仁造です。
あなたのパンはとてもおいしいそうですね。
はい。
今度食べてください。
はい…。
あなたのパンを世界でいちばん大好きな人が今とても困ってます。
その人を助けることができるのはあなたしかいません。
ボクしか…?その人に会って助けてあげてほしいのです。
(裁判長)弁護人。
弁護側の証人はまだのようですがそろそろ時間です。
(ドアが開く音)カンちゃん…。
証人の名前は?筒見…仁造です。
市橋寛吉これがあなたの本当の名前ではありませんか?いいえ…ボクは筒見…仁造です。
あなたの後ろにいるその方知ってますね。
いいえ知らない人です。
あなたのお姉さんではありませんか?いいえ。
ボクにはお姉さんはいません。
あなたは何も言ってはいけないと言うお姉さんの言いつけを守っているのでしょう?でもあなたが本当のことを話してくれないと大好きなお姉さんが殺人犯になってしまうかもしれません。
いいんですかそれでも?
(裁判長)弁護人証人を強制することがないように。
関根道代さんとあなたはどういう関係ですか?ボクたちは…結婚します。
結婚式はいつですか?来月の末になったら結婚式です。
お姉さんはあなたがその日を無事に迎えられることを心の底から願ってます。
でもあなたが本当のことを話してくれないとお姉さんは刑務所に行くことになります。
異議ありっ。
無関係な尋問です。
ふるさと平潟…。
真っ赤な夕陽が沈む頃お姉さんはいつも遊び疲れたあなたと晴彦さんを迎えに来てくれましたね。
お姉さんとすごした楽しかったあの頃。
お姉さんは本当に優しかった。
お母さんのようにあなたを包み込んでくれましたね。
やめてやめてくださいっ。
被告人静かに。
この方はあなたのお姉さんですね?違いますっ。
違うんですっ。
被告人これ以上騒ぎたてると本法廷はいったん休廷にします。
以後行動には注意するように。
証人に私から尋ねます。
その前にもう一度言っておきますがここでは一切嘘をついてはいけません。
嘘をつけば罰せられます。
分かりますね。
では聞きます。
先程から弁護人が再三尋ねているようにここに居るのはあなたのお姉さんですか?やめてっやめてくださいっやめて。
裁判長…。
この中に何が入っているか知ってますね?サクラガイです。
お姉ちゃん…。
ほら…あなたにもらった桜貝をお姉さんはずっと大切に持っていました。
そして今この桜貝は奈緒子さんのお嬢さん…あなたの姪の美砂子さんが大切に持っていました。
私…美砂子です。
奈緒子の娘の…美砂子です。
ミサコちゃん…。
寛吉…叔父さん。
美砂子…。
お姉さん…泣かないで…。
これはあなたのお姉さんにはとても大切なことなんです。
しっかり思い出して答えてください。
ハイッ。
お姉さんと最後に会ったのはいつですか?10月…5日の…夜です。
何時頃場所はどこでした?7時半ごろ。
上野公園で会いました。
以上で筒見仁造氏こと市橋寛吉氏に対する証人尋問を終わります。
20年前病院で死んだとされ埋葬された寛吉さんの死体は実は大沼勝治さんだったんですね?はい。
なぜ大沼勝治さんは殺害されたのですか?20年前のあの日家に押しかけて来ました。
以前から結婚を迫られ断り続けていました。
いやっ私と弓丘との縁談を知って脅しに来たのです。
ヤダッ。
(殴る音)イヤッイヤッ。
くそ〜っ寛吉はただひたすら私を助けたい一心でやったことでした。
でも世間はそうはみてくれません。
ふだんは寛吉に理解を示してくれてる人たちも何か事を起こせばああやっぱりあの子は知的障害だからと非難の目を向けます。
なんとしても寛吉の犯罪は隠さねばならないと思いました。
先代院長と父は遠縁にあたり親しくしてましたから事情を話して力になってもらうことにしました。
両親が院長と相談している間寛吉と2人で待ちました。
寛ちゃん大丈夫大丈夫だからね。
ボク…お姉さんがいれば平気…。
怖くない…でも…長い本当に長い夜が明ける頃…。
寛吉に父が言い聞かせました。
寛吉お前はきょうから「筒見仁造」だ。
寛吉は死んだ。
病院で自殺したんだ。
前日病院で身寄りのない「筒見仁造」という人が自殺。
その人と寛吉を入れ替える手はずを院長が整えてくれて寛吉はこの世から抹殺されました。
寛ちゃ〜んっ。
寛ちゃ〜んっ!寛ちゃん…私を助けようとしたため寛吉は筒見仁造という別の人間にさせられ私たち姉弟は引き裂かれたのです。
20年前の事件についてはよく分かりました。
しかし寛吉さんと会っていたことを夫殺しの汚名を着てまでなぜ秘密にしなければならなかったのでしょうか?私はきょうまで寛吉の犠牲の上に暮らしてきました…。
いつも寛吉のことを忘れたことはありませんでした。
自分が幸せであればあるほど名前を変えてひっそり生きる寛吉を思いました。
でも…。
でも…。
20年前のあの日…ふと心によぎったんです。
大沼勝治のことはどうしても弓丘に知られたくない。
弓丘との幸せを失いたくない。
そんな思いがふと…。
そのことがずっとあなたの心に…。
寛吉は私を守ろうとする一心で殺人まで犯したのに…。
私は…。
自分の幸せに心が揺れました。
寛吉が結婚すると聞いた時本当にうれしかった。
今度は私が命に代えてでも寛吉の幸せを守ってやる番だと思いました。
お嬢さんをとんでもない立場に追い込んでしまうことになってもですか?美砂子には到底許してもらえないひどい母です…。
夫にも申し訳ない思いでいっぱいです。
でも…。
大沼勝治さんを手にかけたのは寛吉ですが本当に罪を償わねばならないのは私なんです…。
終わります。
寛ちゃん…。
ゴメンネ。
長い間本当にゴメンネ。
お姉さんは…悪くない。
大沼勝治を殺したのはボクです。
私は…寛ちゃんをつらい目に遭わせた。
寛ちゃんだけにつらい思いを…。
ボクはつらくなんてなかった。
お姉さんがいてくれたから。
お姉さんのほうが…ずっと…ずっとつらかった。
寛ちゃん…。
裁判長20年前の未成年の弟が犯した罪に対して今もなお自責の念を背負い苦しんできた弓丘奈緒子と障害を抱えながら名前を変え慎ましく生きてきた市橋寛吉の心情をお察しいただき20年前の事件について温情ある裁きをお願いしたいと思います。
同僚の話では確かに弓丘からプレゼントされた金のネックレスを肌身離さずしていたとは言うんですが…。
事件の夜弓丘邸から飛び出した女性が三津井沢子だと断定できなくて。
事件当日の夜の三津井沢子の足取りは…。
諦めるのはまだ早い。
ギリギリまであたってみよう。
さ早くっ。
はい…。

(検事)被告人の本件犯行は愛人と別れるよう被害者に翻意を促したが被害者は聞き入れず離婚を持ち出されたことによっての憎しみに基づくものであることが分かる。
証人の市橋寛吉の被告人に対するアリバイ証言はあくまで敬愛する姉を救いたいがためのものであり弓丘勇一殺害が被告人弓丘奈緒子の犯行であることは明白な事実である。
よって懲役13年を求刑する。
20年間被告人が受けた心の傷は我々の想像をはるかに超えた深く重いものであります。
(水木)先生これ…。
裁判長最終弁論の途中ですが被害者の愛人三津井沢子について不審な点が浮上しましたので本件の再度の捜査を要請いたします。
浮上した不審な点とはいかがなものですか?本件は凶器がなぜ上野公園に捨てられていたかという疑問がありましたが上野公園近くのグリーンマンションの一室を故弓丘勇一氏が別宅として借りていた事実が判明。
事件当夜午後9時すぎ三津井沢子がその部屋に入っていく姿を目撃した証人が現れました。
さらに三津井沢子が犯人である可能性を考えたとき事件現場に彼女が居た事実を確認するものに思い至りました。
離婚届であります。
これが被告と被害者の間で用意されたものではなく三津井沢子が被害者に離婚を迫るために持ち込んだものだから署名捺印がなかったのではと…。
どちらも推論の域を出ないものであります。
よってここで再度警察に徹底的な捜査を要望いたします。
最後にひと言申しあげたいことがあります。
弁護人が寛吉さんに会って話を聞いた際感銘を受けたことがあります。
寛吉さんはきっぱりと言いました。
ボクは今まで自分が不幸だったと思ったことは一度もありません。
お父さんもお母さんもお姉さんも弟もみんな優しかったです。
今も道代さんもお店の人もとってもよくしてくれます。
だからボクは生まれてきて自分は不幸だったと一度も思ったことはありません人の幸せは何であるのか寛吉さんに教えられた思いでした。
私はこの裁判を通して人が生きていく上で一番大切なものは深くて強い絆であることを確信致しました。
ご起立願います。
(手錠をはずす音)被告人…前へ。
判決を言い渡します。
主文。
被告人は無罪。
それでは判決理由を読みあげますから席に戻って聞きなさい。
・『タイースの瞑想曲』すべて終わったのね。
ああ…三津井沢子の犯行の証拠がそろって検察は控訴を取り下げたそうだ。
今度の裁判でいちばんつらかったのはあなた。
彩が自殺した前の日だったわ。
あの子言ったの。
ゴメンネって…。
先に逝くことであなたと私の人生を狂わせること気にしてたのよきっと…。
あの子らしいわ…。
彩はそういう子だった。
優しすぎてだから脆かったの。
じゃあ…。
彩:お父さん…お母さんゴメンネ…2015/08/10(月) 13:00〜15:00
テレビ大阪1
午後のサスペンス「小杉健治サスペンス・絆」[字]

原島弁護士が挑む殺人事件逆転無罪!? 母が父を殺した!娘の告発は何故?封印された20年前の真実…。

詳細情報
番組内容
弁護士の原島は娘・彩の婚約者を医療過誤事件で告発し、二人を自殺に追い込んでしまって以来、山村に引きこもっていた。その彼が、法廷に立つ決意をする。事件は会社社長・弓丘を妻・奈緒子が殺害したというもの。奈緒子は、娘・美砂子の証言で愛人らしき男の存在が浮上したとたん、否定していた犯行を認める。
出演者
原島保…渡哲也
 弓丘奈緒子…伊藤蘭
 原島亜樹子…松原智恵子
 筒見仁造…村田雄浩
 水木邦夫…渡辺いっけい
 市橋晴彦…天宮良
 弓丘美砂子…邑野未亜
 原島 彩…遊井亮子
 大沼幹也…片桐竜次   ほか
原作脚本
【原作】小杉健治
【脚本】洞澤美恵子
監督・演出
【監督】澤田幸弘

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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