日本の植民地支配から解放されて今年で70年、領土・国民・主権の「国家三大要素」を備えた大韓民国を建国してから67年になる。しかし、この意義深い時期にあって、雰囲気は明るいばかりではない。韓国を愛する歴史観と韓国を憎む歴史観が、休戦ラインの南側でも依然として血闘を繰り広げているのだから。この「歴史観の戦争」が続くかぎり、韓国はまだ「ネーションビルディング(国造り)」の初期にある。この戦いを象徴する二つの文学作品が、われわれの目の前にある。在日作家、金石範(キム・ソクポム)の長編小説『火山島』と、北朝鮮作家同盟中央委員会所属の「蛍」というペンネームの作家が、秘密裏に原稿を持ち出してソウルで出版した短編集『告発』だ。
金石範は最近、済州島の4・3事件が題材の『火山島』を書いたという「功労」により、済州4・3平和財団が授与する「4・3平和賞」を受賞した。受賞の所感の中で、金石範はこう語った。「解放前は民族を売り渡す親日派で、解放後は反共勢力・反米勢力に変身した、その民族反逆者らがつかんだ政権」「単政(大韓民国)樹立に対する全国的な反対闘争が起こり、その同一線上で起こったのが4・3事件」…。韓国は「生まれてはならない」、故に国でもない、という意味だ。
逆に「蛍」の『告発』は、北の権力を「引き抜いてしまうべき毒キノコ」と断罪している。短編『脱北記』で主人公は、妻が避妊薬を取り置きしていること、自分が家にいない間、党の幹部が妻に会いに行っているという事実を知り、絶望する。調べてみると妻は、反動分子の一家出身の夫が殺されるのではと恐れ、党幹部の歓心を買うためにそうしたのだった。夫婦は抱き合って泣いた。そして、脱北を決行した。別の短編『赤いキノコ』は、脱北して韓国に渡った親類のせいで粛正される主人公が、最後に処刑される瞬間、市党庁舎に向かって「あの赤い毒キノコを引き抜いてしまえ」と泣き叫ぶ-という粗筋だ。
1948年7月17日に公布された大韓民国憲法、そしてその憲法に基づき8月15日に宣布された大韓民国は、二つの作品の中でも、当然ながら『告発』が有する価値、すなわち反全体主義に立脚して作られた憲法であり、国家だ。絶対多数の韓国国民は、互いに違っていても、この基本的価値に関してだけは一致していたので、この国はここまで発展したのだ。この人々の精神は、一言で表現すれば「大韓民国愛」の歴史観だった。しかし一部の人間は、これに背を向けたまま、正反対の歴史観を教科書にまで書き込み、思春期の青少年に「大韓民国憎」の歴史観を注入している。個人的な著書でもない教科書を通して、青少年に「この国は生まれながらに問題があった国」であるかのごとく教える公教育が、一体この世の中のどこに存在するだろうか。