どこかの貴族かはたまた武士か。
いいえ現代を生きる画家です。
描き出すのは過去現在そして未来とまるで時空をさまようような奇想天外な世界。
一体いつの時代の電信柱でしょうか。
そんな不思議な作品が生まれるアトリエに半年にわたって密着しました。
新しい境地に挑む大作。
その一筆一筆を見つめます。
気鋭の画家山口晃。
その正体とは?「日曜美術館」です。
茨城県水戸市にある水戸芸術館に今回はやって来ました。
今ここで開かれているのが山口晃さんの展覧会です。
さあ山口さんご本人に今日は来て頂きました。
こんにちは。
よろしくお願いします。
本当に楽しみにしていました。
作品を作っている画家の方ご本人にいろいろ聞くチャンスというのはなかなかないので。
そうなんですよね。
本当はあんまり作品と一緒にしゃべりたくないんですけどね。
どうしてです?威張った事言えないじゃないですか。
威張った事言って「こんな絵描いてる人が?」なんてなると何も言えなくなっちゃいますので。
じゃあ早速行きましょうか。
是非是非ご覧下さい。
まずはではまいりましょう。
楽しみに!今回は展示の方法も山口さん自身が考えたといいます。
えっ?なんか…普通ないものがいきなり。
そうですね。
ありますね。
ちょっとこうパッと絵の前に行きたいところなんですけどもお預けをくうといいますかもったいをつけるといいますか。
近づけないという事ですか?そうですね。
でも作品がこうやって遠くから見るからこそ細かく見れない分全体の色彩が飛び込んできますね。
ですからあんまり考えずに…というか言葉に代えなくて…そういった心持ちになって頂けると。
新作…そもそも九相圖とは死体が朽ち果てる様を描いた仏教絵画。
伝統的な画題を独自の解釈で表現しました。
他の展示室を巡って戻ってくると今度は近くで作品が見られるという仕掛けです。
先ほど見た「九相圖」。
抽象画のような色彩の下に繊細なタッチで物語のさまざまなシーンが描かれていました。
主人公の男が設計し精巧に作り上げているもの…。
それは女性型のアンドロイド。
しかしそのアンドロイドはやがて捨てられます。
機械という無機物がまるで生身の人間のように朽ち果てていく…。
このような物語が繰り広げられてたとは思いませんでした。
…をして頂けたりはしないかしらという。
2014年秋。
東京の下町。
遅くなりましておはようございます。
どうぞ。
バス停のすぐ前にある山口さんの小さなアトリエ。
今回の展覧会に向け新作の構想を練っていました。
並べたのは青い付箋。
これはもうみんな思いつきですね。
「山水」「アブラ」「ハケ目の残る」…。
何だか暗号のよう。
何か思いついたらとにかく書き留める。
それが山口さんのスタイル。
そんなメモの中にこれから描く新作のアイデアが書かれていました。
「昔の商店」。
四角い箱のようなものと「かぶさる」の文字。
ここからどんな新作が生まれるのでしょうか?作品につながるアイデアを1枚にまとめます。
そこにこんな言葉がありました。
「私が面白い大切と思うものを誰もそう思わない。
そう思えるよう表してやる。
それが表現」。
そして一つのテーマが浮かび上がりました。
(取材者)没我?3日後。
キャンバスは真っ白なままでした。
それは新境地への挑戦。
翌日ようやく絵に取りかかりました。
大型のキャンバスを2枚使い横3mを超える大作となります。
最初に入れたのは水平の直線。
次にその線と交わる斜めの線。
山口さんがこだわるのは2つの線の角度です。
江戸時代の絵師岩佐又兵衛の傑作…京都の街を俯瞰で捉えたこの絵。
建物や人々が自然に見える傾きが見事に計算されているのです。
古の画家の手法を取り入れる事から山口さんは「平成の大和絵師」とも呼ばれています。
山口さんが描いた東京・日本橋の巨大デパート。
そこには「洛中洛外図」と同じ金色の雲。
一体いつの時代でしょうか?高速道路の上に太鼓橋が架かります。
異なる時代が混在するワンダーランド。
それにしても細密です。
図録を出版した時には付録にルーペを付けたほど。
墨で描かれた武士たち。
鎧をまとっていると思いきやどこか近未来的。
初めて何かの形が現れました。
鳥居です。
この鳥居から街の目抜き通りが始まるといいます。
ここにたどりつくまで2か月。
12月はひたすら下書きに費やしました。
あくまで当たりを付けるだけ。
しっかりとは描きません。
展覧会まであと2か月。
そしてここが…山口さんこの空間全てが一つの作品…。
そうですね。
10年以上になりますか?描き続けて。
描き続けてるというとかっこいいんですけどあの…もうこれは出来上がっておりましてこれとその続編とというふうになってて。
山口晃の代表作の一つ「無残ノ介」。
恐ろしいほどの切れ味を持つ刀無残刀。
持てばその人の心を狂わせるという魔性の刀。
その狂気の物語を最初は一枚の絵の中に収めていました。
それを映画のような長編活劇にしようと大小50点以上に描かれたのが…無残刀を手に人々を恐怖に陥れる男。
その男を倒そうと戦車や巨大なからくり人形が登場し死闘を繰り広げます。
漫画のように緻密なコマ割りで描かれたシーン。
そこに突然現れる大画面。
巨大なからくり人形が無残刀に切り刻まれた瞬間。
クライマックスに現れたのはとある老人。
漫画のように見せつつちょっとそれとは違う美術館ならではの心持ちというんですかね。
漫画というとやっぱり両の手に収まるサイズだもんですから意識の方がそっちに…なんですけどもこっちはサイズの方がこういうふうに変わるもんですからそれによってまた漫画読んでるのとは違ったような意識の揺らされ方っていうんですかね。
体感して漫画を楽しめるってすごい面白いです。
目と一緒に体も動くので絵を見ながら文字をストーリーを読みながらその描かれてる無残ノ介を持っている人物の動きを自分の体で動きながら「ああ…」って読んでいくのはほんと体感型だなと思ってこの漫画…。
(取材者)明けましておめでとうございます。
おめでとうございます。
いよいよ…。
筆を入れたのは雲。
山口さんは雲から描き始める事が多いといいます。
目抜き通りの始まりになるという鳥居です。
下書きがほとんどない場所に正確無比の線。
街が少しずつ姿を現します。
手元に置いたノートパソコン。
そこには航空写真が。
群馬県桐生市。
実はこの街が作品の舞台です。
山口さんは…2歳の時転居したのが…大学に入って上京するまでこの街で過ごしました。
この「五十番」のお嬢さんと昔同じ画塾に通っておりましたけどね。
幼い頃から絵が好きだったという山口さん。
よいしょ…はいただいま戻りました。
実家で懐かしい絵を見せてもらいました。
お見せするようなもんでもないですね。
3歳10か月だそうで。
これが一番古いのかな?ここにあるのでは。
蒸気機関車でしょうか。
これは宇宙船。
メカニカルなものをよく描いていたといいます。
どんな少年だったのかご両親に聞いてみました。
スケッチブック一冊買ってあげた事もなくって。
でもあの時代は広告が裏みんな白かったですよね。
枚数は今みたいにないからそこへバーッと大きく描いちゃうと1枚がすぐなくなっちゃう。
それで端からこう…こうやって描いてるって今の絵になったのかなぁなんて。
父の昇さんも若い頃から絵を描いていたそうです。
(取材者)教えられたりしたんですか?晃さんに。
1回ありましたね。
1回ありましたけども本人がむかついた顔をしたんでやめました。
それ以降やってないです。
小学4年の時の絵。
既に卓越した技術がうかがえます。
二十歳の時…油絵を学びます。
当時の作品…このころは西洋の模倣ではない日本独自の油絵を描きたいと模索を重ねていました。
しかし…。
何て言うんでしょうね構えてから描くっていいますか。
あんまりあれ?これなんか油絵の歴史のために描いてるなっていう。
全くそこに内発性というか描きたいものってどこいっちゃったのかしらというのでですねちょっと思い浮かばなくなりまして。
そんな時素直に描きたいものを描いてみようと思ったのがこの絵です。
建物が折り重なる不思議な橋を紙とペンで描きました。
うちで一人でやってるような落書きといいますかねそういうのを描いて出したんですね。
これを出すと先生が「あっ君はもう油絵はやめたんですね」って言って完全にドロップアウトするんじゃないかなって大げさじゃなく思ってまして。
でもやらないと描く気がおきないんだからじゃあしょうがない怒られようドロップアウト!出しましてたまさかそれがいいあんばいに褒めるっていうか面白がってもらえたんですね。
空想の橋なのにどこかリアルさを感じてしまう奇妙な魅力。
そこにはある秘密がありました。
山口さんは平面図や断面図まで描いてこの橋の構造を徹底的に考え抜いていたのです。
独り善がりの思いから生まれた絵が見る者の胸を打つ。
「私が面白い大切と思うものを誰もそう思わない。
そう思えるよう表してやる。
それが表現」。
向こうがかすむぐらいにビローンと長く商店街が伸びておりましてこれが日曜日になると歩行者天国が出るようなそういう活気が昔ありまして。
もう帰ってくるたんびに空が広くなってるっていうのがいいのか悪いのか。
東京にいると年々空はどんどん狭くなっていくんですけど地元帰ってくると年々空が広くなってて。
いやあ…いやいやいや…。
黒い壁を黒い部屋を抜けて…。
(笑い声)すみませんちょっと…。
あのよろしかったらお手間ですけどもお上がりになってご覧下さい。
ちょうど13段ございますので。
13段…。
怖い。
余計上りたくないじゃないですか。
これって…。
電柱?電柱ですよね?345…。
678910111213。
いや〜…。
でもこの視点から電柱見た事なかったですよね。
確かに。
とても新鮮ですよね。
新鮮だしなんかメタリックな…メカみたいな。
こうやって間近で見ると部品一つ一つ美しいなと思いますね。
階段を下りて今度は下から。
下から見るとまた違う…。
先ほどの圧迫感に比べるとだいぶ引きで…。
確かにシュッとしてます。
そもそもどうして電柱?そりゃもう単純に見てて飽きない部分があるっていうのとあと電柱っていうのは結構景観の悪者っていうんですかね。
景色を損なうみたいな言われ方をしてしまいますよね。
ただですから汚い電柱っていうのがあるんじゃなくて電柱を汚く見る在り方があるんですね。
これ自体が都市の電力を供給するんでいうと無機的って言われてるものが実は有機的な比喩に簡単になる。
血液ですよね都市の。
そうやっていうと限りなくこれが有機的なものにも見えてっていう。
全く意味っていうのが変わるんですね。
山口さん。
はい…。
ちょっと背中が…。
いや〜…。
あっ何だこれ。
目下制作中。
公開ですからね。
という事は…。
後悔しております。
え〜っとまだ制作途中でございまして。
でも色は随分…。
そうですね。
山口晃作…2015年4月9日現在の姿。
制作が遅れたのには理由がありました。
ちょっといつもと違う描き方したいなっていうふうになってきまして。
いつもだとですから輪郭線全部引いたら瓦の色壁の色っていうんで塗っていくんですけどそれの境目を壊してみたくなりまして。
黄緑が屋根や壁の輪郭線を超えて広がっています。
そして街の一角を染めるピンク。
山口さんの新しい表現です。
他にはこういう淡彩の墨絵のような部分があったりとかあとは線でそのまま残る所があったりでそういうのが何て言うんでしょう街のダイナミズムみたいなのを何となく思わせつつあとは画面としての面白みにもっていうのをついつい欲張ってしまったもんですから。
今回なぜふるさと桐生を描こうと…?まあ日本中シャッター商店街問題になってますけども我がふるさともそうでございまして。
これ描いて何になるってわけじゃないんですけどね。
でもまあちょっとふるさとの絵を一枚描いておこうかしら描く時にその…ちょっとそこは一つ画題をピリッと利かせたいなというのもありまして。
昨今のショッピングモールっていうのはあの巨大さを見ると街が一つできちゃったような…。
何でもそこで買えてしまいますもんね。
でもあそこまで大きいとこれ街でいいんじゃないかしらというのでいうと普通の商店街に壁作って屋根をかけてそうすると「あれ?新しいショッピングモールだわ」とか言ってですね間違った人がまた来てその商店街がはやりはしないかという。
これですから屋内じゃなくて普通の商店街で普通の道をアスファルト剥がしてタイル並べてですねよく見ると何となくモール風なんですけどその上はかっての建物がそのままで…。
まあまあ空想といえば空想ですけどなんかちょっとそういうしたたかな生き残り戦略じゃないですけど。
目抜き通りが始まる鳥居付近。
そこには江戸時代の風景。
それが徐々に現代へと移り変わっていきます。
シャッター街が見えます。
一つの時代が駆逐され新しい時代が始まる。
空想の世界でありながらドキッとするような冷たい現実。
まあその物語といいますかそういう軸の他にほんとに単なる色の羅列それらの響き合いみたいな部分でも楽しんでもらえたらなというので。
この先どうなるか今分からないんですけどね。
ドキドキしながらでも楽しんでやってますけど。
今日は本当にどうもありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
引き続き制作を…。
ああ〜…。
頑張って下さい。
2015/08/09(日) 09:00〜09:45
NHKEテレ1大阪
日曜美術館「画伯!あなたの正体は?ドキュメント・山口晃」[字]
現実と非日常がこん然となった不思議な世界で絶大な人気を集める画家・山口晃。展覧会に向け、キャンバスと向き合う姿を密着ドキュメント。山口ワールドの秘密に迫る。
詳細情報
番組内容
過去・現在・未来。現実と非現実がこん然となった不思議な世界。いま絶大な人気を集める画家・山口晃(45歳)。今回、展覧会に向けて新作に挑むアトリエに、半年に渡って密着した。悩みながらキャンバスと向き合う日々。しかし作品は完成しないまま、展覧会のオープンが刻一刻と近づく。画家の口からは思わず「ピンチですね〜」。果たしてその結末は?開催中の展覧会場を画家本人とめぐり、山口ワールドの秘密に迫る。
出演者
【出演】画家…山口晃,【司会】井浦新,伊東敏恵
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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