昔むかし黒部の谷のとある村に8人の碁の好きな男たちがいた。
(権助)今日は仁兵衛さん家かい?
(仁兵衛)ああ。
毎日楽しみだな。
年寄りから若い者まで八人衆と呼ばれて毎日誰かの家に集まっては碁を楽しんでいた。
そんなある日どこからか1人の老人が現れた。
自分も碁が好きだという老人を八人衆は快く迎え入れた。
老人は碁の腕もなかなかのものだった。
それからというもの老人は毎日のようにどこからか現れては碁を楽しんでいった。
そうして幾日か経った頃のことその日老人は姿を見せなかった。
思えば八人衆の誰も老人がどこから来るのか何という名前なのか誰も知らなかった。
せめて家はどこか尋ねてみよう。
そんな話をしていると老人がやってきた。
あっ。
わしらは替わり番で誰かん家を碁打ちの場所にしておりましてな。
そこでどうだろう?今度はご老人の家へ集まれぬものだろうか。
老人は喜んで八人衆を家に招いてくれることになった。
約束の日老人は八人衆を迎えにきてくれた。
ハハハハ。
黒部川を上流に上り深い森を抜けていくと…。
そこに滝があった。
そんなところに滝があるなどとは誰も知らなかった。
老人はここが近道だと言い滝をくぐっていった。
おい見たか。
滝に打たれるぞ。
よし俺が行く。
八人衆の1人が思い切ってくぐってみると水にも濡れず向こう側に出られた。
そこでみんなも続いた。
そこは誰も見たこともない不思議な景色だった。
八人衆が驚きながら歩いていくとそれは立派な屋敷に着いた。
屋敷では豪華なご馳走が並び娘たちが胡弓を奏で舞い踊った。
翌日には立派な碁盤を並べて八人衆は老人とともにたっぷりと碁を楽しんだ。
やがて3日目の朝のこと。
八人衆はさすがに村へ帰らねばならないと思った。
そこで老人に暇乞いをすると名残惜しそうにしながらお土産にときれいな重箱をくれた。
あの滝で老人と別れ八人衆は村へと帰った。
おめえたち生きてたのか!聞けば留守をしていたのが3日と思っていたのにもう3年の月日が経っているという。
浦島じゃお前ら浦島太郎じゃ。
じゃあこのお土産は玉手箱。
開けたらどうなるか…。
八人衆は大急ぎで村に向かった。
村に戻ると村人たちもたいへん驚き八人衆の話すそれまでの出来事にいっそう驚くのだった。
その後八人衆が黒部川を上流へたどっても二度とあの滝を見つけることはできなかった。
八人衆は留守にしていた時間を取り戻そうと3年の間は碁をやめ仕事に精を出すことにした。
あっ。
あっ。
(2人)あ…。
(2人)うん。
(2人)わぁ。
(2人)うわ〜。
あれから長い年月が経った。
碁石を拾った2人の子供もすっかり成長し八人衆の仲間に入って碁を楽しむようになった。
あの老人もひょっこり現れるかもしれません。
昔奄美大島に野茶坊と呼ばれる野生児がおりました。
(野茶坊)カッカッカッカッ!野茶坊は島じゅうを自由に駆け回り山奥の洞窟で暮らしていました。
(野茶坊)カッカッカッカッ!
(赤ん坊の泣き声)お〜よしよしいい子だから泣くんじゃないよ。
よしよし。
おや?ハハハハ。
カッカッカッカッ!野茶坊だね。
ハハハハ。
もう知らない!こっちだって知るかってんだ。
わ〜!なんだタコじゃねえか!アハハあんたが真っ赤になって怒っているからタコが降ってきたよ。
カッカッカッカッ!野茶坊だな。
さぁこのタコで1杯やろうかね。
おうそうするか。
野茶坊の愛嬌のあるいたずらは島の人々にとってはいつものことでした。
村はずれに1人の子供がいました。
両親に先立たれ叔父の家に引き取られてきたばかりでした。
慣れない場所でいつも1人寂しそうにしていました。
お〜い坊飯にするぞ。
坊飯だぞ。
うん。
ハハハハ。
そんなある日のことでした。
おや誰かといたのか?うんオイラ友達ができたよ。
そうかそれはよかった。
子供の笑顔を久しぶりに見た叔父はほっとしました。
しかし友達の姿を見かけることはありませんでした。
こんなにたくさんどうしたんだ?友達と一緒に獲ったんだ。
すごいじゃないか!友達というのは漁師の息子か?いいや1人で暮らしているんだと。
1人?おい坊友達はいったいどこに住んでるんだい?この島全部が家だって言ってたぞ。
ハハハハ島全部が家だって?うん野茶坊はすごいんだぞ。
なに野茶坊だと?叔父はたいそう驚きましたが坊の楽しそうな姿にしばらく様子を見ることにしました。
火事だ火事だぞう!今日は家に誰もいないはずだ。
火の気などあるはずがない。
オラさっきこの近くで野茶坊を見たぞ。
なに?野茶坊だと?確かにあいつはいたずら者だが。
いいや野茶坊のせいに違いない。
日ごろから自由に走り回っているからな。
坊お前はもう二度と野茶坊と会ってはいかん!どうして?この火事は野茶坊の仕業かもしれん。
そんな!野茶坊はそんなことするやつじゃないよ。
いいから言うことを聞きなさい。
野茶坊は絶対そんなことしてないよ!坊どこに行くんだ!?みんなで野茶坊を捕まえるんだ。
(村人たち)おぉ〜!村人たちは野茶坊の住みかを探しに山奥へ入っていきました。
ここじゃここじゃ。
見つけたぞここが野茶坊の住みかだ。
ここで野茶坊が帰ってくるのを待とう。
それにしてもうまそうな酒じゃねえか。
体も少し冷えてきたことだし1杯やりながら待っているか。
うんそうしよう。
村人たちは野茶坊を待っている間に酒を飲んで眠ってしまいました。
カッカッカッカッカッ!野茶坊だ!いたぞ!こいつ!なんてことをするんだ野茶坊。
やっぱりやったのはお前だったんだな。
もう勘弁できねえ。
この〜!この〜!待って野茶坊はそんなことしないよ。
なんで野茶坊なんかをかばうんだ?野茶坊はオイラの友達だ。
さてはお前も一緒にやったのか。
(2人)かまうことはねえ2人ともふんじばれ!やめろ悪いことなんかしていない!お待ちくだされ。
わしの家の火事は野茶坊のせいではないんじゃ。
なんだって!?わしが囲炉裏のそばに着物を置いたまま出かけてしまいそれに火が燃え移ったんじゃ。
なんだそれじゃ野茶坊のせいじゃないのか。
しかし誤解されるようなことばかりしているお前たちも悪いんだぞ。
うん。
野茶坊よかったな。
あっ!カッカッカッカッカッ!野茶坊友達だよね!野茶坊は山へと帰っていきそのまま姿を現すことはありませんでした。
野茶坊。
あっ。
野茶坊か?しかししばらくすると野茶坊は何事もなかったように島じゅうを駆け回り村人たちも野茶坊が現れるのを心待ちにしていたということです。
陸奥の国田村の郷の野山が広がる空に1羽の鷹が飛び回っていた。
それは一人の鷹使いの鷹でした。
鷹使いとは鷹を飼い慣らして狩りをする人のこと。
そのとき1匹のキツネが現れた。
鷹使いに気がついたのか木の繁みに隠れた。
それを見て鷹使いは鷹を放った。
繁みからキツネを追い出し出てきたところを弓で射るのだ。
男は見事しとめたキツネを背負って赤沼にさしかかると2羽のおしどりが泳いでいるのに気がついた。
おしどりは男と鷹を見て怯えた。
フン!おしどりなんぞ獲らぬわ。
安心せい。
おしどりは赤沼の奥へ泳いでいった。
そんな様子をこの地を治める領主が見ていた。
おぉ見事なキツネだ。
わしに譲ってはくれぬか?はぁ。
弓の腕も相当なものよ。
我が館に来るがよい。
話もしたい。
領主に誘われるまま男はついていきました。
男は弓の腕と鷹使いとしての腕を見せた。
実に見事な腕前じゃ。
弓も鷹を仕込むのも同じです。
大事なのは獲物との距離間合いを見ることです。
そちの弓の腕前は天下一品じゃ。
ところで頼みがある。
このたび都から大事な客人が来る。
この地の雉を献上したいのじゃ。
ぜひ雉を獲ってきてもらいたい。
そのときには鷹師として仕官してもらう。
ありがたくお受けいたします。
家に戻った男は仕官という夢のような話に寝つかれずにいた。
あくる朝男は勇んで山に入った。
ところが山にも葦の茂る川原にも雉の姿はまったく見当たらなかった。
男は焦った。
このままでは鷹のエサもなくなり雉1羽献上できない。
仕官の道も立ち消えになるだろう。
闇雲に森の中を捜し回った男はいつの間にかおしどりのいる赤沼に来ていた。
おしどりかお前なんぞに用はないわ。
おしどりは巣作りの最中だった。
鷹を連れた男を見てメスをかばうようにオスは羽をばたつかせて威嚇した。
くっ…生意気な!男は鷹をけしかけた。
雉を1羽も獲ることなく家に戻った。
これで仕官の道もなくなったな。
お前にもつまらぬ狩りをさせた。
酒に酔っていつしか眠りについた。
しばらくすると足もとに人の気配を感じた。
何者だ!?私は赤沼のおしどりです。
あなたは雉を獲れなかったいらだちを紛らわすために長い間連れ添った夫を鷹に襲わせて殺したのです。
なんとむごいお人でしょう。
日暮れになれば赤沼に2人で休んだのに真菰草の陰でたった1人過ごす夜のなんとつらいことでしょう。
いとしい者を奪われた嘆きの深さをご存じですか?私は生きていけませぬ。
そう言い残すと女の姿は消えた。
起きた男は最初夢かと思ったが女の詩を思い出しこれはいかんと家を飛び出した。
わしが悪かった待ってくれ!やがて赤沼に来ると1羽のメスのおしどりが現れた。
死ぬな!死んではならんぞ!おしどりは胸を広げた。
そこには自分で突いてできた血が広がっていた。
あっ血だ。
メスのおしどりは悲しみのあまりいとしいオスのあとを追ってみずから命を絶ったのでした。
許せ…許してくれ…。
あっ。
つがいのおしどりの魂が光となって天に昇っていくのを見た。
家に戻った男は鷹を放った。
私はもう殺生はしない。
これからは好きな所で暮らすがよい。
鷹を野に帰した男は仏門に入りこの地をあとにした。
途中赤沼に寄るとそこにおしどりの姿はなく川鵜ばかりの赤沼になっていた。
男は終生旅の僧侶を通したということだ。
2015/08/09(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「黒部の浦島」
「野茶坊(やちゃぼう)」
「おしどり」
の3本です。お楽しみに!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】鈴木卓夫
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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