美の巨人たち 伊東忠太『築地本願寺』寺院建築の常識を覆した前代未聞の寺院! 2015.08.08


魚河岸の男たちが忙しく働く東京築地の朝です。
午前6時半。
(鐘の音)いつもの鐘が時を知らせます。
でもどこから聞こえてくるのでしょうか?
(鐘の音)音を頼りに歩いてみれば築地の市場から徒歩3分ほど。
なんだろう?これは。
いったいここは日本なの?知っている人は知っていますが知らない人は驚くのです。
ちょっと風変わりなこの大きな建物に。
日本にあるけどインドっぽい気がするよ。
信仰の場所というより観光客に向けて建てられたものじゃないの?ちょっと混乱するわ。
うまく言えないけど…。
なんか違和感があるの。
これが今日の作品なのです。
作者は明治から昭和にかけて活躍した建築家の伊東忠太。
得意としたのは神社やお寺。
神仏建築の巨人とよばれた人です。
この伊東忠太が手がけた日本建築史上極めて謎めいたお寺が『築地本願寺』なのです。
よく見てみれば…。
おやおや…不思議な動物の館でしょうか?高さはおよそ34m。
横幅はおよそ87m。
石と鉄筋コンクリートを組み合わせた実に珍しいお寺です。
この建物は京都の伝統的な寺院とまるで印象が違うのは木造ではなく石造りだからでしょう。
しかも大きな屋根がありません。
代わりにドンと置かれているのが巨大なドーム。
玉ねぎのような形に蓮の花の模様があしらわれています。
このドームだけで高さ9mほど。
インドの石窟寺院アジャンターの入り口のデザインから着想を得たという『築地本願寺』のシンボル。
建物の両翼にはインドのストゥーパと呼ばれる塔が置かれています。
正面に立つとまるで西洋建築の宮殿さながら。
大きな石積みの階段を上がっていくと4本の太い石柱がそびえています。
本堂には土足で入ることができます。
入り口の花頭窓には蓮の花をモチーフにしたステンドグラス。
その豪華絢爛たる内部はのちほどたっぷりと。
伊東忠太は伝統の寺院建築の常識を強烈な造形で変えてしまったのです。
さて『築地本願寺』から徒歩3分。
再び築地の市場に向かってみましょうか。
その場外に真夜中だけ開いているお店があるとしましょう。
どんなお店なのかって?入ってみればわかります。
いらっしゃい。
マスターいつものお願いします。
はい。
いただきます。
《わからない。
私にはどうもわからない》わからないな。
ええそうなんですよ。
あっそう思う?これはこれでいいと思ってんですけどね。
うんありだと思うんだよ僕も。
よくできてると自分ではね。
よくできてるしおもしろい。
たしか3年だよね。
3年はかけてないですよ。
せいぜい一昼夜。
いやたった3年で5000年の味わいだよ。
はぁ?えっ?ねぇマスターと建築家のお二人さん何の話をしているの?だからカレーのことですよね。
いや『築地本願寺』。
えっ?『築地本願寺』?カレー?
(2人)あぁ…。
ですって。
確かに不思議なのです。
なぜ築地という場所にこのような寺院が生まれたのか?例えばこの大きなドーム。
中に入ってみれば鉄筋や鉄骨が複雑に組まれたコンクリート造りです。
昭和初期の建築技術の粋を集めて造られたことがわかります。
ではどうして手の込んだインドのお寺のような巨大な建造物が生まれたのでしょうか?そこには伊東忠太という希代の建築家のあっと驚く言われてみれば納得の理由が隠されていたのです。
それは何か?銀座4丁目の交差点から晴海通りを東京湾の方に向かうとやがて築地4丁目の交差点が見えてきます。
そこを左に曲がって少し行けば右手に見えてくるのです。
前代未聞のお寺『築地本願寺』の堂々たる姿がドンと。
中はお寺と教会を合わせたような不思議な空間です。
日中の参拝は入場無料。
いつでも見学することができます。
見上げればパイプオルガン。
仏教讃歌という合唱曲の伴奏などに使うんだそうですよ。
でもこのお寺新しいのか古いのか。
独創的なのか伝統的なのか。
一体どうなんでしょうか?明治の始め…。
この英語に建築という訳語を提唱したのが本日の主人公伊東忠太です。
伊東の師匠は東京駅の設計で知られる近代建築の巨人辰野金吾。
伊東は帝国大学を卒業後大きな仕事を任されます。
京都の『平安神宮』の設計でした。
27歳の若き建築家のデビュー作。
洋風建築を専門とした辰野とは違い伊東が多く手がけたのは寺社建築でした。
代表作は『明治神宮』です。
東京大空襲でほとんど焼失してしまい現存しているのはこの南神門と他わずか。
伝統にのっとった優美な姿を造り上げました。
ところが『築地本願寺』では形が激変するのです。
本堂は外陣と内陣に分けられています。
門徒のための座席のある外陣には鉄骨鉄筋コンクリートのみごとな白亜の柱がそびえています。
その柱をつないでいるのも鉄骨鉄筋コンクリートの梁。
天井は格子で組まれた格調高い折上格天井。
圧巻は内陣です。
床は総黒漆塗り。
その上に高さ3mを超える黄金の宮殿がどっしりと。
『築地本願寺』は2011年から1年半をかけて修復工事が行われました。
内陣には金沢の職人が打った5万枚の金箔が使われています。
周囲の化粧柱や化粧梁には岩絵の具で仕上げた鮮やかな文様が。
修復工事に携わった建築家の菅澤さんはその技法の複雑さに驚きました。
前例がないと言ったほうが正しいんじゃないかと思うんです。
コンクリートの表面に彩色層を巻きつけるとなるとモルタルっていう加工しやすいものを塗ってその表面に布をかぶせて漆で巻きつけるっていう工法をとってたんですね。
一つひとつの技術っていうのは…。
コンクリートの上にモルタルを塗って布を張りその上に漆を施し岩絵の具で描くという手の込んだつくり。
最先端の建築技術と伝統技法が絶妙に組み合わされていたのです。
でもどうしてこのインド風の外観になったのでしょう?カレーはインドで生まれた。
ここまではいいんですよね?うん大丈夫。
ところが日本のカレーは明治時代にイギリスから伝わった。
つまり当初は西洋風のカレーだった。
それが日本人の舌に磨かれて…。
日本のカレーになった。
おめでとう。
あの仏教はどうですか?あっインドだよ。
お釈迦様はインド生まれ。
カレーと一緒だ。
でも日本の仏教は中国から入ってきた。
うん。
ややこしいですね。
明治35年。
伊東忠太は帝国大学の教授になるにあたって政府から3年間のヨーロッパ留学を命じられます。
彼はヨーロッパに到着するまでを3年間と考えて日本から中国中央アジアインド中東ヨーロッパと大冒険とも言える旅を敢行しました。
それは人類と建築の歴史を学び日本建築のルーツを探る旅でした。
そして1つの考えが浮かんだのです。
歴史的に知られているんです。
だとしたら…。
大正12年木造だった『築地本願寺』の伽藍が関東大震災による火災で焼失。
新しい本堂の設計が伊東に任されました。
地震と火災に負けない建築へと進化させるために鉄骨と鉄筋コンクリートを使いその上に石を積み上げたのです。
ところがわずか3年という当時としては異例のはやさで完成させたお寺の外観がなぜかインド風だったのです。
それでインドの仏教のお寺を持ってくるわけです。
日本の仏教徒から見るとお寺っぽくないけどインドって言われりゃダメとは言えないよね。
しかし『築地本願寺』はただインドの仏教寺院の姿を借りただけではありませんでした。
こんばんは。
あぁいらっしゃい。
いつものお願い。
はい。
《と言われていつものを出します》コップにスプーン福神漬けにラッキョウ。
こうでなくちゃね。
まぁ昔からそうですから。
私はカレーの友達と呼んでます。
そうかもしかしたら…。
え?わかったぞ『築地本願寺』が。
カレーじゃないのか。
『築地本願寺』を訪れてみるとあるものが異様に多いことに気がつきます。
不思議な動物たちの館。
ここに伊東忠太という建築家の意外な狙いが隠されているのです。
それはいったい何?『築地本願寺』を訪れてみると出迎えてくれるものが…。
石段の左右に置かれた翼のある想像上の動物です。
左側は口を閉じ右側は口を開けた阿吽の像が鎮座しています。
立派なお姿。
軒の下には2頭の象がパオー。
本堂の入り口の脇に造られた階段を降りてみれば…。
あお猿さんがこっちを見てる。
いろんな動物たちでいっぱいなんです。
どうしてこんなにたくさん作ったんですかね。
伊東忠太のスケッチです。
子供の頃漫画家になりたかったという彼は膨大な数の怪物やお化けのスケッチを残していました。
妄想癖が強く自分のなかでわきあがってくる怪物たちを生涯にわたって克明に描き続けたのです。
人の目を引きつけるとか人と建築をつなぐっていうことでは重要な働きをしてることは間違いないです。
だって見ると忘れられないから。
伊東忠太はインド風の外観を持つ仏教寺院に心を捉えてやまない不思議な動物や怪獣を置くことで人々と『築地本願寺』をつなごうとしたのです。
福神漬けとラッキョウだと思うんだよ。
遠い国の料理をさ日本人の舌にグッと近づけてくれるんだ。
それと同じでさインドで生まれたものをグッとね親しみやすく近づけてるんだよ『築地本願寺』は。
はぁ…。
《そろそろ閉めようかというときに…》いらっしゃいませ。
《本場の人が入ってきたのです》あの…すみません。
カレーライスください。
はい。
《その瞬間にわかったのです。
インドのカレーとは違うものを自分が作っていると》ごちそうさまでした。
やっぱりインドのカレーとは違いますよね?インドにカレーという料理はありません。
イギリスの人が私たちが食べているものをカレーと名づけただけですね。
ああ!そうなんですか。
はい。
でもすごくおいしかったんですよ。
ハハハありがとうございますハハハ。
《僕らは『築地本願寺』を見にいってみたのです》やっぱりすごいよね。
わけがわからないけどすごいと思います。
本気で造らなきゃこうはならないよね。
僕のカレーも本場を目指してみたいと思います。
えっ?今のままでいいよ。
うまいんだから。
ハハ…はい。
『築地本願寺』の朝です。
ここは左側の塔の中。
(鐘の音)毎朝6時半。
今日も築地の街に時を知らせています。
関東大震災の後に生まれた寺院です。
新しい信仰の場所として造られた形。
本堂には整然とイスが並べられています。
黄金の内陣は日本の職人芸の結晶です。
仏教はどこで生まれたのか?お寺の本来の形とは何か?その探索の果てに生まれた姿です。
石造りの建物には巨大なドームがのっています。
これは何だろう?いったいどこだろう?今も時と空間をこえてそびえています。
伊東忠太作『築地本願寺』。
はるかなるインド。
先月パリで開かれたあるフェスティバル。
2015/08/08(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 伊東忠太『築地本願寺』寺院建築の常識を覆した前代未聞の寺院![字]

毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、日本の建築シリーズ第2弾!伊東忠太作『築地本願寺』。

詳細情報
番組内容
4週連続日本の建築シリーズ第2弾!今日の作品は、伊東忠太作『築地本願寺』。伊東は明治神宮など神社や寺などを得意とする建築家。ところが任された本堂の再建では激変し、寺院建築の常識を強烈な造形で変えてしまいました。石と鉄筋コンクリートを組み合わせた実に珍しいお寺で、内陣は圧巻の豪華絢爛さ。なぜ築地に手の込んだインドのような建造物を作り上げたのか?そこには、希代の建築家の思わず納得な理由があったのです。
お知らせ
=お知らせ=
★8月の「美の巨人たち」は日本の建築シリーズ★
【今後の放送予定】
・8/15 万平ホテル・アルプス館
・8/22 伏見稲荷大社
ナレーター
 小林薫
 蒼井優
音楽
<オープニング&エンディングテーマ>
辻井伸行
ホームページ
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ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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