【2020年五輪へ、新・東京物語】アンダーアーマーの野望と警鐘
ナイキ、アディダスなどの「巨人」を相手に急激な勢いで成長を続けるスポーツブランドのアンダーアーマー(UA)。機能性を重視したウェアは、プロ野球・巨人の阿部慎之助(36)のほか五輪選手らプロアマを問わず、多くのスポーツ選手から支持を集め、今季から巨人とも大型契約を結んだ。5年後の東京五輪、日本スポーツ産業の未来まで、UA総合代理店でさまざまなスポーツ事業を展開する株式会社ドーム(東京都品川区)の安田秀一社長(45)が単独インタビューでその野望を明かした。(久保 阿礼)
―5年50億円規模という巨人との大型契約は、ユニホームの提供に加え、ライセンスビジネス、マーケティングも盛り込むもので、プロ野球界のみならず、スポーツ界にも衝撃を与えました。
「日本のスポーツ界で初めての契約形態ではないでしょうか。まあ、観客動員数などで日本のスポーツ界をリードする巨人が球団経営を世界基準で考えられなければ、日本のスポーツ産業は終わりますから」
―と、いうと。
「一番大事なのは世界を見る、ということです。昨季、巨人の年間観客動員数(301万8284人)は、ロサンゼルス・ドジャースやニューヨーク・ヤンキースなどと肩を並べるものでした。巨人はヤンキースとも提携していますし、巨人のベンチマーク(目標、指標)はヤンキースしかないわけです。世界一を目指すなら、契約も運営も世界基準を採用する。世界を軸にビジネスを進めていくというのは、当然です。これは巨人側からの要望でもあります」
―巨人の2軍を活性化する「G2プロジェクト」も始まりました。
「2軍を満員にしようとかプロジェクトのさまざまな目標は、ムチャクチャまともですよね。米マイナーリーグは1万人、2万人が入って普通に経営として成立している。マイナーが独立採算でやっているのに、日本の球団は独立採算ができない、というのは大問題。日本では2軍が純粋なコストセンター(コストだけが集計され、収益は集計されない部門)という発想が当たり前になっていますが、米国では絶対にあり得ません」
―ここ20年で米国のスポーツ産業は15兆円から60兆円規模まで成長したが、日本は5兆円から4兆円へ縮小。「日本は構造的な問題を抱えている」と指摘されてきました。
「うちの会社は伸びているけど、米国のスポーツ産業の成長はすごいので、全く追いついていけない(笑い)。米国では、時代をリードしていくという国家観の下、スポーツ市場自体がどんどん変わっていく。一方、日本は戦後、米国に追いつけ、追い越せだった。それは、マイナスをゼロにする発想でしょう。バブルになって中産階級層が厚くなり、そこでOKになり、成長が止まった。停滞は衰退でしかありません」
―官僚機構が肥大化して機能不全のまま、東京五輪を迎えてしまう、という危機感を強く訴えてきました。
「かつてはボクシングのマイク・タイソンが東京ドームで防衛戦をやった。日本でやった方がもうかったし、興行力があったから。マドンナやクイーンも日本を足掛かりに伸びていった。K―1も日本独自の興行として世界に発信できた。今、日本はイベントの開催場所として見向きもされません。日本が世界で覇権を取れ、と言いたいですね。米国は総合格闘技で向かってくるのに、日本は指相撲ですよ」
―五輪まであと5年。規制緩和、成長戦略…やるべきことは多い、と。
「野球・ソフトボールが東京五輪で正式種目になってそれで終わりなのか。違いますよね。でも、話題になるのはメダルはいくつとか表面的なものばかりです。これでは無形資産のままで終わってしまいます。勝った、負けた、スポーツで得た経験という無形資産を因数分解して、有形資産に変え、持続可能なものにしていく。その結果、スポーツに参加する人たちが国家にも良い影響を及ぼす。スポーツを通じて日本もそういう、スパイラルが生まれる国にしたいと思っています」
◆安田 秀一(やすだ・しゅういち)1969年8月23日、東京都生まれ。45歳。アメフトでは法大、全日本大学選抜で主将を務める。同大卒業後、三菱商事勤務を経て96年にドームを設立、代表取締役に就任。テーピングの輸入・販売などを行い、UA創業者のケビン・プランク氏と出会う。98年からUA販売開始。機能性を重視したウェアが支持を集め、野球、サッカー、バスケット、アメフト、ゴルフ、陸上など幅広く展開する。