佐野研二郎とわたなべりんたろう-著作権が理解できない人々(松沢呉一) -3,514文字-
2015年08月15日19時21分 カテゴリ:連載 • 著作権 • 連載
これでエンブレム問題は解決
オリンピックのエンブレム騒動についてはこれまで一切私は触れてませんでした。あれ自体を取り上げた時には判断不能であり、デザインした佐野研二郎がベルギー・リエージュ劇場のロゴを見ていないと主張する以上、偶然似たとするしかない。偶然で似る可能性はいくらでもありますから。わからないことには触れない方針です。
しかし、それ以外のところで、次々と盗用疑惑が出てきて、サントリーが賞品の取り下げをしたことで、佐野研二郎デザインのエンブレムについては結論が出たんじゃないでしょうか、
30点中8点に問題あり。今後さらに増える可能性もありそうです。しかも、「似ている」というレベルではなく、ネットで拾った画像の無断使用が含まれます。わたなべりんたろうか、おまえは。
これに対しての佐野研二郎の釈明がまたひどい。
最初これを読んだ時、「外部のデザイナーに依頼して、そのデザイナーがやらかした」という話かと思いました。しかし、「制作業務をサポートする複数のデザイナー」というのは、自分のデザイン事務所に属するデザイナー、つまり部下のことのようです。部下のせいかよ。
部下であれば、トップが日頃どういう考えに基づいてデザインをしているのかを見ているはず。トップがアバウトだから下もアバウト。トップが他者の権利を踏みにじってなんとも思わない厚顔な人だからこうなったのだろうと思わざるを得ません。
佐野研二郎はオリンピックに関わる資格なし
だからといって、オリンピックのエンブレムまでがパクリと決定したわけではないのですけど、仮に今後ベルギー・リエージュ劇場のロゴをデザインした人が、あるいは他の人であっても、佐野研二郎相手に裁判を起こしたら、これらの事実は裁判に影響するはずです。
佐野研二郎の弁明の中に「著作権に精通した弁護士」という言葉が出てきます。そのくらい高度な事案だと言いたいようですが、ネットで拾った画像を使った例については弁護士に相談しなければならないような内容ではありません。常識の範囲であり、その常識さえ理解できていなかったことを自ら吐露したに等しい。
税金を投下し、国際的な行事であるオリンピックに関わらせてはいけない人物だったことが明らかになったのですから、答えはもう出ました。あのエンブレムはボツにして、以降、一切関わらせるべきではありません。
仮に、過去に万引きで捕まったことがある、喧嘩をして傷害罪で捕まったことがあるといったことが判明したところで、デザインとは関係がないので、それをとやかく言うべきではないですが、デザイナーとしてのモラルが欠けているのはまずい。これとて、10年前に問題になって、以降反省したというのなら別として。
たとえばオリンピックの公式記録映画を撮るとして、それにわたなべりんたろうが関わっていたらおかしいでしょ。公式記録映画では著作権侵害をしない保証があるとしても、人としてアウトです。
実際、やっていることはわたなべりんたろうとさして違わない。本来自分で撮れば済むのにそれをやらず、他人が撮ったものを無断で使用する。何かが欠落しています。
佐野研二郎のモラルと世間のモラル
チープな仕事においては、「こんな感じで」と流行のデザインを示され、暗に「パクれ」と示唆されるような発注をしてくるクライアントがいるとよく聞きますし、どっかから拾ってきた画像を使用しても容認される範囲もあると思います。
たとえば映画「バトン」のポスターとフライヤーを見た人の中には、ありものの素材を使って作ったのだと思った人もいたみたいですし、実際、そうしていたところで批判されるようなものではないかと思います。
上映会当日に使われるだけのものであって、宣伝のためではなく、半ばシャレであって、見る人は100人足らず。その範囲であれば、パクられた側が知ったところで怒らないでしょう。
しかし、確実にこれを撮ってネットに出す人が出てくるのは当然予想できます。今後も上映することがあればこのデザインを流用する可能性もある。また、金相佑君は、これを資料として使用することもあるでしょう。
それを考えるとパクリはできない。そもそもパクって済ませる発想はまったくありませんでした。ネットで探したところで、ピッタリの写真を探すことは難しい。探せるのだとしても、探してアレンジする手間を考えると、撮った方が早い。撮影の際は何度も撮り直していて、「似たもの」ではなお足りない。ピッタリのものが欲しい
そう考えると、それなりの金をもらう仕事で、平気でパクる人はどうかしています。フランスパンくらい買ってきて、自分で撮ればいいじゃないですか。スタジオ代がかかるような写真じゃなく、プロのカメラマンに頼むような写真でもない。1時間もあればできること。自分が忙しかったらバイトにでもやらせればいいこと。
それがバレたらクライアントにも大きな損害を与えるのに、その程度のこともやらない。その程度のこともやらないデザイナーを放置してきたデザイン事務所。無責任すぎます。それがこの国のデザイン業界を代表する存在。
業界内ルールの崩壊
懸命に佐野研二郎を擁護していた業界関係者はこの問題の解決にはなんら寄与しておらず、この問題の解決を導いたのはちゃねらーなど、佐野研二郎のデザインを検証してきた人びとです。デザインについての御託を並べる人たちより、一般の人たちの「こいつ、怪しいんじゃね」との勘の方が正しかったわけです。
常識が欠落していて、「やっていいこと悪いこと」の判断ができない人なのですから、今までも繰り返しこういうことをやってきたのだろうと想像するしかない。それを容認してきた業界の人たちが擁護する気味の悪さ。そういう人たちも同類なのでしょうね。
たしかにデザインは「そこにある素材を組み合わせるもの」「こっちにあるものをあっちに置いて意味を変換するもの」という側面があるわけですけど、それにもルールがあって、それが理解できていないデザイン業界の人たち。
こんな業界ルールは一歩外に出たら通用しない。素人の感覚の方が正しく、法律もおおむねそちらに合致しています、「この弧は全体で大きな円を描いていて…」「佐野さんは誠実な人であり…」という業界内ルールに基づいた弁護より、「こいつはパクリ野郎」という見方の方が正しく、前者の感覚が作り上げた業界自体が今問われつつあります。
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