ワシらが船に乗り込む事しばし、出港の準備が整ったのか桟橋が仕舞われ錨が上げられる。
乗り込んだのは大型の貨物船で、船から乗り出すと街の人たちが小さく見えた。
「気をつけて行って来いよーっ!」
「わかってるってーっ!お父さんもちゃんとゴハン食べなさいよーっ!」
レディアが親父さんと別れの挨拶を交わしている。
それだけではない。
宿屋の女将さん、クロードが行きつけていた服屋の店員さん、クレア先生やアゼリアまでもがワシらの見送りに来てくれている。
ミリィとクロードも、大きく手を振って皆に応える。
なんだか照れ臭いな。
「またいつか、帰ってくるからねーっ!」
大きく身を乗り出し、ずり落ちそうになるミリィの腰を慌てて掴む。
帆を張った船はぐんぐん丘を離れて行き、ベルタの街はすぐ豆粒のような大きさになっていった。
少し冷たい海風が、頬を撫でる。
「へっくち!」
ずっと街の方を見ていたミリィが、小さくくしゃみをした。
「ここは冷える。部屋に行かないか?」
「そうですね」
甲板を下りて部屋の中に入ると、中には小さなベッドが四つあるだけの簡素な部屋であった。
「ん~これじゃあ……私、足がはみ出ちゃうかも」
身体の大きなレディアは、天井につきそうな頭を屈め、小さなベッドを見ている。
「ねっ!船の中を見に行きましょうよ!」
「お供します」
「私は酔いそうだから、いいや」
「ワシも遠慮しておこう」
「じゃ、クロード行きましょ♪」
ミリィはクロードの手を掴み、ドアを開けて走り出した。
「全く、子供なんだから」
後ろからアインの声が聞こえ、光の中からその姿をあらわす。
「お前も子供だろうが」
「私は子供じゃないですうーっ!」
そう言って、ワシに思い切り舌を出すアイン。
十分子供だろうが。その仕草からして。
「うんうん、アインちゃんは大きくなったもんねぇ♪」
レディアがアインの頭を撫でようとすると、アインはその手を防いだ。
戸惑うレディアに、アインは鋭い視線を向けている。
そういえばアインはレディアに散々弄られて、苦手意識を持っていたな。
成長し、対抗出来るようになった今、その牙を剥こうと言うのだろうか。
「レディア」
「な……何?」
ずいと詰め寄るアインに、少し後ろに下がるレディア。
おいおいケンカはやめろよ?
若干不安を憶えつつ、アインの動向を見守っていると、アインは握った手をレディアに向かって突き出した。
開いた手の中にあったのは、レディアがアインの為に作った小さなレイピア。
グレインの目を突き刺し、反撃の隙を作ったものである。
「……ありがと、レディア」
赤くなり、目を背けながら礼を言うアインに、驚いた顔を向けるレディア。
「これがあったから、私はおじいを……皆を守る事が出来た。レディアのおかげだから……ありがとう」
「アインちゃん……」
レディアはそっぽを向くアインを正面から抱きしめる。
そしてそのまま、アインをベッドへと押し倒した。
「ツンデレなアインちゃんも可愛いねーっ」
「ちょ……こら離しなさいよ!ばかっ!」
「いいじゃ~んお礼って事で♪」
アインの顔を自分の胸に抱き寄せるレディア。
翼をバタバタとさせる暴れるアイン。
しかしすぐに羽ばたきをやめ、光の粒子になって消えてしまった。
「おわぁ!?」
レディアはそのままベッドに突っ伏す形で布団に顔を埋める。
アインは勝手に出たり入ったり出来るようになり、レディアのセクハラから逃れる事が可能になったワケか。
残念そうなレディアを見て、少し笑った。
「ただまーっ」
「皆さん、そろそろゴハンみたいですよ」
少し経って、探検から帰って来た二人に連れられ、食堂へと足を運ぶ。
乗客は疎らで、船員の方が多いくらいであった。
部屋で食べている者も多いのだろう。
食事内容は新鮮な魚介類、海鳥などがメインで、あまり穀物はなかった。
恐らく船員が捕獲したものであろうか。物珍しいものが多く、皆目を輝かせている。
一週間程度の短かな旅だが、食事に関しては飽きることがなさそうだ。
「一週間とはいえ狩りが出来ないからな。なんらかの修行はしておくべきだろう」
「ボクは魔導の修行をしようと思います。本当はレディアさんと組手をしたいですけど、せまい船の中では満足に出来そうにないので」
「じゃあ私が教えて上げる♪」
「お願いします、ミリィさん」
クロードがミリィに頭を下げる。
「じゃあワシはレディアに魔導を教えよう」
「え?私、魔導使えないんじゃないの?」
「使えはしないがワシが魔力線を弄る事で擬似的に魔導の修行を行うことが出来る。グロウスのレベルを上げるくらいはできるであろう」
レディアのグロウスのレベルはワシらと比べ極端に低い。
成長速度強化の魔導であるグロウスは、そのレベルにより本人の成長速度が大きく異なる。
グロウスを覚えて二ヶ月程経つが、その差は顕著に現れてきた。
ミリィのレベルは58。
ワシのレベルは54。
クロードのレベルは47。
しかしレディアのレベルは35しかない。
現状のレディアは、高い身体能力と攻撃力を持つ斧でカバーしているが、上級狩り場に行けばレベル差によるパワー負けする事もあるだろう。
魔導が苦手な者でも、魔力線を弄る事でそれに慣れ、それがきっかけで魔導を使うことが出来るようになる事はある。
もちろん才能がない者には、その分を超えて使うことは出来ないが。
「ではレディア、早速だが服を脱いでベッドに寝てくれ」
「はいはい、わかったよ」
レディアがいそいそと服を脱ぎ始めると、ミリィが目を点にしてこちらを見ている。
クロードは俯き横を向いた。
そしてすぐに、赤くなり震え出すミリィ。
「ななななななにやってんのよっゼフっ!?レディアもっ!」
「レディアの魔力線を直接弄って身体に魔導の使い方を覚えさせる。以前グロウスを覚えられなかったレディアに同じ事をした筈だが……あの時は寝ていたのだったかな?」
「じ……じゃあ今回は私がやるから!」
わなわなと震えながらワシの肩をぐいと掴み、ベッドにうつ伏せに寝転ぶレディアの隣に座る。
震える手先をレディアが不安そうに見ている。
「ミリィには他人の魔力線を操作するのは少し早いだろう。いいからワシに任せておけ」
「み……ミリィさんはボクに教えて下さいよ!ボクもミリィさんみたいにすごい魔導を使ってみたいなぁ~!」
ナイスフォロー、クロード。
しぶしぶ従い、クロードに魔導の使い方を教え始めるミリィ。
ワシの方はレディアの背中に手を乗せ、手に魔力を集中させ、体内の魔力線を一本引き伸ばすと同時に。
「あんっ」
レディアが喘ぎ声を上げ、ミリィがクロードに頭突きをかました。
クロードが頭を押さえて痛がっている。
「変な声を上げるなよ、レディア」
「だってゼフっちが変なトコ触るんだもん」
魔力線を弄るのは少しくすぐったいようだ。
そういえばグロウスを覚える時もくすぐったそうに身体をよじっていた気がする。
「ミリィたちもいるのだし、少しは声を押さえろよ」
「んーまぁ出来る限り……んっ……ふ……」
「いたっ!痛いですって!ミリィさんてば」
レディアが声を上げる度、ミリィがクロードに頭突きをかますので、レディアの魔力線を弄るのはミリィたちが寝た後にすることにしたのであった。
暗い室内にレディアの淫靡な声が響き、悶える拍子にベッドが揺れる。
それと共に隣のベッドから少し気配を感じた。
……クロードの奴まだ起きているな……。
何もしないと言ったが、あまり信用はないようだ。
苦笑しながら、レディアの魔力線を触ると、また小さな声を上げるのであった。
