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【政治】

保守層と中韓両にらみ 曖昧な表現多く

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 安倍晋三首相は十四日に閣議決定した戦後七十年談話をめぐって、連立与党の公明党をはじめ、米国、中国、韓国が村山談話の継承を強く求めたことで苦慮。自らの思いを直接的な表現で盛り込むことはできず、歴代政権の談話を引用するなど、曖昧(あいまい)な表現を多用する結果となった。 (石川智規、木谷孝洋)

 「同じ言葉を入れるなら、コピーして名前だけ書き換えればいい」

 首相は四月、村山談話の「侵略」や「おわび」などのキーワードを引き継ぐか問われ、こう明言した。この発言で、村山談話を継承しないのでは、との警戒感が広がった。

 反応したのは公明党だ。山口那津男代表ら幹部は「キーワードは大きな意味を持つ」と繰り返し表明。今月七日夜に首相と会談した山口氏は、「謝罪の意図が伝わる表現を盛り込んでほしい」と迫った。

 中韓両国に加え、米国も村山談話の継承を求めた。米国は七月下旬、「日本政府や日本の人々が感じてきた反省の思いを代弁してほしい」(ラッセル国務次官補)と明言し、首相が持論を直接的な表現で盛り込むことを抑える決め手の一つとなった。

 首相はもともと閣議決定で自らの考えを表明する方針だった。しかし、他国を武力で守る集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法案の国会審議で、法案の違憲性をはじめ、海外での武力行使が際限なく広がるとの懸念が広がった。世論の反発が強まり、内閣支持率も低下したため、首相は六月ごろ、談話を閣議決定せず、個人的な見解とする道を探った。摩擦を少しでも減らすためだ。

 しかし、首相と考えが近い有識者らでつくる「二十一世紀構想懇談会」が八月上旬にまとめた報告書でさえ、「侵略」や「植民地支配」、過去の「痛切な反省」を盛り込み、村山談話に沿った内容となった。

 首相は個人的見解でも持論を述べるのは難しいと判断。逆に閣議決定すれば、自らの政治信条ではなく、政府見解だと主張できるため、村山談話の見直しを求める保守層の反発を和らげることができるとの計算も働いたとみられる。

 首相は談話を発表した十四日の記者会見で、有識者の報告書に何度も言及し「報告書を歴史の声として受け止めたい。報告書の上に立って談話をまとめた」と表明した。

 首相側近は「首相になる前の希望と、首相になってからの現実は違う」と首相をかばったが、本音も漏らした。「この内容なら出さなくても良かった」

 

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