今年から就職活動の選考開始が4月から8月に「後ろ倒し」されたことが、学生や企業に混乱を生んでいる。

 文部科学省や経済団体は、学生や大学、企業の実態調査を急いでほしい。それぞれの生の声を聞き取り、背景も含めて検証してもらいたい。

 学生が学業に専念できるよう政府が経済界に就活時期の繰り下げを求めた。経済団体も指針を設け、加盟社に呼びかけた。

 ところが、結果は狙いとは逆になっている。指針には拘束力も罰則もない。未加盟の情報技術(IT)や外資系企業が先行した。加盟社でも水面下で選考する会社もあったという。

 文科省の7月の調査だと、選考の開始時期を「大部分の企業が守らなさそうだ」と答えた大学が半数近くを占めた。

 就職情報会社の調査では、面接解禁の1カ月前、学生の半数が内定をもらっていた。今月から面接が始まった大手の「滑り止め」の意味合いもある。

 昨夏のインターンシップに参加した学生にとっては、1年間の長丁場だ。これでは学生は勉強に専念できない。

 企業も景気回復や人手不足のなか、社員を確保できるかどうかという焦りがある。

 学生が逃げるのではと、他社への活動を終えるよう強要する「終われハラスメント(オワハラ)」が問題になっている。

 文科省の調査によると、7割近い大学が、学生から相談を受けたと回答した。

 「誰のための変更か」。新ルールに対して学生、企業双方から出ている声である。

 だが、だからといって取り決めをなくせばすむ話ではない。

 就職協定は戦前期からあり、生まれると骨抜きにされ、消えると混乱が広がり、また結ばれる繰り返しだった。

 当面は学生や企業にとって、どの時期にすればよいかを話し合い、政府、大学、経済団体で調整するほかないだろう。

 同時に進めねばならないのが、中長期的な視点で、採用制度の見直しを考えることだ。

 新卒一括採用という日本独自の仕組みは、グローバル化のなかで変化を迫られている。

 企業は春の一括採用にこだわらず、秋や通年採用を組み合わせていくことが求められる。

 一発勝負に敗れると正社員になりにくい現実も見つめる必要がある。内定をとれない学生が「人生が否定された」と命を絶つ状況を変えねばならない。

 いつでも挑戦できる社会をどうつくるか。労働、教育、福祉をまたいだ検討を進めたい。