取材日:2013年12月17日
最終回の今回は、弁護士と中小企業診断士の資格を持ち、事業再生分野を専門にされている和田正さんにお話を伺いました。
司法試験に合格後、検察官よりもとことん依頼者のために働ける弁護士のほうが良いと思い、弁護士になりました。訴訟、倒産、渉外、M&Aなど幅広い分野を経験できる松尾綜合法律事務所に入所させていただき、7年ほどお世話になりました。その後、2年間のアメリカ留学を経て、現在の事務所に移籍しました。
2000年4月に弁護士登録をし、ちょうどその年に民事再生法が施行されました。当時の上司は、倒産(*1)処理の分野で著名な方で、上司と2人である大きなゴルフ場の民事再生を手がけました。翌年には、浅草ビューホテルの民事再生手続の代理人としてや、株式会社新潟鐵工所の会社更生手続の管財人代理として関与させていただきました。倒産処理のプロの先生方とともに汗と涙を流し、事業再生(*2)の醍醐味とその奥深さを知り、ますますこの分野にのめり込んでいきました。
その後はよく知られた案件ですと、ウィルコムの会社更生手続の管財人代理や、三光汽船の会社更生手続の調査委員代理などを務めさせていただきました。現在は債務者側の代理人に限らず、スポンサー側のアドバイザー、債権者側のアドバイザーなど、法的手続・私的整理を問わずさまざまな形で関与しています。
会社更生の場合は、裁判所から選任された管財人が会社の管理処分権限を掌握し、従前の経営陣は権限を失います。最近は運用が変更され、従前の経営陣が管財人になる場合もありますが、基本的には管財人に選任された弁護士が経営を担うことになるため、弁護士業務の中でもかなり特殊な分野です。
このような倒産案件のベテランの先生方のネットワークは、「倒産村」と呼ばれています。私も倒産村の1人として、少しでも事業再生のお役に立てればと思っています。
従来の典型的な事業再生案件は、バブル期の過剰投資が原因による経営破綻、というものでした。P/L的に言いますと、営業利益は出ているけれど、過大な有利子負債を抱えてしまい、経常損失が出ている状態です。その場合は、有利子負債をカットすれば、比較的容易にスポンサーを獲得できました。
ところが最近は、会社の本業自体が伸び悩み、営業利益すら出ない事案の割合が増加してきました。この場合、事業そのものの魅力が小さく、スポンサーの獲得が難しくなるため、自主再建を図らなければなりません。しかし、事業自体を改善し、営業利益の出る体質に変えていくことは相当な困難を伴います。
そのときふと、新潟鉄工所の案件で私を鍛えてくださった先生が診断士資格を持ち、事業計画の策定やスポンサーとの交渉で活躍されていたことを思い出し、診断士試験を受けることにしました。
本来、弁護士は経営面のアドバイスは対象外です。ただし、事業再生の分野、特に管財人側として活動する場合は、自身の経営判断が必要となりますので、中小企業診断士としての知識がその助けになっていることは間違いありません。また事業再生では、資金ショートを起こさないことがもっとも重要です。そのための資金繰り表の作成においても、以前に比べて深く関与できるようになりました。
そのほか、倒産手続では、財産評定というB/Sを一から評価し直す作業がありますし、倒産原因究明のためのP/Lの分析や、再生のための事業計画づくり、利益を生み出すための原価管理など、中小企業診断士の知識を活かせる作業が目白押しです。
民事再生や会社更生の分野では、財産評定や事業計画の策定など弁護士だけでは対応できない部分があり、会計士や税理士の先生方の力添えは不可欠です。近頃の法的倒産手続では、事業自体の再生がきわめて重要になります。この分野はまさに中小企業診断士の専門ですので、今後は中小企業診断士の先生方とネットワークを構築し、法的倒産手続でもタッグを組んでいければ、と考えています。
また私的整理の分野でも、事業自体の再生のために中小企業診断士、税務・会計分析のために会計士・税理士、そして法的問題および金融機関交渉のために弁護士(弁護士法上、金融機関などとの交渉は弁護士が担わなければなりません)がパートナーシップをうまく組んでいければ、より良い事業再生を遂行できると考えています。
(*1)倒産とは、法的整理(会社更生、民事再生、破産、特別清算)と私的整理を含みます。
(*2)事業再生とは、法的整理のうち会社更生、民事再生を、私的整理のうち再建型の手続を指します。
(おわり)