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日本デザイン界の巨匠であり仏僧 榮久庵憲司インタビュー

インタビュー・テキスト:島貫泰介 撮影:佐々木鋼平(2013/07/26)

戦後日本のデザイン界に多大な功績を残しつつ、今も世界各国の最前線で活動する、榮久庵憲司とGKデザイングループの名前を聞いたことはあるだろうか。日本全国の家庭や食堂で愛用されるキッコーマンのしょうゆ卓上瓶。日常生活の足として活用するJR中央線や成田エクスプレス。新宿副都心の交差点上に設えられた巨大なサインリング。東京都のシンボルマーク。その全てが彼らの仕事と聞いて驚く人も多いはずだ。知らず知らずのうちに誰もが日常の中で触れている榮久庵とGKデザイングループのデザインワーク。その仕事を網羅的に紹介する『榮久庵憲司とGKの世界 鳳が翔く』展の開催にあわせ、今年84歳を迎える榮久庵にインタビューを行った。

「すべての物に仏性が存する」と語る彼は、日本のモダンデザインの開拓者であると同時に、なんと僧籍を持った僧侶でもある。デザインと戦後日本を巡る約2時間のインタビューは難解な禅問答の様相を呈したが、臆することなく榮久庵ワールドに触れてほしい。そこに示されるメッセージは、深く、広く、鋭く、現代日本の諸問題を抉るのだから。

PROFILE

榮久庵憲司(えくあん けんじ)
1929年、東京生まれ。83歳。1955年、東京藝術大学美術学部工芸科図案部卒業。1957年に、大学時代の教授や仲間たちと共にデザイン会社「GKインダストリアルデザイン研究所」を設立。国際インダストリアルデザイン団体協議会会長などを歴任。現在「GKデザイングループ」会長。著書に『道具論』『袈裟(けさ)とデザイン』など。
GK Design Group

デザインが進化すれば、ロボットがあちこちにいるような未来を思い浮かべるかもしれないが、そういうことはない。究極のデザインは、ほとんど自然の世界と変わらないものになるんです。

―世田谷美術館の展覧会を拝見してまず驚いたのが、デザインの展覧会であるにも関わらず、中盤以降から観音像や曼荼羅が登場するなど、「仏の世界」や「物に心が宿る」という独自の思想で作られた空間です。今回の展覧会のコンセプトはどのように組み立てられたのでしょうか。

榮久庵:大きく言えば「鳳(おおとり)が翔く」という、展覧会の題名どおりです。鳳というのは、鯤(こん。中国古代の想像上の巨大魚)が変身して水に浮かんだ神鳥。空に飛び上がると羽根の長さが三千里あって、それだけ大きいと太陽光を遮るものだから、雀やツバメが文句を言った。そうしたら鯤が「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや(私の気持ちを分かってないよ)」と言って飛んで行ってしまったという、『荘子』に書いてある挿話なんです。

『池中蓮華』
『池中蓮華』

―な、なるほど……。

榮久庵:道具やデザインの世界を俯瞰して見ると、横に広げれば国や文化ごとの違いがある。縦に開けばそれぞれの時代の変化がある。つまり、大きく動いている雲のようなもの。で、その動いている雲のようなもののかたちが鳳であるということ。

―つまり榮久庵さんは、デザインの世界の大きさや歴史のうねりを、鳳の巨大さに喩えた……?

榮久庵:我々は茶碗やスプーンを道具として当たり前に使っていますが、それはほんの一部で、道具の世界というのは有史以前から無限に広がってきている。しかも、年々歳々刻々と変化している。そういう意味では、鳳が羽を広げて飛んでいるのとそう変わらない。そうすると小さな者たち、つまり燕雀のごとき人間たちがさまざまな事件を起こすわけですよ。争ったり戦争をしたり。しかし、道具の世界、大きな世界から見るとそれはなんと小さいことであるか。道具を使うということにはもっと大きな意味があるのだ……というのが展覧会の骨子です。

『道具千手観音像』2006年
『道具千手観音像』2006年

―人が主ではなく、道具が主であるような世界観が存在する……と?

榮久庵:そこは飛躍があるんです。超人間的な飛躍から現れるものは何か、と考えて展覧会場に飾ったのが『道具千手観音像』です。道具観音に手を合わせれば、道具が持つ慈悲によって自然と心が綺麗になっていく。そうすると最後の展示室で鳳に行き着いて、1つの浄土の世界が現れる。そこには物が1つもないんです。人工で作られた鳥や蓮の花が並べてあっても、誰も人工物とは思わないような世界。インダストリアルデザインの究極の姿は、ほとんど自然の世界と変わらないものになる。待庵(たいあん)という二畳の茶室がありますが、それも同じです。あの中のたった1個の茶碗がまことに健やかなかたちと深さを併せ持っている。

榮久庵憲司
榮久庵憲司

―複雑さを廃していって、極限のシンプルさに至るわけですね。

榮久庵:デザインが進化すれば、ロボットや宇宙ロケットがあちこちにあるような未来を思い浮かべるかもしれないが、そういうことはない。

―それが最後の蓮の池のインスタレーション展示に繋がっている。

榮久庵:そう。ところが、最初に展示したキッコーマンのしょうゆ卓上瓶も同じなのです。あれは1961年に発売してからずっと同じモデルで、水が落ちてくるときの自然のかたちなのです。ほとんど滝壺みたいなもので、やっぱり自然に似てくるわけです。

『しょうゆ卓上びん』1961年
『しょうゆ卓上びん』1961年

―世田谷美術館の展示では、これまでに榮久庵さんとGKデザインが手がけてきた作品が最初に並び、部屋を進むとまだ製品化されていないコンセプトモデルや自主研究が紹介されて、最後に道具観音や蓮の池に至ります。でも、それが一番最初にあった卓上瓶に回帰していく。円環のような構成ですね。

榮久庵:途中に暗いトンネルがあったでしょ。あれが「悩みの空間」。真っ暗闇のトンネルを抜けると、今度は急に白くなる。川端康成の「トンネルを抜けると雪国であった」という、あれです。白い空間には、将来性があるかどうかは別としてとにかく新しい作品を置くことにした。自分の足跡を踏んづけて次へ行き、その次の足跡を踏んづけて、着実にまた次へ行くというようなものです。

展示風景
展示風景


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